217.素材整理の予定組み
フェナからは、色々心得的なことをニヤニヤしながら言われた。一応女性として色々と考えてくれてるのはわかるが、イチイチめんどくさかった。色々と色々と。少し気になったのは、シーナが爵位を望めば王は喜んで与えるだろうという話だ。そうすればアルバートが貴族として残る道がある、という。気になりはすれども、シーナ一人で勝手に推し進めるわけにもいかない。
そんなわけで、アルバートがやってきた六の鐘過ぎには残HPは限りなくゼロに近かった。
次はまた休みの前の日に来ると約束して、夕飯の後早々に解散した。
そして本日は、また組み紐ギルドで予約会である。
「職員全員がニヤニヤしとる……」
「しゃあねーだろ。いまじゃシシリアドはその話でもちきりだ!」
「やめてぇ……」
テーブルを準備していると奥から布の束がやってくる。完全に背より上になってて慌てて手伝う。
「ありがとうございます。シーナさん、おめでとうございます」
例の女性職員だ。
「違いますよ!? まだ! まだ、ちょっと試しにお付き合い始めてみましょうかって話なだけで」
「そんなこと、誰が信じるか。それよりもほら、これ。この間気に入って見てたろ。壁掛けは他にもこれだけあるんだ。シーナの故郷にも組み紐があったってのも不思議な縁だなと思ってな。倉庫の奥にしまってあったから、洗って陰干ししてで十日も経っちまった」
「えー、ありがとうございます。面白い〜。こっちの壁掛け知らないのばかりなんですけど……」
「あー、これは確か、洗浄の紋様の方だな。普通に糸の素材と編み方でこれよりも魔力効率が良いものができたから廃れたやつだ」
「そんなものもあるんですね。そっかぁ、いつか索敵も……」
「あれはもう当分あのまま金を生み出し続けるよ」
「ふふ、聖地でも褒めてもらっちゃいました。そろそろお客様来そうなので、後でまた見せてもらってもいいですか?」
「おう、いいぞ」
冬の予約会の話はだいぶ広まってきているようだ。毎回列が長くなる。
早々に八人の枠が埋まってしまったので、ギルドの隅でメモを取った。
「ベラージ翁が生きてたらここらへんのわからんやつも教えてもらえたかもしれないけどなぁ。あの人も研究家だった。研究家で蒐集家だ」
「あ〜なんかノートが何冊もありましたね。読めませんけど」
「宝の持ち腐れだなぁ」
「また素材の整理をしたいんですよね〜手伝ってもらえませんか?」
「お前の手伝いはこっちに利しかねぇから喜んでって感じだが。そんなに急いで整理する必要もねぇんじゃねえか?」
「うーん、作業部屋にしようと思ってた場所が、すっかりぐーたらするスペースになっちゃったんですよ。だからあの素材部屋を多少片付けて、作業スペースを作りたいなぁと」
こたつ部屋はもうだらだら部屋だ。
「やるならこの時期が一番暇ではあるがな」
「じゃあ、師匠にも聞いてみて、都合すり合わせます」
翌日から二日間は予約のお客様だ。
「おはようございまーす」
元気な挨拶が返って来るが、みんなニヤニヤしている。
冬の間は今年も丸打紐作りの手仕事がイェルムより発注されてて、仕事の合間に店で作ることを許可されている。この時期は一日に一人来たら良いところなので、皆口がよく回る。
一応編んでる最中は控えてくれるが、合間や食事の時間は完全に話題のネタとしてずっっっとイジられ続けていた。
「でもよかったじゃない。これで独り立ちも視野に入れられるわよ」
「一階に一部屋店舗作ればいいのよね」
「一人で店をやるときは、外から中がよく見えるようにしろよ? 特に女性は」
「やだー、そんな時はアルバート様が黙っちゃいないわよぉ〜」
「それ以前にシシリアド監視体制が整いすぎてるんで不埒な輩が何もできないと思いますよ……フェナ様なんて、その日の昼にニヤニヤしながら来ましたからね!!」
「皆行くの我慢してただけだよ」
「そうそう。からかいに行ってる時にアルバート様来たら気まずいからね〜」
「店舗作るとしたらどんな風にするか考えようぜ」
「イイねー! シーナ手前の二部屋、右側と左側何があるの?」
「ええ……向かって左側が素材がある部屋で、右側が応接セット置いてるだけの部屋ですよ」
「応接間なんていらないでしょ。その部屋の中へのドア全部潰して、家の扉の横に店舗用の扉を付ける感じかしらね」
「ソファが大切だよ! ソファ。とにかくゆったり座れるソファとサイドテーブル。簡単な給湯設備が本当は欲しいな」
「シーナの家警備の魔導具ついてるんだから、店舗だけその範囲を外せば、別にドア潰さなくても良くね?」
「うーん、気持ちの問題じゃない? 奥に入られる可能性は潰しておきたいわよ。ドアを開けることはできるんだし、奥にアルバート様いるの見られたくないときもあるじゃなーい?」
「キャー」
大盛りあがりの兄姉弟子を置いて、シーナはガラに素材整理の打診だ。
「師匠、また素材の整理をしたいんですけど、ガングルムさんにもお願いしたくて。この冬だったらいつ頃がいいですか?」
「次の五日間の休みならどこでもいいけど。ただ、そろそろヒキツェウ鳥の渡りの時期じゃない? それに被らないようにしてくれたら」
「わー! もうその時期なんですね。あのお肉美味しいから、絶対起こしに来てくださいね!」
「え? アルバート様と行くんでしょ?」
「あ……あー、そう、かも?」
「だいたい前日にはわかるから前の日から泊まって一緒に行けばいいじゃない。というか、シーナの家から通わないの?」
「まだー、お付き合いしてみましょうかってことになっただけなのにぃ」
「は!? お付き合いしましょうかって、え、じゃあ今までは何だったの?」
「なんでもなかったんですよ……」
「……アルバート様ってすごく寛大で余裕のある方なのね。あんまり焦らしてると逃げられるわよ?」
経験者の言葉がとても重かった。
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そんなわけでこのあとしばらくはシシリアドで色々と。
おうち併設店舗はなかなかのドリームでシーナも多少夢見てます。




