213.女子会開催
そんなわけで、第一回おこたで女子鍋会開催である。具材は何にしようか悩んだが、水餃子にした。
ザワークラウトとして漬け込み途中のものを開けて、鶏肉は先日ヤハトが分けてくれたやつだ。
昼過ぎからのんびり準備していると、みんながやってきた。
「おじゃましまーす!」
「美味しいもの食べに来たわ〜」
「これ、お土産」
糸屋のアンジーと、服屋のヒラウェル、そしてズシェだ。
三人がそれぞれ持ってきてくれたお土産が、見事に酒ばかりだった。
「あがって〜お酒たくさんありがとう。氷用意してあるよ」
コートを玄関脇のコート掛けにかけると、二階へ誘う。
土足厳禁については事前告知しておいた。
「靴履いてないのって、なんか不安だわ」
「でも〜けっこう足裏に刺激があって、私は好きかも〜」
ちなみにズシェは経験済み。
「もうコタツあったまってるから入って。部屋の温度はそんなに上げてないの寒かったらストールあります」
「酒飲んだらそんなのすぐ暖かくなるわよ」
お鍋もあるしね。
シーナはそのまま鍋を準備する。グラスなどはすでに運んであった。寝室に置いていた小さなテーブルを移動している。
「熱いの通りますよー」
ズシェの携帯コンロに鍋を乗せる。蓋を開けるとすでに、餃子がいくつも入っていた。水餃子はお酢とチカの実漬けで食べるので、ニンニク無しのゼガのすりおろしがたっぷり入っている。
餃子はたっぷり作ったし、他にもハムやチーズのツマミは用意した。丸いこたつで割と大きめに作ったので、テーブルはかなり余裕があった。
夏はこたつ布団を取ってしまえば普通にテーブルとして使えるのも一緒だ。
「それでは、第一回女子会を開催したいと思います! かんぱーい!」
水餃子は大好評でした。
「つるんって腹の中に消えてく!」
「気持ちはわかるけどよく噛んでね、アンジー」
「シーナちゃーん! もっと追加くださぁ〜い」
茹で上がってるものを横に避けてせっせと追加の餃子を入れる。
ズシェは無言でモグモグしている。
「コタツ最高なんだけど?」
「冬の必需品です」
「コタツがあったら、部屋の暖房いらないかもねぇ〜もぐってたら寝てしまいそう」
コタツ寝落ちは基本だ。脱水症状が危険だけど。冬の風物詩。
水餃子の残念なところはスープにとろみがでてしまうので、雑炊には向かないところだ。あと、肉汁は基本皮の中なので、言うほど出汁が出ていない。なので食べきったらあとはサヨナラ予定。
「はぁ〜私この家の子になりたぁい〜」
頬を赤くしたヒラウェルが、テーブルに頬ずりして呟く。
「あんた最近男出来たって言ってなかった?」
「出来たけど、コタツのためなら捨てられるぅ〜」
「それはひどい。ヒラウェルも羽毛布団にいちまいかんでたんでしょ? 収入なかったの?」
「あったけど、初期だけよ〜水鳥ってのはすぐバレたし、同じようなものはそこら中で売られてるもの。専売の索敵の耳飾りとは入りが違うわぁ〜それに、整えたのは服飾ギルド長と商業ギルド長だもの」
特許とってもその代金を払って製品を作りたいほどらしい。
「需要はものすごくありそうだったけど、もう競合が出て来てるんだね。聖地でも使われてるよ」
「葉の神官は元貴族様多いもんねぇ〜寄付とか言って実家から送られてきそう〜」
まさにその通り。
「しかもホェイワーズのベッドだって」
「シーナは……聖地で寝具の話をしてきたの?」
「ギャー違う! え、これって平民でもNG話なの?」
「あんまりねぇ」
アンジーの言葉にヒラウェルとズシェが頷いてる。
「話の流れでたまたま出ただけだよ」
「聖地で何してきたのよ」
アンジーの追求は逃れられる気がしない。こちらへ来て初めて友だちだからこそ、シーナへの追求は厳しかった。
詳しくしすぎないよう、軽く、【緑陰】戦の話をした。元婚約者関連は言っていいかわからなかったので、根の儀式の話が中心だ。
「めんどくさい時期に行っちゃったのね」
「でも、祈りの組み紐とか見せてもらったから楽しかったよ」
「それで帰りにダンジョン生成に巻き込まれたと」
新しいダンジョンは、先日発表となり、春から受け入れを開始するそうだ。入れるのは上層二十階のみとなる。地下で魔物が増えれば自然と上層階に押し出されるのでそれを狩っていればスタンピードも抑えられるそうだ。
「良かったわね〜ソワーズってアルバート様のご実家でしょ? ダンジョン特需すごいんだから」
無反応を決め込んだらチラ見されたけど無視である。
鍋があらかた片付いたのでデザートを出すことにした。タルト・タタンだ。
「シーナちゃぁぁぁぁんんんん!! うちから好きな商品持ってっていいわよぉ……」
「ナニコレ、ヤバっ! ウマっ!! うちの好きな糸五巻までもってっていいわ」
「美味しい……」
やはり女子。最高スイーツの前にみんな腰が砕ける事態だ。
「フェナ様の、九の雫のお祝いに作ったんだけど、なかなか良い出来でしょ?」
「こんな美味しいもの食べたことないわ〜今の男捨ててこの家の子になるぅ……」
ヒラウェルの彼氏さん、ごめんなさい。
「ヒラウェルはその人と結婚するの?」
「え〜それは届けを出してってこと? しないわよぉ。所詮冒険者だし。今付き合ってるのも、彼にとっては良い寝床があるってところも大きいだろうしぃ〜私はしっかりした職があるから、別に男を頼らなくてもいいしね〜きちんと結婚するならやっぱり冒険者以外よ。シシリアドで職を持ってる人がいいわ。ガラみたいに好きな時に好きな男と遊ぶくらいがちょうどいいのっ」
予想以上に割り切った関係だった。
「アンジーこそあの武器鍛冶の彼のとはどうなるのよぉ〜」
アンジーの糸屋は親の持ち物だ。それを継ぐつもりで商売している。
「あ、別れた。あいつ、二股かけようとしたのよ」
「かけようと?」
「よりによって私の仕事仲間でさ、彼女から話が回ってきて二人で振ってやったわ」
「やだなにその楽しいの!! 聞いてないわ!」
「昨日の話だもん」
「やーん、最新ネタじゃな〜い」
ヒラウェルとアンジーは大盛りあがりだ。
割とふたりとも結婚に固執はしていない。というか、ここに住んでいる人たち全体的にそんな感じだ。もちろん結婚して届けを出す者もたくさんいるが。保険なんかはないし、平民の遺産相続の細かい決まり事もない。家長がどう分配するかだけの話だ。
「組み紐師だけは即お断りだけど、まあまた必要になったら作ればいいし、子どもが欲しくなったら親が持ってきた縁談受けてもいいし」
「縁談!?」
「あら、アンジーは〜わりとモテるのよぉ? 糸屋がかなり儲かってるからねっ」
「うちの糸は質がいいのよ。だからこそ、まけてほしくて近づいてくる組み紐師が鬱陶しいわ」
まけてくれたっていいだろうとか平気で言ってくるらしい。
ブックマーク、評価、いいねをしていただけると嬉しいです。
ブックマーク、いいねありがとうございます。
アクセスも落ち着いてきた感じ。
おこたで水餃子最高だと思う……さすが皮は買うけれど、たまにやります。本当はみぞれ鍋も好き。シーナはまだ大根を見つけておりません。




