210.こたつ完成
とうとう、念願のこたつが搬入されました。
「わぁーい。こたつ布団も深緑で素敵だ〜!」
「なかなかの自信作よ!」
ズシェがやりきった顔をしていた。
「いやぁ、このコタツを試すために、我が家の一室に土足厳禁の部屋を作りました……妻が入り浸りになっております」
「奥様、もうその部屋から出られないと思います」
冬のこたつの魔力は恐ろしいのですよ。
「卓上コンロが欲しいなぁ〜」
「卓上コンロ?」
「こたつで鍋をするんです。ズシェさん、女子会しましょー」
「女子会?」
「女の子で集まってこたつでお食事会です」
「よくわからないけど、魔導具の希望なら聞くわ」
職人たちは設置をしたら早々に出ていった。イェルムとズシェとキッチンのテーブルで話をする。
「卓上コンロは、ようは携帯コンロです。持ち運びができる、煮炊きができるものです。野営は精霊石をそのまま使ってましたけど、家の中でそれをやったら火事になるので。故郷ではこんな感じのものがありました」
IHバージョンで描いてみる。
「これがあるとどうなるのですか?」
「コタツの上で煮込み料理ができます! まあテーブルの上でも」
ここならチーズフォンデュとかは受け容れられそう。いいな。今度フェナ様のお祝いにチーズフォンデュでもするか。
ただ、シーナの望みは水炊きだ。
「火の精霊石が軽量だし、火の精霊使える人がいたら補充が簡単だから便利すぎるんですが、ないならこれがかなり軽量化と省エネ化できるなら野営にも便利かもしれないと思ったけど……まあ、火の精霊はわりと使う人が多いし野営には微妙かなぁ。また私が欲しいだけの魔導具になりそうですね」
でも欲しい。
「作ってもらえるなら二つ発注します!」
一つはフェナの屋敷に寄付する。
「作りは簡単だと思うけど、どれだけ魔石の消費を抑えられるかね。やってみるわ。大きさは?」
「えーと、このお鍋が乗るくらいのやつが欲しいの」
土鍋を見せる。
「キッチンで調理したらいいんだけど、こたつに座って鍋を囲んで食べたいなぁ〜って」
鍋持って上がる時こけたら危ないし。
「そんなことを教えたら我が妻はもうこたつから出てこないでしょうね……」
イェルムは遠い目をしている。
「なるべく早く仕上げるわね!」
「お願いします。必要な素材とか大丈夫ですか? ベラージ翁の素材が山ほど残ってて、使えるのがあったら使ってもらっていいんですけど」
「それは組み紐用でしょ? 置いておいた方がいいわよ。あなたの財産よ」
イマイチ価値がわからないのだが、仕方ない。不良在庫になってしまいそうだが放置だ。
「あ! イェルムさん、金儲けの話です」
「シーナさんの金儲けのお話は大好きですよ」
狩猟祭で聞いた、髪の短い女性が髪飾りを求めているという話だ。
「洗濯バサミありますよね。あれの作りを参考にしてこんなもの作れませんか?」
パッチン留めは組み紐髪飾りのほうが重そうなので、ヘアクリップを提案してみる。
「接着剤みたいなものがここにあるかがわからないので、なければ紐で結び付けられるようにクリップの方に糸を固定する穴などをつけて……」
「ほうほうほうほう!!」
イェルムのが興奮し始めている。
「確かにこの形なら、街なかでおしゃれのためにつけるのにいいわね。短い髪の子でもつけられるわ」
「しっかり髪を挟めるようにしないと、髪艶が良い人だと滑っちゃいそうですけど。あとはフタルのツルに髪飾りの花の形のとかを結びつけたりとか。前髪を編み込んで耳元に流してる冒険者さんとかをみたことがあるので、その先の結んでるフタルのツルにさらに組み紐飾り付きのフタルのツタで結んだら耳元に花が来て可愛いかなぁと」
「可愛いわね。一つにまとめてるところに組み紐髪飾りのお花が咲くのね」
ズシェもシーナの描いた絵を見て目を輝かせてる。
「髪の短い方もですが、長い方もまた取り込める良いアイデア! これが実現したら、シーナさん、特別報酬ですよ〜」
「やったー!!」
「冬の間に形にしたいですね」
「今年の冬はゆっくり過ごしたかったけど……」
「シーナさんは忙しくなりますねぇ。とりあえずこの土台のクリップを作ることができるか、懇意にしている金属加工のお店と話し合わねばなりませんね。こうしてはいられません! 失礼しますよ。また連絡いたします」
新しい商売の兆しにそそくさと家を立ち去るイェルム。相変わらずだ。
返してもらったパスを引き出しにしまい、キッチンに戻るとズシェもうんうんと唸っている。
「お昼何か食べていく?」
聞いてみるが反応がない。紙に何やら書き始めていてこちらの言葉が聞こえないほど集中していた。
うん、王都のあの人たちと同じ人種だ。
せっかくだから夜ご飯も見据えて作ることにした。家にいるときは基本ごはん食なので、ズシェも巻き込んでみることにする。
コンニャクは見当たらなくて入れられないが、肉じゃがを作りたい。思いついて無性に食べたくなった。あとは、人参似のムルルとレーズンのようなドライフルーツのサラダと、昨日の残り物の鶏肉をしっかり煮込んだスープ。骨付きで、お肉がもうほろほろ状態。そして白米。ズシェが嫌ならパンも一応ある。固い例のパンだ。
白米以外ができたところで、五の鐘が鳴った。
もうすぐ十一月も近く、日が暮れだすと急に寒くなってくる。キッチンは火を止めると地味に寒いのだ。
仕方ないのでご飯にしてこたつに移動してもらおう。
吸水させていた土鍋を火にかける。砂時計をくるりと逆さまにする。この砂が落ちるまでの時間を使い、中火くらいでじっくり沸騰させる。沸騰したら弱火にして二番目の砂時計をひっくり返し、落ちきったら火から離す。そして一番目の砂時計が落ちきるまでは蒸らしの時間だ。
この時の中火や弱火は、なんと、五徳のようなものを重ねて火から距離を取る方法を使う。なんとも面白い。
土鍋をずらして肉じゃがとスープを温め直した。皿に盛り付けると、ズシェの眼の前から紙を強制撤去だ。ちなみに、紙を横に置いておいたら無意識にどんどん使ってる。恐ろしい集中力である。
「ご飯食べてから、こたつに移動してやろうね」
「あ、ごめんなさい……」
残りの火でお湯を沸かしたら火の始末をする。
「ズシェも白米でいい? 食べにくかったらパンもあるから言ってね」
頭の中が魔導具のことだらけなのか、ぼーっとしているズシェの前にご飯を並べた。動かなければ無理やり口に突っ込むつもりだったが、お腹が空いていることに気づいたのか食べ始める。
「お風呂に入ってからこたつね!」
「はい……このパテラ美味しい」
我ながらよくできた肉じゃがだった。
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生活能力なしのズシェちゃんでした。
でも、魔導具に必要な材料とかは自分一人で狩りに行けるくらいには強いです。
たまにフェナの狩りがないときは、バルやヤハトが手伝ってたりします。
一人じゃ無理だな〜と思ったら同行依頼を出すけど、冒険者ギルドの受付のお姉さんたちがバルとヤハトに手を回す感じ。
ズシェもまた商品登録たんまり持った、シシリアドの街の保護対象だったりする。こっそり。
 




