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209.モルのタルトと引っ越し

 そろそろ冬前、最後の狩りに出かけるというので、シーナはフェナの屋敷で先日アルバートに振る舞ったタルトを作ることにした。

 さらにヤハトと丼ものを食べる。

 初めて作るものだから成功するかはわからないが、失敗してもそこまで痛手ではないのでお試しだ。

「どこらへんに狩りに行くんですか?」

「南の領地の森だな。依頼が来てね」

 バルが小麦粉と砂糖を泡だて器でよく混ぜている。正直ふるいが欲しい。ソニアが朝から出かけていて、今いるのはバルとヤハトとシアだった。

「祝賀会の時に言ってた南の森?」

「そそ。変なの住み着いてるところ。実際何がしたいかわからねーから、とりあえず本格的な冬が来る前に高レベル冒険者に一掃してほしいみたい。肉にこだわらない、ただし死体はきちんと始末してきてくれってことだったから、土持ちいないとダメな奴だな。たぶん【暴君】も行くんじゃないかな。ダーバルクのおっさん、大剣と土で有名だから」

 ナーラパイを作ったときに型は再発注しておいてある。生地を敷き詰めクリームチーズと砂糖、栗に似たモルを流し込んだ。

「シーナは肉類はもう十分か?」

「去年と同じだけ確保したので。お米も届いたし、ヤハトにまた冬に入ってからでいいから精米してもらうのを忘れないようにするくらいです」

「まあ最悪何か足りなくなったらここにくればいい」

「遠慮なくそうさせてもらいます」

 ついでに夜の準備もしてしまうことにした。丼物。ビビンバを作る。

 キムチはなさそうだし作るスキルもないので、ナムルと甘辛お肉を準備することにした。コチュジャンみたいなものもないから全てがなんちゃってである。まあ仕方ない。

 もやしも見つからないし、ナムルも適当だ。

 材料を茹でて調味料と和えた。つまみ食いしたヤハトが、ご飯に合いそうだという。

 もう完全にご飯をわかってきている。

「お肉は夕飯の時作るから、またひき肉をよろしく。あ、そうそう」

 カバンの中から瓶を出す。

「これ、小魚を佃煮にしたの。ご飯に合うからあげる。おにぎりの真ん中に入れても美味しいよ」

「お! ありがと。シアと食べる」

 シアも最近はご飯の美味しさに目覚めつつあるらしい。

 そんなやり取りをしていると、玄関のほうが騒がしくなってきた。

「帰ってきたな。ヤハト」

「おう」

「なになにー?」

 二人についてシーナも玄関へ向かうと、ソニアがいた。他にも大人二人と子供二人と明らかに親方と職人たちがいた。

「マサさんたちはこちらに。予定の場所を見てください」

「あなたたちはこっちよ。ほら、いらっしゃい……あら! シーナも来ていたのね。バタバタしてごめんなさい」

 小さな子どもがこんにちはと元気よく言ってる姿は可愛い。

「ちょっと待ってね! ほら、荷物が来るわよ!」

 と言っていたら絨毯が降りてきた。もうすっかり絨毯移動がデフォになっている。

「あとはヤハトがよろしく。シーナ、美味しいの出来た?」

「出来ましたけど、冷やしたほうが美味しいからお夕飯の後ですよ!」

 庭先に大量の荷物とフェナが降り立つ。

「それよりこれは何が始まるんですか?」

 ヤハトが木箱を風で浮かせて運び始めている。小さな荷物は子どもたちも抱えていた。

「ソニア! お茶入れて」

「はい、かしこまりました。ごめんなさいね、シーナさん。バタバタで。息子夫婦が急に越して来ることになったの。お庭に住まいを建てる間はこちらの別棟で生活させてもらうわ」

「え! そうなんですね。てことは引っ越し荷物か……タルト足りない! もう一つ焼かないと〜」

「使用人の分まではいらないわよ、シーナさん」

「でも! お引っ越し祝いしないと!」

 お祝い大切! 九の雫祝いしていないが。今度したほうがいいかもしれない。ケーキを、スポンジケーキを焼きたい!!

 フェナの家は余裕があるのでタルト型は二つある。ヤハトたちが荷物を運んでいる間にもう一つ作った。焼けたら部屋丸ごと温度を下げている保管庫へ入れてきた。その頃にはほぼ荷物も運び終わっていた。

 なぜ冬前のこんな時期に引っ越しをしたか聞いてみると、シアが家のことをかなりできるようになり、また一人料理補助を入れることにした。春からはその新しい子どもが仕事を覚えるまでかかりきりになるため、家の采配を任せる予定の息子を冬の間に教育することにしたらしい。

「ソニアもゴードももういい年だからな」

 バルがフェナの絨毯を片付けながら教えてくれた。

 奥さんは変わらず仕事を続けるらしい。

 子どもたちにできる仕事を割り振りながら、バルが管理してきたことも少しずつ任せていくそうだ。

「年の半分は狩りに出ているから」

「フェナ様、動いてるの好きですよね」

「ヤハトもそうだしな」

 三人中二人が狩り好きだと大変そうだ。そこまでお金に困っているわけではないのに。

 フェナは自分で好きな場所に出かけて狩りをすることも多いが、依頼もよく来る。

 わざわざ遠方からシシリアドに来て指名依頼をする者もいると言う。指名依頼料も入るし、フェナレベルに依頼するのは、ホェイワーズのような素材狙いのものが多かった。

 いかに上手く素材を得るかが楽しいという。

「難しい狩りの方がやる気が出るタイプの人だな」

 そんなふうに話すときのバルは嬉しそうだ。

 息子夫婦一家は、息子のワリル、その妻のラーシャ、七歳の長女ニナと五歳の長男ケリーだ。

「しばらくは騒がしいと思いますがよろしくお願いします」

「子どもたちを本館に入れないように。しっかりと言い聞かせてちょうだいね」

 フェナの屋敷は大きい。シーナは過去に何度か曲がり角を間違えて別館に迷い込んだ。子どもたちもよくわかっているようで、神妙に頷く。

 庭の一角に作る住まいは冬の間に仕上げるそうだ。

 夕飯のビビンバはヤハトが大喜びで、タルトもまたフェナから合格がでた。

「そのうちこのタルトのレシピは領主様の料理人に教えようかと思ってます」

「そんなことをする必要があるのか?」

「私からのお祝いにしようかと思って」

 何のかは察したのだろう、問われなかった。

「シーナは私に九の雫の祝いをすべきでは?」

 それはたしかにそうなのだ。少し考えなくては。

ブックマーク、評価、いいねありがとうございます。


ビビンバピビンバ論争はわからないので、今回はビビンバに統一しておきました。他国の料理だと発音難しいよね〜

我が家でもよく作ります。子供らがナムルをパクパク食べてくれるので野菜が食べられてよき。



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