208.シーナの家で二人のお食事会
いきなりの攻撃にやられっぱなしだが、息を整え体勢を立て直す。
「今日はお酒もあるし、色々つまめるものにしたんですよ〜」
朝から仕込んで楽しんでしまった。
「さあ、座ってください。唐揚げは出来立てが一番だから今揚げますね。このお魚食べていてください」
少しずつ作ったので手間はかかったが、なかなか美味しいラインナップになった。
魚はアクアパッツァ。小さめだが味が濃くて美味しい種類だ。それをアルバートの取り皿に乗せた。
「このお酒は氷だけで大丈夫ですか?」
「うん。甘すぎないけど香りのいい果実酒だよ」
グラスに冷凍庫に準備しておいた氷を入れると、アルバートが注ぐ。薄いオレンジ色をしていた。
「乾杯」
爽やかで少し甘みがある。
「これは……パライソに似てる〜それより少し爽やか系」
「気に入ってもらえてよかった。この魚、すごく美味しいね。使ってる香辛料が好みだ」
「ふふ、良かったです。やー、家に置いてあるお酒が度数でしかないわぁ……お恥ずかしい」
ウォッカに似たものや、ウィスキーに似たものしかない。蒸留酒じゃないとちょっと管理が怖くて置いておけなかったのもある。
「こっちのシーザーサラダも美味しいと思うから食べてくださいね! さあ唐揚げだ」
柑橘系の塩をつけて食べたいので、下味は薄めにしてある。ゼガのすりおろしたものと、ニンニクをすりおろしたもの。シーザーサラダの残りのマヨネーズを入れて少量の塩で下味は完了だ。昼前から漬け込んである。それに衣をつけて揚げ、柑橘系お塩とともに出すと熱々をいただいた。
「……ハハナラヤの神殿で揚げたものより美味しい気がする。このリム塩がいいね。油っぽさを打ち消してくれるというか」
「本当だ〜美味しい! お酒と合う」
シーナも席について頬張る。控えめに言って最高である。
「揚げ物は食べ過ぎたらダメだけど、やっぱりお酒には合うからパクパク食べられちゃう。危険な食べ物です」
「揚げ物は食べ過ぎたらダメなの?」
「食べ過ぎると、太るんですよ〜」
ストップ揚げ物。今日も唐揚げはシーナは一つ食べるだけ。他にもたくさん作ったから。そう決めて六つしか揚げていないが、箸がもう一つをと求めている。
「シーナは全然太ってないし、大丈夫だと思うけど」
なぜ知ってる!? と思ったが、そう言えば色々運ばれたことを思い出した。
「痩せたんですよこっちに来てから。最初の方の粗食生活とか、階段上り下りの多さで引き締まったと言うか」
わりと理想の体型になりつつあるから維持したい。
「でも今日はせっかくだし、好きに食べよう?」
「うう、じゃあもう一つだけ……」
唐揚げ美味しい。
「あ、そろそろハンバーグもいい頃です」
オーブンから煮込みハンバーグを取り出して、鍋敷きの上に置く。さらにもう一つ。こちらはお試し作品だ。
「ソワーズで食べた煮込みハンバーグと、こちらはドリアです。この間食べたおにぎりの、ご飯を使ったものです。試してみてください」
とりあえずはハンバーグをアルバートの皿へ。シーナはドリアを試すことにした。
「ああ、本当に美味い」
目を閉じて感動している姿は美しい彫像のようだった。
「気に入ってもらえて嬉しいです……お屋敷でも食べられるように、レシピ流します?」
「いや、……またシーナに作ってもらう」
こんなことを言うたびにニッコリ笑うのがズルい!
「いいですよ」
断ることなんてできない。
というか、魔物の肉本当に美味しいのだ。あちらで作ってた頃よりここのハンバーグのほうが断然美味しい。
そのあとドリアも試してみたが、アルバートも米オッケーだとわかった。かつ丼どうだろう。
「シーナのそのカトラリーは何というものなの?」
「箸ですね。使えると便利ですよ。というか、私の故郷は箸をメインに使っていたので、実はスプーンとフォークで食べるのがそこまで完璧ではないんですよね」
使う順番とかは本当に困る。
「きれいに食べているから気にならなかったよ。箸は便利だね。魚の骨を取ったりするのもすごく上手にできてるし、小さい物をつまめるのがすごいね」
「ふふ、今度練習してみますか?」
「ちょっと試してみようかなぁ」
道中の野営や聖地でのことを話していると料理はあらかた片付いた。ハムやチーズは用意しているが、少しずつにしたのでまだお腹には余裕があった。
「デザートもあるんですけど、どうですか?」
「ぜひ。シーナのデザートは美味しいからお腹いっぱいでも食べていかないとね」
「飲み物は、紅茶か、甘くないお酒」
「お酒?」
「お酒とデザートって結構合うんですよ」
ということでグラスに洗浄をかけて新しい氷を入れる。
お酒を注いで、今日はなんとタルトだ!
前にアップルパイに使った型に、お砂糖と小麦粉をよく混ぜ溶かしバターで固める。本当は本来のフードプロセッサーなら、バターを溶かさず固いまま一緒に混ぜるといい生地ができるのだが仕方ない。
頑張ってこねて型に入れ、クリームチーズと生クリームと砂糖をよく混ぜたものに、栗に似た木の実を入れて混ぜたものを流し込む。その上からアーモンドによく似た木の実をスライスしたものを散らした。昨日のうちに焼いて、味見も済ませてある。
「……シーナ、これ、すごく美味しい!」
「わーい、よかったです。まだフェナ様も食べてないから、この世界で一番最初に食べたのがアルですよ」
「それは、嬉しい」
頬が染まるのは、酒のせい!? 可愛さと色気とか、無敵すぎる!!
「そのうちマリーアンヌ様にお土産に持っていこうかと思ってます」
「これは喜ぶだろうなぁ。あの方もシーナのデザートが大好きだから」
甘いものを食べすぎるのはダメだと、よくわかっているので制限しながらクッキーやクレープを楽しんでいるという。
「ヴィルも好きなんだ。よく王都で学校の宿舎を抜け出して甘味を求めにうろついた」
「学生時代のやんちゃはいい思い出になりますよね。お話を聞いてるとアルとヴィルヘルム様って本当に仲良しだったんだなって思います。私も、もう少し王都のお店とかうろついてみたかったです」
すっ飛ばして帰ってきてしまったから、めぐれずじまいだ。
「じゃあ今度一緒に行く?」
「ふぇっ!?」
「王都なら、疾駆け掛けた馬を使えば一日は無理でも野営せずに間に街に泊まって、二日で着くからそこまで危険じゃないよ」
「や、でも……」
「来年の夏、王都へ行く用事があるから、エドワール様に話せば許されると思うけどなぁ……考えておいて?」
「馬に一日乗ってたら、この間の短い時間であれだったし」
「それまでに馬に乗る練習しようか。手綱を握る必要はないから、軽くそこら辺を走るだけでいいし」
「ちょっと……考えさせて」
二日間一緒に馬に乗るとか考えるだけで心臓が保たない。
しかも困るのだ。困ってる。
どうしよう。
中途半端な態度は失礼だと思うのだが……。
「すっかり暗くなったね。そろそろお暇するよ。食器洗おうか」
「洗浄ですぐ終わるから大丈夫。結構飲んだし、すぐそことはいえ、気をつけてね」
キッチンを出て玄関に向かう。扉を開けると秋の空気が忍び込んできた。昼間は過ごしやすくても、夜はもう寒いくらいだ。
ポケットからパスを取り出したアルバートが、シーナへ差し出す。
受け取ろうとすると、そのまま手を握られた。
「今日はありがとう、どれもとても美味しかった」
「うん、喜んでもらえてよかった」
距離が近い。目が回るのは酔いのせいか?
「また来てもいいかな?」
「うん…」
それじゃあ、と手を振るアルバートを見送り扉を閉めると、ズルズルとその場に座り込む。
「困ったぁ……」
両手で顔を覆う。
あんなお願い断れるわけがない。
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ブックマーク、いいね、ありがとうございます。
おすすめの小説にあげてもらったようで、アクセスが増えているようです。
ありがとうございます。
ぜひ評価もぉぉ!! とおねだりしておきまーす。
あとに2ヶ月ほどお付き合いいただけると嬉しいです。
仲良しの同僚精霊使いとの会話
「え!? 帰ってきたのか? 外泊かと思ってた」
「それは早急すぎ」
「で? 首尾は?」
「とても、美味しかった……」
「そっちじゃねぇよ!! 何食べた?」
「揚げたての唐揚げにリモ塩少しだけつけて食べて酒が最高すぎた」
「からあげ!!」
「あと、魚は骨がめんどくさいと思ってたんだが、オーブンでオイル焼きしたやつがかなり美味い」
「ほ、ほかには?」
「なんと言ってもハンバーグだ」
「は、はんばあぐ……」
「最後のタルトとかいうデザートがまた……あ、マリーアンヌ様に日にちをお伺いしなくては」
「赤子がいるとこにそんな酒クセェなりで行くな!! つか、帰ってくんなよ!」
 




