207.目を逸らし続けてきたこと
「ところで、ヤハトくん……新しいご飯の丼物レシピできたから食べにおいで〜って言ったら来る?」
「行く!! なに、どんなの?」
「フェナ様もバルさんもご飯料理あんまりだから一人でおいで〜だと?」
「え、行かない」
スンッて真顔になるヤハト。
「……やっぱそうなるのか」
「フェナ様呼べばいいじゃん。とりあえず新作はいつも食べてるし、ていうか、ここで作ってよ」
「うん……」
ヤハトですらそうなのだ。
先日、ガングルムがシーナの家に来る時、わざわざ女性の職員を伴ってきた。
独身女性一人住まいに、男性が訪れるのはダメだと。シーナと年が違いすぎるガングルムですらだめだった。
シーナより年の若いヤハトですら把握してる。
「うちに、男性が一人で来るのはだめなんだよね?」
「そりゃダメだし。俺、アルと喧嘩したくない」
ああああ……認識ぃ……。クッションの上でバッタンバッタンと暴れまわる。
「ねぇ! いつからそうなったの!?」
「えっ? 何が?」
だからその、と口にするのが、え、ヤバ! 照れる!
「えっと……私とアルが……その、仲良しというか」
「え、シーナ、アルのこと好きじゃないの?」
「好きじゃないわけないでしょおおお!! あの顔面偏差値で気遣いマックスだし優しいし何でもフッ軽で対応してくれるしぃぃ」
ボスンボスンとクッション虐待が捗る。
「でも、いつそんなことになったの? というかさ、あれだけのイケメンがごくごく平凡な私の方に矢印が向くわけないでしょ? どうしてこうなった? 何か罠だよね?」
「シーナの言葉が乱れててよくわからないけど、いつからって、去年の冬からだろ?」
あまりに明確に言われて、戸惑う。
「冬?」
「シーナがアルを家に入れてたって聞いたよ」
「家に入れた? 誰から聞いたの?」
「みんなから」
「ちょっと待って、思い出すから」
去年の冬は初めての冬で……自分のやってたことを思い起こしてみる。そして気付いた。やってる。
「うぁぁぁ、荷物持ちさせて、お昼になったからご飯食べていってって誘ったぁぁぁ!!」
冬が始まる前だ。食器を買ってそのまま昼ごはんに誘った。そう言えば少し最初は様子がおかしかったように思える。
「でも! そのアルを招き入れた時あとからイェルムさんが来て入ってきたよ!?」
「アルがいたからだろ?」
ええええ……まさかの自分のやらかしが原因だとは思わず、衝撃がすごい。
「でも、でもさ、正直トップレベルのイケメンが、外見から何から何まで平凡な私に気があるってのがおかしくない!?」
「えー? 顔は子どもに見えるってだけで、若いって思えばべつに可愛く見える範疇じゃないの? そこら辺は個人の好みだけど。俺はシーナのこと好きだよ。美味しいご飯作ってくれるし。なんか、妹みたいなのってこんななのかなって」
「ちょっとまったぁぁ!! 私の方がお姉さんなんですけど!?」
「え、……ご飯以外で頼りにならないねーちゃんとかいらなくね?」
「え、ひどくない?」
「街歩きも気をつけないといけないし、世話焼いてるの俺のほうじゃん!」
それはシーナのせいではない気がするのだが、職性能的な。いや、話がずれている。
「そこはまた話し合おうヤハトよ。ちなみに私は作ったご飯をいつも美味しく食べてくれるヤハトを、第二の弟だと思ってる。だがそうでなくて、アルが、なぜ私?」
どのタイミングで何が変わったのかわからない。
家にお誘いした時にはある程度の土台ができていたのだろう。たぶんきっと。そうじゃないと誘っても断られる気がする。
そう言えばバルも、重い紅茶の瓶を家の中に運び入れることをせず、全部玄関先で済ませていた。今考えてみれば冬の間もそんな感じでバルもヤハトも家の中に踏み込むことはなかった。
「何かの罠……や、フェナ様を繋ぎ止めるためにアルを利用しようと、エドワール様が?」
それなら、祝賀会でシーナの出店巡りにアルバートを一緒に行かせようとしたのもわかる
「政略的な?」
「……シーナ、それぜってぇアルに言うなよ。泣くぞ」
ヤハトの呆れた顔にこちらも絶望だ。
「化粧品一式もらってたし、そのネックレスだってもらってたじゃん。端から見たらそうとしか思えないんだけど?」
「ああああ…………」
「黄色の石のネックレスって結局アルの髪色だろ? シーナのドレスは緑だし。アルの目の色じゃん。てか、シーナの家、緑色いっぱい」
「ああああ……」
わかってる。目を逸らし続けていたが、シーナだって十分わかっている。守り袋の糸の色だって、結局そういうことだ。
「困るよ〜」
「困るの?」
困るのだ。
イケメンが家の前に花束を持って現れる。
破壊力が……一発KOだ。
「いらっしゃいませ」
「お招きありがとう」
花束とパスを交換する。
色々な種類の花が綺麗にまとまっていた。
「いい香りですね。ありがとうございます。……花瓶……」
そう言えばない。花瓶すらない家とは思われないだろうが、どうしようと思っていると、アルバートはキッチンのテーブルにトンともう一方の手に下げていた風呂敷を置く。
「一応花瓶も持ってきたんだ」
気遣いの神様か!
流しで水を入れて、花を飾る。
「食卓が華やかになりますね。ご飯にしましょうか」
夜遅くはあまりダメだが、昼間から酒というのも、と今は大体午後三時くらいの時間だった。
「お腹空かせてきてくれました?」
「うん。シーナのご飯をたくさん食べるためにね」
笑顔が眩しくて、これは、押されたら負けると改めて実感した。
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125あたりの同僚精霊使いとの会話
「アル〜! シーナの家に入ったって噂になってる」
「早いなぁ。一応イェルムさんも来たんたが」
「あの人わりと、仕事だと常識忘れるから。それにすでにアルがいたって思われてる」
「そうか……」
「許可でたってことだろ?」
「たぶん、シーナの故郷では問題にならないことなんじゃないか? 昼間だからとかで」
「あ〜、どうするの?」
「どうもしない。その認識で構わない」
「悪い男だな〜」




