206.ヤハトとフェナの出会い
狩猟祭が終われば、次は冬支度だ。
去年羽毛布団をアンジーに横流ししたら、下着類や靴下はしばらくは全部請け負ってくれるという話になった。ありがたい。お古の布団なのに。
なのでシーナは食料と薪の準備をすればよいということになった。
まあその食料品が大変なのだが、二年目なので少しはましだ。キリツアやパテラなどの日持ちのする根菜類はまとめて届けてもらう。小麦粉や砂糖なども同じく。
ビン類は去年の物もまだあるが、さらに追加した。粉類ジャム類は冬が終わっても使えるものなので十分すぎるほど準備しても問題ない。
ベーコン類はまたフェナの家に便乗することにした。
「今年も去年と同じでいいかな?」
メモを取るバルに頷く。味付けは一辺倒なくせに、ソーセージの種類だけはやたらと豊富なのだ。
「あー、あの黒いやつはちょっと苦手だったんでなしにしてもらって、別のをその分増やしてほしいです」
「ならば、こんな感じかな……了解した。あとは……ソニアがウスターソースとトンカツソースを持って帰ってくれとのことだった」
「わーい! ありがとうございます。あ、この間のオコノミ焼き、ソースとマヨネーズをつけて食べても美味しいんです」
「わかった。フェナ様にも言っておくよ」
髪飾りの相談を受けたり、領主の屋敷から呼び出されたり、余計なことが多い上にフェナからの呼び出しもある。ガラとも相談して、すでに顧客となっている人以外はこの時期は基本受け付けるのをやめようとなった。そして、冬の時期に入ったら、一日組み紐ギルドで二日分の予約を取り、残り二日を常連の予約にあてる。
新規顧客はこのシシリアドの組み紐師の反感を買わないために、流れの冒険者を優先させる。流れかそうでないかはガンクルムがわかるだろうというかなり緩い話。
「フェナ様の組み紐の値段は残念なことに広まってしまったわ。だから、さすがに恵まれすぎていると思う輩もいる可能性はゼロではない。客なんて奪い合い。文句を言い合うことなんて普通にある。けれど、あなたに文句を直接言える人はいないのよ」
シシリアドが総力を上げて保護している落とし子に敵意を向ければシシリアドでの立場が終わる。
「発散できない妬みや嫉妬は捻れて悪意になる。そういった感情は抑え込まれて爆発するときが一番怖いの。シーナは長く生きるのだから余計にそういったものを気をつけないと。病では死なないけれど、怪我では死ぬんだからね」
ガラの言葉はもっともすぎて頷くしかない。
「フェナ様の組み紐代と索敵の耳飾りで暮らしには困らないだろうけど、あなた、組み紐師をやめる気はないんでしょう? 編んでる時楽しそうだものね」
こんこんと言い聞かされたので先人の言うことには従いますということになった。
燻製物が片付いたらあとは自由時間だ。夜はこちらでいただくことになってるので暇ができた。
「ヤハト〜私も魔力回し一緒にしていい?」
「ん〜」
土足厳禁の部屋でヤハトが胡座をかきながら目を閉じて訓練をしていた。
さっそく靴を脱いでクッションにダイブする。相変わらずここのクッションは気持ちがいい。フカフカ感が自宅のものより断然いいのだ。
「……まさかこのクッションもホェイワーズみたいな、特別なものなの?」
だとしても流石にもうあまりに高額なものは買う気はないが。
クッションをこねくり回していると、ヤハトが目を開ける。
「全然魔力回ししないじゃん」
「あー、へへ。そうだね」
じっとヤハトを見る。
「ん?」
「ヤハトは、フェナ様とどうやって出会ったの?」
「ああ、あの時の話か。だから、フェナ様の財布をスろうとして、そのまま弟子に……」
「わからん!」
ヤハトは、気がつけば王都にいたそうだ。いわゆるストリートチルドレン。現状に気づいた頃には十人ほどのコミュニティの中にいたという。
「割と多いよ、王都は特にだな。大きいから余計に端まで目がいかないから。シシリアドも小道には入るなって言われてるだろ? 多かれ少なかれどこにでもいるよ」
ヤハトは自分が精霊を使えることがわかっていた。なので精霊石に精霊を込める仕事などをして小銭を稼いでいたという。
「組み紐がないから効率は良くなかったけど、組み紐なんて買えるわけがないからな」
人に直接的に危害を加えるようなことは避けて、日銭を稼いでいた。
「だけど、一緒にいたやつらの一人が他のやつの縄張りで物を売ったとかで、難癖つけられてさ〜」
よくある小競り合いの一つだったそうだ。
仲間意識とかはなかったが、相手からすればヤハトまで仲間だ。
責任を取れ、金を寄越せ、どうせなら大金がいい。あの角に見える銀髪の懐を狙えと言われた。
「銀髪て、フェナ様……」
「ぎゃーぎゃーうっさいからやるだけやったけど、まあ盗れるわけないよな。精霊使ってフェイント五つくらい入れたのに、あっさり捕まった」
しかも、ヤハトに指示した奴らも丸ごと引きずり出された。
空中に逆さまに吊るされて、合計三十人ほどが裏路地で銀目に凄まれた。
「貴族の財布を狙うとは、この場で首を跳ねても文句ないよな?」
凄むフェナに、一番年長でも十五になっていない子どもたちは震え上がったという。
そのまま宙から放り出された子どもたちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。ただ一人、ヤハトを除いて。
「だって魔力の圧が全然なくてさ」
ちっとも怖いと思わなかったらしい。
「組み紐もなしにあれだけ精霊を使うとは、もったいない」
「じゃあ買ってよ」
「いいよ、おいで」
そうしてヤハトはフェナの弟子になった。
「て、子犬拾うみたいな!! え、なんかフェナ様もヤハトもおかしくない?」
「しかもそのあと組み紐作ったら、じゃあなって置いてかれそうになったから無理やりついてった」
「フェナ様ぁぁ……」
さすが過ぎる。ある意味期待を裏切らない。
「でも、よかったねえ」
なんだか、一つの行動が人生を変える話を聞かされた感じがする。
「フェナ様はヤハトのこと大切に思ってるよ」
以前、遊べるなら遊んでやってくれと言われた。
「知ってるし」
ちょっと照れくさそうに口を尖らせていた。
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ちょっといい話??
フェナはヤハトの才能に気づいたから、こんな対応。本当にもったいないと思ったやつです。
ヤハトが王都でスリをボコってるのはこの時の憂さ晴らし。
ヤハト→バルと言う順番で仲間になったので、バルが参戦するまでの間にフェナの常識に染まってしまっていたヤハト。
うるさいやつは口を塞げ(物理)。とかが普通だった。




