203.冒険者のバランス
一番最初にこの祝賀会に参加した時は、料理をヤハトと楽しむだけでよかった。
しかしこう知り合いが増えてくるとそういったわけにもいかない。お互い挨拶を交わしたり、シーナには冒険者から索敵の耳飾りについて感謝の言葉を述べられることが多くなった。
「飯食ってる暇ないな」
「ヤハトに見捨てられたら困る……」
知らない冒険者に話しかけられるのが一番困った。
「あーでも、ダーバルクのおっさんも来たから大丈夫じゃね?」
特に開始時間は決まっていないらしい。夕方、日が暮れてきたらお越しください。せめておもてなしをさせてください、といった趣向らしい。
ここ二年ほどで料理の質が向上していて、招待された冒険者たちもかなり満足げだ。
シシリアドの領主館で開かれる、狩猟祭後のもてなしの料理が美味いと、冒険者の間で密かに広まっているらしく、今年もまた流れの冒険者が増えてきた。ただ、呼ばれるほどの功績を積まなければならず、狩猟祭の肉確保戦線は白熱しているらしい。
「シーナのヤキニクソースが色んな味できて、すげー美味いのな」
「みんな工夫に勤しんでるよね〜」
なるべく会場の隅の方でヤハトと食べ比べをしているところにダーバルクがやってきた。
「よぉ! いい色のドレスだな。よく似合ってる」
「これだよ! これ! ヤハトくん、普通はこうなの! お褒めいただいてありがとうございます。王都で髪飾りで儲けたお店の人が、お礼にって送ってくださったんですよ」
「そりゃガッツリもらっとかないとだなぁ」
「髪飾りもドレスに合わせてるんだな」
「華やかでいいね」
「化粧もして年相応……酒飲んでても問題ないくらいになってるな」
取り巻きABC。最後のは余計だ。
まあ、今年のドレスに対してまったく関心のないヤハトよりはマシだ。
「軽く挨拶周りしてくるが、シーナは壁際で大人しくしてろよ。変な奴はヤハトに任せとけ」
本当の娘が現れはしたが、過保護のお父さん役は辞めないらしい。そんなネリルは最近【暴君】とともに行動してはいるが、メンバーではないからお呼ばれまではいかなかったという。
「あいつもそのうち気の合う仲間ができるだろ。なるべく同年代のやつらと組むほうが、いいんだよ、基本はな」
「そんなもんなんですね」
何年かは冒険者として手元で鍛えるがそのうち一人立ちさせる腹づもりだという。
「じゃあいってくる」
わざわざ先にシーナの所に寄ったのは他のシシリアド住みでない冒険者たちへの牽制だろう。遠巻きにこちらを見ていた冒険者たちの視線が外れた。
「……簡単に一人立ちさせると思う〜?」
「さー、シシリアドから出てったらなんとかなるかも? でも普通は一人前になるまでに何度も組んだ気心がしれたやつとパーティー組むことが多いからなぁ」
「ヤハトは?」
「俺? 俺はずっとフェナ様の弟子だから」
「でも、冒険者になる試験受けてるような時は住んでた街のギルドとかに通ってたんでしょ?」
「あれ、言ってなかったっけ? 俺は王都でフェナ様の財布盗もうとして捕まって弟子になったんだよ」
「……へ?」
聞いてませんよ!?
詳しくしてもらおうとしたら、【青の疾風】たちがやってきた。
「やあシーナ、素敵なドレスだね」
ギーレが先頭を切って褒めてくれる。
「ありがとうございます。頂き物なんです」
「髪飾りも可愛い! 私も買いたいけど、髪短くしてるからつけられないんだよね〜」
ナナはショートカットだ。活発に動く彼女にとても似合ってはいるが、たしかに簪タイプの髪飾りはつける余地がない。
女性は髪を長くしていなければならない、ということはないらしい。貴族女性は総じて長いが、平民は手入れの面を考えて短い人も多い。
「精霊は髪を好むから精霊使いは長い髪が多いけど、斥候役だと短い子も多いものね。友人が組み紐髪飾りを羨ましがってるのを聞いたわ」
ほうほう。それは新しい販路。
貴族相手じゃないからあまり高くなってしまうのはダメだが、イェルムに相談してみよう。フタルのツルを使って飾りのついたゴムみたいに販売できるか、それかヘアピン? パッチン留め? とにかく相談。
「今回は南の森に行ったんでしょ? あそこ相変わらず変な団体いた?」
「いた! でもフェナ様は大物しか狙わないから、無視して奥行ったら別になんともなかった。奥でゴロバのでかいやつ捕まえて運んでたらなんかギャアギャア言ってきたけど、フェナ様がイラついて爆破してた」
さすがフェナ様と笑うが、シーナはドン引きしてる。
「狩りの邪魔したら文句言われても仕方ないよな」
ギーレも頷いているのでそれが普通なのか?
「でも南の森からの荷運び大変だったんじゃないか?」
「それがさ、最近絨毯で移動するのが楽しいみたいで、一気に帰ってきたからかなり楽」
空飛ぶ絨毯を手に入れたフェナはやりたい放題だ。
「他人の狩りに文句言ってくる変なのがいるから、あの森の間引きが上手くいってなかったらしくて、こっちにも行けたら行ってくれって相談受けてたから助かった。狩りはいいんだが、狩猟祭の期間はさすがに肉を持って帰ってこないと功績にならないから。かといって少し距離があるから獲物を運ぶのが大変で」
リーダーのマルクスが言うと、ハーナーシェも頬に手を当て困った表情。
「本当は南の領地の管轄なんだけどね。冒険者が予想以上にこちらに流れてきてるらしいわよ。来年から冬の間の流れの冒険者は少し制限して他領への移動を促すそうよ」
シシリアドは大人気だそうだ。
「それか、南の領と話し合って、狩猟祭をあちらで過ごし、そのあとシシリアドで宿で過ごせるよう予約枠を設けるか、て話だな。宿の確保に街の外壁をもう少し拡大するかって話もあった。まあ春になってからだな」
バランスを取るのが難しい。そこら辺を調整するのも領主たちといったところか。
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アクセスあがっているみたいです。
あと2ヶ月くらいは続くのでよかったらゆっくり読んでください。
冒険者が偏ると困る世界のお話。




