202.狩猟祭のお手伝い
たった十日ですべてを整えるのはなかなか難しかったようで、一日目の狩猟祭は手伝いをすることになった。本番で作りながら教えるらしい。
ローディアスに連絡し、楽しみにしていた子どもたちには悪いが、出店巡りは二日目にずらしてもらった。
一日目の売れ行きで二日目の仕入れを変えるという。
どっちにしろ焼くのにそれなりの手間がかかるのでそこまで販売数増やせないよ? と思っていた。
当日朝、目覚ましで起きると身支度をして家の外に出る。
起きたときから賑やかな掛け声が聞こえてきていて、なんだかこちらもワクワクしてきた。
これは、文化祭、学園祭でクラスで飲食店をする時のワクワク感だ。
「おはようございます!」
「おう! もう焼き始めてくれるか?」
「了解です」
材料は前日に全て揃えている。野菜を刻むのを今組み紐ギルド内でやっているところだ。
分量もきっちり決めて赤字にならぬよう、打ち上げくらいの利益は出るように色々と決めていた。まあそこら辺はお任せする。
「まず、薄切り肉を敷いて、その上にこちらをレードル一杯分」
買いやすいお値段設定にするため一つの大きさは小さめ。裏表しっかり焼いてタレをスプーン一杯分かけて完成だ。
周りの出店からも良い香りがしてきている。
人もちらほら現れ始めた。
「人が少ないこの時間に交代で練習しましょうか」
正直焦がさなければそう失敗しない。それくらい薄めに焼いてある。厚さがあると蒸したりして中まで火を通すのに工夫が必要だが、この薄さならすぐ火が通る。
本当は魚介類を混ぜてもいいのだと言うと、来年はもっとこれを研究しようと話し合っていた。
やがて、肉肉しくはないが物珍しさで買った住民たちの口コミから、行列ができて行列がさらなる行列を呼んだ。
「え、これヤバ」
雫葬の時を思い出す。
焼いても焼いても焼き足りない。
「追いつかないとか〜」
鉄板はかなり大きい。畳一帖分くらいは余裕である。
「これはだめです。呑気に焼いてたらだめなやつです! 割り振りします!」
鉄板を二等分にし、半面に肉を広げる係、レードルで野菜入り生地を落とす係、生地を整えひっくり返す係。
「じゃあこちらの半分も始めます」
交代に出来上がるよう、作業ができるよう分業する。
コテを多めに作ってもらっておいてよかった。
そうやって流れ作業になるようにしたら、シーナは職員たちにそちらを任せて接客をした。明日のことを考えたら彼らがこの流れをつかめている方が良い。明日は子どもたちと出店めぐりなのだから。
「一つ鉄貨六枚です! お皿とフォークを返却してくれたら鉄貨一枚お返しします」
お皿の返却箱も作り、まとめて洗浄だ。鉄貨一枚返ってくるので返却率は高い。というか、すぐそこでぺろりと食べきってしまっている。
少し先まで注文数を聞いて、指示を出し、お金をもらってお釣りを渡ししていると、声をかけられる。
「シーナ、三つちょうだい」
横入りしてそんなことを言う人物は決まっている。フェナだ。
「みんな並んでますから並んでください」
「ええーこんな長い列に並ぶの面倒」
「みんな面倒でも我慢して並んでいるんです!」
「我慢は嫌い」
駄々っ子だ。
「シーナ、フェナ様だし」
ガングルムが口を出してくるが、キッと睨み返す。
「甘やかしちゃダメです!」
「ねえ、私の分も買ってくれる?」
「はい喜んで!」
どこの掛け声だ。
先頭に並んでいた男性がフェナの分を追加してくる。シーナがええっという顔をすると、後ろに並んでる人たちが皆一様にうんうんと頷いていた。
「もーこの街の人フェナ様に甘すぎですよ〜」
熱々の出来立てを渡すと、すぐ隣で食べる。
「美味いな。これ、腹に溜まりそうでいい」
「粉ものだからね。家でも簡単にできるけど、こういった鉄板で焼いた方が美味しいから、出店で食べるのが美味しいよ」
ヤハトの感想はいつも素直。
火力も大切だと思う。
「なんて名前なの?」
「うーん、お好み焼きで? ねぎ焼き?」
「俺たちはシーナ焼きって言ってたぞ」
「だめー! やめてください!」
ヤキニクソースのときでそのくだりはやった。
「オコノミ焼きにしましょう」
「まあいいが」
来年もこれでとか思っていないならレシピ公開してもいい。これもまた炭水化物と野菜と肉の完全飯である。しかもこれはトッピングを変えたりバラエティーに飛んだラインナップを展開できる。
シシリアドを食の街にしたい。
おかわりと言い出したフェナを追いやり、また作り続けるが、材料が間に合わなそうだ。
「明日の分の肉も使っちゃうか?」
「とりあえず最後尾に職員立たせて、今日はここまでってした方がいいですよ」
「確かにそうだな、俺が行ってくる」
並んで途中で今日はここまでって言われたらさすがに可哀想だ。
あと少しだと必死に接客してようやく最後の一人が終わった。
「お疲れ様〜」
「シーナさんありがとうございます」
「明日の仕込みしないとだなぁ……」
まだ昼過ぎだ。これは孤児院の子どもたちの分は確保するか、肉を分けてもらってまた別日に神殿で料理するかだ。
「シーナ明日は……」
「もーダメです! 孤児院の最年長さんたちと出店巡りするんです」
断固拒否の姿勢を崩さない。あれ、恒例行事になりつつある。二年続けたから何かあるまではやり続けたいと思っている。
「シーナ」
呼ばれて振り返るとアルバートが歩いてくる。今日も相変わらずのイケメンキラキラだった。
「アル、狩猟祭の出店巡りですか?」
「いや、エドワール様がシーナが出した店のものを食べてみたいとおっしゃったんだが、もう売り切れかな?」
「ですね〜今度またなんならお屋敷で作りますよ〜」
「お前! 何言ってるんだ! すぐ準備しますよ、お待ち下さい」
「いや……すまない。よろしく頼む」
権力だ!
バタバタと職員たちが準備するのを見ながら困ったように笑う。
「迷惑をかけてしまったな」
「まあ、領主様が並ぶわけにもいかないし。フェナ様も無理やり横入りしましたからね!」
「フェナ様らしいね」
十枚ほど焼いて、ギルドの中から持ってきた陶器製の大きな皿に乗せる。
「ありがとう。皿はまた洗って返すよ。では、祝賀会で」
にこやかに去っていく背中を見ていると、ガングルムに小突かれた。
「領主様の要望断るな」
「べつにエドワール様怒らないと思いますけど」
「……お前なぁ。祝賀会は行くのか?」
「はい。今年もお呼ばれしました」
「壁際で大人しくしてろよ?」
それは無理かもしれない。
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お祭りとか学園祭とか楽しかったよね……で色々思い出しました。




