201.屋台の味
「さあ、場所代を払ってもらおうか」
九月も終わりが近くなってきた。もうすぐ祝賀会。つまり、狩猟祭が始まる。各ギルドや店舗が取れた肉料理や魚料理、とにかく美味しい露店が並ぶお祭りだ。
シーナは今年も孤児院の最年長の子どもと回ろうかなと思っている。
思っていたのだが……組み紐ギルド長のガングルムに呼び出されて何を言われるかと思ったらこれだ。
「ショバ代!?」
「おう、いつもギルドの一部を貸してやってるだろ? ちょっと相談に乗れや」
「タダより怖いものはないの典型だった!! 相談って何でしょう」
出されたお茶を一口飲む。
ソワーズのお茶だった。とっても美味しい。
「狩猟祭だ。毎年出店を出すだろ? だけどなぁ、代わり映えがしねぇんだよ。で、なんかいい案持ってないのか?」
「あー、でも基本とれたお肉を振る舞うってのがコンセプトですよね?」
「そうなんだけど、どこもかしこも塩味チカの実漬け味だらけだろ? それか普段の市場の売り物しかない」
まあ確かに。去年、二回目の出店を回ったが、肉は多少変われども、味付けは変わらない。
「領主様の披露宴で出た肉、アレのソースが美味かったんだよ」
「ああいうタイプのものは、砂糖使ってるし漬け込んだりしてるから原価上がりますよ?」
それは困るなぁと、ガングルム。基本的に鉄貨で食べられる範囲でないと狩猟祭、還元祭りにはならない。
「肉じゃないといけないんですか?」
「肉以外に何がある?」
「そうですねぇ」
ようはお祭りの屋台なのだ。屋台といえば、フランクフルト、クレープ、フライドポテト、焼きそば、たこ焼き……は、売れ残りそうだ。騙して食べさせるわけにもいかないし、名前を出せば売れない。だいたいたこ焼き機はまだできていない。
だが思いついた。
たこ焼きと同じ粉もののアレを!
「肉肉しいものじゃなくてもいいんですか?」
「お、なんかあるか?」
「うーん、食べてみていけるかとかがあるんですけど……作ってみるからいけるか検討してもらってもいいですか?」
「よし、何を準備すればいい? 試作の分の金も俺が持つぞ!」
「えと、ブタ系の肉……脂身が多いやつと、葉物……ファファマ、あとはシャムかな? 美味しさ追求するなら魚介からとった出汁で混ぜたいなぁ。煮干しみたいなものはないのかな……」
「煮干し? あるぞ。この時期は冬支度で魚はよく干したものが出回ってる」
「えー、煮干し屋さん見たことなかった! ちょっと市場行きましょうよ!」
「よし行こう!」
シシリアドの市場は店の数もかなり多い。まだまだ探検しきれていなかった。残念ながら削り節はなかったが、冬の間に栄養元としてそのまま食べる干した小魚がたくさんあったのでそれを買ってきた。フードプロセッサーで粉微塵にしてやろう。キャベツに似たファファマと、ネギというよりリーキなシャムも手に入れた。さらに細々と必要なものを揃える。
「あとは卵でオッケーです」
「肉はギルドの貯蔵庫だ」
「じゃあ、調理器具なんかも揃ってるしうちで作りましょう。お肉持ってきてください。そんなにいらないですよ?」
「え、お、おう」
先に買ったものを預かって持ち帰り、準備を始めていると玄関をノックする音がした。
「はーい」
パスを手に取り扉を開けるとガングルム、とよくお茶を準備してくれる女性が一緒だ。
「お、増えた? いらっしゃいませ」
「さすがに俺だけはまずいだろ?」
よくわからないが、もう一つパスをだして二人に渡す。
「シーナさん……一人暮らし独身の女性の自宅に男性が一人で入られるのはダメです」
「えっ! そうなの?」
「そうです。お付き合いしていると誤解されても仕方ありませんよ」
そこまでタブーなのか。
「なので私にも美味しいものを食べさせてください」
任された!
たこ焼きと双璧をなす粉ものと言えば、お好み焼きだ!
が、ソースは原価がものすごく高くなる。
ソニアがせっせと定期的に作っていて、さらに色々工夫もしているらしく、とろっとした中濃ソース? とんかつソース? のようなものまでできている。
そんなソースを使うわけにはいかない。となると、お好み焼きそのままは作れそうにない。
で、思いついたのがネギ焼きである。さらに言えばチヂミ!
ポン酢はないので酢醤油柑橘系のタレを作ればいいのではないか?
「原価も考えていろいろ試してみたほうがいいでしょうが、とりあえず基本の物を作りますね」
フライパンに薄切りにした肉を敷き、その上にファファマとシャム、小麦粉卵に水と煮干しの粉末を混ぜたものを薄く流し込む。
鉄板でやるなら本当はボウルのような金属の蓋がある方が蒸らしてしっかり焼けるのだが、狩猟祭は十日後だ。間に合うかわからない。
「フライ返しで返すんですが、本当はこのヘラ二本あった方が、鉄板でやるなら、きれいに返せると思いますよ」
軽く焦げ目がついたらまな板で食べやすい大きさに切って、タレをさらに入れて出す。
「さあどうぞ」
「なんか、ぐちゃぐちゃかき混ぜてたが……」
ぐちゃぐちゃに抵抗のある民たちだ。シーナだってご飯をぐちゃぐちゃかき混ぜるのは嫌だが、ぐちゃぐちゃして焼くのはほとんど美味しい。それがヤハトの教えである。
「美味しいですね!」
「薄いからか? 周りはパリパリしていてなかなかだ」
「問題は提供の仕方ですよね、手づかみ? お皿とかどうします?」
だいたいみんな串に刺さっているか、薄切りパンに乗っけて食べている。
「や、木皿とフォークで。返却したら鉄貨一枚返金すりゃいいからそこは気にしない。うまけりゃその手間くらいは問題ない」
洗浄の組み紐もあるし、カゴに入れたのを丸洗いしたらまたすぐ使える。
食洗機の組み紐便利すぎる。
「材料もそんなに高くないものばかりだし、祭り当日だって市場に山程売ってるものだ。ちょっと帰って原価計算するぞ! シーナその粉は何だ?」
「さっきの煮干しですよ。フードプロセッサーで粉々にしました。魔導具ですね」
「ま、魔導具……精霊石、どれくらい使うんだ?」
「えー……超省エネ構造だから別にいいですよ。なくなっても魔力込めるの美味しいものと引き換えにヤハトとか、ズシェがやってくれるんで」
「……今後も組み紐ギルド一角を使うことを許可する」
「ありがとうございま〜す」
わーい、助かる。あそこは人の目も多いので無理を言う人が少なくていい。
ブックマーク、評価、いいねをしていただけると嬉しいです。
いいね、ブックマーク、評価ありがとうございます。
実家の親は大阪の人なのですが、お好み焼きにマヨは邪道らしくつけないで食べてます。
子供の頃はテーブルの真ん中が開いて鉄板置いて、毎週お好み焼きでした。
私はお好み焼きにも冷やし中華にもマヨつけます。




