200.ホェイワーズ捕獲作戦【200話記念番外編】
予告を忘れてしまいましたが、
200回記念の番外編です。
すぐ解ると思いますがヤハト視点です。
ここまで続けることができました。
現在さらに先を書いていて、
たぶん300回はいかずに完結すると思います。
あと少しお付き合いください。
一応8月分は書けたので、9月中に終わるかな?
今回で四度目のホェイワーズ狩りだ。
最初の一回はほとんど見ているだけだった。事前に準備する氷の魔導具や風の魔導具、糸の罠。設置はほとんどフェナとバルが終わらせたし、ただ言われるがままに風の魔導具に魔力を送り続けるだけだった。得られたのは大物ではあったが、一体のみ。依頼主にそのまま渡す羽目になった。
二度目はフェナがシシリアドに屋敷を得たときだ。当然のようにベッドはホェイワーズじゃないとだめだと言い出した。
自分のために狩りに行くという。しかも、バルやヤハト、客室や使用人の部屋までホェイワーズでと言い出した時には、さすがに止めた。バルが、本気で止めに入った。
その頃からゴードとソニアも屋敷にいたのだが、彼らも体に合わないと辞退していた。ホェイワーズのような寝心地だと朝起きるのが嫌になってしまうと懇願していた。
そこで、ホェイワーズ二体得ることができたら、とりあえずヤハトとバルと客室のベッドもホェイワーズにするということになった。
これは、フェナからの試験だ。
フェナとバルで一匹はほぼ確実。二匹目を得るにはヤハトの働きが重要になる。
自由気ままでやりたいようにしかしないと言われているフェナは、実はとても良い師匠だった。
指導はまず一つ。それがクリアできれば次の指示。わかりやすい説明と一つの目標。魔力だけはあった、精霊を使うということにまったく慣れていないヤハトの失敗を根気よく解説してくれる。普段の生活の仕方、人との間のマナー。やっていいこと悪いこと、全てを教えてくれたのがフェナだ。バルが一緒に行動するようになってからは、常識というものはバルが担当するようになった。フェナのほうがわかりやすかったが、フェナからバルに従えと言われたのでそうした。
「お前は驚くほど素早く動くことができる。風の扱いが一番うまいし、双剣と精霊を合わせて使うことができればかなりの実力者としてやっていけるだろう」
フェナのようになりたかったし、フェナの期待に応えたかった。
だから、生活のすべてをフェナの指示に従った。精霊使いとして成功できるよう訓練した。
二度目のホェイワーズ狩りはフェナからの試験だ。
そして、ヤハトは無事試験に合格した。
一度に二体のホェイワーズ。それも三人のパーティーで。歴史にない快挙と言われた。
「ヤハトが頑張ったからだな」
フェナの褒め言葉は気分が良くなる。もっと褒めてもらえるように努力して訓練しなければと思わせる、不思議な魔法がかかっていた。
三度目は王都の定宿、自分が泊まる部屋にホェイワーズを入れると言い出したときだ。
まあ、傍からみたら無茶苦茶だ。
でもそれがフェナだった。
手分けをして魔導具を背負い、追い風を吹かせる。さらにフェナが地面を走らせ移動を加速する。これが、【消滅の銀】と言われるフェナたちパーティーの通常移動手段だ。ここへさらにフェナが追い風を吹かせるとほとんど地に足がつくことなく進む事となる。精霊使いでないバルがこれについて来られるのが、本当にすごい。フェナがバルを手放さないのはこれも一端だ。
ホェイワーズの狩り場はかなり深い亀裂の底だ。
シシリアドから少し北へ進み、さらに北東へ行ったところにある大亀裂、ギョウル亀裂の底に住んでいる。ワラサを食んで、十年ほどするとあれだけ立派な毛皮となるのだ。天敵がおらず、ワラサは少しの明かりだけを必要とする苔のような植物なので、そこから出ていくことはできないが、安全に暮らすことのできる場所だった。
「これはフェナ様! シシリアドの冒険ギルドから知らせは届いております。またホェイワーズを確保したら連絡くださればいつものところへ荷車を運びます」
「ああ、よろしく。最近捕った者はいないと聞いてるが?」
「ええ。あれを普通の冒険者が捕まえるとなると、最低限十名は必要ですからね。なかなか難しいようです。納入を期待しております」
亀裂から一番近い街の冒険ギルドはこれ一匹納入されればかなりの利益になるのでフェナが来るといつもこの調子だった。
街から亀裂はすぐだ。
「それじゃあ始めようか」
不敵な笑みを浮かべるフェナの言葉に、ヤハトとバルは頷いた。
ホェイワーズ狩りで重要なのは毛皮を傷つけないこと。
岩肌にこすりつけられた跡などは問題外だ。
普段外敵のないホェイワーズは、見慣れない姿の魔物や人が現れるとパニックになる。そして己の毛皮を傷つけてしまうのだ。
つまりいかに気付かれずに釣り上げるかということになった。
強引に風を使い一匹無理やり確保することは可能だが、そんなことをすれば他のホェイワーズが毛皮に傷をつけて、しばらくそのあたりで狩りができなくなる。一度傷ついた毛皮が内側から生えてきた毛皮にうまく埋もれるには何十年とかかるのだ。
ホェイワーズ狩りをする場合は必ず一番近い街に届けをしなければならない。密猟対策は魔導具でしっかりされていて、傷つけたものは自ずと露見する。そうなれば冒険者として汚名を背負いながら暮らさねばならない。
一般的なホェイワーズ狩りはホェイワーズたちを眠らせる。薬を使ってゆっくりと眠らせ、慎重に一匹釣り上げる。
しかしそれは薬のせいで毛艶が悪くなる。繊細で面倒だ。
フェナの狩り方は違う。自然と彼らが眠くなるように仕向ける。動きが鈍くなり、思考も濁らせる。
つまり、気温を下げる。
あれだけの毛皮を持つのだ。寒さに強いはずがない。亀裂の下は地熱で地上より暖かい。それでもあれだけの毛皮を蓄える魔物だった。
「フェナ様! 風の準備はできました!」
他の匂いにも敏感なのでまず、風上を作る。人為的に風の流れを作り、風下から氷の魔導具で亀裂の底を冷やしていく。寒さを嫌うホェイワーズは自然と風上に向かう。そうやって一方に動かしながら、一部暖かい場所を作る。すると一匹二匹と迷い込んでくる。さらにそこから冷気で追って、群れから獲物を分断していくのだ。この風上の風は魔導具を固定設置して、自動で吹かせるが、風下からの冷気はヤハトが風を使い運ばねばならない。
「分断ポイントは作ってきた。それじゃあ始めようか」
今まではフェナが魔導具に魔力を込めて冷気を出していたが今回はヤハトが冷気も風も作る。
「上手い上手い。任せられそうだな。バル、行くぞ」
「はっ」
フェナとバルは糸の罠を担ぐとそちらへ向かった。
風はあくまで微風。そして冷気も少しずつだ。やつらがその異常性に気づかないくらいが望ましい。
街の宿屋でしっかり眠ってきた。
アイスクリーム作りのおかげで絶妙な温度の調整が上達し、水を操る能力も上達した。
バルたちと別れてしばらくして、精霊の知らせが来る。第二地点まで移動するようにとのことだ。群れは第三地点まで移った。
これまた以前は氷の魔導具を持って前進しなければならなかったが、今回はその手間がない。
ホェイワーズ狩りは忍耐の狩りだ。これを何度も繰り返し、あくまで自然と誘い込んで分断しなければならない。
やがて朝早くから始め、日が暮れてきた頃に知らせが入る。
『三匹誘導できた。どうする?』
これは、試験の合図だ。
『手前の一匹は俺がやる』
即答する。
『ではその通りに』
群れはこちらの騒ぎに気づかれないようもう少し前進してもらう。分断ポイントからはまたホェイワーズ同士が傷つけ合わないようこの三匹を離さねばならない。
索敵の耳飾りで三匹の距離を把握する。
まだまだ近い。糸の罠を発動させることは出来ない。
今までは自分で精霊を操り索敵していたが、この耳飾りは消費魔力が極端に少なく、手首に巻く組み紐も邪魔しない。消費効率が良すぎて精霊使いもよく使っている。ヤハトもバルの使用感想を聞いて買ってもらった。街なかでかなりの数を見かけた。シーナはとんでもないものを生みだしたものだ。
自分より年下に見える少女が突然森の中で立ち尽くしているのを見つけた時は驚いた。直前まで索敵に引っかかっていなかった。これが落とし子の現れ方なのだと、初めての体験に興奮した。
シーナのご飯は美味しい。デザートも、アイスクリームは未知との出会いだった。いつもなにかにつけて、ほんの些細なことでもありがとうと言う彼女に、最高のホェイワーズを捕っていってやりたい。
ここからは、手前の獲物をその場に留め、先のホェイワーズをさらに奥へ誘い込む。一番手前のホェイワーズの足元を温める。冷気を、手前のものの前方に回して、歩みを止める。
一度目はこれらの作業を全部フェナ一人でやってのけていたのだ。本当に化け物級の魔力操作だった。
二度目は風は全部自分が請負い、二匹確保することができた。しかし、冷気はフェナがやるのでその連携に手こずった。分断してからあまり時間を掛けすぎるとさすがに異変に気づき、警戒音を鳴らされると毛皮が傷つく。
今回は冷気もヤハトが扱えるようになり、フェナは誘導に専念することができ三匹だ。
緊張と興奮に、心臓が早鐘を打ち鳴らす。
もう一度索敵をすると、前方二体も良い距離を保った。
『行くぞ』
フェナから合図が届く。
キンッと音が響く。
糸の罠が発動した。
ホエイワーズの周りを、捕縛用の糸が飛び交う。
ほんの一瞬だ。
冷気の剣を、ホェイワーズの、毛皮に囲まれチラリとしか見えない二つの瞳の中央に貫き通す。そして、拡大させた。
一瞬で体内から凍らせたホェイワーズは、警戒音を発することなく絶命する。
冷気に、糸の罠に氷の結晶が踊る。
先程まで動いていた魔物が氷つき絶命する中、氷の花が舞い散るのだ。
「きれいだ……」
『ぼさっとするな。群れに気づかれる前に上に引き上げるぞ』
フェナが作り上げるこの氷の花吹雪を、とうとう自分も作り上げることができた。
確実に強くなっている自分に、嬉しくなった。
糸を束にし、持つと、ホェイワーズを浮かせる。
群れから引き離すために風下へ移動するのだ。そこからはまた慎重に浮かせて亀裂から引っ張り上げる。風上の魔導具を回収したらあとは運ぶだけだ。
「うん、きれいに凍らせてるな。よくやった」
フェナがヤハトの頭をポンと押さえる。
「先に上がる」
フェナがホェイワーズ一体とともに宙へ浮く。
「やったな」
フェナの姿が小さくなった頃にバルが笑う。
「へへへ」
仲間からの称賛は素直に嬉しかった。
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