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【書籍化】精霊樹の落とし子と飾り紐  作者: 鈴埜


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198/280

198.フードプロセッサーと生魚

 今日は先日いただいたみじん切り機、もとい、フードプロセッサーの機能検討会である。自宅でやろうとしたら、フェナの屋敷でやれと命じられた。

 手っ取り早く肉の塊が欲しかったので、狩りをして牛系――これがなにやらいい感じに翻訳されて伝わっている――の肉が捕れたら買い取りたいと言っていたらピンときたらしい。

 恐るべき察知能力。

 というわけで、ズシェも誘ってフェナの屋敷でお料理だ。

「ハンバーグのことを話していいか判別付かなかったので、キリツアみじん切りと言ったんですが、ミンチを作るのにも一応使えるんですよ」

 ひき肉と言えばミートミンサーだが、フードプロセッサーならひき肉以外にも色々用途がある。

「とにかくやってみましょうか」

 まずはキリツアのみじん切りだ。

 皮を剥いて芯を取って、軽く切り分けて蓋をする。

 ボタンを押してる間風の刃が飛び交うらしい。

 ブンッと音がするので一秒ほど押したくらいで蓋をあけると、かなり細かく切れていた。

「すごい。キリツアはいい感じですね」

 器は普通に洗って良いらしく、フードプロセッサーのように歯の部分を細く洗う必要がないのが画期的だ。

「それでは肉を」

 器に入るくらいブロック状に切り分けてまた一秒押す。だが、肉はさすがにそこまで細かくなっていなかった。もう一度蓋をしてボタンを今度は二秒ほど押すと、ミンチが出来上がっている。

「わーい、これで家でもひき肉料理が試せる!!」

「えー、なんか新しいものはここで作ってよ」

 ヤハトが口を尖らせているが、たまには自宅でもミンチ料理をしたいのだ。

「だってヤハトたち狩りとか仕事に出たらしばらく帰ってこないんだもん!」

 鶏そぼろと、卵そぼろと、緑色のお野菜で三色丼とかしたいのだ。以前はいんげんとか、ピーマンでやっていた。

 似たようなものがあるので試す予定だ。

「フープロはバッチリです。今のところ満足です」

 キリツアとひき肉は夜にでも使ってもらおう。

「ドライヤーは試してもらうのが一番なので、ズシェさん、お泊りに来てください」

 悪夢はもうほとんど見なくなっていて、フェナは8月末でお引き取り願った。だいぶごねていたが、肉を狩ってきてくれと言って追い出したのだ。

「検証会はこれで終わりです! 解散しましょう。私、市場に行きたいし」

「市場に行くならついてく!」

 暇なヤハトが立候補してくる。

 日頃からお世話になってる魚屋さんが、シーナの望みのものを手に入れたと連絡をくれたのだ。

「つまらない」

「検証するだけって言ったじゃないですか〜」

「つまらない……そのドライヤー私も使うから今日は二人ともうちに泊まりで。その魔導具置いてけばソニアもハンバーグ作れるんだろ? 今夜はそれで」 

 つまらなかったフェナからの命令であった。


 ズシェは魔導具を使うところをもう少し見ていたいと言うので、屋敷に置いてきた。バルとヤハトがついてきている。

「シーナちゃん、こっちこっち!」

「おお、魚屋連合の皆さん」

 シシリアドでは魚より肉がどうしても消費量が高く、せっかくの港町なのに味付けが塩またはチカの実漬けというシンプル料理。そして焼き魚メインなので魚屋自体が肉屋に圧されている。

 そんな中、シーナは新しい魚との出会いを日々模索しているのである。

「連絡ありがとうございます」

「鮮度が良くないと流石に勧められないしな」

 そう言って出された木箱には魚が数種類、それと、タコ!?

「え、タコだ! ん? いや、イカか??」

「あ、混ざってたな。これは生はダメだよ。火を通したら噛み応えがある味自体はそんなにしないやつだな」

 うねうねとして足が十二本もある軟体生物がいた。

「よく魚にくっついて揚がってくる。いるならただでいいよ。ここいらの奴らは食わないから」

「下処理とか教えてください」

「大量の塩で揉んで、丸ごと茹でたらいいよ」

 まんまタコだ。

「足の部分しか食えないけどな」

「了解です」

 わーいと喜んでいると、ヤハトが恐る恐る聞いてきた。

「え、シーナそのグネグネした気持ち悪いの食べるの?」

「何でも食べてみないと美味しいかなんてわからないよ!」

「それよりも、シーナ、生と言うのは……」

 バルが口元を押さえて眉を寄せている。

「まあ、ここいらでも漁師しか生で魚は食べねぇからなぁ」

「チカの実漬けを少したらして食べると美味いんだがなぁ〜」

「コリコリしてたりねっとりしてたり美味いんだがなぁ」

「生食してる人見なかったから、すっかり生食はしないものだと思ってたから嬉しいです! あ、皮引いて、三枚おろしにしてもらえますか?」

「あいよ! 俺等のおすすめ一尾ずつでいいか?」

「お願いしまーす」

 バルとヤハトにドン引きされたまま、紫蘇によく似た野菜や、ネギ、ゴマのような薬味を買って、フェナの屋敷に帰還する。

「おかえり。どうしたの??」

 厨房でキリツアのみじん切りを試していたズシェが、バルとヤハトの微妙な表情に首を傾げている。

「食文化の問題に直面しているの……お台所借りま〜す! ヤハト、精米して〜!」

 まずはお米だ。海鮮丼するド〜ン!

 ただまあ、せっかくだからトライしてもらうなら、いきなり刺し身よりはとカルパッチョを作ることにした。

 キリツアのスライスをして、ケッパーのような香辛料と、黒胡椒を準備。

 オリーブオイルたっぷりめで、柑橘系の香りのする塩とお酢、下ろしニンニクとチカの実漬けを準備だ。

 硝子のきれいな皿を借りて、我ながら上手に皿に盛り付けた。さらに、そこへテルタという名のタコイカもどきの足を茹でたものを、薄くそぎぎりにして散らす。最後に合わせた調味料をかけ、冷暗所に置いてもらった。

「残りのゲソはバター醤油炒めにしよう」

「生はみんな食べないんだよね?」

「う……シーナのご飯は美味しいけど……ぐぅ……」

 葛藤がすごいようなので控えめな量を作る。残りは全部ぶっこみアクアパッツァにした。食べきれなかったお刺身は焼いて明日の朝ご飯のときに食べようと思う。

 残りはソニアたちに任せよう。


「いただきまーす」

 刺し身だけでも食べたいし、海鮮丼にもしたいと、シーナは皿に少しだけご飯を盛ってその上に刺し身を乗せていく。丼ぶりなかった。

「なま、か?」

「生魚でーす! とれたて新鮮漁師たちのお墨付き」

「これは……?」

「フェナ様! それは生です! 火の通ってる白いものは、あの、テルタです!」

「はぁ!? あれは人の食べ物では……」

「私の故郷でも、タコは海の悪魔と言われていたことを思い出しましたよ。でも特に味はないというか、あるけど、どちらかと言うと食感かな? 魚もオリーブオイルと酢でしまってるから完全な生ではないはず! 生だけど」

「俺はご飯とハンバーグで!」

「海鮮丼ウマー!」

 あー幸せ。やはり魚屋にはあしげく通うことにする。

 カルパッチョもなかなかいい感じ。

「シーナの作るご飯は美味しかったから」

 ズシェがカルパッチョに手を出した。確かにそちらは生感はそこまでない。

 フェナたち三人の目がズシェに集まる。

「……不思議な食感ですけど、これはこれで」

「フェナ様! お酒欲しいです! 生魚には酒がないと!」

 バルが準備をしてくれる。

「わー、お刺身とお酒美味しー!」

 果実酒だがかなり度数が高いやつだ。氷はカルパッチョから目を離せないフェナが手だけかざして作ってくれた。

「ズシェちゃん、あーん」

 チカの実を少しだけつけたお刺身をズシェの口元へ。かなり葛藤して揺らいでいたので一押する。

「……さっきのほうが食べやすいけど、これはこれで今までにない味」

「わ、私も食べるぞ!」

 宣言したフェナがカルパッチョに挑戦した。そして、落ちた!!

 生魚オッケー陣営が三人になった!

 しかし結局バルとヤハトは手を出せず、ハンバーグとアクアパッツァだけ食べていた。

 わさびを探さねばならない。

ブックマーク、評価、いいねをしていただけると嬉しいです。


生物に抵抗のある人々の話でした。

フープロは便利! フープロ最高!!

刃の部分をきれいに洗うのが大変なので、魔導具羨ましい……

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― 新着の感想 ―
生魚の味を覚えさせることこそが最高の悪魔の囁きですよな…!!!でもまぁ海鮮丼を堪能したい気持ちは痛いほどわかります。お米があって港があるならやるしかない。
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