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196.王都からのお届け物

 八月の終わりに、商業ギルド長のイェルムから時間が欲しいと連絡があった。

 九月に入ればまた狩りが活発化する。新規顧客の開拓は冬までおあずけのつもりだったので会いに行くことにした。

 注文したいものがある。

「おはようございまーす」

 なぜか待ち合わせをフェナの屋敷に指定された。さらにズシェまでいる。

 フェナの屋敷の応接間だ。

 何やら荷物がたくさんある。木箱が床に並べられていた。

「お久しぶりですシーナさん。巡礼お疲れ様でした」

「お久しぶりです。ズシェも、久しぶり」

「久しぶりね、シーナ。色々大変だったようね」

 相変わらず儚げ美人のズシェだ。頬に少し赤みがさしているのはバルがいるから。

「さあ、お忙しい皆様ですから、どんどん用事を片付けていきましょう。ついこの間まで王都に行っておりまして、色々と頼まれております」

 まずはこちらと、小さめの木箱がいくつも並んだ。

「タカマさんとバーバラさんから聞いておりますよ! 簪複数挿し!! 今じゃ王都で流行りに流行っております。帰りに寄っていただけると言う話でしたが、ハプニングでまっすぐシシリアドに帰ってしまわれたと、預かってきております」

 木箱の蓋を一つずつ開けていく。中にはどれも見事な色とりどりの簪が入っていた。

「フェナ様の御髪に似合うものと、彼らが選んだものです。お納めください。こちらはシーナさんにですね。流石に三本は挿すことはないだろうと、一つ一つが華やかなものを用意してくれていますよ」

「ええー、これは私が持ってても使う機会が……」

「狩猟祭の祝賀会にまた出席なされるでしょう? そのときにどうぞとのことでしたよ。こちらのドレスも一緒に」

「ええええ」

 後ろの木箱からドレスが現れる。王女に会った時よりもさらにシンプルなものだった。冒険者や平民の多い祝賀会で浮かないようにとの気遣いだそうだが、こんなに正直申し訳ない。

「先日のドレスの緑もお似合いだと思いましたが、こちらの緑もなかなかいい色でしょう? 簪はこれに合わせた緑と金ですね。こちらはこのドレスに合わせたものとなっています。もう一本。こちらは普段遣いもできる、さらにシンプルですが可愛らしい小花とそこまで大きくない石をつけております」

 イェルムの口が止まらない。

 フェナへの簪はどれも豪華でキラキラしていた。フェナなら普段からつけて街を歩けそうだ。

「髪飾りに合わせたドレスの提供で、かなり儲けさせてもらってますからね。遠慮なくいただいて下さい」

 話は終わりだと、次の木箱を机に乗せる。

「こちら、王都の魔導具研究開発部門の方々からです。使い勝手のレポートをお願いしたいとのことです」

 中から出てきたのは金属でできた真ん中がくり抜かれた四角い箱だった。

「なんです?」

「横にボタンがあるのでそこを押すと……」

 少し暖かい風が吹く。

「ドライヤーか!」

 あの時思いつきで言ってた物を作ってくれたようだ。

「わー! ドライヤー嬉しい!」

「何に使うの?」

 ズシェが興味津々で覗き込んでいる。

「髪の毛洗ったあと、濡れたままだと冬は風邪引いちゃうし、乾かしてから寝たほうが翌日の髪が落ち着くんですよ」

「へぇ〜面白いわね」

「ただ、これじゃあ使いにくいですね〜机において向きを変えられないと髪に当てるのが難しいです。故郷では持って使ってもいましたね」

「ズシェさんに設計図をお渡しするので、要望を聞いて改良してもらってもいいとのことでした」

「せっかくだからやるわ。そろそろ呼ばれる頃かと思ったけど、まだ忙しいみたい。今年の冬もシシリアドで過ごすことになりそうだし。良い暇つぶしになるわ」

 言いながらも設計図から目を離さないのは、たぶんズシェもあのメンツと同じタイプだ。

「さらにもう一つ。なにやらみじん切りにする魔導具だそうですけど……」

「フープロも作ってくれたの!?」

「用途がキリツアを細かくするための物とかで、作りながらもあまり意義を見いだせず迷走したそうです」

 現れたのは蓋付きの鍋だ。そしてボタンを押すと、風の刃が鍋の中を縦横無尽に駆け巡る。見えはしないけどシュンシュン言ってる。

「殺傷能力の強そうな魔導具ですね……」

 激しそうだ。とりあえずこれも使ってみないとわからない。

「使い勝手を試してみて、ズシェさんに相談するで良いですか?」

「はい、それで。ズシェさんは一度経過報告を冬が明けたあたりでいただけますか? わたくし、また王都に向かいますので」

「わかりました」

 重なっていた木箱は大半がフェナの髪飾りだった。全部で八個もある。帰りに寄ると宣言していたから、事前にピックアップして待っていたんだろうなぁと心中お察しする。もしかしたら、新作かもしれない。さぞかし残念だったろう。

「さて、これで私の用事は終わりました。お付き合い頂きありがとうございます。人を呼んで、シーナさんのお家にこちらを届けさせますね」

「いいよ、俺持ってく」

 風で浮かせて運ぶという。

「そうですか? ありがとうございます」

 ではこれでと仕舞いにしようとするイェルムを止める。シーナの本題はここからである。

「イェルムさん! こたつ、発注したいです!」

「おお! こたつですか。冬はあると重宝しますね。キッチンに入れますか?」

「えっ……キッチン?」

 そこではたと気付いた。ここ、靴はいたまま過ごす文化なのだ。

 これは自動翻訳が何かやらかしている!

「お貴族様は自室の実務机に合わせて作ったりしますが、シーナさんの家でシーナさんが一番使いやすいところはキッチンかなと」

「イェルムさん、こたつどんなものか一度見せてもらっていいですか? 私の考えているものと違う気がします」

「ふむふむ。どんなものなのか一度書いてもらっていいですか?」

 ささっと紙を取り出しインクを準備する。ほんと、ボールペンやシャープペンが便利だ。鉛筆すらまだないのだ。産業の発展の仕方が違うから、まああの技術を求めるのは酷なのはわかるが、携帯用のインク壺とか、失敗して鞄の中を汚しそうだ。

「置くのは二階の土足禁止の部屋で……」

 図に描いて説明すると、ズシェが食いつく。

「布団で覆うっていうのが面白いし、確かに暖かそうね」

「こたつで寝落ちは冬の風物詩ですね」

 あとはみかんを乗せればオッケーだ。

「故郷には精霊石がありませんけど、電気という熱源になったり灯りへのエネルギーになったりするものがあって、それでここの部分に熱を持たせていました。このままでもいいし、背もたれ付きの椅子を置いてもいいし〜」

 ドリームを口から垂れ流すと、それをズシェとイェルムが拾っていく。

 ちなみに貴族は、机の下に魔導具を設置して、暖を取るという。

「昔は火鉢をこのテーブルと布団の中に入れたりもしていたそうですが、私はさすがにその時代の人間じゃないのでわからないです」

 できればこの冬から使いたいとお願いして、最優先でズシェが取り組んでくれることになった。

 冬はこたつでぬくぬく計画始動しました。


 




ブックマーク、評価、いいねをしていただけると嬉しいです。


冬のこたつ、もう何年も使ってない……


昨日は予約設定ミスってすみませんでした。

18時だドン! で見に来てくれてた方々、申し訳ない。

ブックマークもありがとうございます。

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