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186.最奥の魔物

 ソレは、今までの階層三つ分くらいの空間の中に、丸まっていた。

 肌は赤黒いうろこ状の、ワニのような質感で、見るからに硬そうだった。生半可な剣ではその表皮に傷をつけることもできないだろう。

 長い長い胴体をとぐろのように巻いているさまはヘビのそれだ。胴体の途中から生えている鳥の足のような手には、鋭い爪が見えた。

 そして、一番上に頭を乗せている。

 見たことがあった。

 ライオンのたてがみのようなものが、闇の精霊をまとわせ、顔の周りに仄暗い光をもたらしている。その茂みから真っすぐ伸びた二本の角。バチバチと火花なのか、精霊なのか、シーナにはわからないが、角と角の間を行き来している。

 誰もが言葉を失った。

 絶句とは、こういったことかと、頭の中で諦めにも似た思いが押し寄せていた。

 これには勝てない。

 なぜならソレは、つい先日見たことのあるものだったからだ。

 根の儀式に現れた、精霊使いが魅せる最大の寿ぎ。

 リュウ。

 伝説の、世界樹が手ずから作ったと言われている魔物。

 大きさも、魔力量も、想像以上で圧倒される。

 リュウの目は閉じていた。

 そして、リュウがとぐろを巻いている地面に、青白く光る丸い陣がある。

「見えるな?」

 フェナの言葉に、皆が頷く。

 ただ、リュウがその上に乗っているので起動はできないという。

「私がやつを動かす。こちらが準備を始めれば動き出すだろう。少し離れて、次に備えろ」

 アルバートに腕を引かれ、フェナとリュウ、両方から距離を取って待機する。

 フェナの組み紐(トゥトゥガ)がキラキラと輝き出し、魔力の歪みが見える。空気が揺らぐのだ。

 すると、それがリュウにも伝わったのだろう。微動だにしていなかった体がズルズルと動き出す。

 薄っすらと開いた目は蛇のソレだった。琥珀色の眼球の中央に、黒い縦の瞳孔。

 睨まれたカエルではないが、眼光に息がつまり足が固まる。

「シーナ」

 腕をぐっと掴まれて、ハァと呼吸を思い出した。

「もう少し距離を取ろう」

 ヤハトを担いだバルがジリジリと後ずさる。

『人の子か』

 地を這うような声に、ビクリと動きを止める。

「伝説の魔物、リュウよ! そなたに恨みはないが、始末させていただく!」

 あのよく通る声で、空間いっぱいに響くように、フェナが宣言する。わざと気を引くためだ。

 対してリュウの方は、精霊を纏い震えるたてがみを揺らしながら頭を傾げる。

『小さき物がこのように奥深くまで……ああ、そうか。我の魔力に影響され迷宮化したか』

 フェナの周りの精霊と魔力が一気に濃度を増す。

『寝起きでやり合う気はない。そなたらに必要なのはこの転移陣だろう。好きに使うがよい』

 そう言って、リュウはとぐろを巻いていた体をズルズルと動かして半分重なっていた転移陣が地面に現れる。

「バル、転移陣が」

「フェナ様が引き付けてくださったら一気に詰める。準備しろ、アル」

「シーナもいいね?」

「えっ? えっちょっと……」

『そなたらはもう主の魔物を倒したのだろう? 乗るがいい。そなた等の権利だ』

 リュウの尻尾がペチペチと転移陣を叩いた。

「くっ……あの尻尾は邪魔だな」

「だが、縁を叩いているだけだ。起動させてしまえば……」

 フェナは宙に浮き、その周りを精霊たちが渦巻いている。

『ああ、我の意図が伝わらぬか……さて』

「ねえ、アル待って」

 フェナの周りの空気が一気に燃え盛る。輝きを増した。腕を天へ向け、今にも振り下ろそうとしている。


「待って待って、フェナ様!! 待って! ストップ!!!」


「シーナ!」

「何を!!」

 フェナとリュウの間に駆け出したシーナを、アルバートが慌てて止める。

「ちょっと待ってフェナ様!」

 もう一度叫んでから、リュウに向き直る。

『私達、転移陣を使っていいですか?』

『好きにしたらよい。主の魔物を倒したのだろう? 我は本来この迷宮に関わりない』

『ありがとうございます。助かります』

 宙に浮いていたフェナは、今までに見たことのないような表情で地面へ降り立っていた。

「フェナ様、なんか、主の魔物とやらはもう倒してるらしく、転移陣使って良いそうですよ」

「シーナ……お前は……」

「たぶん、落とし子(ドゥーモ)の特性ですよ。言葉が通じるってやつ」

「はっ」

 そう言ったきり黙り込む。

『そうか、そなたは精霊樹の飛び枝(とびえ)の子か』

「……もしかして、こちらの言葉はわかってらっしゃいます?」

『もちろん』

「精霊樹って、世界樹のことですか?」

『人の子はそう呼んでいるのを聞いたことがあるな』

落とし子(ドゥーモ)は飛び枝の子?」

『はるか昔はそう呼んでいた』

「物知り!! 何か聞きたいことありますか? 通訳しますよ!!」

「シーナ……お前は」

 フェナが膝から崩れ落ちた。

 

 他の魔物と話せないのは、知性が足りないのと、魔物がシーナたちの言語を理解していないからだそうだ。

「つまり、ヤハトが倒したやつが、主の魔物、最下層のボスだったってやつですね。本来この部屋にいるはずが、トンデモナイモノがいて、ボスもこの部屋から逃げてでてたところを、ヤハトたちに会ったと」

『転移陣は主の魔物の死に際に生み出される。そなたらがスタンピードと呼ぶものも、ダンジョン内の魔物が多くなりすぎて、入口から溢れるというのもあるが、他の魔物により主の魔物が倒され、この転移陣から外に魔物が溢れ出すのも原因だ』

「ええ、そうだったんですね。死に際のダンジョンの主の救済策が自分の最後の力を振り絞っての転移陣かぁ。長年の謎が解けましたね!」

 そう言って、鞄に入っていたクッキーをポイと投げる。

 流石に口の中に手をいれるのは御免被ると言ったら、投げたら風で口へ誘導するようになった。

『先ほどの違う味がする』

「ジャム乗っけたやつですね、これは」

 フェナたち四人は、かなり衝撃的だったようでへたり込んだまましばらく動かなかった。

「シーナが、『シャーシャー』言ってた……」

 極限を乗り越えたヤハトが、地面に横になりながら言う。

「えっやだ、なんか恥ずかしい」

 某魔法少年が蛇語喋ったときのようなものだろうか。

「とにかく、このあとのために認識のすり合わせをしましょう」

 立ち直ったのか直ってないのかわからないが、アルバートの提案に、皆が同意する。

「リュウに関しては全面的に伏せる」

 バルが宣言した。まあ当然だろう。

「転移陣の生まれ方も説明できん。伏せておけ」

 とはフェナ。

「ダンジョンの生成が終わり、無事フェナ様たちと合流できて、シーナが組み紐(トゥトゥガ)を編めたので、ヤハトには悪いが、ボスはフェナ様が倒して無事地上へ出られた。ここは百階層以上のダンジョンだから、攻略はおすすめしない。上層階で、魔物を減らすのが一番だろう、くらいですかね」

 アルバートのまとめたものでいくことになった。


ブックマーク、評価、いいねをしていただけると嬉しいです。

ブックマークありがとうございます。


やっと出せたラスボス様!

シャーシャー喋ってるの想像すると笑えるw

フェナ様を膝からぐずれ落ちさせる人はこの世でシーナだけです。


とっととシシリアドに帰ります。しばらく平和だよ!


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