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181.暗転

 ソワーズの次はスタンピードの予兆かあったハハナラヤの街だ。しかし、今度訪れれば領主の館へと言われることは確実で、正直面倒だというフェナ。その気持はわからなくはない。

 ソワーズで野菜などもたくさん積んだしこのまま少し迂回して、次の貴族のいる街ではなく、もう少し小規模の町へ寄るでもいいという話になった。

 そうなると、ソワーズからの街道も方向が変わる。王都へ行くのは変わりないが、少しだけ大回りをするルートを取ることにした。

 シーナは早く帰りたくはあるが、貴族の屋敷に呼ばれて晩餐となるのは気を使うので面倒くさい。これより先しばらくはシシリアドから出ることのない生活となるので、知らない土地に寄るのは楽しみだ。

 一番迷惑を被るのは神官たちかと思いきや、彼らもまた五年後に来るとは限らないので、せっかくならいろいろな場所を知って帰りたいという希望はあるらしい。

 ということで誰もが納得して進路変更だった。

「この間はスタンピードの兆しが晴れたってところで色々と忙しかったでしょうが、あれから三週間以上ですから、ハハナラヤの子爵様も手ぐすね引いて待ってますよね、絶対」

「そうだろうね。フェナ様が少し物申したようだし、弁解などの何らかのアクションを取りたいだろうね」

 昼食はソワーズで厨房を借りて作ってきたサンドウィッチ。神官たちもすっかりマヨネーズに魅了されていた。

 天気はしばらく崩れることはなさそうだとか、ソワーズあたりでよく収穫できるフルーツの話など、他愛ない、旅の途中のおしゃべりを楽しんでいた。交代で荷馬車に乗るようにしていたので、今は神官が二人ずつ、二つの荷馬車に乗っている。索敵の耳飾りで定期的に周囲を探っているが、特に問題なく進んでいた。

 シーナは二台目の馬車のすぐ後ろをアルバートと並んで、フェナやバル、ヤハトは一定の距離を取ってさらに後ろにいた。


 その時まで、なんの問題もなかった。


「ひゃっ?」

 突然の悪寒に体を抱きしめる。腕に鳥肌がぶわっとわきたち、その場に座り込みたくなるような不安が胸に押し寄せる。

 すぐ隣のアルバートの腕を思わず掴む。

「シーナ?」

 足下が崩れ落ちるような感覚に膝から力が抜ける。悪寒が背中を駆け上ってくる。

「フェナ様!」

 後ろを振り返る。


 落とし子(ドゥーモ)は、風邪を引かない。


 本来、フェナやバル、ヤハトがいる場所には、なにもなかった。

 地面に暗い大きな穴が空いていた。

 地面に大きな、シーナの家が丸ごとすっぽり入ってしまいそうなくらい大きな穴が広がっていて、それは、シーナの立っている場所まで迫っていた。

「シーナ!」

 ぐっと抱き寄せられる。

「アル――」

 襲いかかる浮遊感。

 穴の空き方がおかしい。

 フェナならば咄嗟に対応できそうなものなのに、振り返ったときにはもうその姿はなかった。陥没して落ちるにしても、上には太陽の光が燦々と降り注いでいるはずなのに、シーナに残っている感覚は、自分の体にまわされたアルバートの腕だけだ。

 そして頭を乱暴に揺さぶられるようなめまい。

 上も下もわからない暗転。


 何が起きたかわからなかった。




 冷え切った右頬と、背中の温かさの対比に、体が震える。

 手足の感覚が戻ってくるとともに、視界が少しずつ開けてくる。重いまぶたが上がった。

 薄暗く、光源はところどころ光っている壁の小さな明かりだ。

 現状を把握できないまま、起き上がろうとして自分の体に回された腕を認識する。

「アル?」

 腕を押しやり重い体を無理やり起こす。ところどころ痛むものの、アルバートに庇われたのだろう。目立った外傷はない。

 埃っぽく、湿った空気に寒さを覚える。

「アル、アルバートさん?」

 なるべく声を抑えながらも、腕や肩を軽く揺する。

 すると、長い金色の睫毛が揺れて、青緑の瞳の焦点が合う。

「っシーナ!」

「大丈夫だから、ゆっくり起きて。頭とか痛くない? 気持ち悪くない? 多分私を庇ってくれたから、アルの方が怪我をしていそう」

 シーナの言葉に頷いて、まず上半身を起こす。少し顔をしかめていたから痛いところがあるのだろう。だが、骨折などはなさそうだ。さすがにそれならもっと痛くて声を上げるだろうし、動けない。

「シーナ、怪我は?」

「多少ぶつけてはいるけど、折れたり切れたりはしてない。アルのおかげ」

「そうか。私も、動くことは問題なさそうだ。お互い大きな怪我がなくてよかった」

 腰にぶら下げている守り袋を触ると、中の石は粉々に砕けていた。鞄の中の予備の石もたぶん全部使命を果たして散っていそうだ。

「鞄!」

 背負っていたはずの、シーナの鞄がない。

「そこにある」

 アルバートが指差す方に、確かに転がっている。起き上がって拾い上げると、どうやら中身は無事のようだ。

「アル、これは何?」

 あらためて周りを見渡す。天井はシーナの背の二倍ほど。つまり三メートルほどだ。ふたりが倒れていた場所は、行き止まりの広場のようになっていた。それでもそこまで広くない。道幅も三メートルほど。シーナたちのいる広場からは二方向に道が伸びている。

「ここは、ダンジョンだ」

「ダンジョンって……」

 ダーバルクたちにたくさん聞いたダンジョン攻略の話を思い出す。

「魔物がたくさんいるっていう……あの、ダンジョン?」

 あんな、怖いものがたくさんいる場所。

「たぶんだが、ダンジョンの発生に巻き込まれたと思う」

 ダンジョンが発生する時の話も、酒の席で聞いた。ある日突然地下への道が現れるという。ダンジョンは総じて地下にできる。暗い、陽の光の届かない場所で増えていくという。

 ダンジョンの出来上がる仕組みはわかっておらず、過去、町を一つ飲み込んだという話を聞いた。

「ダンジョンのできる場所には一貫性はないと言われている」

「運が悪かったと?」

 足の力が抜けて、ふらついてしまう。アルバートが駆け寄り、支えてくれた。

 時折、地鳴りが聞こえる。

「まだ、作られている途中なんだと思う。これが止まると、魔物が本格的に生まれだす。索敵で様子を探っているが、まだチラホラ見つかるくらいだ」

 強い精霊使いであるダーバルクたち【暴君】の、ダンジョン攻略は聞いていて楽しかった。

 しかしそれはあくまで、聞く側だった場合の話だ。

「シーナ、シーナ……、私の力の限り君を守るから」

 アルバートの言葉が何処か遠くに思える。

「シーナ……」

 ぐっと抱き締められるが、返す己の腕に力を込めることができない。

 ずっと止まらない悪寒に体を震わせることしかできなかった。

ブックマーク、評価、いいねをしていただけると嬉しいです。


ブックマークいいねありがとうございます。

というわけでダンジョン編始まります〜

そんな長くないけど、お家に帰るまでが遠足だよ!!

果たして何が起こるのか!!

乞うご期待!!

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― 新着の感想 ―
「シーナ、シーナ……、私の力の限り君を守るから」 このセリフ大好きですー(//∇//) ありがとうございます
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