180.アルバートの生家再び
ディーラベル領も無事に越え、再びソワーズ領のアルバートの生家である。
「シーナー!!」
「デジャヴ!」
おこちゃま爆弾! 受け止めきれずにシーナは双子とシャーロットに潰された。アルバートほど耐えきれず、わりと大惨事である。
「こら! 離れなさい。シーナ、大丈夫か?」
「大丈夫……かな」
「シーナおいしいのつくって!」
「シーナかえってくるのずっとまってた!」
「おにく! おにく!!」
「こら! いい加減になさい。もう夕食の時間よ。今夜は家の料理人がもう作っているからダメよ」
双子は半泣き、シャーロットは涙がすでにこぼれている。
アルバートがため息を付いて、事前に相談していたことを告げる。
「明日の夜も泊まるから、明日の夕飯はシーナに作ってもらおう」
こぼれていた涙はすぐ乾いた。
子どもたちが部屋に案内してくれる。前回と同じ部屋だ。ベッドサイドのテーブルに、華が飾ってあった。小さな瓶に入った、黄色の可愛い花だ。
「シャロがみつけたおはななの」
「可愛い。ありがとう」
「ボクたちがおそうじしたんだよ!」
「ピッカピカだね、ありがとう」
それぞれがおもてなしアピールをして、最後は予想通りの今夜は寝かさないぜ宣言をされた。
ソファ就寝決定だ。
翌朝、朝早くからお子様爆弾に起こされて、朝食へ。
「おはようございます」
「おはよう。眠れた?」
アルバートは早起きだ。
「シーナいつのまにかソファでねてるの!」
「……ライオネル、マーヴィン。今夜は私と寝ようね」
子ども三人とベッドは夢見が悪そうで。ソファでも十分眠れたのだが、二人引き取ってもらうのは正直嬉しい。アルバートが、大丈夫かはわからないが。
「きょうはね、シャロとシーナはピクニックにいくのよ」
初耳である。
「……どこに行くのかな?」
「しろのみずうみまで!」
アルバートへ視線を送ると、説明してくれた。
「屋敷から少し行ったところに、白い、セティアという花が群生している湖があるんだ。そんなに距離はない。シャーロットでも歩いていける場所だね」
「じゃあ、朝食の後おやつを持って行きましょうか」
聖地で作ったクッキーがある。双子たちはアルバートと剣の稽古をしたいが、おやつも気になるので湖にも行きたいという。
結局皆で行くことにした。あちらで剣の稽古をつけてもらえばいいのだ。
朝食の終わりかけに来たバルとヤハトに一緒に行くか聞いたところ、バルは屋敷でのんびりするといい、ヤハトは護衛代わりについてきてくれるそうだ。
六人ならばと、厨房を借りて残っていたパンとハムとチーズ、葉物野菜とピーネをマヨネーズでサンドする。玉子サンドも作った。
お茶は金属のポットに入れて、五人で仲良く手を繋いで出発だ。ヤハトは少し後ろからついてきている。
白の湖は、本当にすぐ近くだった。屋敷の裏手から歌を二曲歌ったくらいでついた。歌は、朝の子供番組で流れているようなものを歌ったら、えらく気に入られた。さすが、全国何万ものおこちゃまたちのハートを掴む歌だ。
ただ、ヤハトには歌詞が単純過ぎると笑われ、アルバートもニコニコ顔でノーコメントだった。そう言えばこの世界で歌をあまり聞いたことがない。
酒場でもピアノ演奏などあるわけがなく。今度聞いてみようと思った。もしかしたら会っていないだけで、ファンタジーのお約束、吟遊詩人なんて人がいるかもしれない。
湖のほとりに敷物を広げて、荷物を置くと、皆が思い思いにやりたいことを始める。
アルバートと双子は少し離れた場所で剣の稽古。ヤハトは敷物の上でごろりと寝転がり、シーナとシャーロットは花冠を作って遊んだ。
と、急にヤハトが起き出して、湖を覗き込む。
「アル! ここ、ハネーいる?」
「ああ。釣りをするとたまに取れるね」
双子の剣をいなして答えるとヤハトのそばに寄ってくる。
「シーナ、夕飯魚がいい。アクアパッツァ」
「香辛料は荷馬車にあるし、できるよ」
すると、大喜びで湖面に右手を浸ける。ヤハトの手から広がる波紋がやがてブルブルと震えだすと、突然水面から体長六十センチくらいの青い魚が飛び出してきた。
「ひゃぁ!」
「きゃー!」
驚いたのはシーナで、喜んでいるのはシャーロットだ。
セティアの花の上でビチビチと跳ねている。
「何匹いたら皆食べられる?」
「ええっと……言うほどこれは、一気に作れないから二匹私たちの夕飯にして、もう二匹を使用人さんたち用に後からオーブンしてもらおうか」
「四匹な、了解」
双子も飛び出す魚を見ようと湖面に駆け寄る。
「アイスクリームのおかげで水の操作がうまくなったからな」
メニューを考え直さねば。
ひき肉たっぷりのボロネーゼ風パスタと、アクアパッツァ、スープをシチューとまではいかないミルク系にして、サラダとパン。あと鶏肉系を少ない油で揚げ焼きにしよう。
ひょいひょいと飛び出してくる魚に子どもたちは大喜びだ。
傷んでしまうからと大急ぎでサンドウィッチを平らげると、屋敷に戻った。
大きな魚四尾の処理は面倒すぎたので、厨房にお願いする。その代わりアクアパッツァの作り方を教えた。香辛料振りまいてオイルをかけてオーブンに入れるだけだからまあいいだろう?
そこからはまたシーナとバルとヤハト三人で大忙しだった。
それでも、子どもたちやソワーズ夫妻、夕方になって帰ってきたハイルワードとテレーリアも喜んで、美味しそうに食べる姿を見ると、頑張ったかいがあったというものだ。
その日の夜は、すっかりヤハトの魚釣りに魅了された双子がヤハトの部屋に突撃したので、シャーロットと二人ベッドで眠った。
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平和なのも今回で終わり。
次から急降下頑張ります。




