173.祈ってみた
「この、精霊がまとわりついているのはどういうことなのかな?」
ローテーブルに置かれた祈りの組み紐は、王都でシーナが光の糸を作ったときのようにぼんやりと光っていた。
「ちなみに、今聖地に金目銀目は私しかいないから、まあ他のものは気付くまい」
それは、朗報。
「他の組み紐師ではこんなふうになっているのは見たことがない。フェアリーナはたくさんの組み紐師を見ているだろ? 光っていることなんてあったのか?」
「いや、ない」
「組み紐を編むのを断っていたのはそういったわけか」
「それだけじゃありませんけど、それがまあ、第一理由ですね」
「最初からか?」
「たぶん、違う?」
キラキラを見るようになったのは雫葬あたり、去年から。自分の糸が光ることを知ったのは王都でだ。雫葬の後も糸作りはしていたが、光って見えることはなかった。
あのあと、持ってきている自分の魔力で染めた糸をフェナにも見てもらったが、確かにフェナが腕をふるい、精霊を近づけると、糸に寄っていき、ぼんやりと光る。
「例の髪飾りも、シーナが作った糸だったからか?」
「その可能性はあるかもしれないが、それを公表する気はない」
「まあ、公表したらシシリアドにはいられないだろうな」
それが、一番嫌だ。
せっかくホェイワーズのベッドを手に入れたのに!! あとやっぱり自立していたい。
「何か予測は立てていないのか? 立てていたから、魔除け以外外していたんじゃないのか?」
フェナが難しい顔をして黙り込んでいる。
「フェアリーナ、私たちは今、運命共同体だと思うんだが? 先ほど見かけた黒い何かも関係は――」
「それはない。他の人間も見ているんだろう? それにシーナが見つけたあの瞬間、私も鳥肌が立った。何かいたのは確かだ」
鳥肌という部分に同意だ。足に触れた訳でもないのに、シーナも寒気がした。
「今まで、落とし子の組み紐師に会ったことはあるか?」
「……ないなぁ。落とし子は、それほど魔力が高い者はいない。冒険者になろうとする者は多いが、精霊使いはなかなか難しい。魔力を使う職業に就く者が少ない。神殿も、落とし子の世話はするが、精霊使いは魔力の観点から勧めないし、組み紐は、試してみたいで試せるような値段ではない。新人が神殿に借金をして作るくらいなのだから」
「シーナは、組み紐を作るために、魔力を円滑に動かすよう、ヤハトと訓練していた。そのおかげか、魔力運びはそこらへんの組み紐師よりずっと上手い。魔力運びが上手いと、精霊使いはより少ない魔力で精霊を扱うことができるだろう? それに加えて、魔力運びの上手い精霊使いの魔力を精霊は好む、と言われている」
確かに、ヤハトと一緒に訓練して、それから魔力を這わせるのがやりやすくなった気はする。
「魔力運びの上達でこうなったと? だが、組み紐師は年月を経れば魔力運びが自然と上手くなるだろう? ミモリはかなり上手いぞ? たが組み紐は光らない」
「落とし子はどうやって選ばれていると思う?」
「選ばれる?」
「神官風に言うと、どうやって世界樹が救う落とし子を決めていると思う?」
「世界樹【様】、な。……身体的な機能が同じ。子どもを作ることができるということでわかる。様々な種があるが、誰もがこの世界の人間と子をなすことができる。あと、見かけもそこまで差異がない」
「シーナの世界にもたくさんの人がいた。その中でシーナが落とし子となったのはなぜだ?」
「フェアリーナ、何が言いたい?」
「シーナと話していて思いついたのは、落とし子の魔力が世界樹にとって、実に魅力的だったのではないかということだ。世界樹から生まれた精霊ももちろん同じだろ?」
「落とし子の魔力が、旨い、と?」
「味覚があるのかは知らんが」
エセルバートは少し混乱しているように何かぶつぶつと呟きながら考え込んでいる。
やがて、顔を上げてシーナに祈りの組み紐を差し出した。
「シーナ、祈りなさい」
逆らうところではないので、手首に軽く結んで祈ってみる。それこそ、呪文でもあればいいのに、そういったものは特にないのだ。
なので、早く帰ることができますように、と祈ってみた。
「違う、魔力を乗せていないだろ」
「え? 乗せる?」
「組み紐に魔力を通して祈るんだよ」
確かに、祈りの間でエセルバートは光っていた。あれは魔力を込めていたのか。
なので今度は組み紐を作るときのように、魔力を動かし運んでみる。
「早く帰ることができますように」
すると、そこら中から現れた、渦巻いた光がシーナを包みこんだ。
「ヒャァァア!!」
「だめだだめだ! こんなのここに置いておけない! シシリアドくらい離れていてやっとだろう。なんてものを、作るんだ……」
早く外しなさいと急かされた。
「ダメだ。これは絶対に三人の秘密だ。シーナは金目銀目の前で魔力を使うのは十分注意するように。王都にも二人くらいいたな。いや、一人はもう領地か?」
真剣な顔のエセルバート。フェナはいつもの気だるそうな顔だ。
「秘密にしたがるんですね? 私を利用すれば確実じゃありません?」
思ったことをそのまま聞くと、彼は呆れた顔をした。
「君を利用? 利用されるのは私だ。君は五葉のトップになりたいのか?」
「え、いやですよ。なんで五葉……」
「ほんの少しの魔力で精霊を山程集めるなど、オズワールドではないが聖女の所業だろ。各地にいる落とし子は聖地に集められ、一生祈りを捧げるよう強要される。これから新しく落ちてくる落とし子も皆強制的に聖地へ連行されるんだ。手先が器用なら組み紐を編むこともさせられるだろう。無理やりね。そんな世界を望むのか?」
ぶんぶんと首を横に振る。
「とにかく、絶対に外へ漏らしてはいけない。まあ五葉たちも望まないだろう」
はぁ、と大きなため息をつく。
「フェアリーナ、とんでもないお荷物を抱えているのだな」
「だから早く帰らせろ」
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滞れば不味くなる。ということで、魔力を循環させ使いだしたシーナの魔力はとっても美味しいものになっていった、ということじゃないか? というフェナ様の主張でした。
最近なろうだけでなく色々なところが不安定になっていますね。
早く落ち着くことを祈ってます。




