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【書籍化】精霊樹の落とし子と飾り紐  作者: 鈴埜


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164/280

164.【緑陰】候補とその望み

 セサパラは、もう寝なさいと部屋に追いやられた。シーナも一緒に行きたいくらいだが、自分に関わることならそうはいかない。

 一人掛けのソファにエセルバートが座り、その後ろに酒を持ってきた神官が立つ。二人掛けの一つにフェナがだらりと腰掛け、その後ろにバルとヤハトが同じように立っていた。

 フェナの向かいにシーナとアルバートだ。

 注がれた酒に誰も手を付けず、エセルバートがため息を付く。

「大人になったフェアリーナと酒を酌み交わしたかっただけなんだよ?」

「ならばこれで。ほら、お前も飲め」

 この赤い色の酒はたぶん度数もそれなりのものだ。前にフェナの屋敷で飲んだやつ。それを一気にあおり、相手にも求めている。

「フェアリーナが好きだと聞いたからわざわざ取り寄せたお酒なのに。もっと味わって飲んでほしいね」

 と言いながら一気飲み。

 なにか張り合ってでもいるのか?

 エセルバートの後ろの神官は完全なる無表情。

「くだらん会話をしに来たのなら、とっとと出ていってもらおう」

「二人きりがだめなんだからちょっとした会話のからみくらい許してくれてもいいのに。まあいいや。まず確認だけど、シーナはアルバートと結婚はしていないよね?」

 何の話!? と慌てるシーナをよそに、フェナはしていないと即答。

「婚約も?」

「残念ながら」

 今度はアルバートが答えるので、心の中でヒェッと喚く。

「内々に程度じゃだめだからなぁ。それなら使えないな……」

「自己完結していないで状況を話せ」

 フェナの堪忍袋の緒は短い。イライラを隠すこともする気がない。

「【緑陰】選出の話は聞いているだろ?」

「ああ。聞いているが候補までは知らん。神官たちは投票済みなのか? 票数はどうなっている?」

「本来なら八月いっぱいかかるんだ。大祭の中心は八月初旬の葉の神官全員による祈りの儀だからね。それまでにだいたいの枝の神官が訪れる。票もそれで終わる。ただ、現【緑陰】の体力がそこまで保たない。君等が到着する前に、明後日には根の神官として旅立ちたいと言われた」

 今は七月半ば。五日滞在してすぐ帰るつもりだった。

「候補は今日一緒に会食したオズワールドと私だ。【深緑】と【常緑】はほぼ私の陣営、【万緑】はほとんどがオズワールドだ。【若葉】が今はどっちつかずだな」

 票は、各領地ごとに一票。葉の神官が一票ずつもつ。

「【若葉】が立場を決めかね、今まで来ている者にはオズワールドに入れさせている。均衡を保って決定打を放ち、恩を着せたいそうだ。フェアリーナが私と結婚してくれたら決定打に……」

「くどい」

「そうなるとシーナが――」

「えー、嫌ですよ」

「……これは、地味に傷つくな。私はそれなりに見目の良い男だと思うのだが」

 中身がヤバすぎるだろ。

「別にシーナを嫁になどとは言う気はない。私はね」

 つまりオズワールドがそう言っているのか。

「シーナが鍵になってしまうのだよ。【若葉】を自陣営に誘い込むために、シーナを囲い込もうとする。残念だが私はフェアリーナにしか興味がない」

 胸を張って言ってる姿は一途な男になるのかもしれないけれど、幼い頃のやり取りを知っている身としては、やはりヤバイ童貞拗らせ三十男である。

「現状はわかった。つまり、お前にとってもシーナがあちらに引っ張られるのは困るということだろ? それで、打開策は?」

「根本的な解決策はないんだ。残念ながら。接触の機会をつぶし、彼らからの直接的な誘いにはキッパリと拒否を示す。……夕食のときのように。あれは、面白かった。それで、落とし子(ドゥーモ)と会いたいという話を聞いているが調べたところ【常緑】所属なので、その機会はこちらで作る。私に協力してくれるのならね」

「協力するのは貴様のほうだろう。私たちを無事に外に出せるよう」

「私に協力してくれたら、無事に出せるよう尽力するという話だ」

 あ、これはいけないやつだと即座に気づく。フェナの、上下関係の話が始まってしまっている。子どもの頃の話を聞くに、この二人、常に上側を求めている。このままやり合い続けると収まりがつかなくなるやつだ。

「お願いします。私にできる範囲なら、やれることはやりますから、皆で無事に聖地から出ていきたいです〜!!」

 ここは私が折れる!

「じゃあ、紐を用意したら守り袋を作ってくれる? フェアリーナに渡したい。あの場で話題に出たことだから、あの場で断っているのにフェアリーナがつけて歩いているとなったら、我々の関係は悪くないものとして捉えられる」

 チラリとフェナを見ると、仏頂面をしていた。が、拒否はしない。守り袋を付けるところまではオッケーなのだろうか?

「あと、噂のクッキーを焼いて欲しいな」

「はぁ!? それは求め過ぎなのではないか?」

「あれ、すごく噂になってるよ。この世のものとは思えぬサクサクの茶菓子ってね。明日五葉で話し合いがあるからその時の茶菓子に私が持っていきたい。そこには【若葉】もいる」

「そこまでしないとお前は五葉にもなれないのか?」

 挑発的なフェナの物言いに、エセルバートは余裕の笑みで答える。

「なった後の問題にもなるからね、遺恨なく私が【緑陰】になるのが一番なのだよ。表立った敵は少ないほうが良い。フェアリーナが私の部屋で一晩過ごしてくれる方が一番手っ取りばや――」

「くどい! シーナ、クッキーを作ってやれ。その代わり、必ず仕留めろ」

「なら、明日朝から私の厨房を貸そう。君等の神官とも意見合わせを頼む。これからの食事は全部私の部屋で、呼びに行かせるまでは部屋で待機。必ずこの、タムルに行かせる。他の神官が来ても着いて行くな。部屋のノックにはフェナかもう一人のあの女性の神官が出るように。シーナを表に出すな」

 エセルバートが笑う。

「シーナを囲い込んだのはすぐわかるだろう。あちらも必死になるぞ」

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フェナがエセルバートの部屋に行くバージョンも考えましたが、さすがに行かんだろうということで供養しました。

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