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160.最後の町ユーラチサタ

 気を付けないといけないことが多すぎて、気が重くなる。だが、そんなことを思っていても日に日に世界樹は大きくなっていった。富士山の裾野が、そこも富士山の一部であるように、世界樹の幹や枝が、そして葉が空を覆い尽くす。一番明るい時間なのに、常に薄暗い。街道の明かりの間隔が短くなっていく。

 真っ暗闇ではないが、文字を読むなら明かりが必要なくらいの薄暗さ。

 それが聖地に一番近い町、ユーラチサタの町だった。

「流石に人が多いな」

「聖地が一番近い、補給の最終地点だからな」

 アルバートとバルがこれからの道程について話し合っている。ここには神殿もないので、神官たちも泊まるなら宿なのだが、宿ももう満杯だった。

「軽く補給をしたらとっとと向かおう。この町に留まる時間が無駄だ」

 フェナがいるので野営はそこまで心配なことではない。

 だが、その補給も人がごった返しており、皆でぞろぞろと行けるようなものではないので、神官たちと、シーナとフェナは、町の反対側の門を出たところで待つことにした。

「ここから五日ほど行けば聖地です」

 神官たちの表情が明るい。

 聖地を前にして楽しみで仕方ないといった感じだ。

 シシリアドを出発した頃に思っていた違和感はここにきて解消された。

 なぜもっと聖地近くに街を作らないのか。

 作らないのではなく、作れないのだ。作っても、野菜や穀物などの食料が、日照の問題で作ることができない。

 このユーラチサタの町ですら、補給のための町なのだ。野菜も少し先の村から毎日送り届けられる。

「聖地では泊まるところなどはどうなるんですか?」

 シーナの問いかけに、経験があるトールナーグが答えた。

「我々が滞在するのは五日ほどになると思います。所属の五葉様の宿泊所に泊まることになりますね。稀に一時(いちどき)に巡礼者がやってくると、他の五葉様の宿泊所に泊まることもありますし、それでも人が溢れた場合は、冒険者様に聖地の外側で野営をしていただくこともあります……が、フェナ様にそのようなことを言われる方はいらっしゃらないでしょう。最初の日と次の日は、我々神官は五年間の報告に向かわねばなりません。シーナさんのお友だちの方も同じ時期にいらしているといいですね」

「マナさんとは一応お互い到着する時期を知らせてはありますけど、こちらはスタンピード解消で少し遅れたので……まあ、会えなかったら仕方ありませんね」

「きっと大樹様のお導きがありますよ。聖地はあちこちに巡礼の方がいらっしゃるので、お話するのも良いですし、世界樹様のお姿に見惚れているうちに一日を終える者も少なくはないそうです。……五葉の選出の話が出ていますので、我々は少しそちらのことにかかりきりになるかもしれません。フェナ様、シーナさんをよろしくお願いいたします」

「もちろんだ。【緑陰】の選出の話は聞いているんだな」

「王都を離れたあたりから聞くようになりました」

「シシリアドは誰を推すか決まっているのか?」

「大樹様のお導きで……まあ、ほぼ決まってはいるようですが」

 フェナが顔をしかめる。

「神官って、結婚できるんですね」

「ええ、世界樹様も新しい生命の誕生をお喜びになります」

「でも、葉の神官同士はダメ?」

「だめというか……聖地で子は産めないのです」

 おお……これは、血は穢とかいうやつか! と思っていたら違った。

「聖地では子が成長に必要な陽の光が足りないのです。だいたい六歳くらいまでの子どもには十分な光が必要です。光が足りないと、魔に傾きます。魔物は闇より産まれると、聖典のお話を聞いたでしょう? 魔に傾いた子どもは人ならざるものへ変化することが多いのです。まあそれも子どものうちですから、葉の神官同士が結婚して、子が生まれるとなり他の神殿へ女性が移動し子を生み、また聖地へ戻ることもあります。ただ、基本我々は世界樹様へ捧げた身ですので、子どもはその街の孤児院で育てることになりますから、母親は動きたがりませんね」

 魔に傾く子どもという強烈な話に少し驚く。

「普通に暮らしていれば問題ありませんよ。たとえ病弱で家の中で暮らしていたとしても、陽の光が目に届いていれば問題ないのです」

 昼間でもこの暗さ。陽の光は確かに感じられない。

 そんな話をしている間も次々に巡礼者たちが出発時、また、帰路に着く巡礼者たちが町へ入っていく。すれ違うたびに、「大樹様のお導きがありますように」という決まり文句を言わなくてはならず大変だった。

「お待たせしました」

 アルバートとバルは両手に大荷物。ヤハトは抱えきれなくなったものを頭上に浮かせて門を出てきた。

「五日分なのに、そんなに持っていくんですか?」

「んー、我々は行くが、これから帰る人達もたくさんいるだろ? 彼らも聖地に運ばれた物から帰りの食料を貰うのだけど、その代わり行きには食料を収めるんだ。つまり、我々が帰る時はこれから来る人たちが食料を運んでくれている。特に我々は今回荷馬車を利用しているからね、ついでにたくさん運ぶんだよ」

 持ちつ持たれつ空いてる荷馬車は有効利用だ。

「出発しましょうか」

 荷物を積み込み、シーナは馬を操るアルバートの横に座った。

 フェナから言われ、魔除けの耳飾り以外の組み紐(トゥトゥガ)を全部外すこととなった。ここからは一切の魔力を使うなとのお達しだ。なので、疲労軽減身体強化のないシーナはこの先ずっと座っていくこととなる。

「市場は混んでましたか?」

「そうだね、売り物も、品薄で売り切れになっている店もあったくらいだよ。今年は例年より人が多いそうだ。神官が数を増やしているらしい。【緑陰】の選出があるせいかもしれないね」

 アルバートも五葉選出の話は把握しているらしい。

「シーナ、なるべく一緒にいようね?」

「……はい。フェナ様も、皆で固まっていようと」

「もし誰かがシーナだけを連れて行こうとしたら、呼んで。落とし子(ドゥーモ)の我が儘はかなり受け入れられるから。もちろんフェナ様と一緒が一番安全だとは思うけど、私も呼んでくれ」

 アルバートはどこまで話を聞いているのだろうと気になったが、シーナは気遣いに頷いて応えるしかなかった。


 

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とうとう次は聖地に到着だ〜!


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― 新着の感想 ―
闇に呑まれた師匠のお兄さんも人ならざるものになってしまったのかな…
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