16.金の卵
結局朝まで四人は森の中で索敵の耳飾りを試した。
結果、大きさでは使用魔力量は変わらない。従来の魔力の五十分の一で同じだけの効果を得られることがわかった。
組み紐は魔力を通しただけ劣化していく。長期の旅に出るときは替えの索敵組み紐を持っていくほどだ。それがこの耳飾りではずっと長く保つこととなる。二倍三倍どころではないこの耳飾りは、とんでもない発明になったということだ。
「眠い」
フェナが仏頂面で言うのに、シーナも同意する。
「同じく」
「もうすぐ開門ですから、戻りましょうか」
「直接ガラの店に行こう。バル」
呼ばれた彼はシーナの前に立った。そして流れるように担ぎ上げられる。足手まといになるのはわかるが、この、荷物扱い。楽ではあるが居心地は良くない。苦言を呈すわけにもいかず、舌を噛まぬよう黙ってされるがままだ。時折ヤハトと目が合うが、ニヤッと笑うので半眼で睨み付ける。
深い森とは言え、夜が明けてきた今、目薬なしで皆の姿を確認できるくらいの光量はある。回りの景色が電車に乗っているかのように流れている様をぼんやりと眺めていると、意識を手放しそうになる。担がれて運ばれているのだから相当揺れてはいるものの、眠気MAXの状態ではそれすら心地よい振動だった。
「どれだけ図太いんだか」
森を抜け、門の手前で下ろそうとしたバルは、シーナが完全に寝ていることをヤハトに指摘された。そのまま担がれ、現在呆れ果てたガラを前にソファで正座をしているところだ。
「疲れきっていまして……」
「だからって、あの状態で普通眠れる!?」
ヤハトは腹を抱えて笑い、バルすらも苦笑している。フェナはもちろん大ウケにウケている。
店舗の奥から階段で二階に上がったところに、ガラの住居スペースがあった。その一角を今シーナは間借りしている。五人がいるのは、階段を上がったところだ。ローテーブルとソファが置いてある。バルとヤハトはソファに座るフェナの後ろに立っていて、そういったところが、二人は従者なのだなぁと改めて思った。
ガラがいれたお茶が温かくて胃に染みる。
「それで? どうだったの?」
ガラはシーナに対して尋ねたが、その回答はフェナに譲った。視線を受けてフェナは頷く。
「今日にでも、索敵の耳飾りを登録した方がいい」
「そんなに良い代物だったのね」
「良い、なんてもんじゃない。単純に考えれば、今の値段の五十倍で売れる」
ガラの目が見開かれる。
「まあ、さすがにそこまでの値段にはできないだろうけど、今ある索敵の組み紐の何十倍も長持ちするんだからそれなりの値段にしなければ、市場が荒れる。私も保証するし宣伝もしよう」
「やったじゃないシーナ! これであなたは不労収入が固定されるわ! しかも落とし子。神殿が全力でサポートしてくれるわよ。ああよかった。わたしが死ぬまでに店を持たせることができるか不安だったのよぉ~十年かけて学ぶのを今からやってるんだもの。いまいちまだ魔力の扱い下手だし。フェナ様専属はありはありだけど、フェナ様だってシーナより先に死ぬのよ? あーほんとによかったわぁ。しかも、耳飾りと索敵の二重取りよ? お金はね、神殿がきちんと管理してくれるから。各地にあるし、どこでも引き出せるし。あーほんと、よかった」
本当によかったと繰り返すガラを複雑な思いで見つめる。そうか、やはりまだまだ下手なのか、とそこが気になってしまう。
「耳飾りでも登録したのか?」
「ええ。割りと色好い返事をいただいてるわ。もういくつか商品があると良いとも言われていたから、この索敵の耳飾りを持っていけば確実。耳飾りの組み紐で登録をしたらと提案してくれたのも神殿の方で、彼らも落とし子の行く末は心配しているようね。お金がなくなって生活できないから神殿に住み着くのを避けたいのもあるんでしょうけど。お疲れでしょうが、この後神殿に付き合っていただけますか?」
その言葉にソファに深々と腰かけたフェナがニヤリと笑った。
「もちろん。ただし、条件がある」
「なんでしょう」
「シーナを、十日に一度うちに泊めること。昼から昼まで」
思ってもみない条件に、ガラがキョトンと目をしばたたかせる。
シーナとバルとヤハトは、フェナの意図を即座に理解した。
「もちろん、私が街にいるときだけでいいよ」
ガラがこちらを見る。
シーナは深くため息をついた。
「ご飯狙いです」
「あらーマヨネーズ?」
ここにもまたマヨラーがいる。
「まあ、そーゆことです」
「シーナは、組み紐師でなく、料理人になるべきだったのかしら?」
「見捨てないでくださいよ、師匠!!」
「まあでも、それくらいの労力でフェナ様の保証が得られるなら受けるべきよ、それはわかるでしょ?」
「……はい」
そういってフェナに向き直る。
「フェナ様、よろしくお願いします」
「よろしくされた。じゃあ早速行こう」




