154.アルバートの生家
ハハナラヤの街を出て、さらに北西へ向かう。世界樹まではあと少しだという。たしかに、日に日に目の前にそびえる世界樹が大きくなっていった。
そしてやってきた次の街で、シーナは衝撃の光景に出くわすこととなる。
「い、イケメン一族ぅ……」
「アルの顔いっぱいだな!」
「ほんとに、似てるな」
貧乏子爵だと言っていた、アルバートの故郷にやってきた。門をくぐってすぐに迎えが来て、お屋敷に案内される。
子爵本人より先に、兄弟たちが凸をかましてきたのだ。
そのどれもがアルバートによく似たイケメンと美人だった。
「えと、五人兄弟?」
ちびっこいのもいる。
「フェナ様。長い道のりお疲れ様です」
「アルバート、よく来た――」
「「「アルにぃー!!!!!」」」
ちびっ子三人がアルバートに突撃する。だが、全部は受け止めきれずに倒れ込んでいる。
「お前たち……」
「申し訳ございません、皆様。さあ、お部屋にどうぞ」
一番の美人がそう言って皆を促した。
「ほら、離れて!」
「やだー! アルにぃとあそぶ!!」
「あそぶぅー!」
そんな子どもたちを両親は完全に無視だ。まあ、微笑ましいのでシーナもとりあえずアルバートのことは置いておいて、後をついていく。
「部屋だけはたくさんありますからゆっくりしてくださいね。お茶をお部屋にお持ちしますわ」
アルバートの実家は、ソワーズ家。つまりここはソワーズの街だ。何十代か前は別の家名だったらしいが、このソワーズの土地を治めるよう領主から命じられ、やがて土地の名を家名にしたらしい。
うん、貴族よくわからん。
貧乏子爵と言っていたが、街はそれなりに人も多く、道を行き交っている冒険者も多かった。フェナの生家があるディーラベル領ほどではないが、良いお茶が採れるらしい。
客室はそんなに広くはなかったが、きちんと掃除がされていてきれいに整えられていた。
部屋にお茶を持ってきてくれるとは言ってくれたが、イケメン家族を観察したいので、部屋を出た。
一番の美人はソワーズ夫人で、アルバートと同じ金髪に青緑の瞳。完全に母親似だ。父親であるソワーズ子爵は、赤みの強い金髪だった。キリッとした眉に鋭い眼差し。厳格な父親といった感じだ。緑が強い瞳で、他の子どもたちも基本この色だった。
廊下に出るとヤハトとバルも同じように顔を出している。
「アルの弟見に行こうぜ!」
同じような背だったが、皆十歳にはなっていないように見えた。
窓から覗くと、玄関前で木剣を振り回している。弟たちの相手をしてあげている。
「あらあら皆様。天気もよいですし、庭でお茶になさいますか?」
夫人自らティーセットを運んでくれていたようだ。
「ぜひ」
「皆でいただこうか」
「ではこちらへ」
一階へ降りると、玄関とは逆の方へ誘導される。途中夫である子爵に、アルバートたちに声をかけてくれと言っていた。子爵の手には木剣が握られていた。参加予定だったのかもしれない。
「帰って来るといつもああなのですよ、お恥ずかしいかぎりですわ」
「皆仲良しなんですね」
「アルバートは特に面倒見がよいのです」
「それは、わかります」
ぐっと拳を握りしめると、夫人は微笑む。
「シーナ、面倒見られてばっかだもんな!」
「ヤハトぉ……」
相変わらず余計なことを……。
庭は、とてもきれいに整えられていた。可愛らしい黄色と赤の花が花壇を飾っている。丸いテーブルが三つほど並んでいた。
「アルにぃ、まだ、まだやるー」
「二人とも、お客様が来ているんだよ?」
男の子二人は背の高さも顔つきもそっくりだ。
「アルにぃ、シャロもー!」
女の子はさらに小さい。そこで、ん? と疑問に思う。
「アル、バートさんは、士官学校を卒業したあとはシシリアドにずっといるんですよね?」
両親の前でアル呼びするのはさすがにためらう。アルバートも訂正はしなかった。
そして、疑問に思ったこと。一番下の女の子は五歳くらいに見える。いつ会ったのだろう?
「去年は少し慌ただしくて暇がなかったけど、毎年家に一ヶ月ほど帰るんだ。一人なら馬に乗って十日もあれば十分帰ることができるし、王都への遣いなど、用事のついでをくださる」
「ほんとに、エドワール様はできた領主様よね」
滞在期間は十日ほど。それでもこれだけ慕われている。
「アル、クッキーは渡さないのか?」
ちょうどみんなのお茶を準備してくれている。
「うーん、兄さんがいないのに、今開けたら、こいつ等に全部やられる気がする……」
「その時はまた焼けばいいだろ?」
「手伝います!」
立候補しておく。王族にあれだけもったいぶって教えたので、ここでレシピをバラすわけにいかないが、アルバートが人を排して作るなら問題ないだろう。
「ハイルワードとテレーリアは、領地の端の川が先日の大雨で決壊してね。人への被害はないけれど、様子を見に行ったから夜遅くなりそうよ」
夫人の言葉に、ならば渡すかとアルバートが瓶を持ってくる。
「なになに!?」
「美味しいもの?」
一緒に持ってきた皿の上にクッキーを取り出すと、まずは子爵と婦人へ勧める。
「王族に契約を交わしてレシピを渡したから、レシピは教えられないけど」
さらに子どもたちに皿から取って渡すと、一気に口にいれる。
「ふあぁぁぁ」
「なにこれ!」
「おいちー」
可愛い〜! 素直な子どもの感想は最高だ。
アルバートと同じ顔した子どもが三人、クッキーを食べて美味しそうな顔をしているとか、可愛いが過ぎる。
「アルの美味しいときの顔と一緒だ」
ヤハトが笑うと、つられてバルも笑みをこぼす。
「最近のシシリアドの飛躍はよく耳にするわ。良い主を持ったわね。あなたの努力がその一端となってることを誇りに思うわ」
「王族とも関わりを持つとは……その縁は大切にしていきなさい。そんな大切な役目をお前に任せてくださるのは、それだけ頑張ってきた証拠だな」
二人の言葉はアルバートを認め、アルバートに寄り添ったものなのだとわかるもので、聞いてるこちらもなんだか嬉しくなった。
そんな素敵な雰囲気をぶち壊すのは、やはりフェナだ。
「シーナ、パスタ食べたい」
「フェナ様ぁ……」
自由が過ぎる。
「クリーム系ですか? ピーネ系ですか?」
フェナの願いは即実行のバルが尋ねると、フェナはクリームでと答えた。
「申し訳ございませんが、夕食を作るのにキッチンを貸してください……」
パスタも教えていいかわからないので、今夜の料理はシーナたちで作ることになった。
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やってきました、推しの顔がいっぱいある街へ!




