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【書籍化】精霊樹の落とし子と飾り紐  作者: 鈴埜


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154/280

154.アルバートの生家

 ハハナラヤの街を出て、さらに北西へ向かう。世界樹まではあと少しだという。たしかに、日に日に目の前にそびえる世界樹が大きくなっていった。

 そしてやってきた次の街で、シーナは衝撃の光景に出くわすこととなる。

「い、イケメン一族ぅ……」

「アルの顔いっぱいだな!」

「ほんとに、似てるな」

 貧乏子爵だと言っていた、アルバートの故郷にやってきた。門をくぐってすぐに迎えが来て、お屋敷に案内される。

 子爵本人より先に、兄弟たちが凸をかましてきたのだ。

 そのどれもがアルバートによく似たイケメンと美人だった。

「えと、五人兄弟?」

 ちびっこいのもいる。

「フェナ様。長い道のりお疲れ様です」

「アルバート、よく来た――」

「「「アルにぃー!!!!!」」」

 ちびっ子三人がアルバートに突撃する。だが、全部は受け止めきれずに倒れ込んでいる。

「お前たち……」

「申し訳ございません、皆様。さあ、お部屋にどうぞ」

 一番の美人がそう言って皆を促した。

「ほら、離れて!」

「やだー! アルにぃとあそぶ!!」

「あそぶぅー!」

 そんな子どもたちを両親は完全に無視だ。まあ、微笑ましいのでシーナもとりあえずアルバートのことは置いておいて、後をついていく。

「部屋だけはたくさんありますからゆっくりしてくださいね。お茶をお部屋にお持ちしますわ」

 アルバートの実家は、ソワーズ家。つまりここはソワーズの街だ。何十代か前は別の家名だったらしいが、このソワーズの土地を治めるよう領主から命じられ、やがて土地の名を家名にしたらしい。

 うん、貴族よくわからん。

 貧乏子爵と言っていたが、街はそれなりに人も多く、道を行き交っている冒険者も多かった。フェナの生家があるディーラベル領ほどではないが、良いお茶が採れるらしい。

 客室はそんなに広くはなかったが、きちんと掃除がされていてきれいに整えられていた。

 部屋にお茶を持ってきてくれるとは言ってくれたが、イケメン家族を観察したいので、部屋を出た。

 一番の美人はソワーズ夫人で、アルバートと同じ金髪に青緑の瞳。完全に母親似だ。父親であるソワーズ子爵は、赤みの強い金髪だった。キリッとした眉に鋭い眼差し。厳格な父親といった感じだ。緑が強い瞳で、他の子どもたちも基本この色だった。

 廊下に出るとヤハトとバルも同じように顔を出している。

「アルの弟見に行こうぜ!」

 同じような背だったが、皆十歳にはなっていないように見えた。

 窓から覗くと、玄関前で木剣を振り回している。弟たちの相手をしてあげている。

「あらあら皆様。天気もよいですし、庭でお茶になさいますか?」

 夫人自らティーセットを運んでくれていたようだ。

「ぜひ」

「皆でいただこうか」

「ではこちらへ」

 一階へ降りると、玄関とは逆の方へ誘導される。途中夫である子爵に、アルバートたちに声をかけてくれと言っていた。子爵の手には木剣が握られていた。参加予定だったのかもしれない。

「帰って来るといつもああなのですよ、お恥ずかしいかぎりですわ」

「皆仲良しなんですね」

「アルバートは特に面倒見がよいのです」

「それは、わかります」

 ぐっと拳を握りしめると、夫人は微笑む。

「シーナ、面倒見られてばっかだもんな!」

「ヤハトぉ……」

 相変わらず余計なことを……。

 庭は、とてもきれいに整えられていた。可愛らしい黄色と赤の花が花壇を飾っている。丸いテーブルが三つほど並んでいた。

「アルにぃ、まだ、まだやるー」

「二人とも、お客様が来ているんだよ?」

 男の子二人は背の高さも顔つきもそっくりだ。

「アルにぃ、シャロもー!」

 女の子はさらに小さい。そこで、ん? と疑問に思う。

「アル、バートさんは、士官学校を卒業したあとはシシリアドにずっといるんですよね?」

 両親の前でアル呼びするのはさすがにためらう。アルバートも訂正はしなかった。

 そして、疑問に思ったこと。一番下の女の子は五歳くらいに見える。いつ会ったのだろう?

「去年は少し慌ただしくて暇がなかったけど、毎年家に一ヶ月ほど帰るんだ。一人なら馬に乗って十日もあれば十分帰ることができるし、王都への遣いなど、用事のついでをくださる」

「ほんとに、エドワール様はできた領主様よね」

 滞在期間は十日ほど。それでもこれだけ慕われている。

「アル、クッキーは渡さないのか?」

 ちょうどみんなのお茶を準備してくれている。

「うーん、兄さんがいないのに、今開けたら、こいつ等に全部やられる気がする……」

「その時はまた焼けばいいだろ?」

「手伝います!」

 立候補しておく。王族にあれだけもったいぶって教えたので、ここでレシピをバラすわけにいかないが、アルバートが人を排して作るなら問題ないだろう。

「ハイルワードとテレーリアは、領地の端の川が先日の大雨で決壊してね。人への被害はないけれど、様子を見に行ったから夜遅くなりそうよ」

 夫人の言葉に、ならば渡すかとアルバートが瓶を持ってくる。

「なになに!?」

「美味しいもの?」

 一緒に持ってきた皿の上にクッキーを取り出すと、まずは子爵と婦人へ勧める。

「王族に契約を交わしてレシピを渡したから、レシピは教えられないけど」

 さらに子どもたちに皿から取って渡すと、一気に口にいれる。

「ふあぁぁぁ」

「なにこれ!」

「おいちー」

 可愛い〜! 素直な子どもの感想は最高だ。

 アルバートと同じ顔した子どもが三人、クッキーを食べて美味しそうな顔をしているとか、可愛いが過ぎる。

「アルの美味しいときの顔と一緒だ」

 ヤハトが笑うと、つられてバルも笑みをこぼす。

「最近のシシリアドの飛躍はよく耳にするわ。良い主を持ったわね。あなたの努力がその一端となってることを誇りに思うわ」

「王族とも関わりを持つとは……その縁は大切にしていきなさい。そんな大切な役目をお前に任せてくださるのは、それだけ頑張ってきた証拠だな」

 二人の言葉はアルバートを認め、アルバートに寄り添ったものなのだとわかるもので、聞いてるこちらもなんだか嬉しくなった。

 そんな素敵な雰囲気をぶち壊すのは、やはりフェナだ。

「シーナ、パスタ食べたい」

「フェナ様ぁ……」

 自由が過ぎる。

「クリーム系ですか? ピーネ系ですか?」

 フェナの願いは即実行のバルが尋ねると、フェナはクリームでと答えた。

「申し訳ございませんが、夕食を作るのにキッチンを貸してください……」

 パスタも教えていいかわからないので、今夜の料理はシーナたちで作ることになった。

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やってきました、推しの顔がいっぱいある街へ!

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