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15.耐久実験

 思い立ったが吉日、とでも言うのだろうか? 興味があることには即行動のフェナを止めきれず、シーナはまたガラに使いを出す羽目になった。それにバルが、ここで止めたら次に行ってくれるかはわからない、とも言うので諦めた。

 一応、夜の方が活発に動く獣や魔物も多いので、試すのならば断然夜だともっともらしい理由を述べていたが、後付けなのは火を見るより明らかだ。

 せっかくだから夜営をしようなどとも言い出したので、バルとヤハトは急いで荷物を作り始めた。本来の三人分なら既にいつでも持ち出せるようになっているそうだが、シーナの分は予定外だ。しかし何を手伝えるわけでもないので後片付けをしていた。

「あのパスタってのは不思議な食べ物だね、でもすごく美味しかったよ」

 管理人のおじいさん、ゴードが言うと、

「ほんとほんと、長く生きてきたけれど、はじめての体験だったわぁ」

 おばあさん、ソニアも同意する。

「お口にあってよかったです」

 洗ったお皿を拭いて重ねて片付けて。三人だとあっという間だ。

「でもねぇ、しばらくは大変かもね」

「そうね、フェナ様がたいそう気に入ってらっしゃったから、チャンスがあれば呼び出されて作ることになるわよ~」

「実力も権力もあるからなぁ」

 不穏な会話にはははと乾いた笑いを漏らす。

 変に特別扱いをされると、人間関係に支障をもたらす。それはどこの世界だって同じだろう。落とし子(ドゥーモ)というだけですでに特別扱いなのに、これ以上はいらないのだが。

 特別扱いされるだけの実力があれば別なのだが。

「シーナ、行くぞ」

 厨房に支度を終えたヤハトが現れる。

「気をつけてね」

「大樹様のご加護がありますように」



 どこへ行くにも、歩きだ。

 馬のような乗り物もあるが、森に入るには向かないし、シシリアドの街はアップダウンが激しいので、門から入ってすぐのあたりの平地くらいまでしか使えない。

 この半年でかなり足腰は強くなったと思う。我ながら体力もかなりついた。それでも本職の三人についていくのは大変だった。

「荷物もなんにもないくせに」

「足元が暗くてなにも見えないから歩きにくいんです」

 フェナの言葉に口を尖らせて返す。森にはいる前に目薬を差した。真っ暗でも少しの光でなんとなく見えるようになる薬だ。見えすぎると今度は光源が近くにあると眩しすぎてなにも見えなくなってしまう。だから本当に少しだけ夜目がきくようになるだけだ。

 辛うじて続く獣道は、木の根が張り、でこぼことして気を抜くとすぐ転んでしまいそうになる。すぐ横でバルが木の枝を押し退けてシーナが通りやすいようにしてくれていた。ヤハトは先行して索敵をしている。フェナは、不思議なことに木々が彼女を避ける。

「いかに精霊に愛されているか、だよ」

 ふふんと笑う声だけがすぐ後ろで聞こえた。

 夜の森はとても静かで、自分達の声がよく響いた。

「少し先に開けた場所がある」

 いつのまにか戻ってきていたヤハトがそう告げると、フェナは頷いた。

「ではそこで」

 索敵の耳飾りがどんな効果をもたらすかわからなかったので、街から距離をとってから試そうと言うことだった。

 

 バルが赤い石の耳飾りをとると、シーナのあわじ結びの耳飾りをつける。

「では、いきます」

 一瞬、魔力を通した耳飾りが淡くひかり、次の瞬間自分の中を何かが突き抜けていく。衝撃に数歩後ろへよろけそうになったところを、ヤハトが腕を掴んでくれたので倒れることはなかった。

 何が? と思う暇もなくフェナが叫ぶ。

「バル! シーナを担げ!!」

 言われたことを理解する間もなく、ぐるんと世界が回り、風が頬を叩く。

 これが、話に聞いたフェナたちの移動だと気づいた時にはかなりの距離を稼いでいた。

「バル、説明を」

 舌を噛まないように、押し黙っていたシーナが下ろされ、ヤハトが大きく息を吐く。フェナの声色は低かった。

「あれほどまでとは思わず、いつもと同じだけの魔力を通しました」

「いつもと? 本当に? 森を突き抜け街まで届く勢いだったぞ」

 ヤハトの戸惑う声。目薬の効果は切れていて、シーナには暗闇しかない。

「えーっと、どういうことですか?」

「効果が増大しすぎて、索敵どころか威嚇だ。街の方になにかまずいものを連れていくわけにいかないから、今はさらに森の奥に入った。バル、目薬をしてやれ」

 小瓶からスポイトのようなもので、シーナの目に薬を差すと、やっと皆の表情がぼんやりと見えた。どれもこれも、先ほどまでとは違って真剣な顔をしていた。

「商品にはなりそうではないと言うことですね」

「逆だ。流す魔力がずっと少なくて良いということ。新しい形の組み紐(トゥトゥガ)だ」

 腕を組み、顎を撫でながらフェナはなにやら思案していた。バルとヤハトはそんな彼女を黙って見つめている。

「その形は全部が同じ形か? 寸分たがわず、同じ形同じ大きさ?」

「いえ、全く同じというわけでは……」

 交わる部分の色の交差や、多少長さが違ったり輪の大きさも違っている。

「それで効果が変わるかを検証しないとだめだね」

「それなら、あと二つ同じようなものはもってきていますけど」

 それはいい、とフェナが顔を上げた。

「試してみよう。できるなら完全に輪の大きさを変えて」

 輪の大きさの調整くらいなら今すぐここでもできる。

「バル、流す魔力は二十分の一だ」



異世界人チート大金持ちまであと少し

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