147.魔導具研究開発部門
側仕えの女性の一喝により、大の大人が整列させられる。
「いい加減になさいませ。少しは相手の都合というものを考えなさい! シーナ様。こちらが王都の組み紐ギルド長フィリレナ様です」
ゆるいウェーブを描く濃い青の髪を、組み紐リボンで一つにまとめている。瞳の色は濃い緑で、背の高い美人だ。ただ、年はガラより上に見える。
「よろしくね、シーナ」
「あとは魔導具研究開発部門の者です。一応王宮の精霊使いです」
残り八人はまとめられて不満を漏らしている。
「扱いが雑だ!」
「一応はひどい!」
「我々は抗議するぞ!」
「魔導具部門にもっと経費を!!」
「おやつも要求する! 糖分を!!」
なんだかよくわからないが仲は良さそうだ。
「時間はあまりありませんよ。フェナ様が帰るとおっしゃられたらシーナ様も帰ります」
側仕えの言葉に魔導具精霊使いたちは背筋を伸ばした。そして、後ろから紙の束を持ってくる。
「一応疑問点や質問事項はまとめているのですが」
「……申し訳ありませんが読めません」
「ですよねー!! お前ら、それぞれ優先させるものを一枚ずつ提出しろ」
どうやら彼がここのリーダーのようだ。自己紹介はする気がないらしい。その時間も惜しいようだ。まあ、シーナも一気にこの人数は覚えられないのでその方が良い。
「まず、光の糸の染の材料と時期を。その時の天候も」
テーブルの前に座らされ、覚えている限りで彼らの質問に次々答えていった。
「……編んでいた時は、可愛くしたいなってことしか。あ、でも、あの編み方の名前が亀の子で、亀と言うのが、私の故郷では万年生きるという伝説を持つ生き物でして。実際には生きませんよ? まあつまり長寿の、おめでたいと言われている生物なんです」
「可愛く……可愛いが原動力かしら?」
ぶつぶつと精霊使いの一人が考え込んでいる。
「可愛いは正義です! 耳飾りも可愛いから作り始めただけですし」
「えっ……」
フィリレナが戸惑っていた。
まあ、そんな反応には慣れっこだ。
「左の耳飾りは魔除けですけど、右の方はお揃いで作った単なる耳飾りですよ?」
片方だけだとバランスが悪いからおそろいの物を作って着けている。
フィレリナの顔がぐっと近づいてきて耳元で本当だ、と声を落とす。
「まさか索敵も……」
「索敵の耳飾りは、真っ直ぐに紐を編むタイプだったので、耳飾りにする時あのデザインにしたら可愛いなぁって! 可愛いは正義です」
本日二回目。
「……落とし子。大樹様に愛されし者。大樹様のお導き、てこと?」
「単なるラッキーだと思いますけどね」
「いやそこは、大樹様のお導きってことで!」
精霊使いたちが口を揃えて言う。
質問に答えてはいるが、どれも予想の範囲内だったようで、精霊使いたちはうんうんと唸っている。
「まあ、超偶然の産物ってことで諦める方向で……」
「諦めきれるわけ無いだろ!」
「こんなすごい物前にしてどう諦めろと!?」
「諦めるという発想がございません」
「ずっと眺めていたい」
ちょっとポロリしたら倍以上になって返ってくる。
「でもー、これに対して使っている時間を他の魔導具に対して使った方が有益じゃありません? まあ、同じものが作れる保証があるなら別ですけど」
「うっ……それはない」
「だが、それで諦めるようなやつが研究職についているわけなかろう!」
まあそれはそうだろうなぁ。
「それとも、シーナさんが新しい魔導具のアイデアをくれる?」
「アイデア?」
「故郷で使われてた便利なものとか!」
突然の無茶振りである。
だが、精霊使いたちが皆ワクワクの笑顔を見せている。なんか、みんな、好奇心旺盛な子どもたちって感じだ。
「そうですねぇ、あ、冬の間欲しかったのは、お風呂上がりに髪の毛を乾かすドライヤー」
「ドライヤー?」
「濡れたまま寝ると風邪引くし、髪の毛ぐちゃぐちゃですよね? だから、温かい風が出る機械……魔導具? で、髪の毛を乾かしてから寝る!」
「ほうほうほう」
食いつき方がすごい。
「よかったら、朝からどんな生活を送っていたか教えてくださいよ!」
ええー、と思いつつツラツラと述べる。
「朝は目覚まし時計で起きます。鐘ないので。目覚まし時計はズシェに作ってもらいました。起きたら朝ご飯を作るんですけど……その日によってかなぁ。トーストならトースターで焼いて、目玉焼きとハムとキュウリで食べて、コーヒーはインスタント。たまにドリップ。駅まで歩いて、会社まで三十分。ドア・トゥ・ドアですね。電車に乗ります。電車は……公共の交通手段ですね。レールが走ってて、そこを、えーと、トロッコ? 馬車? が走る感じ。会社では仕事をします。まあ仕事は省略……うーん、魔導具になりえるものがあまり。家電を対象に考えたほうがいいのかなぁ?」
会社勤めは単調だ。
「家に帰ってからは御飯作って食べてお風呂入って、テレビ見て……テレビは無理だろうなぁ。離れた場所の人とお話できるような魔導具はあるんですか?」
「あるにはあるけど、軍事用ですね。あとは各冒険者ギルドに置いてあって、連絡を取り合うことのできるものがありますが、簡単な会話程度ですし魔力をそれなりに使います」
「案外難しいですねー生活に密着していないとだし」
「使われる可能性が高い方が、よい魔導具と言われますね」
「冬ならこたつが欲しいなぁと思いましたね」
「こたつ、導入されていないんですか?」
翻訳機が作動している!?
「え、こたつあるんですか!?」
「そうですね、冬の妊婦さんに買ってあげると喜ばれる魔導具ナンバーワンです」
「えええ!! おこたあるなら、絶対来年導入します。帰ったらすぐお願いしないと!!」
こたつがあれば正直暖炉はいらない。二階の仕事部屋でごろ寝でいい。
「あ! 欲しいものありました。フードプロセッサーがほしい! えっと、こー、箱の中のものを粉々にする物なんですけど、粉々度合いも変えられるといいなぁ」
「……何に使うんですか?」
「えっと、お肉をミンチに……」
ハンバーグ、フェナも知らなかったから内緒案件?
「タルト生地を……」
む、これもいけない。溶けてない割と硬めのバターと小麦粉をフードプロセッサーで混ぜると簡単にタルト生地ができるのだが。
「キリツアのみじん切りができます!!」
皆の頭の上にハテナマークが浮かんでいる。包丁で切ればいいもんなぁ。
「……やっぱりいいです。何かよい魔導具がないか考えておきます」
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ブックマーク、評価、いいねありがとうございます。
昨晩はなんと、レビューをいただきました。
わーい!
ヽ(゜∀゜)メ(゜∀゜)メ(゜∀゜)ノワッショイ
丁寧に書いていただいて感激であります。
これからも頑張って書いていきたいと思います。
ちょうど山場を書き終わったところなので、一ヶ月チョイ先をお楽しみにです。
ダメなタイプの研究職の人たちでした。
頭は優秀。人付き合いとか距離とか、生活面がアウト。




