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【書籍化】精霊樹の落とし子と飾り紐  作者: 鈴埜


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144/280

144.王宮での料理教室

 髪飾りの店から帰るとアルバートもすでに帰宅しており、さらに、王宮から呼び出しの連絡も入っていた。次の日の朝からと言うことで、また馬車を回してくれるという。

「今日もよく動いたし、早く寝ます!」

 アラゼベーラ商店、遠かった。街の広さがシシリアドの比ではない。

「昼まで寝てたくせに」

「……ベッドが気持ちいいのでたぶん眠れます」

 野営はホェイワーズに慣れきってしまった体には、かなりきつかった。ベッド風にしてくれてはいるが、土だ。固い。そして、町の宿屋のベッドも固い。

「ホェイワーズって本当にすごいってことがわかりました」


 朝、フェナに起こされ朝食を摂る。二の鐘が鳴ってしばらくすると、馬車が停まった。先日と同じきれいな白い馬車だ。

「おはようございます。本日もよろしくお願いします」

 クリストファがまた迎えに来た。

 アルバートとシーナまではにこやかにしていたが、フェナも乗り込もうとしたところで表情が一瞬固まっていた。だがさすが、動揺をさとられないよう頑張っている。シーナはそれをニヤニヤしながら眺め、目があったところで微笑む程度に顔を作り変える。

 少し睨まれた。

 そして、三人が乗り込み扉が閉められると、部下に向かってハンドサインを出していた。先触れするつもりだろう。

 まあ、フェナを止めようとしても無駄なのだから、ここで押し問答にすらならない押し問答をするよりは、伝令を向かわせるほうが建設的だ。

 場所は一昨日と同じ第二王妃の宮殿。その厨房だ。朝の支度を終え、その場に居たのは三人の料理人と第二王妃、第三王女そして護衛だけだった。また赤い刺繍の第四騎士団だ。

 王妃と王女の頭には簪が三つずつ差さっていた。それに気づいて、目が合うと微笑みを返される。

 また一つ新しい流行の風を吹かせてしまったようだ。帰ったらイェルムに報告しなければ。

 料理人は男性が二人、女性が一人だ。みんなクッキーを食べ、とても感動したのでぜひ作れるようになりたいと志願したそうだ。

「それでは、基本の基本をお教えします」

 アルバートが料理人たちの服を借りて一通り手順を説明している。

 だが、シーナには、アルバートの言葉はまったく届いていなかった。

「こ、コスプレだぁ……」

 料理人のアルバートのイケメン具合といったらない。白い料理人のお仕着せが似合っている。

 もしかしなくても、自分、制服が好きなんだなと、今まで意識していなかった性癖に気づいてしまった。

 なかなか作り出さないアルバートたちに、少し苛立ちながらフェナが問う。

「いつできるんだ?」

「基本のプレーンなものですから、三の鐘までには出来ますよ」

 答えつつもシーナは視線をアルバートから離さない。

 普通に仕事もできて、クッキーまで作れるなんて、地球ならばモテ要素しかない。じゃがいもの皮むきも上手にやっていたし、プラスしかないではないか。

「フェナ様、もしよろしければ出来上がるまで別室へいかがですか?」

 第二王妃と第三王女が声を掛けると、フェナは少し視線を彷徨わせて頷いた。

「シーナは――」

「私はここでアルバートさんの……料理を見てます!」 

「ならばそれで」

 三人が退出すると、護衛騎士のほとんどが消えた。

 厨房はとても広く、この空間をこの人数で占拠しているのが不思議な感じだった。普段は何人くらいの料理人が働いているのだろう。

 火は薪も魔石もどちらも使うらしい。オーブンはかなり大きい。シーナの家のものの三倍はある。領主の屋敷のオーブンよりも大きかった。

 焼きムラがどの程度なのかわからないが、そこは料理人の腕の見せ所なのだろう。

 すでに生地をまとめて棒状にしていた。

 真剣な様子の料理人たちは、何やら一生懸命質問している。

 シンプルな丸形クッキーにするらしく、包丁で切って油を塗った天板に並べていた。

 手際も完璧だし、料理人たちへの丁寧な対応も素晴らしい。

「イケメン過ぎるんだよなぁ……」

 シーナは少し離れた場所で壁に寄りかかって腕を組み、クッキー作りを見ていた。

 護衛騎士の一人が直ぐ側にいる。

「……アルバートか?」

 すっかり忘れていて口からお漏らしした己を殴りたい。

「……そうですね。あれだけイケメンで性格も良くて気も利くのに、なぜ嫁からこないんだろう」

「彼は、子爵の子と聞いているが」

「らしいですね。本人曰く貧乏子爵で家督はお兄様が継ぐとか」

「うんんん、それは、なかなかに厳しいなぁ」

「貴族のお嫁さんはやってこないということですか?」

「貴族の、子爵クラスの令嬢相手では難しいだろうな。確かに彼の仕事での立ち位置はなかなか良いものではある。シシリアドは今では一番の注目領地だ。その領主の秘書官だろう? 立場は悪くないんだ。ただ、子爵クラスの令嬢の生活を継続させる稼ぎは難しいだろう? 屋敷の維持には想像以上の金がかかる」

「アルバートさんのお給料は知りませんが、たしかに季節ごとにドレスとか、それ以外にも使用人のお給料とか……怖っ」

「うむ、怖いのだ。斯く言う私も貧乏子爵だ。同僚も同じような境遇が多い。周りで結婚できた者たちのパターンはほぼ決まっている」

 ちらりとシーナを見る。

「興味はあるか?」

「興味ありありです!」

 貴族の事情など、あまりに知らない。人の話は面白い。

 ならば教えてしんぜようと、騎士の講義が始まった。





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シーナはかなりお口からお漏らしします。推し活中は特に。昔から。

次回は推しの結婚の可能性について探ります。

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