14.胃袋鷲掴み
こんな簡単に出来るとは思わないんですが、チート【料理再現】でも、世界樹様に贈られたってことで。
最初に出来たものはみんなで食べ尽くしてしまった。なので今度はバルが見よう見まねで生地を作ることになった。シーナとヤハトはソースを作る。かまどをもうひとつ火起こしして、材料をみじん切りにした。バルはなんでも器用にこなすとフェナに連れ去られた実績を持つだけあって、一度見ただけの生地作りを完璧に再現した。シーナより手のひらが大きかったせいで、卵は二つ使うことになったが。
結果的に倍量のパスタが作られ、お昼過ぎから伺ってはいたものの、夕飯の準備の時間が近づいてきていたので、ついでだとそのまま夕飯にすることにした。
ガラに夕飯までいただいて帰ると伝言を伝えてもらい、他に何を作るか考える。
「パンはもう少ししたら配達がある」
「となると、お肉料理と野菜、サラダかな?」
夕飯を作る管理人の老夫婦に、今日は任せておいてと請け負ったところである。
肉はとりむね肉のような味わいのものが用意されていた。
どうせならガッツリ胃袋鷲掴みにして、お願いを通しやすくしたい。
「よし、全力でいきます!! 本日のメインメニューはチキン南蛮です!」
実は、醤油のような調味料がこの世界にはあるのだ!
チカの実を塩に半年漬け込むと、絞れば味は醤油が手に入るのである。
「まずはタルタルソース。つまりマヨネーズ」
「マヨネーズ?」
「うん、落とし子は広めてなかったみたいだけど、今や兄姉弟子たちの間で中毒症状がでるほどの美味しいソースです。作り方は秘密にしてください」
かき混ぜるのが結構大変なので力仕事はヤハトにぶん投げる。その間に卵を茹でて、キリツアをみじん切りにする。あとはハーブ的なものも細かくして、ゆでた卵を砕いたところに投入。マヨネーズと塩コショウお酢でタルタルは完成。キリツアは水にさらさなくてもわりと辛みが少ないのが玉ねぎより使い勝手がいい。
次はサラダだ。生野菜は同じようなもので、ハムの薄切りを添え、ドレッシングは醤油もどきを使った、和風タイプにした。パンもきたし、あとは肉を焼き甘酢にくぐらせ、パスタをゆでれば完成である。
油で揚げるのは、油を大量に使いすぎるので、フライパンで揚げ焼きにすることにした。なので肉も一口サイズにそぎ切りだ。小麦粉をはたいて、卵液にくぐらせ、油たっぷりのフライパンに並べる。横ではバルが生パスタを湯がき始めていた。
その頃になると老夫婦もやってきて、皿をだし食堂へ運ぶのを手伝ってくれる。テーブルセッティングはヤハトがすでに完璧にしていた。
「どうですか?」
パスタを一口食べたフェナは眉間に皺を寄せて瞑目していた。
モグモグと口を動かしていたのがピタリと止まる。
「この間のとは違う…」
「冷製パスタは作ったことなかったんで……」
失敗したくなかったのだ。
「でも、これもすごく美味しい」
すごく美味しいいただきました!
ほほに手を当てたフェナはさらにもう一口パスタを頬張った。
「この上にかかるソースにバリエーションがあるのね……他にも知ってるの!?」
「ええっと、まあ、いくつか。好みはあるでしょうが、気に入ってもらえるものはあるかと」
パスタなんぞいくらでもソースで変わる。
「それで、こっちは?」
「チキン南蛮です。卵で作ったソースを少しかけて食べてください」
私はドボンと浸けたいけれども、お行儀が悪そうなのでやめておく。お手本とばかりに、お上品にすくったタルタルを甘酢にくぐらせたお肉に乗っけて食べて見せた。
ああ、美味しい。
フェナやバルにヤハトも同じように食べる。
食卓はこの四人で囲んでいる。老夫婦は別室で食べるそうだ。
「んまっ! え、卵なに、これ卵から作ってるよな?」
「卵と卵から作られてる、はずだ。シーナ、よければこのソース買い取りたい」
「ええっ!? お金は取る気ないですよ」
「いや、これは取ってもいいレベルだぞ……」
「でも、うちの兄姉弟子たちみんな知ってるし。あんまり広めないでもらえたら」
市場から卵が消え失せそうなので。
などと、三人が話をしていると、一人静かなフェナがカタンと音を立ててフォークを置いた。
「私は、今、あんたに組み紐師を辞めさせてうちの料理人にするかを悩んでいる……」
「ええー! やですよ。組み紐作るのけっこう好きでやってるし」
そう、この生活を、シーナは結構気に入っているのだ。
「あんたの生活費は私が出してるのにっ!」
「ありがとうございまーす。とっても感謝してます」
すごく恵まれてるのは実感しております。
「じゃあ、うちから通って……」
「歩いて片道三十分は遠いです」
シシリアドの街は結構大きい。しかも細い道がアップダウンを繰り返し続く。フェナの屋敷は貴族街寄りなので、つまり山脈に近く高い方にあるのだ。へこたれて帰ってきたとこに飯を作れと言われる可能性があるなんてお断りだ。棲みかと職場が同じ、通勤時間ゼロを選ぶのが当たり前だろう。
「……お休みはうちでご飯」
「月に二回しかないのに?」
「月に一度」
「まあ、それくらいなら。材料好きなように使えそうだし」
「金に糸目はつけない!」
「毎回美味しく出来るかわかりませんけどね。分量とかわからないし」
お菓子系は壊滅的だ。とりあえずパスタのソースを変えて場を繋ぐか?
話がまとまったところで、バルがこちらをチラチラとみて、耳を触っていることに気づいた。
そうだ、本来の目的を忘れている。
「その代わり私もお願いがあるんです!」
そう言って鞄から索敵の組み紐ピアスを出して渡す。
「あら、新作? ……索敵?」
「流石ですね、フェナ様。索敵のピアスを作ってはみたんですが、師匠が効果がどのくらいあるかわからないと言っていて、ためしにバルさんに使ってもらうんですけど、怪我をしたら困るので是非治癒の魔法を使えるフェナ様にも側で見ていて欲しいなと」
「面白いじゃない。これもまた可愛いし。私が試してみるわよ」
「あー、フェナ様よりも、魔力の少ないバルさんに使ってもらって、どれくらい魔力を使うかとか、何回くらいまで使っても問題ないかとかをいろいろ試してもらいたいんです」
つまらなそうなフェナだかここは譲れない。
これは実験なのだ。
「ま、いいわよ。じゃあ行きましょ」
元気良く立ち上がるフェナに、ヤハトが、えーっと声を漏らした。




