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【書籍化】精霊樹の落とし子と飾り紐  作者: 鈴埜


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118/280

118.駆け出し組み紐師

 フェナたちが出発して、シーナも店に戻った。悪夢は殆ど見なくなっていた。

 日も昇らないうちにシシリアドを発ったので、 もちろんシーナはぐっすり夢の中だった。お守りを先に渡しておいて正解だ。

 明後日からもう九月になる。つまり、月末には狩猟祭と祝賀会。流れの冒険者が多くなる。

 合間に組み紐の訓練はしている。三色もなんとか色寄せしてある程度の組み紐(トゥトゥガ)が作れるようになってきた。

 己の成長を感じられる瞬間がある。

「シーナの色見本を出そうと思う」

「え、大丈夫ですかね?」

「その代わり二色のみってことにするわ。もちろん色がかなり似ている人に限る」

 それならばなんとかなるかもしれない。

「おめでとう、シーナ」

「一年半はすごいよ」

「努力していたもんな」

 兄姉弟子が口々に寿いでくれるので照れてしまった。

「二、三日仕事にならないかもしれないけど、まあ覚悟しなさい」

 という不吉な言葉をガラからいただく。まあ、金持ってる常識ない落とし子(ドゥーモ)とお近づきになる方法だしなと理解はしていたが、しかし、ここまでとは思わなかった。


 色見本は六つの精霊との親和性がどの程度か。さらには全部が混ざったときの色味はどんなものか。これは神殿にて発行される。精霊使いとしてやっていくと決め、登録したときに、神殿で測られるものだ。親和性はわかりやすい。例えば二色持ちと言われる精霊使いで火と風ならば、火と風の数値が突出しており、後の四つは地を這うようなものとなる。これは数値で表される。

 色味が問題だ。いくら火と風の二色といっても、他の精霊がゼロであるわけではない。この世界に住まう者は等しく全ての精霊の影響を受けるのだ。その加減で色がひとりひとりまったく違ってくる。

 神殿で渡される色見本は親和性の数値と、魔力をプレパラートのようなガラスの板に閉じ込めた物でできている。

 シーナの色見本も神殿で作る。同じような板ガラスに魔力を閉じ込め、専用の機器で覗くと、どのくらい色味が似ているかわかるのだ。

「二色しか作れません」

 表にシーナの色見本を置いたそのときから、周囲に迷惑をかけるほどの色味が合うかどうか試す、長蛇の列が出来た。

 しかも色見本が壊滅的に合わないのに合ったといってシーナに組み紐(トゥトゥガ)を作らせようという輩がやってくるのだ。

 一度受け入れ、編もうとしたら気持ち悪いほどに色が合わなくて、色見本を確認すれば真っ黒という、本当に話すきっかけだけを作ろうとする迷惑行為に、初日の午前中で色見本を本人に確認させることを断念した。

「お店に迷惑がかかるのでちょっとやり方を考えます。この先、私も仕事をしなければと思いますし」

「そうね……これは酷い」

 色が合えば鮮やかな精霊の色になる。

 反対に合わないのは黒くなる。補色の関係のようなものだ。相対する色で、赤と緑を混ぜると黒になるような。グレーやとにかく彩度の低いものは合わないということ。

 シーナとしても色が合うなら仕事をしたい。

 店の前に人だかりができるのも迷惑だ。

「ここは組み紐ギルド長(ガングルム)さんにこの間の素材分をさっそく返してもらおうと思います」


 組み紐(トゥトゥガ)作りの予約と色合わせを同時にするからダメなのだ。色合わせをしてからの予約取りだ。

「次の方〜はい真っ黒さよーならー」

 組み紐(トゥトゥガ)ギルドの一角を借りて、専用の機器まで借りて、一日を色合わせ鑑定会にした。

 長方形のテーブルのこちら側に、シーナとお目付け役のガングルム。あちら側にシーナに組み紐(トゥトゥガ)を作ってもらいたい希望者だ。

 ギルドの隅と機器を貸してもらえるだけで良かったのだが、なぜかガングルムがやる気で横に座っていてくれた。

 面接官のようになってる。

「おい、お前が二色なんて作ってどうするんだよ」

 どうやら三色以上持ちらしい。そういった人は色見本を試すまでもなく弾かれる。

「シーナの腕が上がってから来な!」

「お父さんのガードが硬いわぁ……」

「誰がお父さんだ! こんな世話をかける娘はいない」

 使える精霊の数が多いほど、精霊使いとしての能力は高くなっていく。魔力量もあるが、魔力量が低ければほとんど二色に絞るのだ。つまり、一般的にいって、色の少ないほうが普段からの儲けも少ない。

 シーナはまだ駆け出しだし、しばらくは少し安めの値段で作るので、二色の駆け出しの精霊使いと色が合えばいいなと思っている。

「ん、これはわりと合ってるかも?」

「お、そうだな。いいんじゃねぇか?」

 当選者は大喜びだ。

 いや、真面目に組み紐(トゥトゥガ)作るだけなのだが。

 明日の二番目に予約を入れて、本日はお引き取り願う。列に並んでる者から羨望の眼差しを受け去っていく。まさか闇討ちされたりは、しないだろう。

 そして問題児。

「おめぇは五の雫だろうがぁ!」

 【暴君】ダーバルクの登場である。

「俺じゃねぇよ。こいつだ」

 ダーバルクに隠れていたのはモヒカンCこと――

「えーと……」

「ローダだよ。お願いします」

 エールを冷やしてくれたときに組み紐(トゥトゥガ)を見た。たしか水と土だったはずだ。

 差し出された色見本の端に、水と土、多少の光の数値。だが、光は他二つに比べて極端に少ないので、二色で頑張っているのだろう。

「お、これはまた、案外イケてますよね、ガングルムさん」

「おうおう、悪かねぇな。合格だ」

 まさかのこちらが客を選ぶ立場だ。たかが二色の組み紐(トゥトゥガ)でだ。

「明日はお時間どうですか?」

「大丈夫だよ」

「じゃあ明日の午後一番でお願いします」

「こちらこそ」

 ダーバルクと一緒の【暴君】の一員のくせになんとも腰が低い。

「シーナ」

 帰りがけにダーバルクが振り返る。

 「駆け出しおめでとう」

「ありがとうございます」

 シーナの顧客を増やしに来てくれたのだろう。やってることはイケメン。

「……あいつはお前に懸想でもしてるのか?」

「娘さんが同じくらいの年らしいですよ」

「へぇ……十五くらいか?」

「……十二だそうです」

 笑いを堪えきれないガングルムと共に、計八名。二日間の予約を取り付けたシーナであった。

 



ブックマーク、評価、いいねをしていただけると嬉しいです。


組み紐師としてのお仕事始動します!

シーナは子どもに見えるので、お父さん化現象が起きます。

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