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113.指名依頼

 午後もだいぶ遅い時間で日が暮れ始めている。冒険ギルドもその日の常時依頼の報告にと、人で溢れかえっていた。

 その中をイェルムはすいすいと進み、一番奥の受付の女性に割り込む形で声をかけた。

「ギルド長を呼んでくれるかな? シーナが指名依頼を出すと」

 横入りされた冒険者はイェルムを睨んでいるが、受付の女性はすぐそばの職員に声をかけ戻ってきたので揉め事にならず済んだ。冒険者ギルド長のビェルスクもすぐにやってきた。

「おう、こっちに来い」

 ビェルスクがカウンターの内側へシーナたちを誘い、そのまま奥の階段を登る。

「今の時間は終い時でな、悪いが職員一同大忙しだ」

 組み紐ギルドとそう変わらない作りで、奥まで案内された。


「んで? 指名依頼?」

 ローテーブルを囲んでイェルム、アルバート、シーナ、そしてビェルスクがソファに座った。ヤハトはソファに座ったシーナの後をウロウロしている。

「ええ、シーナさんからの指名依頼ですよ」

 イェルムがホクホク顔で、さあどうぞとシーナを促した。

「えーと、ほぇ? 何でしたっけ」

「ホェイワーズだよ」

 アルバートが苦笑しながら教えてくれる。新規のカタカナ名前覚えにくい!

「ホェイワーズ!?」

「フェナ様へ指名依頼までちゃんと言えってー」

 ヤハトからの逆指名です。

「そりゃまた、まあ、了解した」

 そう言って席を立ち、奥の執務机に座ると紙に何やら書き出す。

「いくらにするんだ?」

 シーナの方を見ずにイェルムへ尋ねている。

「大金貨五十枚からかと」

「まあそうだな、それくらいだろうな。あとはフェナ様のご機嫌次第だ。素材は依頼人に全部、だよな?」

「そうですね。一匹分はシーナさんへ。二匹狩るかはフェナ様の腕次第」

「今需要は?」

「実はちょうど在庫が切れそうだという話が漏れ聞こえておりますので、時期は悪くありませんね。世界樹様のお導きです」

「余剰分の行先が決まってるのはいいな。帰りは西の森を迂回だろ? 行きは好き放題して飛んでいきそうだが」

「だろうね。帰りに時間がかかるから、やる気ならすぐ出ると思う。荷車はあっちの街のほうが近いし、そっちに頼むんじゃないかな? 二匹狩ったら一匹はあっちに納品だと思うし。もしかしたら途中までこちらから荷車出して貰う可能性もある」

 ヤハトがノリノリで答えている。

「わかった。フェナ様がホェイワーズ狩りに出るときあっちの街に連絡を入れよう。金のやり取りはもう神殿でやれ。シーナに現金を持たせるな」

 そう言って、ビェルスクが差し出した紙をヤハトが受け取る。

「五十枚なら受けてくださると思うが、シーナここにサインを。読めねぇだろうから、イェルム、保証を」

「はい喜んで」

 シーナよりも先にイェルムが内容に齟齬がないことを保証する旨サインをした。シーナも二枚の紙に名前を記す。

「しっかし、ホェイワーズかぁ。豪気だなぁ」

 呆れてるような驚いているような顔でシーナを見る。

「フェナ様の家のベッドがそんな高いものだと思わなかった……」

「公爵クラスはほぼホェイワーズだがな。領主様の家にも新しく入れたんだろ?」

「ええ、収めさせていただきましたよ。おかげでうちの在庫はゼロですので、シーナさんから余剰分を買い取るつもりです。王都でもそろそろ在庫をと聞いていますので、二匹狩れればお声がかかるでしょうね」

「あれの狩り場が遠いのが悔しいなぁ。依頼だから確実に一匹はうちに入るが、さすがに二匹こちらに持ち込まれる理由がない」

「でっかいもんなぁ、あいつ」

 フェナが二匹狩る前提になっていて面白い。

「ベッドを作ることになれば加工で現場は潤います。他にもたくさんシーナさんのお家の工事や家具やらで、冬前にみんなの懐が暖かくなって良いこと尽くしですね」

 経済が回ると言うことだろう。

「ホワイトゴートウッドも手配しないといけませんね。シーナさんは今フェナ様のお屋敷にいらっしゃいますよね?」

「そうですね。そろそろお店のお部屋に戻るつもりですけど」

「色々と、お聞きすることができたらまずフェナ様のお屋敷に人をやりますので、一言お伝えよろしくお願いします」

 話はまとまったと、本日は解散の運びとなった。領主の屋敷はフェナの屋敷の先にあるので三人並んで薄暗くなってきた道を行く。夏真っ盛りなので、この時間になりようやく涼しくなってきた。部屋の中をあちこち見て回わると、どうしても汗をかいてしまうが、それでも日本の夏とは湿度が違う。日陰はわりと過ごしやすい。途中不自然な涼しい風が吹いていたのは、フェナやヤハトのお陰だろう。

 屋敷に着くとちょうど夕飯の支度が終わって、フェナとバルも食堂に集まったところだった。

「フェナ様〜! ホェイワーズ狩りの指名依頼!」

 預かっていた紙をウキウキで差し出している。

「へぇ、ホェイワーズかぁ」

 ニヤニヤこちらを見ている。

「よろしくお願いします」

「どーしよっかなぁ〜」

 なんだかとても楽しそうだ。

「罠の準備が必要ですね。明日から始めます」

 バルはもう先のことを考えている。

「フェナ様! 二匹捕まえようよ!」

「二匹捕まえられるかはお前の働き次第だ」

「水もだいぶ上達したし、いける!」

 ヤハトのハイテンションに、焦らすのも馬鹿らしくなったようで、そこからは何やら難しい専門的な話となった。

 どうやら魔導具も必要になるらしい。

「皮を傷つけたら台無しだからな。ホェイワーズはいかに美しく狩るかが腕の見せ所になる。自分のベッド以外は売るのか?」

「そうですね、一つ分以外は売ります。イェルムさんが買ってくれるそうですし、その売ったお金で少しでもフェナ様の支払いを補填したい……」

 依頼に五十枚かかるのなら、素材を全部売れば五十枚以上ということだ。指名依頼分もあるが、たぶん、かなり戻って来るはず。

「自分の分だけか。客間は?」

「お客なんか泊まりにくるかもわからないのに、そんな高価なベッド置きっぱなしになんてしておくのはもったいなさすぎるでしょう……」

「ふぅん……シーナならとりっぱぐれはないから、前金も帰ってきてからでいいよ」

「いやいや、それはダメですよ! ちゃんとしましょう」

「神殿に何度も行くのが面倒だ」

「バルさ〜ん!!」

「フェナ様がいいというならいいんじゃないかな?」

 何を言ってもダメなタイプのバルになっている。彼もまた狩りを楽しみにしている一人なのだろう。

 まあ、依頼を受けてくれるようでよかった。



ブックマーク、評価、いいねをしていただけると嬉しいです。


指名依頼料以前に、フェナ相手だと受けてもらえるか問題がでてきます。

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