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103.嘘発見器

 午前中は厨房で料理人たちの料理作りを見ていた。

 部屋に届いた糸で髪飾りを編むか悩んだが、昨晩のマッサージを無駄にしたくなかったのでやめた。

 ヤキニクソースはこの短期間に種類をかなり増やしていた。使うフルーツや香辛料を肉に合わせて変えているらしい。

 こちらが教えてほしいくらいだ。

「シーナお前、他にも色々ネタ持ってんだろ」

「持ってますねぇ……内緒だけど」

「聞きてぇけど、対価がねぇ」

「私が死ぬ間際に教えます」

「俺は知れねぇじゃねぇか……」

 料理人たちが、嘆く姿を見て笑う。

 パンは危険なんだよなぁ……。カビがなぁ。あと日持ち。

 昼食厨房で一緒に摂っていると、屋敷全体が慌ただしくなる。

 アルバートが、バルバトに少しだけシーナを頼むと厨房を出て行き、すぐに戻ってきた。

「騎士団が到着した。シーナも来てくれ」

「騎士団? 王女様に付き添ってきたのは?」

「ああ、王女様の護衛は第三騎士団だ。今回来たのは第四騎士団だね」

 騎士団はたくさんあるらしい。

「かなり飛ばしてきたようだから、もしかしたら早めに料理の要請があるかもしれない」

「おう、夕飯の仕込み、始めておく」

 まだ呼ばれてはいないが、一度は呼び出しがあるとのことだった。所在を明らかにしておくため自室に戻る。

「ガガゼの角の下りを、君の口から聞きたいと思うからね」

「はーい」

 途中黒衣の騎士たちとすれ違う。同じような衣装だが、刺繍の色が違った。王女についてた騎士団長のは青色のだったが、彼らは赤い刺繍だ。騎士団によって装飾の刺繍が違うのだろう。

 かっこいいなぁ〜と心の中で思ってつい見入ってしまうと、あちらと目が合い、慌ててそらす。

 そして、部屋の前にも赤の刺繍の黒衣の騎士たちがいた。領主付きの精霊使いも一緒だ。

「ああ、アルバート、シーナさんも。領主様がお呼びだ。来てくれるか?」

「ああ。行こうシーナ」

 アルバートに促され、彼らの後をついて行く。

 第四騎士団の騎士がチラチラとシーナを見る。

 こちらと目が合うと、今回はあちらがそらした。

 首を傾げると、すまない、と小さな声で応える。

「いや、落とし子(ドゥーモ)組み紐(トゥトゥガ)師と聞いていたので、てっきり成人だと。こんな幼い子供があの索敵の耳飾りを産み出したのかと思ってな」

 うん、すまないがたくさんだな。

 アルバートが気まずそうにこちらを見る。

「酒の飲み比べしましょう、騎士様」

「シーナ、やめよう……」

 アルバートはそっと止めに入り、領主の精霊使いは笑いをこらえている。

「酒?」

「今年で二十五になりました」

「……申し訳ない」

 言い出した彼以外の騎士が、嘘だろうみたいな表情をしているが、そちらもすまない案件である。

「アルバートがシーナに化粧品を贈ればいいと思う。パーティーに来てたときは二十歳は越えて見えたよ」

「平民がこのあとも何十年も化粧品を買い続ける負担を考えてくださいよぉぉ」

「シーナ金持ちだろ」

「ずーっと金が入り続けるかわからないじゃないですかぁ。人の倍生きるんだから人の倍貯金しておかねばならぬのですよ」

 精霊使いのおかげで気まずい雰囲気がマシになったところで、部屋に入る。

「悪いわね、シーナ。何度も」

「本当に、いい加減にして欲しい」

 もちろん答えたのはフェナ。王女のそばにいる護衛たちの眉間のシワがヤバイ。

 シーナは答えずニコニコとしておいた。

 アルバートの後ろについて移動し、隣に立って気配を消す。壁と同化してしまいたい。

 フェナはもうお役御免なのか、部屋の隅のソファに偉そうに座っている。長い脚を机に乗せて行儀が悪い。

 部屋の外が騒がしくなり、扉が開かれると、第四騎士団の騎士に連れられた、ワイガナードと、彼によくにた中年男性だ。

「殿下! わたくしは――」

「黙れ! 貴様に口を開くことを許可していない」

 中年男性が何かをいいかけるが、連れて来た騎士が腕を取り押さえつける。

「イーデンゴート領主よ、私は今回の事件に蹴りをつけるよう陛下から命じられました。よって、そなたと、そなたの息子に、【審判の業火】を使用します」

 王女の言葉に、イーデンゴート領主は目を見開く。顔から血の気が引いて、汗をダラダラとかき始めた。その視線の先には息子のワイガナードがいた。

 ワイガナードの顔は紙のように白かった。

「ただ、申し訳ない、シーナ。貴族の言葉より平民の言葉を信じるのかなどという輩が一定数存在する。私の周りの者は私が説得するし我が名にかけて貴女を疑ってはいないのだが、シーナにもこの【審判の業火】を使用させてもらいたい」

 めちゃくちゃ燃えそうなんだが。

「拒否権はないのでしょうが、どんなものなのか聞いても大丈夫ですか?」

 あの二人の反応を見るにエグいものっぽい。

「もちろん。ハーカレイル、説明を」

 王女の脇に控えていた、第四騎士団の男性が前に出る。彼の手には薄い黒い板があった。

「こちらが【審判の業火】です。こちらを床に置きその上に立ってもらいます。そしてこちらの質問に全て嘘をつかずに答えてもらいます。嘘をついていた場合は、炎に焼かれます」

「おお……嘘発見器ですね。了解しました」

 あちらのよりもずっと性能が高そうである。

「事実と違っても自分がそうだと思いこんでいたら焼かれない感じですか?」

「そうですね。まあ、質問の仕方でそこら辺ははっきりと分かるでしょう」

 まあ、特に今回の事件で嘘を付く必要があることはないので問題無い。

 シーナの無知から結果嘘をつくことになっていても、シーナはそう信じているなら焼かれないということだ。

 それではと、【審判の業火】が床に置かれ、シーナはその上に立った。

 ちょっとドキドキする。

 踏み絵みたいだなとも思う。黒い板は石のような材質らしく、そこに赤い線でなにやら陣が書いてあった。

 ハーカレイルが始めようとしたところへフェナがやってきた。

「シーナ、他にも別の種類のクッキーあるでしょ」

「フェナ様ぁ!? あ、ありますけど!」

 嘘がつけないのに、これは酷い!

「どんなものがあるの?」

「えええええ! これ、答えないといけないんですか!? ジャム乗せたのとか、ココアがこの世界にあるのか知らないけど、混ぜたらマーブルとかって、これ答えないといけないんですかぁ!?」

 王女がジャムと呟いていた。

 

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