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【短編完結済】浮気者な婚約者様にさようなら~魔女に恋心を取ってもらったら運命の人に溺愛されて幸せになりました~

作者: かのん


 アベル様と出会ったのは、私の10歳の誕生日会。その日はたくさんの贈り物と祝福をもらい、私、セリーナ・ヴィットはとても幸せだった。


 会場中に甘くてとてもいい香りがして、拍手とともに現れた大きなケーキに私は大喜びをした。


 そんな幸せの中、アベル様と出会えたことは運命だと思ったの。


「セリーナ嬢。誕生日おめでとう」


 金色の髪と、美しいエメラルドの瞳の貴方はまるで妖精のようで、私は一目で恋に落ちたわ。だってまるで絵本の中から出てきたみたいで、胸が高鳴ったの。


 貴方からのプレゼントは、綺麗な蝶のブローチ。光に当てるとキラキラと光って、とても綺麗だった。


 だから、同じ侯爵家同士の貴方との婚約の話が出たときも喜んで受けたし、貴方の側にいたいと思った。


 全てが完ぺきだった。


「アベル様。大好きです」


 一緒にお茶を楽しむ時に、恥ずかしいけれどそう伝えた。


 婚約してからしばらくたって、何回か会ううちに私は貴方に会えば会うほどに惹かれていった。


 口数は少ない貴方だったけれど、優しくエスコートしてくれたし、庭を案内してくれた時も、植物のことを丁寧に押してくれたのが嬉しかった。


 私、バカだったのよ。


 それが貴方のやさしさだと思っていた。思い返してみれば、あれは親に言われたから仕方なくエスコートして、しゃべることがないから、植物の説明をだらだらとしていただけだったのにね。


 なんで、自分にも愛を返してもらえるなんて期待しちゃったのでしょうね。


「は? 僕は君嫌い。瞳の色も髪も真っ黒で全然可愛くないし、家同士のことたけど、本当にこんな婚約最悪」


 その言葉に私は驚き、恥ずかしくなった。


 アベル様と違って私はなんの取り柄もなく、見た目も地味。


 今まで考えたことがなかっただけで、確かに見た目で言えば私たちは不釣り合いだった。


「ご、ごめんなさい」


 反射的にそう謝ると、貴方はとても面倒くさそうにため息をついた。


「はぁ。とにかくさ、俺のことあんまり縛るのはやめてよ。俺、可愛い子と恋愛したいし」


「え? でも、婚約したのに」


「は? 逆らうの?」


「いえ、そうでは、なくて」


「とにかく、俺は君のこと好きじゃないから」


 はっきりと告げられ、私は胸が痛かった。


 好きな人に好かれないということの悲しさと、言葉の冷たさに私は涙をぐっと堪えた。


 それから、時は過ぎていく。


 十四歳くらいからアベル様はたくさんの女性と噂になり、そのたびに私はやめてもらえるように懇願した。


「アベル様……あの」


 私が口を開くたびに貴方は舌打ちをするようになって、私は、自分の考えや気持ちがどんどん言えなくなった。


 何度も自分に言い聞かせるように、今回だけ、ただの遊びだと、そう考える。


「ねぇ、貴方、アベル様のどこが好きなの?」


 浮気相手の女性に呼び出されてそう告げられて、私は何と答えればいいのか分からなかった。


 ただ、好きだった。


 好きなことに理由が必要なことの意味が分からなかった。


 よくよく考えてみれば、きっと、あの誕生日の日に、私の気持ちはアベル様にもっていかれたのだ。けれど、今振り返ると、よくわからなくなった。


 どうして私は十歳から十六歳までの六年間もの間、あのクズのことが好きだったのだろうかと。


 十六歳になった私は今、まさにそう感じていた。


 元々大好きだった婚約者の、”好きだ””愛している”という思いを魔女様に抜き取ってもらい、今現在彼のことが大嫌いになっていた。


「私ってなんであんなクズ男のことが好きだったのかしら」


 思い返してみても、恋心を失った今、全く理解が出来ない。


 昨日まではアベル様のことを思うと胸が痛くて、一喜一憂していたというのに、私が今アベル様に抱く感情と言えば、クズな男。というものだった。


「うそ……私、アベル様のこと、好きじゃないわ。まぁ。不思議」


「ははっ。そりゃそうだろうね。ほら、これがあんたの恋心さ」


 目の前にいるのは、黒いローブを着た魔女。


 私は現在、魔女様の占いの館に来ている。


 魔女の手には桃色の水晶が握られており、その内側はかすかに濁っていた。


「魔女様がこんなことが出来るなんて、すごいですね」


「ふふ。私はね、長い時間生きてきたから、いろんな男に出会ってきた。世の中には本当にどうしようもない人間に恋をするやつがいるのさ。あまりにもねぇ、そんな人たちが不憫で、私はこの魔法を生み出したのさ。それで、最後にもう一度聞くが、これはもう、いらないね?」


「ええ。いりません」


 きっぱりと私が告げると、魔女様は桃色の水晶を自身の紅茶の中へと落とした。するとそれはすっと溶けて消えてしまう。


「あんたは悪いがね、これがなんとまぁ、美味いこと。美味いこと」


 魔女様はそういうと、カランコロンと音を立ててティーカップを混ぜ、そしてゆっくりとそれを味わうように飲みだす。


 私は本当に美味しいのだろうかといぶかし気に見つめるが、飲み干した魔女様は若返っており、頬が朱色に染まっている。


「ぷはぁ~。若返ったわぁ~」


「す、すごいですね」


 魔女様はくすりと笑うと、私の方をじっと見つめながら言った。


「あんたの想いが純粋だったからさ。だからこんなに甘くて美味しい。けどね、純粋だからといて幸せになれるもんじゃない。あんたはこの想いをなくした方がきっと幸せになれるよ」


「そうだと、いいんですが……」


「大丈夫さ。私が選ぶ子は皆、辛い思いを抱えていたがね、その後すぐに運命が訪れた」


「運命?」


 魔女様は楽しそうににこりと微笑むと言った。


「あんたは初恋ってやつに縛られて、本当の運命を逃してきた。それがきっとすぐにやっと自分の出番が来たと飛んでくるだろうよ」


「不思議な、話ですね?」


 魔女様はけらけらと笑い声をあげると言った。


「世の中は不思議なものだらけさ。けれど、それを見つけられるかどうかは自分次第。あんたも私を見つけただろう? きっと導かれたのさ」


 魔女様と私が出会ったのは、数日前の土砂降りの日だった。


 私がアベル様の屋敷から帰っている途中、馬車が止まると、路上にうずくまる魔女様と出会った。私は魔女様をご自宅まで送り届けた。


 魔女様は病気とかそういうのではなくて、べろんべろんに酔っぱらっていたのだ。


「いやぁ、久しぶりに飲みすぎた。けどね、私が飲むのも運命だったのさ。そのおかげであんたに出会えて、こうやって美味しいものにありつけた」


 そういうと、また魔女様はけらけらと笑い声をあげた。


 最初私は魔女様からお礼をしたいと招待され、行くかどうかも迷った。けれど、魔女様にアベル様とのことを言い当てられ、恋心をなくす方法があると聞き、私は思わずそれに縋ったのだ。


 もう、嫌だった。


 恋心に振り回される自分も。


 アベル様を思い続ける辛い日々も。


 だから、私は魔女様に飲み干されていく自分の恋心を見つめながら心の中でお別れを言った。


 さようなら。私の初恋。


 

 月に一度のアベル様とのお茶会の席。私は毎月この日を楽しみにし、一喜一憂していた。

 

 そしてたいていの場合、帰りの馬車の中で今日もアベル様を不機嫌にさせてしまったと落ち込んで帰るのである。


 けれど、私はもう以前までの私ではない。


 馬車の中で自分の胸に手を当ててみると、アベルに会える喜びよりも、別れを早く告げたいという思いの方が強くなっていた。


 両親にはすでにアベル様の一件については、浮気から今までの自分に対する言動だとかそういうものも、もろもろと伝えてある。


 今までアベル様を愛していたので黙っていた私だったが、もう関係はない。


 クズ男などこちらからご免である。


 両親は賛成すると同時に婚約破棄に向けての手続きも取ることを了承してくれた。もちろん浮気したのはアベル様であるから、慰謝料もとると、両親ともに意気込んでいる。


 ただ、ちゃんと別れは自分から告げたいと両親に伝え、現在はまだ婚約者の状態である。


 けれど、それも今日で終わりである。


 馬車を降りるといつものようにアベル様の出迎えはない。私はいつもアベル様が待っている庭まで移動し、そしてすでに席に座り、いらだった様子でお茶を飲む姿を見て、呼吸を整えた。


 さっさと終わらせて帰ろう。


 アベル様は私が来たことに気づくと、眉間にしわを寄せて、それから舌打ちをした。


「セリーナ嬢。やっときたか。遅い」


 私は微笑みを浮かべてアベル様の隣の席へと腰を下ろした。


「ごきげんよう。アベル様」


「……あぁ」


 この後きっと他のご令嬢との約束があるのであろう。


 時計をしきりに気にする様子を見て、私はこの人も懲りない人だなと思いながら口を開いた。


「アベル様。アベル様は、私との婚約どう思っていらっしゃるのですか?」


 元々アベル様は私のことが好きではないのだ。今考えてみれば、好きでもない女など相手にしたいわけはないだろう。ただ、貴族の役目であるから、本来ならばしょうがないことではあるのだが。


「っち。ふざけるな。嫌に決まっているだろう。前から言っているだろう。俺はお前が好きではない。好みでもない」


 私はその言葉にうなずくと、はっきりとした声で言った。


「では、婚約破棄いたしましょう」


 一瞬の間があく。


 近くにいた侍女や執事は動きを止め、アベルもまた、突然のことに動きを止めると、一拍置いてから私の方へと視線を向けた。


「何を言っているんだ?」

 

 私は持ってきたカバンの中から書類を取り出し、それをアベル様に手渡した。


 アベル様は困惑した様子ではありながらもそれらを受け取り、そしてその書類に目を通してから眉間のしわが深くなった。


「これまでの、アベル様の浮気についての情報とその証拠、あと私に言った言葉についても記載してあります」


「こ、これがなんだという?」


 意味が分からないといった様子のアベル様に、私は静かに答えた。


「アベル様。別れましょう」


「なっ!?」


 驚いた様子で立ち上がったアベル様は声を荒げた。


「何を!? っは! わかったぞ。そう言って俺の気を引く作戦か。ふっ、無駄なことだ」


 私はその言葉に笑顔で答えた。


「いえ、違います。私、もうアベル様のこと、これっぽっちも愛しても好きでもありませんから、むしろこんなクズ男こちらから願い下げです」


 その言葉に、アベル様は驚いたように、動きを止めたのであった。



 昔の私は、本当にアベル様のことが好きだった。


 高熱が出ても見舞いにも来てくれない婚約者だった。


 出かけようと言えば面倒くさいと、いつもアベル様の家でお茶会だけだった。


 自分と会った数時間後に、他の令嬢と町でデートをしている姿を見かける日もあった。


 浮気はやめてほしいと泣いて縋ったら、面倒な女は嫌いだと、顎をつかまれ、脅された。


 ただ純粋に好きだった。


 理由は何かと聞かれれば分からなかった。ただ、アベル様は私の特別だったのだ。


 けれど、今はもう違う。


「私、貴方のこともう好きではありません。むしろ嫌い? だから婚約破棄いたしましょう。正式な書類については後日郵送しますのでご確認ください」


 そう告げると、アベル様が驚いたような顔で言った。


「何を言っているのだ? これは……家同士の」


「あぁ、ちゃんと両親には了解をとってありますのでご心配なく」


「だ、だが、お前は俺のことが好きで」


「ですから、もう好きではありません」


「人間そんなすぐに変われるわけないだろう! お前はだって、俺のことが」


 もごもごと話し出すアベル様に、私はどういえば伝わるのだろうかと小首をかしげると、はっと思い出していった。


「いつもアベル様言っていたではないですか。お前など好きではない。いつでも婚約破棄するぞって。ですから、はい。婚約破棄いたしましょう」


 アベル様は唇をかむと、視線を泳がせ、そして言った。


「気を引きたいのはわかる……はぁ。わかった。デートか? プレゼントか? 何がいるんだ?」


 何を言っているのだろうかと私は思いながら小首をかしげる。


「いえ、ですから婚約破棄してください」


「あぁもう! いいかげんにしろ! 婚約破棄できるわけがないだろう! 俺の両親はお前のことを気に入っているんだぞ!」


 そんなことは知っている。だが、アベル様の両親の為に何故自分が犠牲にならなければならないのだ。


「関係ありません。私、もう嫌なんです。浮気しても悪気一つない貴方が。こちらの気持ちなど考えたこともないでしょう?」


「なっ!? だってお前が浮気しても、俺がいいと」


「浮気を容認してはいません。貴方が私の気持ちを利用していただけでしょう」


 ぐずぐずと文句を言うアベル様を見つめながら、以前までの自分は一体全体アベル様のどこがよかったのか理解に苦しむ。


 初恋の呪いとしか言いようがない。


「なんで突然……」


「突然? そうですねぇ……アベル様、私の貴方に向ける愛は枯れたのです。もう残っておりません。どうして婚約破棄を嫌がるのですか? 今まで、ずっと婚約破棄してもいいとおっしゃっていたではないですか」


「……両親に怒られるし……それに……遊びまわれなくなる」


 頭にきた。


 理由がそれかと、私は立ち上がると笑顔で別れを告げる。


「そうですか。ですが、もう無理ですので。正式な書類は後日発送いたします! では、失礼いたします!」


「まっ!? まて!?」


 アベル様は慌てた様子であったが、私はもう振り返らない。


 もうここに来ることはないだろう。


 

 帰りの馬車の中で、私は大きくため息をつく。


 馬車は町へと走らせてもらっていた。


 婚約破棄を嫌がるアベルの姿を思い出しながら、自分はなんと都合の良い女だったのだろうかと、最後のアベルの言葉で思い知る。


 アベルもわかっていたのだ。


 私以外の人と婚約すれば遊んだり浮気三昧をしたりできなくなると。


 自分の気持ちを利用されていたことに腹が立った。


 そして、こんな嫌な気持ちのまま屋敷に帰るのが嫌で、町へと馬車を走らせてもらっているのである。


 こういう時には甘いものと買い物が特効薬となる。


 町につくと、私はお気に入りのカフェへと足を向ける。後ろから侍女がついてきており、心配そうに私の様子をうかがっているのが分かる。


「あら?」


 いつのもカフェの前に、一人の騎士がうろついているのが見え、私はなんだろうかと小首をかしげてしまう。

 

 そのまま無視してお店に入りたいところなのだが、どうやら数人の女性が彼がいるためにカフェに入ることをためらっている様子である。


 アベル様と別れを告げたことで、その時の私は勢いがあったのだろう。


「失礼ですが騎士様。こちらのカフェに何かご用ですか?」


 振り向いた騎士の顔を見て、私は目を丸くした。


 白銀色の髪と瞳は珍しく、騎士団の中でもかなり有名な人物であった。


 今までアベル様しか見てこなかった私でも知っている。


「まぁ……第二王子殿下筆頭護衛騎士のロラン・ランドット様……ですか?」


 思わず名前を告げると、ロランは慌てた様子で恥ずかしそうに顔を赤らめると、うなずいた。


「も、申し訳ない。邪魔だったな……えっと……」


 私はその場で一礼すると名前を述べる。


「侯爵家のセリーナ・ヴィットでございます。あの、どうなさいましたか?」


 ロランは頬をポリポリと掻くと、小さな声で言った。


「実は、第二王子殿下のベルタ様がどうしてもここの苺のタルトが食べたいと……おっしゃっていて、お使いに来たのはいいのですが……入るのに勇気が……」


 ベルタ様といえばかなりの甘党で知られている。


 だが、筆頭護衛騎士のロラン様がお使いとは。何故従者や使用人に頼まなかったのか。


 私は驚きながらも、ロラン様が子犬のように困ったような顔を浮かべているので思わず口が開いた。


「あの、よろしければ買ってきましょうか?」


「え!? いいのですか!?」


「えぇ。かまいませんわ。少しお待ちになってくださいませ」


 ロラン様は慌てて財布を私へと手渡してくる。私はこのくらいならばいいのにという思いと、財布ごと渡されたことにおかしさを覚えた。


 私は侍女と共にお店に入ると、苺のタルトと、期間限定のケーキ、それに甘さ控えめの手軽に食べられる菓子を買うと店を出た。


 店に入ろうとしている女性たちを邪魔しないようにロラン様は店の前から離れた建物の隅に待機しており、私はその様子が可愛らしいなと思いながら買った品物と財布をロラン様に手渡した。


「こちらの箱には、苺のタルトと期間限定のケーキが入っております。あと、こちらの袋には甘さが控えめな騎士様でも食べられるような菓子が入っていますので、どうぞ食べてみてくださいね。あ、期間限定のケーキとお菓子は私からの差し入れですから、お財布のお金は使っていませんからご安心を」


 ロラン様は驚いたように顔をぱっとあげると、袋と私のことを何度も見比べてそれから、恥ずかしそうに言った。


「あ、ありがとうございます。お気遣いまで……」


「いえ。いつもお仕事ご苦労様です。では、これで失礼いたします」


「は、はい」


 私は人にいいことをしたことで心が軽くなっていた。


 その後はカフェに入りなおして季節のケーキを侍女と共に食べ、買い物を済ませて幸せな気持ちで帰ったのであった。



 第二王子であるベルタの執務室に帰ったロランは、ケーキの箱をロランへと手渡すと、ぼうっとした様子でソファへと座った。


 その様子に、ロランといつも一緒にベルタの護衛をする騎士スコットと、ベルタは驚いた様子でそんなロランを囲むようにソファへと座る。


「おいおい。どうしたんだ?」


 ベルタの言葉に、ロランは、はっとしたように顔をあげると、慌てて立ち上がった。


「も、申し訳ありません」


「いや。いい。あぁ、紅茶を準備してくれ。ロラン、お前はもう一度座れ」


 待機していた侍女はベルタの言葉に、お茶の準備をしはじめる。


 スコットとベルタは慌てた様子のロランに座るように促し、座ったロランは、手に持っていた袋を大事そうに抱きかかえている。


「えっと」


「一体どうしたっていうんだ。お前のそんな顔初めて見たぜ」


 スコットの言葉にロランは顔を赤らめ、その様子にベルタとスコットは若干引き気味である。


「じ、実は……」


 ロランはセリーナとの一件を二人に話しおえると、顔をあげて後悔した。


 二人はにやにやとした揶揄するような笑みを浮かべており、楽し気な口調で言った。


「いやはや、やっとお前にも春が来たか」


「一目ぼれかぁ」


 にやつく二人の言葉にロランは驚いたように目を丸くし、それから顔を真っ赤に赤らめた。


 第二王子の護衛として、スコットとロランは幼い頃から訓練を受け、そしてベルタが成人した十四歳から一緒に過ごす仲である。


 今年で十八歳になるのに、ロランは今まで浮いた話が一つもなかった。


 だからこそベルタもスコットも内心かなり喜んでいた。


 だがしかし、そこでベルタは少し考えると、はっと思い出したように言った。


「ちょっと待て、セリーナ嬢といえば、あの放蕩息子と噂の、アベル殿の婚約者じゃなかったか?!」


『え?』


 スコットとロランの声は重なる。


「確か、あんなにも浮気が激しいというのに、婚約者のセリーナ嬢といえば、アベル殿にかなり惚れこんでいるとか……」


 ロランの顔色が次第に悪くなっていく。


 スコットとベルタは初恋が一瞬で散ったと、どうこの哀れな友人を励ましていこうかと思っていたのだが、数日後に事態は思わぬ方向へと進んでいく。



「ロラン喜べ! なんと、セリーナ嬢がアベル殿との婚約を破棄したそうだ!」


「チャンスが来たぞ!」


 まるでお祭りがあるかのようなテンションでそう告げられたロランは、数日間葬式のように落ち込んでいたのが嘘のように活気を取り戻した。


 それと同時に、休暇を急いで取ると即日行動を開始するものだからスコットとベルタは苦笑を浮かべた。


「セリーナ嬢は……浮気男の次は、嫉妬深そうな男に好かれるとは……」


「まぁでも、浮気男よりは数十倍幸せにしてくれると思うぜ」


 二人は静かに、友人の初恋が実ることを祈ったのであった。



◇◇◇アベルサイド◇◇◇


 ー捨てられた。


 アベルは自室で謹慎を言い渡され、静かに部屋の中に座り込んでいた。


 セリーナとの結婚は十歳の時に決められた。その頃からセリーナは天使のような笑顔で自分を毎回受け入れてきた。


 会えば笑顔で嬉しそうに笑う少女だった。


『アベル様』


『アベル様! 大好きです!』


『アーベール様!』


 思い出の中のセリーナはいつも笑顔で自分の名前を呼んでくれる。


 けれど、先日のセリーナは別人のようであった。


 あれほどまでに冷ややかな瞳を向けられたことはなく、アベルは困惑した。それと同時に、何故突然自分を嫌いになったのかが理解できなかった。


「なんでだよ……あいつは、俺のことが」


「まぁまぁなんて哀れな男かしらねぇ」


「なっ!?」


 アベルが目を丸くして声のした方を向くと、ベッドに一人の美女が座っていた。


 そのいでたちを見たアベルは慌てた様子で立ち上がり、後ずさった。


「ま、魔女!?」


「ご明察。ふふふ。今日はね、ご馳走様って言いに来たの」


「え?」


 一歩ずつ後ずさっていくアベルに向かって、舌をぺろりと出した魔女は言った。


「女の一途な恋心っていうのは、とーっても美味しいの。でも、だめよねぇ。たまに本当に運の悪い恋に縛られる女の子が現れる。今回もそう」


 魔女はアベルに歩み寄るが、アベルは動こうとしても動けない。


 そんなアベルの元へ、魔女は一歩、また一歩と歩み寄ると、その額に人差し指を押し当てる。


「こんな、女の敵みたいな、クズな男に六年も恋心を捧げるなんて、可哀そうなセリーナ」


「ま、まさかセリーナの態度が変わったのは!? お前、魔女の仕業か!」


 その言葉に魔女は笑い声をあげると言った。


「あはははは! たしかにそうね。セリーナの恋心を美味しくいただいたのは私。でもね、これも運命よ」


「なんだと!? 戻せ! セリーナを、元のセリーナに!」


「そんなの無理よ」


 魔女は下をぺろりと出して、自分のお腹を撫でた。


「とっても美味しかったもの。私、基本的に可愛い女の子の味方なの。だからね、優しい女の子たちの代わりに、恋心を頂いたあとは、そのお相手にもご挨拶に行くのよ」


「な、なんだよ」


 強張った表情のアベルに向かって魔女は手をかざすと、言った。


「女の恋心を踏みにじるとどうなるか、知ってる?」


「お、俺は悪くない!」


「うふふ。よく言うのよねぇ。悪い男って。自分は悪くないとか、俺の自由だとか、でもねぇ、女の恋心を踏みにじったんだから当たり前のように代償は必要よ。だって、それくらい、恋心って重いのよ」


「待てよ! なんでだよ! 意味が分からない!」


「まだねぇ、踏みにじった恋心が一つだけだったらよかったのにねぇ。あなた、そうとう恨まれているわよ」


「え?」


 呆然とするアベルに魔女はにこやかに告げた。


「バカな男。女ほど怖い生き物はいないのにね。恋心を踏みにじった男は呪われるのよ」


「なっ!?」


「貴方が真実の愛を見つけられればこの呪いは解けるわ。うふふ。見つかるといいわねぇ~」


 次の瞬間アベルは自身の体が光ったかと思うと、魔女の姿は消えた。


 アベルは白昼夢でも見たのかと思っていたが、後日、魔女の呪いの恐ろしさを知る。


 婚約破棄をされた遊び人の放蕩息子が、夜の遊びが出来なくなったという噂が流れるのにさほど時間はかからなかった。



◇◇◇

 

 ロラン様との出会いがあった数日後、私の元には、ロラン様から先日の感謝の手紙と花束が届いていた。その花は自室に飾られており、その花を見るたびに、私は笑みを深めた。


「とても律儀な方よね。ふふ」


 花を見るたびに、何故か心が浮き立つのだから、私は花とはこんなにも人の心を豊かにするのだなと感じていた。


 そしてあれからロラン様とは手紙のやり取りをしており、心のこもった手紙を見るたびに、アベル様とは大違いだわと内心思うのだった。


 アベル様との婚約破棄は正式に受理されお父様がしっかりと慰謝料を支払うように、浮気の証拠等々をアベル様の両親にも見せたようであった。


 元々噂になっているくらいであるから、アベル様の両親も項垂れながらもすぐに慰謝料にも応じてくれたようであった。


 私はというと、現在、ちらほらと婚約申し込みの釣書が届いており、目を通すようにと両親から話を受けていた。


「さぁ、気合を入れてみましょうか。このままふらふらとはしていられないものね……」


 自分がまた恋愛できるのかどうかはわからないが、それでも今後ずっと家にいるわけにはいかない。侯爵家はお兄様が継いでいくので、自分はどこかへと嫁がなければならないのである。


「あら?……これ」


 婚約申し込みの釣書と共に、見覚えのある手紙が届いており私はそれをどきどきとしながら開いた。


「えっと……まぁ」


 驚いていると、控えていた侍女がほほえましげに言った。


「一目ぼれではないでしょうか」


「え? まさか」


 それはロラン様からの手紙であり、控えめながらも自分に好意があることを感じ取れるものであった。婚約申し込みの釣書と共に送られてきているのだから、もちろん、結婚を前提にということなのだろう。


 ロラン様の実家は代々王家の騎士の家系であり、侯爵の爵位を賜っている。


 家柄的には問題なく、私は手紙を見つめながらつぶやいた。


「今度、お食事でも一緒にどうですかってお誘いがあるわ……そうよね、まずは人柄を知るのも、いいわよね」


 すぐに婚約というのは、まだ勇気が出ない。


「お嬢様、幸せになってくださいませね」


 昔からずっと自分の世話をしてくれる侍女たちは、私の姿をほほえまし気に見つめており少し恥ずかしくなる。


「えぇ。今度こそ、頑張るわ」


 私は両親にロラン様と一度食事をしてみようと思うことを伝えると、それはいいと、賛成してくれたのであった。



 セリーナから手紙の返事があったロランはその日はかなり浮かれていた。ただし、女性経験がほぼ皆無であるからこそ、スコットとベルタに相談すると二人はあーでもないこーでもないと、ロランに向かって女性をどう扱うべきかを教えていったのであった。


 ただし、ロランにとってはかなり敷居が高く、ロランは諦めて誠心誠意自分らしくセリーナと過ごそうと決意するのであった。



 二人は、現在、料理と向かい合いながらカチコチにお互いに固まっていた。


 どうしたらいいのかしら。アベル様とはいつも、アベル様の興味のある話をしていたけれど、ロラン様の好きな話題が思い浮かばないわ。


 ちらりと視線をロラン様へと向けると、ばちっと視線があって、お互いに慌てて視線を反らす。


 二人の間には、なんというか、何とも甘酸っぱい雰囲気が溢れており、それを侍女や侍従たちは見守っていた。


 話題こそ弾んではいないが、なんというか、雰囲気が似ており、見ていてもほほえましくなる光景であった。


「あ、あの、ここのデザートは美味しいと評判なのです。その、この間セリーナ嬢も甘いものを好むのかと思いまして……」


「え? そうなのですね。えぇ。私、甘いもの好きなんです」


「洋ナシのゼリーが絶品だそうです」


「そう、なのですね。楽しみです。でも、あの、ロラン様は甘いものは苦手なのでは?」


 ロラン様は顔をあげるとぶんぶんと横に振った。


「嫌いではありません! ただ、その……」


「何か?」


「この間もそうでしたが、こう、体格の良い男が甘いものを買おうというのには、勇気がいりまして、なので、嫌いではないのですが……一人では食べずらさがあります」


 顔を赤らめながら恥ずかしそうに言うロラン様に、私はくすくすと笑みをこぼした。


「男性も、大変なのですね。あの、ずっと不思議だったのですが、何故ロラン様がお使いを?」


「ベルタ様が仕事をしたくないとぼやかれて……私がいると口うるさく仕事をしろというものですから、それで厄介払いされたんです」


「まぁ!」


 そこから二人の会話は弾み始め、それを見守っていた侍女らもほっと胸をなでおろした。


 屋敷に帰ってから、私はソファに座ると今日のことを思いだしては顔がにやついてしまった。


「ふふふ」


「お嬢様。楽しかったですか?」


「えぇ。本当に楽しかったの。ふふ。私、こんなに男性と出かけて楽しいなんて知らなかったわ」


 きっとそれはロラン様が一緒だったからだろうと、私は思った。


 いろいろなタイプの男性がいるが、ロラン様は私の意見を一つ一つ聞いてくださり、気遣ってくれた。


 そして、私の気持ちを焦らすことのないように、またデートしてほしいと顔を真っ赤にしながら言ってくれた。


「あぁ、ロラン様って可愛らしい人ね」


 思わず呟くと、侍女たちはくすくすと笑う。


「第二王子殿下の護衛騎士を可愛らしいと言えるのは、きっとお嬢様くらいですわ」


「本当に」


 くすくすと侍女に笑われて、私も笑ってしまう。


「はぁ。こんなに笑ったのは久しぶりだわ。ふふ」


 私は、またロラン様と出かける日が楽しみになったのであった。


 ロラン様と一緒に過ごすようになってから、私は、普通の男女とはこんなにもいろいろなところに出かけるのだということを知った。


 王立の公園へと遊びに出かけたり、町へと歌劇を見に行ったり。


 ロラン様は私の意見を聞きながら、いろいろなところへと一緒に出掛けてくれたが、一番、私が嬉しかったのが、カフェ巡りである。


 町の小さなカフェに一緒に出掛けて、他愛ない話をする。


 それが一番楽しかった。


 ロラン様は第二王子の護衛騎士であるから、忙しいのにも関わらず、休憩時間や、午前休みの日なども利用して私と会う時間を設けてくれた。


 そして会うたびに、照れくさそうに花束をくれる。


 頬を赤らめながら、こちらをちらちらと見つめてくる視線が可愛らしくて仕方なくて、私の心はいつの間にか、ロラン様で埋め尽くされていた。


 そして今日参加する舞踏会で、ロラン様にこの気持ちを伝えようと、私は決意していた。


「お嬢様。とてもおきれいです。さぁ、お迎えが来たようですよ」


 侍女にそう言われ、私は鏡に映る自分をもう一度確認してからロラン様の元へと向かった。


「お待たせいたしました」


 そう、声をかけると、ロラン様は私を見て顔を赤らめ、そして頭をぽりぽりと掻きながら、慌てたような口調で言った。


「せ、セリーナ嬢は、どんどん綺麗になって……驚かされます。セリーナ嬢と、今日、舞踏会に参加できるのが夢のようです……」


 その言葉に私も照れてしまい頬が熱くなる。


「えっと、私も、ロラン様と舞踏会に参加できることを嬉しく思います」


 二人で照れていると、侍女たちにくすくすと笑われてしまう。


 私たちは恥ずかしくなっていそいそと馬車に乗り込むと、舞踏会場へと向かった。


 両親にはすでに婚約をする意向を伝えており、お母様は泣いて喜び、お父様は少し寂しそうにしていた。


 お兄様はロラン殿なら安心だと、今日もしアベル殿にあったら、けりを入れてもらえなどと言っていた。


「今日は、楽しみましょうね」


「はい」


 一緒に参加する初めての舞踏会である。


 会場につくと、ロラン様は人目を引くからか、かなりの人から視線を向けられる。


「ほら、あちらがロラン様を射止めたご令嬢よ」


「あぁ、噂の。ロラン殿が相手なら、ご両親は安心だろうなぁ」


 どうにも生暖かな視線が多いようで、私がどうしたものかと思っているとロラン様が言った。


「行きましょうか?」


「はい」


 いつもは可愛らしいロラン様が堂々としており、さすがは騎士様だなと私は思わず見惚れてしまった。


 王族の方々の挨拶が終わり、第一王子殿下と第二王子殿下がそれぞれの婚約者様とダンスを踊る。それが終わってから貴族の面々がダンスを始めるのだが、私は緊張していた。


 アベル様は最低限しか踊ってくださらない人だったので、ダンスに自信がなかったのである。


「セリーナ嬢……その。私、あまりダンスに自信がないのですが、許していただけますか?」


 すると自分と同じようなことをロラン様も考えていたと知り。私は笑ってしまった。


「実は私もなんです。ふふっ。私たち本当に気が合いますね」


「え? はは。そう言ってもらえると気が楽です。では行きましょうか」


「はい」


 ロラン様と踊るダンスは本当に楽しくて、お互いに多少ステップを間違えてしまうところがあったけれど、それでも笑いあってどうにか乗り切った。


 一緒にダンスするのが、こんなにも楽しいと、私はこの日初めて知った。


 楽しい時間とは早く過ぎていくもので、舞踏会も間もなく終わりを告げる鐘がなる。


「セリーナ嬢。飲み物を取ってくるから、少し待っていてください。すぐに戻りますね」


「はい」


 最後に飲み物でのどを潤してから帰ろうと、ロラン様は優しく微笑みを私に向けてから飲み物を取りに向かった。


 その時だった。


 私は後ろから肩に手を置かれ、驚いて振り返った。


「セリーナ……」


「え?」


 そこには、顔色の悪いアベル様が立っていた。その瞳はうるんでおり、突然、私の目の前で跪いた。


「せりーなぁぁぁぁ」


 その上、大量の涙を流し始めるものだから私は驚いて、どうしたらいいのだろうかと戸惑ってしまう。


「あ、あの。アベル様、落ち着いてくださいませ」


「お、俺にはやっぱり、お前しか、いない。お願いだ。お願いだから、俺の元に戻ってきてくれぇぇぇ」


 わんわんと子どものように泣かれ、私は困ってしまう。


 人の視線も集まり始め、私は、とにかく人目を避けようと、アベル様をテラスへと誘導し、扉は開けたまま、アベル様をテラスに用意された椅子に座らせた。


 アベル様は涙をぼたぼたと流しながら縋ってくる。


「俺を、俺を本当に愛してくれるのはお前だけだ……セリーナ。お願いだ、もう一度、もう一度俺を愛してくれ」


 けれどそういわれても、困ってしまう。


 私はアベル様にはっきりと告げた。


「申し訳ございませんが、もう、貴方様を愛することはありませんわ」


「なっ……何故だよ。だって前はあんなに愛してくれたじゃないか」


 駄々をこねる子どものようなアベル様に、私は困ったように微笑み、胸に手を当てて言った。


「私の心はもう、貴方様には向きません。今、私の心はロラン様へ向いております」


「なん……だと……嘘だ、嘘だぁ。大丈夫だ。俺が、俺への想いを思い出させてやる!」


「え?」


 次の瞬間腕を引かれてアベルの腕の中に抱きしめられそうになるが、そうはならなかった。


「何をしている」


 怒気のこもった声が響き、私は腰を抱かれてロラン様の腕の中にいた。


 密着する状況にドキドキとしながらロラン様を見上げると、恐ろしい形相で、アベル様を睨んでいた。


 アベル様は一瞬で涙を引っ込めると、ロランの目の前に跪いていった。


「お、お願いだ。セリーナのことは諦めてくれ! 俺には、俺にはセリーナしかいないんだ!」


 その言葉に、ロランは鼻で笑うと言った。


「様々な女性に泣きついて、ふられている事実を私は知っている。最後の砦とばかりに、セリーナ嬢に縋るとは、なんと失礼な。二度と彼女には近づくな」


「なっ!? だ、だが、お前たちはまだ婚約はしていないんだろう! 決めるのは、セリーナだろう!?」


 私は大きくため息をつきながら、ロラン様の胸に首をもたげながら答えた。


「ですから、貴方様のことはもう愛しません。私が愛を向けるのはロラン様です」


「そ……そんなぁ……」


 がっくりと項垂れるアベル様は、ロラン様のお知り合いの騎士様方に連れていかれてしまいました。


「アベル様……どうなさったのでしょうね」


 思わずそう呟くと、私はロラン様の腕の中に抱きしめられた。


 どきっとして、ロラン様を見上げると、ロラン様は顔を真っ赤に染め上げていた。


「先ほどの言葉、本当ですか?」


「え?」


 先ほどアベル様に言った言葉を思い出し、私もロラン様同様に顔に熱がたまる。


 私は、緊張しながらも、小さくうなずいた。


「は、はい。私、ロラン様をお慕いしています。ですから、婚約をお受けしようと思います」


「セリーナ嬢! ありがとう!」


 ぎゅっと抱きしめられ、私とロラン様のお互いの心臓がどきどきとしているのが伝わる。


 それが心地よくて、私は幸福な時間を味わった。



 ロラン様との婚約は両家に祝福されて正式に受理された。


 私はとても幸せで、ロラン様と一緒に過ごせる日々がとても楽しくて、嬉しく思っていると、ある日ロラン様にカフェで驚きの事実を聞くことになる。


「え……アベル様、魔女様に呪われているんですか?」


「えっと、はい。真実の愛を見つけないと、解けない呪いだとか」


 その言葉を聞いて、あのプライドの高いアベル様がなんで泣きついてきたのかがようやく腑に落ちた。


「それは、大変ですね……あの、一体どういった呪いなのですか?」


「あー……えっと、えっとですね、男にとっては一大事というか、その」


 顔を赤らめながらあわあわとするロラン様を見て、私はこれは聞かない方がいい話題だなと思い至る。


「魔女様って、呪いもかけるんですね」


 そう言って話題をずらすと、ロラン様は安心したように息をついて言った。


「ええ。魔女というものは女性の味方ですから、悪い男は成敗されるようですよ。あ、でも私は成敗されないように、ちゃんとセリーナ嬢だけを見ていますのでご心配なく」


 真面目にそういわれ、私はくすくすと笑ってしまう。


 真っすぐで、いつも私が安心できる言葉をくれる。


 私は愛されることがこんなにも幸福なことなのだと知った。


「あら、真実の愛をつかんだようで安心したわ」


「え?」


 振り返ると、そこには魔女様が立っており、にっこりと妖艶に微笑むとロラン様にウィンクをした。


「貴方もよかったわね。私のおかげで本当の運命の糸が結ばれたんだから感謝して頂戴」


 私はその言葉に、魔女様から聞いた最初の言葉を思い出し、あぁ、自分に本当に運命はやってきてくれたのだなと感じた。


「えっと、魔女、様。はい。えっと、ありがとうございます」


 突然のことに驚きながらもロラン様がそういうと、魔女様は手をひらひらと振って去っていった。


「びっくりしましたね……」


「はい。そうですね」


 私とロラン様は顔を見合わせると、また笑いあった。


 運命が飛んでやってきたのだと、私はロラン様との出会いを思い出して笑みを深めた。


「私と出会ってくれてありがとうございます」


「こちらこそ。これからもよろしくお願いします」


 私たちは一緒にカフェでケーキを食べて、幸福な甘さをかみしめたのであった。



 おしまい

最後まで読んでくださりありがとうございました!

今後の励みになりますので、評価やブクマをつけていただけると、本当に嬉しいです!

皆様の評価が、WEB作家の未来を切り開くと思いますので、是非他の小説でも読んだ後は評価をつけていただけると、心から喜びます!飛び上がって喜びます!おそらく全作家評価つけてもらえたら本当に喜びます!(●´ω`●)お手数おかけしますが、よろしくお願いいたします。


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1・2巻共に4万字加筆! 2巻にはなんとコミカライズ1話も収録してあります! 特典SS付き。たくさんの皆さんに読んでいただけたら嬉しいなと思います(*´▽`*)

短編【どうやら私は不必要な令嬢だったようです】あげました! こちらは少し切ないストーリーです。お時間のある時にぜひ、よろしくお願いいたします!

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