2 諦めるのは早くないか
光が晴れ、視界がだんだんと鮮明になっていく。
そうして見えた景色は……森の中だった。
「って、いきなり転生かい!」
周囲360度が木々に囲まれている。
ただそこまで高い木というわけでもなかった為、青い空から覗く日の光で十分に明るかった。
「ああ、本当に転生したのか……しちゃったのか……はぁ」
俺は大自然に囲まれる中でぽつりと一人呟く。
転生できた! やったぜ! と本来なら言いたいところだが、とてもではないがそんな気分になれないのは何故なのだろう。
「うん、絶対これのせいだ」
俺は自分の体に目を落とす。
体自体は生前の痩せ型中背の俺と全く変わらないように思えるが、目を引くのは身につけている装備だ。
着ている服やズボンは茶色と白をベースにした布地のもので、旅人風という印象を受ける。
これ自体はいい。
実に異世界らしいではないか。
しかし問題は俺の右手に握られていた、とある物体だった。
それを一言で言ってしまえば変な棒だ。
長い棒がベースなのだが、先が平べったくなっており、布団をたたけそうな感じになっている。
つまり布団たたきだった。
「…………」
いや、諦めるのはまだ早い。
見た目は何の変哲もない布団たたきだが、もしかすると何か秘められた力かなにかが隠されているかもしれない。
俺はものの試しにぶんっ、とそいつを振ってみる。
シュン、と風切り音がした。
何も起こらなかった。
つまり布団たたきだった。
「布団たたきじゃねーか!」
俺はそれを思いっきり地面に叩きつけた。
地面たたきになった。
いや、分かりきっていたことだ。
それを知った上で転生したのだ。
しかしやはりこうも現実を目の当たりにしてしまうと、鬱憤の一つや二つ溜まってきても仕方がないとは思わないか?
「はぁ、俺これでこの世界を暮らしていくのかよ」
俺は地面に落ちたそれを拾い上げてまじまじ見つめてみる。
どこからどう見てもプラスチックとしか思えない素材でできていて、色合い的にはピンク色をしている。
平べったくなっている部分は可愛い感じのハートっぽいデザインとなっており、それがさらに俺をムカつかせた。
これが伝説の武器だとはとてもではないが思えない。
恐らく何も事前情報がなければ、これは一体何なのだろうかと小一時間くらいは悩み続けた自信がある。
「はぁ、まぁ仕方ないよな……これも何かの運の巡りってやつだろう」
決まってしまった以上は今更あがいても仕方がない。
「にしても俺この世界でどうやって生きて行くんだ……? まぁひとまずはこの森から出てからって感じかな」
まずはどうにかしてここから抜け出さないと話にならない。
というかこんな森からとかじゃなくて村とか街とかに転生させてくれたら良かったのに……まぁそこだと目立つっていうのもあるのかなぁ……
そんなことを考えながら周りを少しウロウロしてみると、俺が立っていたすぐ近くに舗装された道があることに気づいた。
常識的に考えてこれを辿っていけばどこか人の住む場所に辿り着くはず。
まずはそこまで行って生活基盤を確保するのだ。
そして隠された圧倒的潜在能力を開放し、無双していつの間にやら色んな人に慕われるようになったりときゃっきゃうふふな順風満帆な人生を送るのだ。
ああ、そうだ簡単な話じゃないか。
布団たたきとかいう謎要素が邪魔をしてきたが、それがなければ普通の期待膨らむ異世界転生だ。
出鼻はくじかれたが、そう気難しく考える必要もないはず。
「よっしゃ!」
気を取り直した俺はひとまず道を俺から見て右に進んでみることにした。
何故そちらを選んだかと言えば、布団たたきを垂直に立てて、手を話したらそっちの方向に倒れたからだ。
こ、こんな使い方があるなんて、布団たたき様々だ!
「…………」
そして何事もなく道を進むこと五分ほど。
道の前方から何やら騒がしい音が聞こえてきた。
一瞬何事かと思ったが、どうやら人がいるっぽいと分かった。
男の怒声やキンッキンという金属音などが耳に入ったからだ。
こ、これは……戦ってるのか?
どうする、俺も出ていくべきなのか?
少し迷ったがこの世界で出会った――といってもまだ顔は見てないが――最初の人間だ。知らんぷりして素通りするというのも気が引けるし、何が起こっているのかシンプルに気になる。
俺は勇気を出して近づき、丁度いい感じの芝の影から音の出どころを覗いてみた。
そこでは案の定戦闘が起きていた。
馬車があり、男たち数人が守るように戦っている。
そしてそれを囲んでいるのは巨大なでっぷりとした体躯を誇る、人形の生物……いや、顔がどう考えても人間のものじゃない。人間の体に豚の頭部が取り付けられたかのような化け物、俺のファンタジー辞典によるとあれはオークなる種族ではないだろうか。
す、すごい、あんな生き物初めてみるぞ……まぁ当然かもしれないが……にしてもすごい迫力。本当にここは異世界だったんだな……
「ぐ、ぐそおおおぉお!」
「な、なんでこんな目にぃ!」
そんなことを呑気に思う俺だったが、男たちはと言えば明らかに押されていた。
それはそうだ。男たちの数は見える限りで三人……いや四人か。
すでにやられてしまったのか、男のうち一人は地面に突っ伏してしまっている。
対してオークたちの数は五体。
数だけでも負けているのに、二メートルは優にあろうかというオークの巨体と普通の人間とでは存在の格が明らかに違いすぎる。
しかも男たちと馬車のある位置はよりによって崖際で、オークたちに扇状に包囲されてしまっており、逃げ出そうにもなかなか難しいだろうという囲まれ方をされていた。
このままだと男たちが全滅するだろうことは目に見えている。
……ええ、どうするの、これ……。
何となくノリで来てしまった俺だったが、想像以上の危機的状況にうろたえてしまっていた。




