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職業、プロレスラー

「サラ、続きを」


 思わず噴き出した彼女を嗜めるように、威厳ある表情を崩さず、マリアがそう言った。彼女が受付嬢のリーダー格になるのだろうか。


「ええと、申し訳ございません。それでは、お二人の職階クラスを登録します。ミカ様は、戦士職及び探知職全般と、司祭プリースト呪術師シャーマン勇者ブレイブの適性が。トーマ様は、勇者ブレイブ魔術師メイジ錬金術師アルケミー芸人バード素破スカウト銃士ガンナーに適性がありますね。それぞれの職階クラスの特徴はこちらをご覧ください」


 そう言いながら、仕事用の笑顔に戻ったサラが4枚の書類を手渡す。それぞれ戦士職、魔法職、探知職、英雄職と書かれていた。

 勇者ブレイブについて流し読むと、条件として異能を持っており、能力値ステータスの総合値が一定以上であること。戦闘から魔法、交渉指揮までをこなす万能職であり、能力値ステータスは特化型より平均的な方が望ましいと言うこと。勇者ブレイブには職階クラスギルドは存在せず、帝国皇帝が認可を下し、冒険者ギルドが全面的にこれを補佐することが書かれていた。

 そんな感じで、4枚ともに、各職階クラスの特徴と、それを統括するギルド本部の所在が記されていた。


「結構アヴァロニアにギルド本部があるんですね」

「そうですよ。魔術師ギルド本部こと、賢者の学院以外は、アヴァロニアから歩いていける距離ばかりですしね」

「魔術師ギルド? 賢者ギルドじゃなくて?」


 雑な設定に、僕は思わず聞き返してしまった。サラは、予想もしなかった質問に目をしばたかせる。

 

「あぁ。賢者の学院は、冒険者ギルド設立以前からある由緒正しい組織なんです。賢者ギルドは賢者ギルドを名乗ってますし、本部は皇宮の直ぐ近くにありますよ」

「って事は、それ以前は魔術師ギルドじゃなかった?」

「そうなりますねえ。ギルド制を現在の形に整えたのが、皇帝陛下になりますので」

「それって何年ぐらい前の話?」

「二年前になりますね。皇都が出来て程なくの話です」


 そう言えば、ミカもこの世界に来たのが三年ほど前だって言ってたな。皇都設立まで異世界知識と異能を使って一年と考えると、これもほぼ三年前。

 その頃何かあったのかもしれない。


「ハイ! 私の職階クラスはプロレスラーでお願いします!」


空気を読まずに手を挙げると、ミカがそう宣言した。


「ぷろれすらあ……ええと、そう言う職階クラスは無いのですが、どういった職階クラスになるのでしょう?」

「プロレスラーはね。魂を燃やして、戦えない皆に代わって戦い、リングの上に夢を描くお仕事だよ!」

「えーと、それ……勇者ブレイブじゃダメですか?」

「ダメだよ、プロレスラーじゃないと! ダメなの!」


 バンと両手で天板を叩いて身を乗り出すミカの勢いに押されて、思わずのけぞるサラ。

 助け舟を出すように、咳払いしつつ、マリアが片手を挙げた。


「ミカ様、プロレスラーは武器を使われますか?」

「使わないかなあ。基本的には」

「魔法は使われますか?」

「使わないねえ、普通は」

「飛び道具はどうですか?」

「あ、それはない。絶対ない」


 僕にはゲームの知識しかないが、まあそんなものだろう、と頷くしかなかった。


「それでは武闘家モンクはいかがでしょう。基本的に武器を使わず、気を操る、格闘戦のプロフェッショナルです」

「ダメだよ、プロレスラー! それともプロレスラーに文句あるの? モンクだけに」

職階クラスを登録しないと何か不利益があるんですか?」


 今度は僕が空気を読まず、一人で上手いこと言ったつもりになって、上機嫌なミカを遮るように手を挙げた。あ、サラも笑いを堪えていたけど。

 

「そうですね。各職階クラスギルドによる支援が受けられなくなりますし、職階クラスごとの技能系図スキルツリーを参照できなくなります」

「スキルツリーとは?」


 また典型的テンプレな用語が出てきたが、まだ僕はそれを見た事もないし、ミカさんの口からそれらしきものも聞いたことがない。レベルアップ的な事もだ。

 返答の代わりに、ナオミがカウンターから一枚の紙を取り出した。その見出し部分には、武闘家モンク技能系図スキルツリーの文字が大きく踊っていた。

 

「このように、職階クラスによって、どのスキルをどの順番で取っていくのがいいかが、技能系図にまとめられているんです。職階クラスギルドに所属してない方には、これをお渡しできないことに決まってますので、ミカ様がどうしても“職階クラス・プロレスラー”を名乗りたいのでなければ、最初に武闘家になる方を推奨です」

「ハイ! どうしても名乗りたいです」

転職クラスチェンジはできるんですよね?」


 ミカを遮り、ナオミに尋ねる。


「冒険者ギルドでいつでもできますし、一度習得した通常技能スキルは、転職クラスチェンジしても問題なく使用できますよ」


 成程、これは一種の資格ビジネスなんだな。と言うことは……


「今更ですけど、冒険者ギルドには上納金を収めないといけないんですよね。職階クラスギルドにも?」

「いえ、初回登録料に関しては、冒険者ギルドには納めなくてもいいです。ですが、年一回の更新時に、以前の等級に応じた更新料を支払ってもらうことになりますので、ギルド依頼をこなして、更新料分をしっかり稼いでくださいませ。職階クラスギルドは、各ギルドによってギルド登録料金や支払いの手順が異なりますので、それぞれの窓口にてお尋ねください」


 あー。これ多分、仲介料として、依頼主から預かった解決料金を中抜きしてるな。結構考えてるじゃないか。ということは――


「いいんじゃない。ミカさんはプロレスラーで」

「やったぁ!」

「……分かりました。ミカ様の職階クラスは『プロレスラー』と――」

「勿論、プロレスギルドってないですよね。 彼女がギルドマスターになってもいいでしょうか?」

「え?」


 ずっとベテランらしい威厳を保っていたマリアの表情が、不意に崩れた。内心のしてやったりを噛み殺して、僕は続ける。

 

「ああ、心配しないでください。ギルド本部の立地もまだ決めてないですし、あくまで仮に、と言うことで。詳細については、また追々詰めていければ、と思ってますんで。それと……」


 マリアの返答を遮るように掌をかざしながら、僕は言った。

 

「僕は勇者ブレイブで登録しようと思うんですが、皇帝陛下には直ぐ会えますか?」


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