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僕たちの異世界読本

「へえ~、それじゃあトーマ君も、日本から転生してきたんだ」

「うん、実は交通事故で、今日こっちに来たばかりで。良かったら、この世界について、ミカさんの知ってる事を教えてもらえない?」

「うわ、トーマくんも交通事故? 実は私もなんだよね……もしかしてトラック?」

「そう。大型トラック」


 戦いを終えた僕たちは、山積みにされた鉄の武具が、重苦しい金属音を響かせる馬車に揺られながら、当たり障りのないだろう、この世界と、お互いについての話をしていた。

 この異世界の初期導入チュートリアルは非常に簡素なもので、先ず創造主たる女神によって、この世界=パレイシアへの歓迎。

 次に、転生元=現代地球でも通じるものから、この世界特有の、奇跡や魔術、気操作と言ったものまで含まれる、通常技能スキルと、それより遥かに強力な効果を持つ、転生者特有の固有異能チートについての簡単な基本ルール説明。

 そして、希望する初期装備と容姿が与えられ、最後に、僕自身の固有異能チートが抽選され、それについての簡単な説明がされるというものだった。

 ちなみに、僕の容姿は本来よりも、やや端麗化イカしてる。


 「う~ん……て言っても、私もこの世界に来てから3年ぐらいだし、その間はずっと修行してたから、あんまり詳しい事は分からないかなあ」

 「修行って、スキル成長? 使えば使うほど熟練度が上がって効果が高まるって」

 「そうなるのかな? 確か、私がこっちに来た時は、スキルの説明とか無かったし、いまいちよく分からないんだけど、とにかく武者修行してたの」

 申し訳なさそうに眉根をひそめるミカとは別の意味で、僕も眉間にしわを寄せた。

 通常技能スキルに関する説明は、三年前までなかった。即ち、三年前までこの世界には通常技能スキルが無かったという事だろうか。固有異能チートは在ったのに? 

 僕だって、異世界転生に関する知識は、令和の現代日本人として、それなりに持っている。


 世界の仕組を把握し、現代知識や固有異能チートで様々な問題を解決し、成り上っていく。もしくは悠々自適の異世界生活を満喫する。


 それが一般的な異世界転生モノの様式美テンプレだ。

 

 世界の仕組について正確な知識を得る重要性は、十二分に知っていたが、肝心のミカは、この点については頼りにならないようだった。

 

「ミカさんは、武闘家モンクでしたか。先程の腕前だと、さぞや名のある武神様の下で修業されたのですね」

  思考の迷路に浸りそうになる僕を、現実に引き戻すように、御者が会話に割り込んでくる。

「モンクじゃなくて、プロレスラーなんだけどね」

「プロレスラー……聞いたことのない職階クラスですな」

「すぐに有名になるよ。私も、その為に街に出ることにしたんだし」

 自信満々に胸を張るミカ。先程の戦いぶりを思い出すに、彼女の強さは、この世界でもかなりのものだろう。

 きちんと訓練され、統率された、強力な魔物の一団が、しっかり戦術を練った上でぶつかってくるのでもなければ、彼女の身体的な基礎能力と戦闘経験に圧倒されてしまうだろう。

 少なくとも、正面からぶつかっても、彼女は普通の大鬼オーガより遥かに強い。

 

「でしたら、帝都アヴァロニアに向かわれてはいかがでしょう。冒険者ギルドもありますし、皇帝陛下は魔王軍に立ち向かえる勇者を集めておられるそうで」

 重要情報。ようやく来た!

 この世界は、魔王によって侵略されていて、それに対抗する人間の勢力が、帝国。勿論、女神が庇護し、そして彼女を崇拝しているのが、おそらくは帝国側だろう。

 「その話、詳しく聞かせてもらえますか? なんせ、こちらの方には来たばかりなんで」

 「そう言えば、トーマさんも転生者でしたね。来たばかりでしたら、帝都の冒険者ギルドで査定してもらうと良いでしょう。そうすれば自分の能力値ステータス と通常技能スキルが分かり、職階クラスの適正も教えてもらえますから。通常技能スキル固有異能チート次第では、即皇軍に大抜擢……と言うこともあるらしいですよ」


――これだけの情報を直ぐに教えてもらえるぐらい、この世界には、転生者、冒険者と言う概念が浸透している。ということは――おそらく、皇帝か、その腹心に転生者がいる。

 魔王と闘うと言う共通目的があれば、きっと協力できるはずだ。そして、その中で僕が主導権イニシアティヴを握っていく為には……


「どうしたの、トーマくん。随分楽しそうな顔になってるよ」

 そう言うミカも、まるで玩具を与えられた子供のように、瞳を細めて口元をほころばせていた。歯を剥き出して笑う様は、獣の攻撃性に由来する、なんて一説を思い出してしまう笑顔だ。

「いや、ようやく異世界転生らしくなってきたなと思って」

「さっきの話だけで、そんなことが分かるの?」

「ある意味、様式美テンプレだからね」

「そうなんだ、私にはチンプンカンプンだよ」

 腕を組み、唸りながら首を捻るミカの姿は、やはり、どこかマスコットめいた動物っぽさがあった。

「ミカさん、そう言うの興味ないんだ?」

「私、そもそも学校に行ってないしねえ」

 実は僕もだ。その分、ネットやゲームを通じて、様々な情報の扱い方を知ることが出来たのは、こうして役に立っているとも言えなくもないか。在るかどうかはともかくとして、情報系の基本技能にその経験が反映されていることを願うばかりだ。

 

「ま、その辺は僕が頑張るから、ミカさんは、物理戦闘の方よろしく~」

「ええ。そっちは任せて頂戴。トーマ君も、プロレスしたくなったら、いつでも教えてあげるからね」

「はは、考えとく」

魔王軍あいつらを追い払ってもらったお礼です。冒険者ギルドに行かれるなら、推薦状を書かせてもらいますよ」

 僕達が談笑する中、商人は、空気を呼んだようにそれだけ言って、馬に鞭を振るうのだった。

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