表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

プランチャ・メテオリータ~まるで流星のように

 初めての異世界は、なぜか、ジイちゃんの田舎みたいな匂いがした。


 どこまでも広がる、緑の草原と、ビルに遮られた東京の空とは違う、頭上一面に広がる青空。ここが異世界だと知っていたにもかかわらず、何故か、僕は懐かしさを感じていた。それは、魂が知っている原風景……とでも言ったものなのだろうか。


 そんな感傷に浸りながら、辺りを見回していた僕の目に、いかにも、異世界一発目と言わんばかりの光景が飛び込んでくる。


 緑の肌をした、見るからにゴブリンといった容貌の小さな人影と、それを率いているらしき、これまた緑の肌の、見るからにオーガと言った大きな人影。それが、一台の馬車と、その御者である、商人とおぼしき男を囲んでいた。


 小鬼ゴブリンは6体。大鬼オーガは1体。特に陣形を取るでもなく、手に持つ武器も、身にまとう防具も、見るからに粗末なものだ。軍事訓練を受けている雰囲気では、毛頭ない。鬼の野盗だろうか。


(初戦の相手としては、手頃だな)


 僕は、そう考えると、槍の柄を握り締め、自分に与えられた固有異能チートを用いて、彼らをどう撃退するか、様々な分岐を頭に巡らせる。


――その、わずかな間に、それは起こった。


「とぅああァァァッ!!」


 流れ星。馬車の中から駆け出し、馬の背を足場に、四肢をいっぱいに広げて青空へと飛び立った人影は、僕の目には、まるでそう映った。その時の僕は、まだ、それがトペなのかプランチャなのか、その違いも分からなかった。


 天から落ちた流星は、一匹の小鬼ゴブリンの上に降り注ぎ、それを押し潰すと、何事もなかったかのように草原に立つ。

 馬車馬ばしゃうまの尾のように、後頭部で結んだ髪の毛をなびかせ、現地のものであろう、地味で簡素な衣服を身に着けた流れ星の正体は、僕よりもすこしだけ小柄な少女だった。


「いっくぞぉ、オラァァぁ!!」


 彼女は雄叫びをあげつつ、天から降り注いだ勢いそのままに小鬼ゴブリンの群のど真ん中へと飛び込んでいく。

 あっけにとられた小鬼ゴブリンが、彼女に向かって棍棒や斧を振り上げるが、彼女は巧みにその腕を潜り、最後尾の個体の背を、他の小鬼ゴブリンに向かって突く。

 そして直ぐさま身を翻すと、別の個体の腕を取り、手首と肘を極めながら、自らは半回転しつつ、相手の身体を大きく振る。狙いは、更に別の、武器を振りかぶった小鬼ゴブリンだった。

 つんのめった重心を立て直そうと足搔きながら、彼女の狙い通りに走らされた小鬼ゴブリンは、もう一体にぶつかり、互いに支え合う形になる。


 その後ろから、獲物を狙う肉食獣のように、少女はその身体ごと襲いかかり、その腕で二体をまとめて地べたへと刈り取った。

 倒れた小鬼の鳩尾を、まるでとどめをさすように踏みつけていく少女。


 少女を中心に、あっという間に混戦の渦へと投げ込まれた戦場で、まだ立っている小鬼ゴブリンたちと、その後ろに立つ大鬼オーガ、そして僕は、目の前で繰り広げられている光景を理解しようとする。


――刹那、少女は電光石火、大鬼オーガの懐へと飛び込んだ。


 反射的に、少女に掴みかかろうとする大鬼オーガは、明らかに少女より一回り以上大きいが、彼女は全く臆することなく、更に一歩踏み込んで、その頬を張り飛ばす。


「ふぅッ!!」


 彼女は大鬼オーガの首を支点に組み付くと、相手がよろめき、前のめりになる勢いを利用し、ソレを持ち上げた。高々と、逆さまに抱えあげられる緑の巨体。

 中空で足をもがく大鬼オーガと、バランスを取りながら、それを押さえつける少女の影が、天と地を繋ぐ巨塔が蜃気楼に揺らめくように、しばらくの間一つに重なっていた。

 その場にいる誰もが身動きできなかったのは、その威容に圧倒されたからだろうか。


 やがてその影が、柔らかな草の生えた地面に向かって倒れこむ。

 鈍い音が辺りに響き、僕も、小鬼たちも、自分を取り戻す。

 

 様々な格闘ゲームでも、投げ技として使われていた、その技が、ブレーンバスターと言う名であることを、僕が知ったのは、その後、馬車の中での事だった。


 その名の通り、角度的に後頭部をしたたかに打ち据えたのだろう、青空に向かって助けを求めるように手を伸ばす大鬼オーガが、仰向けのまま起き上がらないのとは裏腹に、少女は足から跳ね起き、残った小鬼たちを睨め回す。

 動けない個体を残し、小鬼たちは悲鳴と共に、その場を駆け去った。


 その、獣が威嚇するように顰められた眉根の下、細く睨みつけられた瞳が、僕を捉える。


「……あ。もしかして、私たちを助けようとしてくれたんだ? ありがとね!」


 人喰い熊が、パンダに化けた。

 先程までとは違う、緩んだ瞳は、愛嬌のある垂れ目。人懐っこい笑顔を浮かべながら、彼女はこちらに手を振った。

 こうして、彼女、津守ミカと、僕、仁見トーマは、この異世界、パレイシアにて出会ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ