第1話 襲来
ロボットバトルものとなっております。前に同じ物を別名で投稿していたのですが、一度消した物を再編し投稿しています。
——今、メラメラと町が燃えていた——
あぁ、また『この夢』か。そう、俺は思っていた。俺は何度この始まりを見たんだ?
——あちこちから砲声や銃声が響いていた——
悪夢って奴ほど何度も見るってのはよくわかった。もう考えるのも億劫な程、俺はこの夢を見ていた。
——その時、夢を見ていた人物の視界が動いた——
まただ。俺は、あそこへと向かっている。あの、忌まわしい場所へ。
——燃え盛る街並みを見回しながら、一人の少年が走る——
『やめろ。……もう、止まれ』
俺は、心の中でそう呟いた。それでも、視界は動き続けた。
——その時、走っていた少年の視界に、一人の人影が写った——
『やめろよ。お前じゃ、『俺』じゃあ』
そうだ。今見ているこいつは、俺だ。
——人影の方へと少年が走って行く。人影の人物も少年に気づいてこちらに走ってきた——
——走ってきたのは、麦わら帽子を被った少年の同じくらいの歳の子供だった——
『戻れよ。このままじゃ……』
見たくない物を見る事になる。それでも、ガキの俺は一心不乱に走ってた。
——その時、不意に近くで砲声が聞こえて来た——
——少年が音のした方へと視線を向けた——
——少年の視線の先には、10メートルは届くであろう巨大な蜂みたいな怪物が居た——
『だから、行かなきゃよかったんだ』
俺は、静かに歯を食いしばった。これから起こる事は、何度も見て来た。悪夢として何度も何度も。
——怪物を見た少年は、足が竦んでその場に尻もちを突き、ブルブルと震えながら、小便を漏らしてしまった——
——その時、人影がこちらに向かって何かを叫びながら走ってきた——
『ダメだ。来るな。来るんじゃない……!』
頼む!来るな!来ないでくれ!
——少年が、泣きながらも向かって来る人影の方へ手を伸ばした、刹那——
『来るなぁぁぁぁぁぁっ!』
——ドォォォォォンッ!——
その向かって来る人物の近くに、砲弾が命中した。次の瞬間。
『「悠ぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」』
ガキの俺と、『今の』俺の叫びが重なり、俺の視界にあいつの麦わら帽子が映りこんだ。
「っはぁ!?」
そして、『俺』は毎度あるこの悪夢のラストのシーンで目が覚めた。バッと目が覚めて、そのまま勢いよく上半身を起こす。
「ハァ、ハァ。……クソッ。また、あの夢かよ」
俺は寝ぐせだらけの頭に右手を当て、そのままクシャッと茶髪を握りつぶすように拳を作り、それを無言でベッドに叩きつけた。
そして、そのまま無言で部屋に掛けてある壁掛け時計に目をやった。時間は6時40分過ぎ。いつも俺が起きるのは7時過ぎだが、まぁ良いや。ここまで最悪の寝覚めの後じゃあ、二度寝って気分じゃねえ。それに体中嫌な汗がダラダラ流れてて気持ち悪いったらない。
「……シャワー、浴びるか」
そう思った俺は、ベッドから降りると近くのタンスから替えの下着と、更にハンガーにかけてあった制服を取って脱衣所に向かった。俺は今、東京の住宅街にあるこの一軒家に一人で暮らしている。両親は二人とも仕事人で、俺ももう高校生だから一人で大丈夫だろうと、俺に言って今は海外で仕事をしている。おかげで母親と言う存在のありがたさが分かった反面、下手な事で色々言われる事もないから、そっちは楽だ。
そう思いながら俺は脱衣所にたどり着くと汗で濡れたパジャマと下着を手近な洗濯籠に放り込んで裸になってから浴室に入った。そして蛇口を捻ってシャワーから流れて来た少し暖かい程度の温水を頭からかぶった。汗が流れて行って気持ちは良い。けど、さっき以上に頭がすっきりしていくと、今度はあの夢の事を思い出す。
そう、あれは現実に俺が体験したリアルな記憶だ。まるでテープを再生するみたいに、何度も何度も夢として過去を見て来た。正直、もううんざりだった。
自分で言うのも何だが、あれ以降、俺は生きる気力って奴を失っちまった。何に対してもやる気が出ず、普段からダラダラと怠けているだけ。周りからはよくその事を指摘されるが、正直どうでもいいというのが俺の本音だ。
にしたって、何だって俺の脳みそは何度もあの記憶を夢として見せるんだろうな?自分でも分からないが……。ただ、もうそれもどうでもいい。俺は神様じゃない。過去に起こった出来事なんざ変える事はできない。変えられない過去は、ずっとそのままなんだ。
クソッ、考えるだけで余計あの時の事を、夢の事を思い出しちまうっ。
「悠」
その名を呟きながら、俺は一滴だけ涙を流した。
その後、シャワーを浴びてから体を拭いた俺は高校の制服に着替えてリビングに向かった。トースターでパンを焼き、適当な市販のカップスープにお湯を入れる。焼けたパンにバターを塗る。いつも通りの簡単な朝食だ。
「……いただきます」
パンとスープをリビングのテーブルに置いて、軽く手を合わせた俺はポチッとテレビをつけながらパンを食べ始めた。
「——。では、次のニュースです」
丁度、前のニュースが終わった後だったのかアナウンサーが手元の原稿をめくって次のニュースについて話し始めた所だった。最初は興味もなく唯耳で聞いていただけだったが……。
「先日の未明から出現し欧州方面に侵攻していたバグの群れは国連軍の攻撃で殲滅されました」
『ピクッ』
アナウンサーの放った単語の一つに、俺の手が震えた。そして、俺は目線をテレビの方に向けた。そこには、でっかい『虫の化け物』みたいな奴らの死骸が転がっていた。
「この映像は戦闘終結直後の物で——」
『ブツンッ!』
俺は近くにあったリモコンを持つと乱暴にテレビの電源を切った。
見たくない。それが俺の本音だ。二度と奴らの顔なんて拝みたくなかった。自分でもそれが我儘なのは十分わかってる。それでも、奴らの事を見る度にあの夢の最後のシーンが俺の頭の中に何度もリピート再生される。それが嫌だったんだ。
「……クソ」
俺は短く吐き捨てると、それ以降は黙って黙々とパンとスープを食べた。
それから数分後。朝食を食べ終わり食器を片付けていた時だった。
『ピンポーン!』
不意に玄関のチャイムが鳴った。それに気づいた俺はふとリビングの部屋の時計に目を向けた。時間はもうすぐ8時になる。普段俺が家を出る時間だ。
って事はあのチャイムは愛理か。そう思いながら俺は近くのソファの上に放られていた鞄を持つとリビングを出て玄関に向かった。ガチャッと玄関を開けると、まぶしい朝日が飛び込んできた。その朝日に一瞬俺は目を細めていた。その時。
「あ。おはようヒロ君っ」
玄関先の門の前にいた制服姿の女子、『大澤愛理』が挨拶をしてきた。
「ん、おはようさん愛理」
対して、俺も小さく挨拶を返した。
ヒロ君こと、俺『川島広樹』とこの大澤愛理はガキの頃からの友人で俗にいう幼馴染って奴だ。今は同じ小中と続いて同じ高校に通っており愛理は毎日のように俺の迎えに来る。
「んじゃ、行くか?」
「うん」
と、短く会話をすると歩き出す俺とそれに続く愛理。
「あ、そうだ」
と、歩いていた時、不意に何かを思い出したかのように手を叩いた愛理は鞄の中に手を突っ込んで何かを探っていた。かと思うと、何かを引っ張り出して俺の方に差し出してきた。
「……何だそれ?」
「お弁当だよ!はいこれ、ヒロ君の分」
差し出されたのは、女子の物らしい花柄の布に包まれた弁当箱だった。
「……いや、俺は」
俺的には昼休みにこんなもん引っ張り出して食べるのは恥ずかしい。何とか断ろうとしたのだが……。
「えぇ!?ひょっとして、私のお弁当、食べてくれないの?」
と、そう言って途端に泣きだしそうになる愛理。
「私、ヒロ君の栄養が偏らないようにって。いつも購買のパンとかばっかり食べてるから、それで」
これだよ!大抵こうなるんだ!何で俺が少しでも拒否すると泣くんだよこいつ!?
俺ははっきり言って愛理の涙に滅法弱い。
「わかった、わかった。……美味しくいただくから」
と言って、俺は諦め気味に弁当を受け取った。すると……。
「ホント!?ありがとうヒロ君!あ、中に卵焼き入ってるけど、自信作なんだ~!後で感想聞かせてね!」
途端に号泣一秒前みたいな顔から満面の笑みに変わった愛理の表情。
そして俺は、スキップを始めそうな勢いの愛理の後を、弁当箱を鞄にしまいため息をついてから続いたのだった。
俺と愛理は今現在、俺の家から歩いて数十分の所にある私立高校に通っている。で、毎日のように俺は愛理と一緒に登校している。これだと一部の人間、主にモテない男子諸君からヤバい殺気とかを放たれそうだが、そうでもない理由が色々ある。
この理由って言うのが、複雑なのだ。
そう思いながら歩いていて近くの都立公園に差し掛かった時、不意に俺の視界にあるものが映りこんだ。それは『東京大強襲の慰霊碑』と書かれたデカく黒い石みたいな慰霊碑だった。
不意に、俺の足が止まる。
「あれ?ヒロ君?」
そんな俺に気付いて愛理も足を止めて俺と同じ方向に視線を向け、途端に悲しい表情を浮かべた。
「あ、あのね。その、ヒロ君?」
そして愛理はどこか遠慮がちに何かを言おうとしていたが……。
「悪い。行くか」
俺は、短くそう言うと歩き出した。
「……うん」
そんな俺に小さく返事をした愛理が並んで歩き出した。
それからという物、俺と愛理は一言も話す事なく、高校へと無言で歩いて行った。そして数分後。次第に愛理の着ている制服と同じ物を着た女子生徒達の群れに合流し、俺と愛理はそれに続く形で学校へと向かった。更に数分後には、無事学校の校門の前に到着したのだが……。
周りは殆どが女子女子女子……。と、言っちゃなんだが今の俺が周囲を見渡す限り、歩いている制服の奴は女子ばっかりだ。一部チラホラと男子の姿も見られるが、比率的には5対1なんてもんじゃない。それこそ50対Ⅰくらいだ。いや、下手するともっと差が開いているかもしれない。
とか何とか思いつつ、俺は愛理と共に昇降口で中履きに履き替えてそのまま教室に向かった。
ちなみに、俺と愛理の教室は同じで、今の俺達高2だ。愛理は近くのクラスメイト達と何やら談笑しているが、俺の方は席に着くなりそのまま机に突っ伏した。そんな時だった。
「相変わらず、覇気のない男ですわね。川島広樹」
「ん?」
いきなり前の方から声が聞こえて来たので、俺は顔を上げて、ため息をついた。
「朝からなんだよ桐坂」
今、俺の目の前に居るのは金髪ロングヘアに鋭い目つきが特徴の女子生徒『桐坂エミリー』が立っていた。
こいつは1年の時にこの高校に編入してきた留学生で日系アメリカ人のハーフで、編入して来た時から俺と愛理のクラスメイトだ。で、こいつはまぁその、何というかお嬢様って奴が真っ先に似合うタイプで実家も名門らしいと、どっかで聞いた事がある。つっても貴族らしい立ち居振る舞いが多く他者にも自分にも厳しい事で有名な奴だ。
でだ。こいつ曰く、『あなたのような覇気のない人間を見ているとイライラしますわ!』だそうだ。
このセリフは何時言われたのかはもう覚えていない。2年に上がったばかりだったか、或いは1年の時か。覚えていないがどちらにせよ、もう関係ない。
「何ですかそのだらしない姿は。あなたも男ならもっとシャキッとしなさい!」
ビシッと俺を指さしてくる桐坂だが、あんまり気にならない。と言うか、今の俺じゃ色々言われても怒る気力もない。なんせ今朝の夢の後だからな。
しばらくあいつは俺に向かって色々言って居たが、チャイムがなると自分の席へと戻って行った。
で、それから数十分後には社会の授業が始まっていた。内容は近代史。それは今、俺達の世界で起こっている『異世界間戦争』についてだった。俺は授業を聞くふりをしながら窓の外を見つめつつこれまで習った近代史を思い返していた。
そもそも、俺がこんな無気力になった事やモテない男からどうのって思っていた理由の全ての始まりも、30年程前から始まった異世界間戦争が原因だった。
今、正確には2057年から30年前。つまり2027年のある日から全てが始まった。
その日、ユーラシア大陸のとある場所。俺自身はそこまで勉強しているわけではないので、さして詳しくないが聞いた話では中国の左隣の国々、キルギスやウズベキスタン、タジキスタンの辺りらしい。
まぁ、場所はさておき、そのユーラシアのある地点に突如として『大型のワームホールが出現』し、以降その地点に存在し続けるという事態に発展した。そのワームホールは、後々の人に異世界間戦争の始まりとなった、と言う意味を込めて英語で爆心地を意味する『グラウンドゼロ』と名付けられた。
今言ったように、異世界間戦争の始まりはグラウンドゼロの発生からだ。グラウンドゼロの発生、バース・オブ・グラウンドゼロ。頭文字を取ってBOGとも呼ばれる現象から数日後。アジア各国で人間の倍以上の大きさを持つ巨大な虫が確認されはじめた。その虫は、人を始め、牛、豚、鳥、魚と言った自分以外の生物と植物を無作為に襲い、喰らい始めた。被害にあった国々はそれぞれの軍隊を用いて虫の駆除に乗り出した。
だが、戦闘による被害と戦果ははっきり言って五分五分だったらしい。虫は現在、国連が決めた総称で『バグ』と呼ばれている。このバグは俺達の生活する地球の昆虫をでっかくして固い外殻を纏わせた。そんな感じだと小学校の時の先生が分かりやすく説明してくれたのを、今でも俺は覚えていた。
そして、このバグは大きく分けて二種類に分類されている。人間の2倍から3倍程度。ちょっとした大型車程度の大きさの『小型種』。小型種の更に2、3倍の大きさを持ち、ちょっとした家程の大きさの『大型種』。特にこの大型種は巨体のくせに足が速く、戦車の砲弾位なら数発は余裕で弾く程の高硬度の外殻を纏っていた。
そして何より、奴ら、バグは数が多いため各国軍は戦闘の度に大勢の犠牲を払ってきた。事態を重く見た国連は平和維持軍、PKFの出動を可決する物の、バグと戦う当時国の反対もあり断念。加えてバグの出現個体数が増加の一途をたどり、ついにはロシアや中国東部、トルコ付近にまでバグが現れるという事態に発展してしまう。そして、事態は更に悪い方向へと歩みを進めていた。
BOGの発生による異世界間戦争勃発から3年後の2030年。核弾頭保有国家である北朝鮮がバグ殲滅を理由にBOGの地点であるキルギス辺りに向かって核弾頭をいくつも発射した。これに呼応する形で中国、ソ連も核弾頭を搭載したMIRVを投入し、中央アジア辺りが核の炎で焼かれるという事態に発展した。
この一連の流れは『核の暴挙』とまで言われる大事件となったが、ワームホールの向こう側までは放射能や爆炎が届く事もなく、それまでに出現していた個体こそ焼き払ったものの、グラウンドゼロの破壊には至らず、中央アジアの経済的、国家的消失と大量の放射能汚染の末に得られたのは、極僅かな間だけバグの侵攻を止める事くらいだった。
そして、その放射能は俺達人類にまで降りかかった。爆発によって巻き上げられた放射能を含んだ砂塵が世界中に拡散し、ほぼ全ての人間が被ばくしてしまった。結果、人間の持つDNAが欠損してしまい、子孫を残せなくなる、何て言う生物にとって致命的な欠陥こそ抱えずに済んだものの、それ以降人間の出生率は極端に女の比率が大きくなった。理由は現在においても不明だが、そんな研究に人員と費用を割ける程この世界に余裕はない。
バグの侵攻が続いている今は、戦うしかないというわけだ。結果、出生率の偏りに関しては今も解決していない。俺と愛理、そして桐坂の在籍するこの学校も、元が女子高だったとか、近年共学になったなんて全く無く、普通の共学校だった。なのに生徒の男女比率の偏りがこれである。そして俺達、つまりは『核の暴挙』以降にDNAの欠損を持つ大人から生まれた子供たちは比喩を込めて『アトミックチルドレン』、『Aチルドレン』なんて言われている。俺も愛理も桐坂も、正にそのAチルドレンだ。
この高校も生徒数は800人に届くという結構生徒数の多い学校だ。だが、その中において俺を含めた男子生徒は100人程度しかいないと言うのが現状らしい。しかも、これは下の学年になるほど顕著らしく、俺の2年のクラスは確か男子の数は50人以下だった気がする。だからこそかもしれないが、今じゃ男の方が少ないため、黙ってても女が寄ってくるって、どっかの男子が話してたのを聞いた事がある。これがモテない奴らの反感がどうのって話の理由だ。
話を戻せば、戦争が続いている今、男性は減少の一途をたどっている。嘘か真か知らないが、どっかの国じゃ男は子供を産むだけの種馬みたいなことまでさせられてるとか。俺は信じちゃいないが、確かにこのままだと人間は滅ぶかもな。なんて、他人行儀な事を思っていた。
バグとの戦い。増えない男の問題。人類の今の問題は山積みだ。
けど、少なくともバグとの戦いは少し持ち直しつつあった。
その時、校庭の方にあったでっかい格納庫みたいな、と言うか、格納庫そのものなんだが。とにかく、そこのシャッターが開いて、中から数台の人型ロボットが現れた。
ズシン、ズシンと思い足音を立てながらグラウンドに現れた9mサイズのロボットに俺以外の生徒達の視線も少しばかり外に向いた。そして、それに気づいた先生が手を叩いて生徒達の集中を戻す中で俺はあのロボットの事を考えていた。
核の暴挙から4年後。戦争が始まってから7年後の2034年。出生率の変化が公に認めら、Aチルドレンと言う比喩が生まれていた頃、国連はついに痺れを切らして一つの決断に踏み切った。
それは、国際連合の創設以来果たされていなかった『国連軍』の創設だった。
バグとの戦いが続き、各国の軍隊の疲弊も顕著になり始めていた当時の情勢の中に提案されたそれは、その日の内に可決された。それによって、現在のバグとの戦いは、各国より抽出された兵士や装備によって編成された国連軍が担っていた。
そして国連軍の創設直後、国連軍司令部は国連の権限を使用して世界中の著名な科学者や兵器設計家、各国の軍需企業を集めてバグと戦うための新型兵器の開発を命じた。
その結果生まれたのが、先ほど格納庫の中から現れたロボット、『大型機動外骨格』、『Large・Mobile・Exoskeleton』。略して『LME』、『レム』などと呼ばれる人型兵器だった。
そして、今現在各国の学校ではLMEの操縦訓練課程が義務化されていた。先ほど格納庫から現れたのは、国連軍が開発した一番最初の第1世代LME、『ゼロタイプ』と呼ばれる機体を民間の訓練用に払い下げた物だ。
俺の知る限り、現行のLMEにはゲームやSFのように高速で動ける速さはない。精々足の裏にローラーか何かを装備して移動するくらいだ。現行LMEの大抵のコンセプトは重装甲・重武装だ。バグは基本的に虫のような能力と外観を持っているため、大抵の攻撃は噛みつき攻撃になる。だが既存のLMEにはバグの攻撃を避けられる程の運動性は無い。だからこそその攻撃を防ぐために重装甲となり、同じように機動性を考えないのならば、と大きく重い重武装化が図られていた。
現在レムは各国に駐屯している国連軍や各国軍にも配備されていて、色々な思想とかに寄った色々な機体が開発されているらしいが、正直俺にはどうでもよかった。
俺はそう思いながら、やる気の出ない授業を聞いていたのだった。
何だかんだで時間は進んで昼休み。
「ヒロ君~♪一緒にお昼食べよ~」
俺が教科書を片していると、先回りするように愛理が自分の弁当箱を片手にやってきた。いつもだ。毎日こうなる。自他ともに認める俺みたいな根暗な男と居たいのか何なのかは知らないが、愛理の行動が俺には理解できていなかった。今も鼻歌を歌いながら近くの空いている椅子を持ってきて俺の机を挟んだ反対側に座っていた。
しかし、俺はと言うと無言で席を立って鞄から財布を取り出した。
「あれ?ヒロ君どこ行くの?」
「外の自販機だよ。なんか買って来るから、お前飲みたいもんあるか?」
「あ、じゃあ私紅茶で!」
「はいよ」
と、俺はトボトボと歩き出した。
あれから、もう9年も経つってのに、俺は未だに過去を引きづってこんな根暗になった。校舎の中を歩きながら、ふと、そんな思いが頭の中に浮かんできて、それにまつわる記憶まで引っ張ってきた。
10年前、俺には愛理ともう一人、俺達には仲のいい友達が居た。
『大谷悠』。
俺と愛理がまだ小学生だった頃に知り合った友達だ。出会いのきっかけは今でも覚えている。愛理が大型犬に襲われていた所に駆け付けた俺と、偶々近くに居て襲われている事に気付いた悠の二人で犬を追っ払ったのがあいつとの出会いの始まりだった。当時俺と愛理は同じ小学校に通っていて、悠は別の学校だったが仲良くなった後は、よく3人で集まって色々遊んだりやらかしたりしていた。
だが、それから1年後に『あれ』が起こった。
『東京大強襲』。
国連の結成以降、極稀に通常の倍以上のバグの集団が現れる事が度々確認された。国連はこれを『大規模強襲』と名付け、9年前に発生した大型種の蜂型バグの大規模強襲が日本に襲い掛かった。
日本列島各地を襲い、尚且つ人口密集地区である東京にも大量の蜂型バグが来襲し、数十万の人間がバグに襲われたり、バグと自衛隊や国連軍との戦闘に巻き込まれる形で亡くなった。その被害者数が、一世紀ほど前の大戦であった東京大空襲に迫る勢いであったため、この一連の被害をまとめて東京大強襲と名付けられた。
そして、俺はあの日、愛理には内緒で悠と密に会う約束をしていた。理由は愛理の誕生日が近かったからだ。あいつに内緒で、二人でプレゼントを用意して驚かせようとしていたのだ。だが、約束の場所に向かう途中で蜂型バグの群れが東京を襲い、その混乱の最中、俺は必死になって悠を探していた。
そして、見つけたと思った直後。悠は砲撃に巻き込まれて亡くなった。俺はそのシーンを目撃してしまった直後からしばらくの間の記憶が飛んでいた。気付いた時には、野戦病院のベッドの上で寝かされていた。両親の話では、近くに居た兵士が呆然と座り込んで動かない俺を背負って逃げてくれたらしいと言うが、俺はそれを全く覚えていなかった。
と言うより、全く覚えていない程、悠を失ったショックが大きかったのかもしれない。
その後、俺の元に悠の両親の人が来て、話をしてくれた。戦闘の後、軍人たちが遺体の収容などを行っていたが、砲撃地点付近からは子供の遺体は発見されなかったと言って居た。
バグは人でさえも食べる。遺体だろうが、子供だろうが。ましてや砲弾に巻き込まれて跡形もなく吹き飛んだか、遺体も戦闘で発生した土砂に巻き込まれたか。どちらにせよ、あいつが行方不明のまま、ついには死亡扱いとなった事だけが、俺の耳と頭に事実として流れ込んできた。そして、唯一回収されたのは、あの日悠が被っていた大き目の麦わら帽子だけだった。
それから俺は、泣き、喚き、自分自身を恨んだ。あの日、俺が悠を誘って居なければ、こんな事にはならなかった。いや、そもそもあの日、俺があそこへ行かなければ、もしかしたらそれだけでも、悠は助かっていたかもしれない。だが結局、悠は死んだ。
わかっている。わかっているはずなのに、俺は……。
ポケットに突っ込んだ手を握りしめながら歩いていた時、俺は目的地に着いた事を理解した。目的地、つまりは自販機の前だ。この高校にはいくつかの場所に自販機があるが、俺はよくここの自販機。校舎と体育館を結ぶ一階渡り廊下の傍、体育館の影の部分にある自販機を使っていた。
購買近くのは人も多くて混むし欲しい物が売り切れるなんてことはよくもある事だ。だから俺は最近ここで飲み物を買っている。ちょっと距離があるが、並んで無駄足になるよりはよっぽどマシだ。自分用のミネラルウォーターと愛理から頼まれた紅茶のペットボトルを買うと俺は元来た道を戻ろうとしていた。
その時。
『ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!』
唐突にけたたましくサイレンが鳴り響いた。
その音を聞いた瞬間、俺は持っていたミネラルウォーターのボトルを落としてしまった。だが、そんな事は今の俺にとってどうでもよかったし、気づきもしなかった。このサイレンが意味するのは、たった一つ。
「奴らが、来たんだ。これは、バグ襲来警報!?」
この時の俺は、まだ知る由もなかった。これが、俺自身の戦いの始まりを告げる鐘の音なんだと。
第1話 END
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