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イクスリンカー  作者: イクスリンカー0
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プロローグ

前世の記憶を思い出したのは、この世界に生まれて6年目の夏だった。

町を守る兵士として毎朝早くから出勤する父さんが珍しく休みを取り、主婦として家を切り盛りする母と一緒にこの地方を収める領主が催したパレードを見に行った時だ。


夏に行われるこの祭りは、かつてこの国を滅ぼそうと魔物を率いて襲いかかった魔王を倒した勇者、剣聖、賢者、聖女の4人、さらに食料や武器、防具といった援助だけでなく、彼らに加勢するために集った人々を取りまとめ、自身も戦場で剣を振るった当時の王を称えるものである。

そして、魔王を打倒した勇者に王の位を譲り、自らは一地方の領主として従うことを選んだ当時の王の子孫が、この地方を収める領主なのだそうだ。


この町を守る兵士として誇らしげに祭りの由来を語る父さんは、少年のように目を輝かせていた。その父さんの様子を母さんは愛おしそうに見つめて笑ったあと、「領主様の一族は私たち領民にとって誇りなのよ」と教えてくれた。

子供心に抱いた感想は、なんかすげえなぁ、という程度だったが、両親がすごいというのならすごいんだろうとも思っていた。


そうして、2人に両手を引かれて見に行ったパレードで、人垣で見えない俺のために父さんが肩車をして見せてくれた光景が、俺の人生を変えたのだと思う。


何が理由だったのかはわからない。

でも、何がきっかけだったのかは覚えている・


父さんの頭を抱きかかえるようにしてバランスを取り、俺の見つめた先で、隊列を組んで行進するローブ姿の男が宙に光る模様を描き、光の矢を空へと放つ。

その光はしばらく飛んだ後、破裂音とともにキラキラと光る粉を降らせた。


パレードを見ていた民衆が喝采を挙げる。

それに気をよくしたのか、ローブ姿の男が、あるいは女が次々と光の矢を放ち、民衆を沸かせる。


「あれは、魔法だぞ。あそこで行進しているのは、お貴族様なんだ」


父さんが教えてくれた『魔法』という言葉が、頭の中で何度も響き、頭痛のような痛みを訴えかけてくる。


魔法という言葉を初めて聞いた。

魔法という現象を初めて見た。

なのに、自分は魔法という言葉を知っている。

魔法という存在を知っている。

いや、魔法というものに憧れていた?

どこで?

いつ?


 深く記憶を探ろうとするほどひどくなる頭痛を堪えて記憶を辿る。

 1年前、2年前、自分の記憶が定かでもない幼いころ。

 それでも思い出せなくて、それでも思い出したくて、俺の様子に「どうした?」と心配する両親の声にも気づかず、頭痛が一際酷くなった時、俺は前世を思い出した。


 俺がかつて生きていた世界を。

 魔法が存在せず、科学が支配していた世界。

 現代日本で生きる、男子高校生としての人生を。




6歳のころに前世の記憶を思い出した俺は、周りから浮いた存在になった。

考えても見てほしい。

高校生の知識と経験を持った人間が幼稚園児や小学1年生として彼らに交じって生活しているようなものだ。

言葉の端々、行動の端々にその年齢に見合わない思惑が透けて見え、違和感を感じるだろう。

それでも、俺は前世のことを徹底して隠してきた。

違和感を感じられても、決定的な異物として認識されないようにふるまってきた。

そのおかげか、両親や周りの大人からは大人びている、背伸びをしている、ませているといった評価をもらい、同年代の子供たちにいじめられることもなく遠巻きにされる程度で済んでいた。

ここで俺が「俺には前世の記憶がある」なんて言いだしたら、頭のおかしい子供認定を受けて、病気か悪霊がついたと教会に担ぎ込まれていただろう。


11歳になった今でもそれは変わらない。

周りが受け入れられないことは、真実であっても言ってはならない。

前世の記憶があるという、本当かどうか確かめることができないことは黙っているに限る。

そうすれば、俺は平穏に暮らせる。衛生的な生活がしたいからと普通なら2日に一度ぐらいのところ、毎日自分で井戸水を汲み体を清めてもあの子は変わってるからといって笑い話になったり、塩しかない現状を変えようと森で採ってきた木の実や草を混ぜて紋雑するような味にしても溜息を吐かれて呆れられる程度で済んでいる。

料理について言い訳をさせてもらうなら、焼いた時は胡椒のような味だったのに茹でると青汁のような青臭い味になったあの不思議な葉っぱが悪い。


そうやって、周りに迷惑をかけながらも生きてきた俺は、一つだけ決めていることがある。


もし、自分の前に前世の記憶があるという人間が表れても、頭ごなしに否定しない。

嘘をついている可能性はあっても、前世が存在しないという理由で拒絶はしない。


そう決めていたし、今でもそれは変わらない。

でも、この状況は想定していなかった。


「この世界は、乙女ゲームの世界なのよ!」


目の前で胸を張り、堂々と宣言する自分と同じ年頃の少女は、背中まで伸びた薄い桃色の神を揺らし、若草色の瞳をきりりと釣り上げて宣言した


「そんなわけないだろ。何言ってるんだ、おまえ?」


俺の前に現れた前世の記憶があるという少女が放った言葉を。俺は思わず否定してしまっていた。


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