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9話 行動開始

よろしくお願いします!

 


 ヒュン――

 ヒュン――


 連続で前方に聳え立つ大木に刀を振るった。


「はあっーー!!」


 ヒュン――――


 最後に力を込めた斬撃を放ち、動きを止める。

 刀を鞘に納めると同時に、大木は根元からバッサリと折れる。

 折れた大木は、周りの樹木を巻き込みながら後ろに倒れた。


「ふぅ。……こんなもんか。これで巻物に書かれていた分と、自分で考えた鍛練は全てやり終えた」


 今出来たばかりの切り株に腰を下ろし、額に浮かんだ汗を袖で拭く。


「……やっとか」


 ゆっくりと息を整えながら死剣眼を解く。

 手のひらの汗を布で拭くと、そこには無数のタコが硬くなっていた。

 この数だけ、俺はこの刀を振り続けた事になる。


 気づけば、じいちゃんが殺されたあの日から。

 全てに復讐すると誓いを立てたあの日から。

 二年が経過していた。


 すっかりと身長が伸びた自身の体、ゴツくなった手のひら。

 そして、じいちゃんから託されたこの刀を見ると、この二年間の日々が思い出された。


 必ず天誅を下す事を決意したあの後、じいちゃんの亡骸は山奥の絶対に人が入り込めない場所に埋める事にした。

 動物にも荒らされない様に深く土を掘り、彩り鮮やかな花が咲く静かな場所にすっかり冷たく、そして軽くなったじいちゃんの亡骸を丁寧に埋葬した。

 その間も、涙が出て止まらなかった。

 やるべき事の為に前に進もうと決意しても、どうしても哀しいし、寂しいものは寂しい。


 ちゃんとした物にはならなかったけど、心を込めて作った墓に手を合わせ、生きている時に伝えられなかった感謝の言葉と、必ずやり遂げると誓いを立てた。

 最後にお別れをした後。

 あの山小屋は壊した。

 残しておこうとも考えたが、思い出が眠るこの場所が存在していると俺の決意が鈍るかも知れない。

 奴等の仲間がやって来て、荒らすかもしれない。

 俺の思い出の場所を土足で踏み荒らされるのは我慢出来ないから。


 その後は、じいちゃんの言いつけ通り、あの場所を離れ別の場所に身を隠した。


 周りには誰も住んでいない場所での一人きりの生活。

 居るのは、野生の動物だけ。

 他の事を考えないで鍛練に集中するには、うってつけの場所だった。


 自給自足の生活なのは前と変わらなかったが、飯は苦労したな。

 剣の腕は上がっても、料理の腕はいつまでも上がらなくて困った。

 じいちゃんの作る温かくて、少し薄味だけど旨い料理とは、程遠い。

 どうやら俺は料理の才能もないみたいだ。


「まぁ。それでも何とかなるもんだな」


 それからは、山に籠り鍛練の毎日だった。

 じいちゃんが俺の為に巻物に書き記してくれた鍛練方法。

 それを、俺は死に物狂いでやった。

 他の事に脇目も振らず、朝から晩までひたすら刀を振り続けた。

 本来なら、辛く苦しい鍛練も、俺は憎しみを糧にやり続けた。

 じいちゃんを思うと、苦しさなんて吹き飛んだ。

 これから先、自分がやろうとしている事は、力が無いと実現出来ないと思ったから本気でやった。


 その成果で死剣眼も完璧に会得し、剣術の基礎から応用まで全て俺の力にした。

 確かな力を手に入れた今。

 もう一度自分の気持ちに問いかける。


 俺は――


「やっぱり。気持ちは変わらない」


 二年前と変わらず――いや、それ以上に俺の復讐心は燃え上がっている。

 これまでも、すぐにでも都に行って仇を探し復讐したかった。

 でもそれを押し殺してきた。

 力が無いと、何も出来ない。

 俺には力が無かったからじいちゃんを守れなかった。

 だから強くなるまではと自分に言い聞かせて我慢して我慢して力を得るために、鍛えて来た。


 その鍛練の果てに、今やっと新しい夢を叶える力が得られたと思う。


「やっとだ。やっと復讐出来る。じいちゃん達の仇を討てる。悪党共に天誅を下せるんだ。ははっ」


 ようやく動き出せる。

 その事が嬉しくて、仕方ない。



 切り株から腰を上げ、家がある方向に歩きだした。

 旅に必要な物は何かを考えながら。

 生滅刀は、死剣眼を使いこなせる様になると更に強力な刀になることが分かった。

 使いこなせる様になった今、俺の一刀は最速に近付いているのが分かる。


「死に物狂いで訓練したんだ。これで弱いままだったらこれを託してくれたじいちゃんに向ける顔が無い」


 家に帰り必要な物を皮袋に詰めていく。


「刀と、替えの服と、巻物、あと何か必要な物は――ん?」


 家の中を歩きながら荷物を運んでいると、足に違和感を感じた。

 足元を見ると。


「……あ。草履破けてら……これは、もう駄目だな。それに、羽織袴も、いい加減大きさが合うの買わないとな……」


 とりあえず簡単に紐で結び、歩けるようにした。

 この歳月で小さくなった草履や衣類は、買い換えないといけない。


「幸い。じいちゃんが遺してくれた金が沢山あるから買い物には困らない」


 じいちゃんが俺に遺してくれた物は刀と巻物と手紙と手書きの地図に、かなりの大金だった。


 じいちゃんと過ごした日々では、贅沢をするなど年に一回あるかぐらいだった。

 食料は、畑で採れたものばかりで、てっきり貧乏だと思ってたけど。

 違った。

 贅沢は人を駄目にするとのじいちゃんなりの教育だったのだと後から知った。


「食うのは金が無くても動物なりがいるから困らないけど、買い物をするとなるとな。金ないと何も買えない。じいちゃんありがとう」


 この際だから、身の回りの物は新調するとして。

 そうなると。

 都に行く前に、まずは山の下りにある町に行く必要があるな。


 ぱぱっと準備を終えて、外に出て家を振り返る。


「……次に戻って来る時は全て終わった後かな。その時には俺の生きる意味も無くなってるだろうから、ここで自決しよう。これからはそれが俺の新しい目標だ」



 歩きだす前に、もう一回じっと家を隅々まで見た。

 絶対にこの場所を忘れない様に。

 目に焼き付ける為に。

 ここは、もう一つの俺の思い出の場所になったから。

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