6話 覚醒
よろしくお願いします!
「むっ!」
じいちゃんは、攻撃を弾き返し三人を睨んだ。
今度はじいちゃんから斬りかかり、それを男達が防御する。
それから暫くの間、一進一退の攻防が続いていった。
俺はじいちゃんの加勢をしたかったが、目の前で行われている戦いのレベルについていける自身がない。
こんな弱い俺が加わった所で、かえってじいちゃんの足を引っ張ってしまう。
「……自分が情けねぇ……じいちゃん……」
俺には家の中から見ていることしか出来なかった。
ここまでは、お互いに引かずの攻防戦。
戦いは人数の不利があろうとも、じいちゃんの有利で進んでいた。
だけど。
時間が立つに連れ、次第にその動きが鈍り始めた事で、肩や腕等に切り傷を受けるようになった。
傷の数が増えていくのに伴い、じいちゃんの袴を赤色に染めていく割合が増えていった。
更に数分が過ぎ、
じいちゃんの息が上がり、その足が止まった事で戦いの流れが変わる。
「……ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……歳には勝てん……」
じいちゃんが肩で大きく息をし、苦しそうに胸を押さえていた。
「技量は変わらずとも身体は老いる。流石の貴様も、人の子と言うことだな。今だ――――やれ」
まだ動けずにいるじいちゃんに男達が三人がかりで斬りかかった。
「む! …………ぐっ……」
男達の斬撃が届く前に、刀を一振りし、また一人倒す事に成功する。
だが。
「ぐっうう……ううおお……」
その隙に残る二人が前後から、短刀を差し込んでいた。
「じいちゃん!!」
俺は居てもたってもいられず、木刀を掴むと外に出た。
飛び出た俺を見て、男が口を開いた。
「孫か。お前のじじいが死ぬ所を見ていろ。その後はお前の番だ」
男に殺気が込められた目線を向けられ、体がすくみそうになる。
「ツルギに手出しは……させん……!」
男の言う事を否定する様に、じいちゃんは自身の体に短刀を刺し込む男達を引きばかし、一振り刀を走らせた。
また一人倒れたが、その隙に残りの一人がじいちゃんに短刀を刺し込む。
「……があああああああああっ!!」
「じいちゃん!! お前らやめろー!!」
木刀を握り、じいちゃんを刺した男の元に駆ける。
「――貴様は黙って見ていろ」
その途中で男に顔面を蹴り飛ばされゴロゴロと、地面を転がされた。
「……つううっ!! うううっ……くそっ! じいちゃん!!」
蹴りの衝撃で、頭がグラングランと揺れる。
視界がおぼつかないまま、視線を向けると風切り音と共に、じいちゃんが刀を走らせ残り一人を斬り殺したのが見えた。
「はあっ……はぁっ……はあ……ぐうううっ」
じいちゃんは三人を斬った所で、力尽きたのか膝をつき動けなくなる。
体中、至るところから出血し、ボタボタと地面に落ちていく。
「……まさか……部下が全滅するとは。全盛期をとっくに過ぎていると言うのに、やはり死剣眼使いは脅威。その血は決して許してはならない。だが――それも今日ここで途絶える事になる」
最後に残った長の男が、刀をカチャリと上段に構えると、その刀身の色は赤色に変わっていた。
焔を纏った刃が振り下ろされる。
「やめろーー!!」
それを止めるために木刀を握り締め全力で駆けだす。
さっきは何も出来ずに蹴り飛ばされた。
俺とこの男には歴然とした力の差もある。
挑んだ所で、簡単に殺されるかもしれない。
でも。
そんなものは関係ない。
俺は、じいちゃんを失なう事が何よりも怖かった。
「しつこいガキだ。先に殺してやろう」
男が刀を俺へと向けると、そのまま振り下ろした。
「ツルギーー!!」
じいちゃんは俺を庇う様に前に飛び出て、俺を抱き締める。
でもその事で、刀は無情にも背中に吸い込まれた。
「ぐおおおおおおあああっっ!!」
血が舞い散る。
「じいちゃん!!」
「……ツル……ギ……お前だけは……死なせない……」
斬られながらも、それでも俺を守ろうとするかの様に俺に覆い被さり倒れた。
「……あ……あ……」
じいちゃんの背中に手を回すと、俺の両手は紅に染まる。
「……血が……血が……俺の、俺のせいだ。俺が……余計な事をしなければじいちゃんは傷つかずに……俺が強ければ……俺に力があれば――――」
その時。
俺の中で、何かが切り替わるのが分かった。
「……あ……ああ……ああああああああああっっっーー!!!」
頭が割れる様な痛みと、両目の奥に激しい痛みが走る。
「ぐああああああっ!! 頭と目が痛い!!」
あまりの激痛に、気を失いそうになる。
「庇い合うなどくだらん。そんな事した所で、どちらが先に逝くかの違いでしかないものを。そんなに先に逝きたくば望み通りに殺してやろう」
ザッザッザと、土を踏みつける足音が聞こえる。
男が今度こそ俺達を殺そうと向かって来ているのが分かった。
自身に迫る殺気に反応したからだろうか。
俺の体は無意識に、じいちゃんが使っていた刀を拾い上げていた。
痛む両目で無理やり男を見ると、そこには。
先程とは明らかに違う景色が。
眼から得られる景色が変わっていた。
男の頭から足先にかけて、一本の赤い線が浮き上がっているのが見える。
「これは……」
俺はこんな線を見るのは初めてだった。
こんな線があることを、じいちゃんからも聞いた事がない。
よく分からないまま、男を睨みつけると、次第に頭痛と両目の痛みは治まり思考がはっきりとしていく。
更に眼に力を込めると、その線はよりハッキリと浮き上がる様になった。
自分の体に何が起きているのか分からないけど。
俺はこの線をなぞらえて斬ることで、何かが起きるのを理解した。
「……俺の体に何が起きてるのか、良く分からねぇけど」
良く分からない現象だろうと、力だろうと。
この男を殺せるなら、何でもいい。
こいつは、じいちゃんを傷つけたんだ。
「…………お前は……絶対に許さねぇ!! ……こんな奴に……俺の夢を奪わせてたまるか!!」
俺はその浮き出る線をなぞる様に、思い切り刀を振り下ろした。