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56/59

56話 14年前①

前回更新から随分と時間がかかってしまいました。

とりあえず1話分だけですが書き上がりましたので、投稿します。


次は、もう少し早くお届け出来る様にしたいと思います。

 


 ◇帝オウガイ 視点◇




 余は、友としてミヅキを止めることが出来なかった。

 余は、帝としてミヅキを殺してやる事が出来なかった。

 余は、ミヅキが何故こんなバカげた事をしたのか……その理由すら問い質す事も出来なかった。



 挙げ句には、力の差を思い知らされ、逆に情けをかけられる始末。


 情けない……。

 自分が情けなくて、嫌になるな。




 ミヅキが姿を眩ませてから、二ヶ月もの歳月が過ぎた。


 医師の懸命な処置と、新しく就任した風雷の剣神カミナ。

 彼女の剣技により、当初完治まで半年かかると言われた傷は僅か二ヶ月で治す事が出来た。



 傷が癒えるまでの間、余は動きたくても動けないじれんまと、何もさせて貰えなかった悔しさ。


 その間も続々と上がる各國の重鎮の殺害報告。


 それを聞かされ、いかに、自分には力が無いのか。

 それを噛みしめる毎日を過ごした。


 

 それが、ようやく終わりを迎える時が来たのだ。

 やっとだ。

 やっとミヅキの後を追う事が出来る…………ようにはなった。


 しかし。


 ……この二ヶ月間。

 頭から離れない不安がある。


 体の傷は癒ども、圧倒的な敗北によって余の心は折れる寸前といえた。


 果たして見つけ出した所で……余は……ミヅキに勝てるのだろうか。


 あれから毎日。

 ミズキの太刀筋を思い浮かべ、脳内で何度も戦った。

 あらゆる方法を模索し、試した。

 だが。

 どうしても、ミヅキに勝つ算段が思いつかない。


 余では、ミヅキに勝てないのではないか。

 見つけ出した所で、また何もさせてもらえぬまま今度こそ殺されるだけではないか……。

 そうした諦めの気持ちが占める割合が増えていく。


 それでも……。

 例えそうだとしても……。


 余には帝としての責任がある。


 帝の名を冠した時から、都と大陸の民達を守る責務があるのだ。







「帝。本当に行かれるのですか?」


 自室にて出陣の準備をする余の元に、兄であるコウガイがやってきた。

 心配げな顔をしている。


「ああ。この後、発つつもりだ」


「……何も帝自ら行かずとも、新たに就任した剣神と剣君を総動員して討伐に向かわせれば……」


「それは、出来ん。新たな剣神達は、まだ若く先代よりも力が劣る。その彼等だけではミヅキには敵わぬ事は、お前も分かっている筈だ。それだけ、ミヅキの力が異常である事も」


「…………その通りです」


 コウガイは項垂れる様に、地面に目線を落とした。


「例え敵わぬとも、ミヅキは何としても余の手で殺さねばならぬ。どれだけの犠牲を払おうともな。それが、この都。各國の平和と安寧に繋がる。それにな……これは私情にはなるが、変わってしまったミヅキに余がしてやれる事は、もはやそれだけだと思うのだ」



 まるで別人になってしまったミヅキ。

 両手を同族の血で汚しても、奴は余の友である事は変わらない。



「しかし。帝は一度ミヅキに……」


 尚も食い下がろうとするが、言葉はそこで止まった。

 いや、無理矢理に止めたという方が正解か。


「……ごめん。僕が言わなくても、君が一番知っているだろうに……」


 途中から、兄弟の口調に変わった。

 普段から公私を別ける事を徹底するコウガイにしては、珍しい。


 それだけ、感情が込もっているという事か。


 それだけ、余を心配してくれているのか。


「よい。言葉にせずとも、兄者の言いたい事は分かっている」


 兄が何を言わんとしたのか。

 それはきっと、「今度もまた、同じ結果になる」と言おうとしたのだろう。



 兄者は、死剣眼を持たないが、テンオウ一族の一員だ。



 残念だが、兄者は受け継いだ血が薄かったらしく、十五を過ぎても開眼しなかった。

 死剣眼を持たぬゆえ、幼い頃より一族の間でその事をバカにされて育ってきた。

 それでも、自分の力を高める為に壮絶な努力をしてきた事は、俺は知っている。


 だからこそ、兄者は誰よりも他者との力の差を推し量る事に長けている。

 それは当然、俺とミヅキの力の差についても。

 


 ミヅキが失踪したあの場には、兄者もいた。

 何故、兄者がミヅキの標的にならなかったのか。

 その理由は、分からない。


 でもこうして、俺を心配してくれる一族の生き残りはもはや兄者のみで、その存在はとてもありがたかった。



「兄者。そう心配そうな顔をしないでくれ。大丈夫だ。必ず帰ってみせる」


「本当に気をつけてくれ。もうテンオウ一族の生き残りは……僕達しかいない。僕達にまで、何かあれば血が途絶えてしまう。僕の血は……薄いからあまり関係ないかもだけど、オウガイの血は、何としても残さないといけないんだから」



 そう。

 ミヅキの手によって、テンオウ一族は俺と兄者、それ以外は純血を保つ者は居なくなった。


 悉く、ミヅキの手によってその命は奪われたからだ。

 この僅か二ヶ月の間で。


「そうだな兄者よ。俺も、こんな所でくたばる訳にはいかぬ。都の為、この大陸の安定と繁栄の為にもっと身を粉にして働かねばならないからな」


「そうだよ。この世界の皆が、君の帝としての働きに期待しているんだ。僕は力は無いけど、その他で君を支えられる様に頑張るからさ」


 俺が不在でも、兄者がいれば問題ない。

 死剣眼は無くとも、兄者にはその優秀な頭脳がある。

 何があろうとも対処出来るはずだ。


 だから、安心して都を離れることが出来る。



「それでは行ってくる。暫くの間、都を頼むぞ」



 都をコウガイに任せ、剣神と剣君等を率いてミヅキ討伐の旅に出た。




 ☆





 護衛の者達と都を出発し辿り着いたのは、國と國の境目にあるそれなりの大きさを有する町だった。


 ここに来た目的は、一つ。

 ミヅキらしき人物をここで見たとの情報が入ったからである。



 この二ヶ月、配下達に行方を探らせていたものの、一向にその動向を掴めなかった。


 行方こそ掴めなかったが、ミヅキが宣言通りに暗躍している事は強者が殺される度に上がってくる報告で分かった。


 どの死体も、真っ二つに体を分けられるという特異な斬られかたをしていたからだ。


 三大の剣術では出来ない。

 死剣眼で斬った時のみ、このような死体が出来上がる。


 更に、死体には血で書き綴った


『また一人』


 と書かれた貼り紙が置かれていた。



 配下の者が現場に駆け付けてもミヅキの姿はなく、それだけの手掛かりだけを残しその後日には、また違う死体だけが見つかる。


 本当に暇潰しの為に、殺しを楽しんでるかの様に。


 そうした事が繰り返されるばかりだったのが、こうしてハッキリとしたミヅキの目撃情報が得られた事。


 余の傷が癒え、動ける様になった段階で情報が出たことに、何かしらの思惑がありそうではある。



「帝。これからどう動きましょう」


 右斜め前を歩くカミナが、周囲を警戒しながら確認してきた。


 剣神では一番歳若く、この間十七になったばかりの彼女だが、既にその腕は先代に並ぶ所まで来ていた。

 真面目なその性格で、風雷國の民の為に善き剣神として頑張ってくれている。



 今回ミヅキの乱で、テンオウ一族だけではなく、三大にも大きな影響を残した。


 そこで就任した三人の剣神。

 カミナ、ゴウカ、トウカ。


 三人は同時期に剣神に就任した。

 皆、剣の腕は確かで十分な活躍をしてくれている。


 その中でも、余は、カミナを剣神の中で一番に信用している。

 どこまでも真っ直ぐに忠誠を誓ってくれているのが分かるからだ。



 それに対して、他の二人には少々手を焼かされる事もしばしばあった。

 ゴウカは野心が強すぎる。

 一応忠誠を誓ってくれてはいるのだが、隙あらばと眼光が鋭くなる時がある。

 実力至上主義の側面が濃く、余も油断せぬ様にしなければ。


 トウカは正直、心底で何を考えているのか分からない時が多々あるのが難点だ。

 ゴウカみたいに野心家ではないが、物事を効率重視で考える癖があり、必要がないと判断すると平気で切り捨てる冷淡な所もあった。



 この様に三者三様の剣神達だが。

 無事ミヅキが何とかなったとして、これから大陸の為には力わ合わせねばならぬ時もこよう。

 その時に、ちゃんと足並みを揃えられるか。


 余と同じ方向を向いてくれるのか。

 心配だ。



 とはいえ……まずは生きて都に帰らねば始まらない話しだがな。


 気を引き締めねばならぬ。



「剣神と剣君を中心に隊を作れ。その後は、ミヅキの情報を掴み見つけ次第、余に報告を」



「「「はっ!!!」」」



 ミヅキがこの町の何処にいるのか。

 探索に全力を注ぎ込む事から、余の行動は始まった。






 探索を開始してから数日が過ぎ、すっかりとこの町にも慣れてきた。


 しかし、いまだミヅキの居所は掴めない。

 そこそこの大きさを有する町とはいえ、探索出来る場所には限りがある。

 見落としが無いように、隅々まで探しているが。


 見つからないとなると……。

 もう既にこの町にはいない可能性がある。



 だが。

 余にはミヅキがまだこの町にいるのではないかとそんな気がしていた。

 何処からか、余の姿を見ている様な。

 そんな気が。



 そして、その予感は的中する。




 探索してから四日目の夜だった。

 見事な満月が虚空で存在感を示し、少し明るすぎる光で夜道を照らす中を、配下と共に歩く余の前にミヅキは姿を現した。



「少しは、強くなったんだろうな?」



 民家の陰から、暗闇に紛れるようにミヅキが姿を現した。

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