55話 二度目の邂逅
「あんたは今、俺達が過去に出会ってるって言ったのか?」
帝の口から告げられた内容に、思わず聞き返してしまった。
何故なら、初対面な筈の帝と何処で出会った事がある様な奇妙な感覚を感じていた所に、それが間違いなどではなく事実として告げられたからだ。
それを肯定され、心臓が早鐘を打つのが自分でも分かる。
そんな俺の心情を知ってか知らずか、帝は「そうだ」と言うと、一呼吸置いた後、続きを話し始めた。
「……もう十四年も前になるのだな……」
帝は遠くを見るように目を細める。
「月日が経つのは、何と早いものよ。お前の父ケンシロウと、まだ歩き始めたばかりの頃のお前の手を引く母の三人と出会ったのは、都から遠く離れた辺境の町だった。
余はその時、所用で都を離れその町に赴いていた」
良く分からないけど、俺の勝手な想像だけど帝は都から離れたりしないものだと思ってたのだが。
どうやら、違うらしい。
「その所用ってのは、何だったんだ? 帝がわざわざ出向くなんて、余程の事の様に思うが」
詳細を聞こうとすると、帝は俺の顔を見た。
口を開けて何かを言おうとするが、直ぐに閉じる。
それを何度も繰り返した帝は、
「…………」
やがて閉口してしまう。
余程に話しずらい……いや話したくない事なのかもしれない。
きつく唇を閉じて体を震わせる姿に、それが嫌でも伝わってくる。
帝のその様子からは、過去に何かしらの事件が起きたのは分かった。
おそらくそれには俺も関わっている。
だから帝は俺に言うか言うまいかと迷っているんだろう。
「話してくれ。その話には俺も関わってるんだろう?」
「……」
この部屋には現在、帝と俺の二人しかいない。
俺は帝が続きを話し始めるのを、ただ待つ。
帝は、だんまりを続けている。
両方黙りこむと、物音を発する者は居なくなり、静かで広すぎる部屋には、無音の時間が流れていく。
やがて。
たっぷり五分程の時間をかけ、帝は重たい口を開いた。
「………当時」
ポツリと、話し始める。
「テンオウ一族で、過去最悪の事件が起きた。イットウ一族を都から追放した後、我が一族の間で、同族殺しがあり、かなりの人数が殺されたのだ」
喉の違和感を押し出すかの様に、えづきながら、帝は息を深く吐き出す。
「……その凄惨な事件を引き起こしたのは、余の従弟であり、友でもあったミヅキ・テンオウという一人の男。奴は、自身と同じ血を引くいわば家族に手をかけ、100人近くいた一族を皆殺しにし、姿を眩ました」
過去に会った事があるって言うから、確認しただけなのに。
話の方向は、思ってたのと違う展開になってきたな。
しかし、本当に身内で争うのが好きな血筋というか。
石碑にも書いてたけど、戦いを望む様になってんのか? 死剣眼は。
そして、そのミズキとかいう男……家族を自分の手で殺したのか。
それもかなりの数を。
よくやる。
「その探索と討伐の為に、当時帝になったばかりの頃の余が出陣した」
「帝が自ら出たのか。いかにそいつがやべー奴だとしても、あんたが出る程だったのか? 部下とか、剣神とかに行かせればいいだろう」
自分に置き換えて考えてみる。
死剣眼は確かに強力だ。それぞれに能力の差や力のばらつきがあったとしても、三大の奴等に負ける事はないと思う。
でも。
それにしたって、限度がある。
俺だって、カミナ程の使い手を……五人一斉に相手にすれば勝てるか分からない。
勝つことだけに執着すれば、やりようはあるだろうが、どうしても多勢に無勢になるだろう。
だから数で押しきれば、ミヅキを殺せると思うのだが。
「勿論、討伐隊を組織して剣神達にも協力をさせその力も借りた。だが……それでも余が直接対処しなければならない程の事態だったのだ」
「……」
「……ミヅキは強かった。とてつもなくな。その強さで、今の先代の剣神達を悉く葬り去った。その実力は、剣神達が束になろうとも、とても敵うものではなかった。そして、それは死剣眼が使えた我が同族達にも同じ結末を突きつけた」
「……あんたは、どうだったんだ。帝とは、一番強い力を持つ者がなるんだろう? 剣神は勿論、テンオウ一族の中でも最強だったんだろう」
「……帝の定義はそれで合っている。余もミズキよりも、強かったと自負していた。実際に過去で何度も試合した時にも、その差は、ハッキリ言ってあった。だが……」
そこで帝が苦い顔をした。
その表情は、後悔やら怒りやら悲しみやらが全部混ぜ合わせた様なものだった。
「同族殺しをする少し前から、ミズキの様子が……おかしくなった。ある日突然別人の様に変貌したのだ。それは、死剣眼にも変化をもたらし、急激に力を増した」
急激に力を増す……。
あり得ないよな。
鍛練を死に物狂いでやろうとも、それなりの時間は必要だ。
俺でさえ、ここまで力を着けるのに二年もかかったんだ。
そのミズキとかいうのが、俺よりも才能があったとしても、短時間で力を着けるなど不可能だ。
「そうなったミヅキは手に追えなかった。奴がこの場から去る時、説得を断念した余は、全力で私情を捨て、ミヅキを殺そうと刀を振るった。だが……相手にもされずに一蹴された。余には、友を止め悔い改める事も出来なかったのだ!!」
帝はベッドに拳を振り下ろした。
ギシッと、ベッドの表面が大きくへこみ、軋む音が鳴る。
「……今でも忘れる事が出来ないあの表情だけは。身の毛がよだつ冷徹な眼差し、けっしてミズキが浮かべる事などなかったあの表情……。切り刻まれ、ボロボロになった余を見てミヅキは言った。
『この場は生かしてやろう。精々力をつけ、我を殺しにくるがいい。それまで我は、世の強者を殺して暇を潰そう。だが、余りにもお前が来るのが遅くなればどれだけの民達が犠牲になるだろうな?』
その言葉を最後に、ミヅキは姿を消した。そして…………その後だ。悲劇が起きてしまったのは」
「……悲劇」
「……」
コクりと頷くと、帝は申し訳なさそうに告げた。
「……お前の父と母が――――――――ミヅキに殺されたのだ」




