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54話 予感

 


「待っていたぞ。少年よ」


 部屋に侵入した俺を見るなり、帝が発した第一声がそれだった。


「……まるで、俺がここに来るのを最初から分かってたみたいな言い方だな」


 普通この状況なら、許可なく侵入した俺に動じたり警戒こそすれ、待ってたなんて言わない。

 それはすなわち。


「余には、分かっていた。お前が、余に会いに現れると、な……」


 帝はそこで一度言葉を区切り、気だるそうにベッドの両脇に備え付けられている手刷りへと、腕を伸ばす。

 それをぐっと掴み徐々に身体を起こすが、その動作はえらくゆっくりしたものだった。

 身体が重いのだろう。

 顔色も血色が悪いし、声にも覇気がない。

 見るからに体調が悪そうなのが分かる。


「おい。具合が悪いなら、無理するな。寝たままでいい」


「いや……問題ない。……はぁ……はぁ……ここに来る予感がしたのだ。広場で目線を交わした時に」


 はぁはぁ言いながら、時間をかけて身体を起こし終わった帝は、「ふぅ」と、息を吐き呼吸を整えた。


 俺も広場で目線が交わった時に、帝には何かあると感じた。

 それは、俺だけではなかったってことか。


「それで、わざわざ鍵を外して俺が入れる様にしたと。予想してた展開とは違ったけど、まぁいいや。あんたにどうしても確認したい事があってここまで来たんだ」


「確認したいこと、か」


「ああ。でもその前に気になる事が増えたから、先にそっちからだ」


 入口から離れ、室内を歩き壁づたいを手で叩いてみる。


「あんたは、俺がここに来ることを分かってたって言ったが。それなら、何で逃げなかった? もし、俺があんたの命を狙う様な輩ならどうするつもりだったんだ? こういう部屋には、隠し通路みたいなのがあるんだろう? それを使って、ここから逃げれた筈だ」


 壁の繋ぎ目を探したり押したり、怪しそうな所を色々触ってみた。


「そこには無いが、確かに逃げ道ならこの部屋にはある。お前の言うとおり、その気になればそれを使って逃げる事は出来た」


「じゃあ、何で」


「……余には予感があったのだ。広場でお前の眼を見たときにな。それを見て、この少年には余と何かしらの縁があると。必ず余の前に現れる人物だと感じた。それと同時に、敵意がない事も汲み取れたのだ」


 俺も今まで出会った奴の眼を見て、敵か、そうじゃないかを判断してきた。

 帝も俺と同じ様に、それで判断しているらしい。

 まぁ、結構な確率で当たるしな。


 唯一の例外は、コウガイ。

 あいつだけは……分からなかったけど。


「――――やはり、余の予感は正しかった」


 帝は一つ頷き、右手で顎髭を撫でた。


「俺としては、そうしてくれて助かったのは事実だ。もう回り道をするのは、ウンザリしてた所なんだ」


「色々と手を焼かせてしまったらしい。それで? お前は余になにを確認したい? わざわざ危険を犯してまで、この様な所まで来たのだ。まさか世間話をしに来た訳ではあるまい?」


 そう言って帝は、話を聞く姿勢を作った。

 相変わらず顔色は悪く具合は悪いのだろうが、眼力は健在。

 これなら、存分に話を出来るだろう。


 やっとだ。

 やっと聞きたい事を確認する時がきた。


「確認したい事は、俺の一族に関する話しだ」


「……一族か」


「ああ。まず見てもらいたい物がある。あんたもテンオウ一族なら、()()()()()()()()()()


 死剣眼を発動させ、帝の両目を見つめた。


「…………なるほど……そういう事か。では、お前が」


 帝は、今ので何かに気付いた様で、地面に目を伏せた。

 それから数秒して顔を上げる。


 その両目には。


()()()()()()()。やはり、逃げずにこの場に留まって良かった」


 帝も死剣眼を発動させ、俺の()()真っ直ぐ見つめてきた。

 帝の死剣眼は俺の二本線とは違い、瞳の線は一本半。


「初めて自分以外の死剣眼を見た……。やっぱりメツセイの血を分けたイットウ一族とテンオウ一族は使えるんだな」


 じいちゃんのは暗闇だったのと、真正面から見れなかったからどの様な物だったか分からない。

 だから、実質これが初めてになる。


「極端に血を薄く受け継いだ者は、引き継げないがな。しかし、余が話す前に、その情報を持ち得ていたとは。何処で知ったのだ?」


「闇市に、俺のじいちゃんの師匠が遺した石碑があった。そこで、見たんだ。そこには、死剣眼の始まりと俺達とあんた達の一族の事が書かれていた」


「センエイは、石碑をちゃんと遺せたのだな。そして、それはイットウ一族の者へきちんと受け継がれた」


 帝は、嬉しそうな顔で「良かった」と言った。


「良かった? ちょっと待て。あんたらテンオウ一族は、イットウ一族を滅ぼそうとしてたんじゃないのか?」


「いや。余はそれとは反対の立場だった。元は同じ一族。それが殺し合うなど、間違っている。だから、余はセンエイと協力してテンオウ一族の迫害からイットウ一族を守り、都から逃がす手伝いをした。残念ながら、当時の状況では余にはそこまでしか出来なかったが、センエイと余は互いに両一族の繁栄を願い、共に力を合わせる云わば戦友だった」


「テンオウ一族にも、まともな奴がいたんだな。石碑の内容から、イカれた奴等ばかりだと思ってた」


「残念ながら我が一族には、そうした気質が多いのは事実だ。その事に関しては、何も言えん。お前達への迫害を止められたかった余にも責任がある。だが……本当に良かった。()()()。お前が無事に育ってくれて」


「どうして俺の名前を……」


「センエイから、サトル・イットウ……お前の祖父の事も聞いていた。センエイとサトルも書簡で連絡を取っていたから近況も知っている。それにな。お前はまだ赤ん坊だった故に覚えてないだろうが……一度だけ、余は過去にお前と出会っているのだ」

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