53話 突撃
生誕式本番の会場に、帝が入場した。
傍らにはやはりコウガイの姿もある。
一歩下がった位置で、将軍や貴族等、周りの武官に矢継ぎ早に指示を出すのが見える。
それによって忙しなく動き回るのは会場の役員。
せっせと帝が歩く通路から人を退けさせたり、飾付けを手直ししたりと忙しい。
帝は周りが出すザワザワとした雑音を受けながら、側近が先導する後をゆっくりと歩き出した。
段差の低い階段をゆっくりと登り、やがて参加者達を見下ろせる高さの場所まで到着する。
会場の参加者達は、帝が定位置に到着するのを見届けると、ひれ伏し帝に頭を垂れた。
一部の護衛とコウガイを除くほぼ全員が。
当然、俺はやらないので突っ立ったまま。
そんな俺に護衛が睨みを利かせてくる。
良く見れば、広場で捨て台詞を残していった野郎だ。
また何か言ってくるから、今度こそぶっ飛ばしてやろうと思ったが、今回はその事で騒ぎになる事はなかった。
俺が叱責されるよりも早く、帝から声をかけたからだ。
「皆、立ってくれ。余は叩頭が好きではないと言った筈だ。それに今宵は、重苦しいのは抜きにしたいと考えている。日頃から良く尽くしてくれる皆にも存分に楽しんでもらいたいのだ」
強面に少しだけ柔らかさを浮かべて帝は言う。
広場でも言っていた様に、帝は大袈裟に頭を下げさせる行為が好きではないんだろう。
「「「…………」」」
参加者達は、それでも直ぐには立ち上がろうとはせずに、沈黙と躊躇いで応えた。
「さぁ。立ちなさい」
帝が再度、声をかける。
参加達は隣の者達と顔を見合せながら、ようやく立ち上がった。
数十秒をかけ全員が元の姿勢に戻っても尚、会場をざわつきが支配したが、やがて落ち着きを取り戻した。
その様子を、帝はじっと見つめていたのを俺は知っている。
オウガイが何を考え、今までの通例を止める様に言ったのかは、俺には分からない。
大抵は権力や力を持つ者は、傲慢になる。
身分が下の者を見下し、何かしらの理不尽を押し付けたりもする。
その最たる立場にいるのが、帝だというのはこの大陸に住むのならば皆が知っている常識。
それをじいちゃんからも習ったし、これまでに出会った奴等からも聞かされ、また、自分の目でも見てきた。
だからこそ、帝が偉ぶる態度を見せずにいるのがこいつらも不思議でならないんだろう。
参加者達が完全に落ち着くのを確認すると、帝は用意された玉座に座ろうと腰を落とす。
その補助をコウガイが行った。
椅子を引き、帝がふらつかない様にと肩と腰を支え、気遣いを見せる。
宰相だから帝の補助をするのか。
もしくは兄弟だからなのか。
俺には分からない。
だが、二人の様子からは帝がコウガイを信頼しているのが分かった。
玉座に座り、もう一度参加者達の様子を確認した帝が手を上げる。
それを見た黒い着物を着込んだ女が生誕式の開幕を告げた。
どうやら、この女が進行させるらしい。
「お集まりの皆様お待たせ致しました。この度は、現帝のオウガイ様の52回目の生誕式に、遠路からご集い頂き誠にありがとうございます」
そこで一旦頭を下げ、続きを話し始める。
式は堅苦しい挨拶から始まると、改めてこの式の意味やらが話され、主役であるオウガイが話す番となった。
帝がゆっくりと椅子から腰を上げ、立ち上がる。
「今宵はゆるりと宴を楽しんでくれ。ここに並ぶのは、料理人に腕を振るわせて作らされた物ばかりだ。酒も他大陸の名酒も取り寄せている。きっと口に合うものもあろう。日頃の皆の忠誠も余は理解している。それに余も応えたい。これからも、共に大陸の平和の為に力を合わせて参ろうぞ!」
ここで、盛大な拍手がおきた。
参加者全員が意気揚々と手を叩く事で帝に応える。
その拍手を満足そうに見つめ、帝は微笑を浮かべた。
これで、挨拶が終わりなら。
事前にカミナに聞いていた話しでは、この後は帝はこの場で参加者と歓談する事になっている。
俺も、帝と話したい事がある。
だが。
帝は顔色を曇らせると、続けた。
「本来ならば、皆と有意義な時間を過ごせる事を楽しみにしていた。だが、悪いがそれは出来そうにない。余はこれで下がるが、最後まで楽しんでもらいたい。ではな」
言葉少なに一方的な挨拶だけを済ませると、奥に引っ込んでしまった。
それに付き添うように、コウガイも共に姿を消した。
帝が去った会場。
そこでもまた、参加者から戸惑いの声が上がる。
「せっかく帝様とお話し出来るのを楽しみにしていたというのに……」
高齢のじいさんが、ポツリとこぼした。
「広場でも咳き込まれてふらつかれていたし、体調が悪いのかもしれないよ。無理をされて倒れられては、大変だ」
それに、若い男が応える。
「そうですわね。また御体が良くなられれば、拝見する機会を作ってくださいますわ」
高齢の婆さんが、じいさんに寄り添い慰める。
この三人だけではなく他の場所でも同様の声が聞こえたが、参加者達は一応は納得したらしい。
思い思いに宴を再開していく。
直ぐに会場は賑やかさを取り戻した。
「……マジかよ。これだと、式に出た意味がねぇじゃねぇか……」
そんな中、俺は帝が出ていった扉を見ていた。
今日まで色々と回り道をして、めんどくさい事もやった。
それでやっと帝城に入る事が出来て、帝ともやっと話せると思ったのに……。
色々と確認出来ると思ったのに……。
「ああっくそっ!! もうめんどくせぇ!」
頭をガシガシと掻く。
もういい。
我慢の限界だ。
これからは、やりたい様に動かせてもらう。
「向こうが離れるなら、こっちから行くだけだ」
俺は会場を抜け出し、帝の私室だか寝室だか知らないが、とりあえず居そうな所を探す事にした。
その部屋が何階の何処にあるのかは、分からない。
だが、気配を察知すればそんなの関係ない。
俺はカミナ程に広範囲を探る事は出来ない。
それでも、俺だってそこそこは探れる。
ある程度まで近付いて意識すれば、俺にも分かる筈だ。
まずはこの会場がある一階には……居ない。
どうやら別の階に居るらしい。
階段から二階へと登り、気配を探る。
この階にも居ない。
全速力で、だだっ広い帝城を駆け回る。
上へ向かって走って走って走った。
――そして遂に
「見つけたぞ。この階から帝の気配がする」
到着したのは、六階。
デカさが半端ない帝城の最上階。
この階から帝の気配を掴んだ。
「とりあえず、何処にいるのかは把握できた。でもその為には、こいつらが邪魔だな」
俺の視線の先には、二十は軽く越えそうな護衛。
それらが、階段を駆け上がった俺の先にいる。
見つけたのはいいとして。
どうしたもんか。
通してくれと言っても聞かないだろうな。
かと言って、諦めるのは論外だし。
「……もう遠回りも待たされるのも、うんざりしてた所だ。暴れてやる」
生滅刀を抜き去り、首をグルリと回す。
ポキッポキッと、小気味良い骨の音が鳴った。
護衛の数は、多い。
だが、幸いと言ってもいいのか、この中にはカミナを始め剣神の姿はない。
もし、この階で常駐でもされたら突破は難しかったかもしれない。
カミナならば、話せば何かしらの協力はしてくれるだろうが。
火炎と水氷のは、そうはいかないだろう。
「一先ず、突破させてもらうぞ」
死剣眼を発動する。
まずは、廊下を巡回する奴からだ。
こちらに背中を向けた瞬間を狙い、
ヒュン――
斬る。
「――あ? ぐうああああっ」
ドサリと、前のめりに倒れる。
ちなみに、殺してはいない。
無効化させているだけ。
「次!」
今度は角に陣取る三人組を斬る為に、駆ける。
「なっ! 貴様!」
「ここになに用だ!」
「愚か者め!」
俺の姿を確認し、三人共が慌てながら刀を抜こうと構える。
「悪いな」
ヒュン――
ヒュン――
ヒュン――
「がはあぁっ!!」
「ぎゃあああっ!!」
「ぐはあっ!」
斬撃を飛ばしながら、廊下を全速力で駆け抜けていく。
時間をかければ、それだけ俺の不利になる。
襲撃が知られ、剣神が出てくる事態はめんどうだ。
だから、出来る限りの最速でやってはいるが――
「敵襲だ!」
だよな。
奥にいた護衛が異変に気付いた。
手前から制圧していく俺の存在に、警戒を強めると仲間に知らせる。
「敵は一人だ! 迎え撃て!!」
「ちっ。やっぱり無理があったか。でもな」
ぐぐっと更に足に力を込め、床を蹴った。
「そんなのは、百も承知だ」
「くたばれ!!」
遠くから青い剣気を解放し、氷の塊を飛ばしてきた。
高速で飛来するそれを、廊下の壁を足場にして、避ける
「このっ! ちょこまかと!」
「両方から挟もう! 俺は右を!」
二人がかりで、連携して斬りかかってくる。
廊下の壁を凍らせて、俺の行動範囲を狭めてくると、そこから氷のつぶてを飛ばし冷気をぶつけ俺の速度を緩めようとする。
――だが
サイカよりも下の実力しかないのに、俺が負ける謂れはない。
「その程度じゃ、足りないぞ」
俺も剣気を解放。
いつもの白色の剣気だ。
全面に展開し、叩きつける。
そのまま、つぶてを吹き飛ばし冷気もろとも跳ね返す。
「ぐおおおああっ!!」
「な、なんだこの剣気はーー!!」
ヒュン――
ヒュン――
言い終わる前に、気絶させた。
唖然と口を開けるは、奥に残る護衛達。
それに向かい、俺は言い放った。
「さあ。来い!! 全員倒さないと、帝の所へ行けないならやってやる!」
残りの護衛を無効化させる為、駆け出した。
「ば、化物め……」
ドサリと、背中から地面に倒れる男。
最後の一人を無効化させ、俺は生滅刀を鞘に納めた。
「ふぅ……。外ならいざ知らず、流石に廊下でこの人数を相手取るのは、キツかったな。殺せないから余計に難易度が跳ね上がったし」
二十人以上を相手取りながら通り抜けた廊下を振り返る。
こいつらが放った剣術のお陰で、氷付けにされた高級品やら炎で絨毯は燃え、散々な光景になっていた。
当然、これだけの被害を出したんだ。
戦闘音も響いてたろうし、流石に帝にばれてるだろうな。
「しゃーない。このまま突撃だ」
奥から帝の気配がするのを確認し、部屋の前まで移動する。
そのままドアノブを掴むと、思っていた感触と違った。
「開いてる……」
鍵はかかっておらず、扉は簡単に開いた。
そっとノブを回し、部屋に入る。
「邪魔するぞ」
一応入る際に声をかける事を忘れない。
ちゃんとやらないと、じいちゃんに怒られるからな。
ゆっくりと足を踏み入れたこれまた広すぎる部屋。
その部屋の中央に置かれたベッドに、帝は横たわり入ってきた俺をじっと見ていた。
勝手に部屋に侵入してきた俺の姿を見ても、慌てる素振りすら見せない。
何故平然としてるんだ?
肝っ玉がすわってるのかもしれないが、警戒心すら無いように見えるのはどういうことだ。
今の俺は、不審者だ。
護衛をなぎ倒し、勝手に部屋に侵入した。
自身の命を狙う刺客だと思われてもおかしくないのに。
なのに、警戒すらされていないとは。
まるで俺が来ることを分かっていたかの様だ。
……いや。
もしかして、本当に分かっていたのか?
俺が困惑させられるていると、帝はやっと反応を見せた。
「待っていたぞ。少年よ」




