52話 帝城の中で
広場を離れた俺は、ようやっと帝城の中に入る事が出来た。
城内に入ろうと入口に向かった俺を待っていたのは、長蛇の列。
生誕式本番にはかなりの人数が参加するらしく、長い長い列の最後尾に並ばされ、入るまでに結構な時間をくった。
一瞬、無理矢理に入城することも頭をよぎったが、それで騒ぎになればせっかくの準備も無駄になりかねない。
その為、仕方なく従ったが、もう二度とやりたくないな。
待ってる間も俺の格好を見た貴族やら金持ち連中に、「何であんたみたいな庶民が並んでんの?」みたいな目で散々見られたし。
もっとサクッと入れる様にしろよな。まったく。
本番はこれからだっていうのに、色々と疲れたぞ。
「……ふぅ……」
首をグルリと、回して気持ちを切り替える。
最後になるんだし、我慢しなきゃな。
この為に、今まで頑張って来たんだから。
「さてと……中に入ったのはいいが。これから、どうすりゃいいんだ」
辺りを見渡す。
右を見ても左を見ても正面を見ても長い通路が伸びていて奥が見えない。
外からでもここがデカいのは分かってたけど、建物中に入ると余計に広さが分かった。
部屋もどんだけあるんだか。
帝が住む場所だしそれ専用の世話係りもいるんだろうけど。
掃除とか大変だろうな。
俺だったら絶対こんな所に住みたくない。
落ち着かなさそうだし、普通に住むだけならば部屋は一つだけあればいい。
風呂がついてれば、文句なしだ。
「ま、俺がこんな所に住むなんて事には一生ならないから、どうでもいいか。それよりも、今考えないといけないのは会場までどうやって行くかだよな」
腕を組み、どうしたものかと考える。
土地勘もないしこんな広い所を無闇に歩き回れば迷うだろう。
他の奴の後に着いていけば会場まで行けたりしないかな。
「誰かちょうどいい奴はいないか。おっ。あのオッサン良さそうだな」
いかにも「金持ちです」と、言わんばかりにジャラジャラとした宝石やら装飾品を身につけたオッサンが少し先を歩いているのが見える。
そのオッサンの後を着いていく事にした。
オッサンの後を着いて歩く廊下。
この帝城は広いだけではなく、飾り付けも豪華だった。
途中にも、いかにも高そうな坪やら皿やらが等間隔に配置され、どっかの風景が描かれた絵画や、帝を模写した絵も飾られている。
「これ一個売ったら、結構な金になるんだろうな」
こういうのを買う金を、食うのに困ってる奴等に配ればいいのに。
どうして、金持ちは贅沢をしたがるんだろうか。
やたらきらびやかな物を持ちたがり、自分を飾ろうとする。
確かに、生きてく上で金が必要なのは否定はしない。
あれば、あるだけ出来る事の幅は広がる。
でも、本当の幸せとは家族や大切な人が側にいて、一緒に笑い一緒に生きてく事だと思うんだが。
暫く歩いていくと、行き交う人の数が増えた。
やがて廊下の所々に案内人が立ち、「会場はあちらです」と、誘導する。
そこから更に数分歩くと、オッサンの足が止まった。
開け放たれているこれまた豪華な扉から中に入っていく。
「会場は、ここだな。ご丁寧に書いてあるし」
扉の上部に『生誕式会場』と墨で書かれた紙が貼られていた。
次々と入っていく人の流れに逆らわずに、俺も扉をくぐる。
足を踏み入れた会場は、流石この帝城の主を祝す催しをする場所と言えた。
とにかく広い。
所狭しと置かれた様々な料理。
肉から魚から山菜から野菜に、初めて目の当たりする料理の数々。
それらが各テーブルに並べられ、会場の何十ヵ所にも配置されていた。
給仕の者が参加者に好みの酒を聞き、注ぎ世話しなく動き回る。
参加者達は、テーブル周りに集まり思い思いに料理をつつく。
グラスを傾け酒を飲む者が、自身の自慢話に華を咲かせていた。
「おーおー。ここに居るのは金持ちばっかで、場違いが半端ねぇ」
ここに居るのは、散々見かけた貴族。
その他には、体つきが頑丈で中々に強そうな雰囲気を出す集団もいる。
こいつらは、豪族って奴か。
確か、それぞれに小規模ながら町や土地を管理して統治する存在だとユリから聞かされたな。
その参加者達に自分から近付き交渉する一団も見かけた。
商人服を来ている事、この場に参加出来る事から貿易関係のお偉いさんなんだろう。
様々な立場、権力者が集う会場。
いずれにしろ、この場にいる庶民は俺だけみたいだな。
こうして突っ立ってる間にも好奇な目線で見てくるのも、少なくない。
耳を立てれば、ヒソヒソと俺の陰口を言ってるのもいるな。
やれ格好がみすぼらしいやら、やれ目付きが悪いやら、やれ教養が無さそうとか。
俺の耳が良いから聞こえちまうのもあるけど、悪口言うなら面と向かって言うか、出来ないなら聞こえないようにしろや。
相手にするの面倒くさいから無視するが。
やることもないし、料理をつつき何かが始まるのを待つ。
そこに、おそらくこの場でも金持ち筆頭であろう奴がお供と一瞬に入場してきた。
「ガハッガハッガハ!!」
バカさ全開な笑い声を響かせながら。
「いやいやそれはまずいのであーる。キチンと不正は無しでやるのであーるよ。でないと、あの小僧がやってくるのであーる」
取り巻きに指示の様なのを出しながら、会場の中央に向かって歩きだした。
ちょうど俺が居るこの場所に近づいてくる。
周りを良く見ずに歩いているから、俺に気付いてないらしい。
知らない仲じゃないし、挨拶ぐらいしてやろうか。
「よう。相変わらず、バカさ全開だな」
「ん? 我輩に失礼な物言いをするのは、誰――――」
バクガイは俺の顔を認識した途端。
ピシリッと、固まった。
「そ、そちちちちは!」
そちちちちってなんだ。
「あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば!!」
贅肉をたっぷりと蓄えた体に似合わない俊敏な動きで、俺に背を向けると一目散に逃げ出そうとする。
「おい。逃げんじゃねぇーって」
首根っこを掴み、逃走を阻止する。
「あわわわわわわわー!! こ、殺さないでくれーー!!」
尚も体に力を込め必死に逃げようとする。
お、デブの癖に中々に力があるじゃねぇーか。
「逃げんなって。何もしねーって」
「怖いのであーる! 離すのであーる!!」
ジタバタと暴れて逃げる事に全力のバクガイ。
それを許さない俺。
その構図で数分が経過。
やがて。
逃げる事は出来ないと諦めたのか、次第に力も弱まると大人しくなった。
「あの人、バクガイ公によくあんな事ができるな」
「恐れ多い。報復が怖くないのかしら」
一部始終を見ていたらしい他の参加者や、バクガイの取り巻きが距離が離れた所から好き勝手言っている。
「お前のせいで、目立っちまったぞ」
「何でそちがここにいるのであーる……」
うんざりだと、脱力した格好で聞いてきた。
「何でも何も、こないだ式に出るからってお前に手形を貰ったばっかりじゃねぇーか。忘れたのか?」
「そういえば……。うがぁっ!! あれは、思い出したくないのであーる!!」
失った右手を左手で押さえる仕草をした。
「もう我輩は、悪い事はしてないのであーる!! そちに何もやられる謂れはないのであーる!!」
この間、やきを入れたのが余程懲りたのか。
拒絶反応が半端ない。
「悪さしねぇーで真面目にやってんなら、何もしねぇって。やってないよな?」
「してないのであーる! だから、我輩に関わらないで欲しいのであーる!」
「まぁいいや。俺も別にお前と関わりたい訳ではないからな」
「そうしてくれなのであーる。まったくえらい目にあったのであーる……」
ぶつくさと文句を言いながら、会場の先の方へ歩いていった。
再び集まりだした取り巻きにイライラを撒き散らしながら。
「少しは、お灸を据えたのも意味があった様だな。ん?」
「あんた! 何であの時叩頭しなかったのよ!」
バクガイと話した後は、イオリが話し掛けてきた。
出会って数秒で怒られる俺。
こないだの話し合いで、イオリもこの会場の警護に着くと言っていた。
こいつもバクガイを毛嫌いしていたから、俺と奴が離れた瞬間を狙って近づいて来たんだろう。
バクガイが離れて直ぐにやってきたからな。
「お前。あの時テラスにいなかったよな? 何で知ってるんだよ」
「お母様から聞いたのよ。悲しんでいらしたわ。そういう態度は控える様に言ったのに、って。何も改善されてないじゃないの」
そう言えばカミナにそのままだと、敵を増やすだけだと諭されたな。
「あーはいはい。俺が悪かったよ。やりたくなかったからやらなかっただけなんだが」
「だからあんたは、子供なのよ。わたしとはやっぱり違うわね」
イオリは、フフン、と鼻を鳴らしドヤ顔をかましてくる。
「そうやって勝ち誇った顔をするお前も、子供だけどな」
「なによ!」
「なんだよ」
にらみ合う。
「……まぁいいわ。困るのはあんただし、わたしは関係ないしね。但し、お母様に迷惑をかけるのだけはやめてよね。只でさえ、お忙しくて大変なんだから」
相変わらず母親愛が強いな。
イオリと話していると、会場の一角から一人の男が現れる。
「なぁ。あいつは誰だ?」
「ああ。あの人が、ゲッコウ将軍よ」
あいつが近衛隊の頭か。
佇まいと醸し出す雰囲気から強さを推し測ってみる。
ふーん。
実際に剣を交えてないから正確な強さは分からないが。
おそらく剣君以上剣神よりも下だと、思う。
カミナよりも下だと言ったシュウゲツのとおりかもしれない。
ゲッコウは、チラリと周りを見渡した後、会場を出ていった。
「それじゃあわたしも、また任務に戻るわ。ちゃんとお母様の期待に応えてよね! 迷惑かけるんじゃないわよ?」
「分かったから。さっさと行け」
しっしっと手で追い払うと、睨んで離れていった。
それから特に見知った顔も見られず、料理を食べていると。
会場が一気に活気づいた。
食い物を口まで動かしていた右腕を止めて、ざわめきの先を見据えた。
「……来たな。主役の登場だ」
俺が入って来た別の扉の奥。
そこから、帝が姿を現した。




