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5話 強襲



 


「ツルギ、ツルギ。起きろ」


「う……ん……」


 気持ち良く寝ていると体をユサユサと、揺らされる感覚がした。


「ツルギ起きるのだ」


 尚も揺らされる。


「……ん……じいちゃん……」


 目を開けると、家の中はまだ真っ暗だった。


「…………まだ……夜中じゃん……どうしたんだ?」


 寝ぼけ眼で見たじいちゃんの顔は、真剣でどこか緊張感を含んでいるように感じられる。

 俺は今まで、こんな表情をしたじいちゃんを見たことがない。


「……ここを五人……が、取り囲んでおる。気配から察するに……夜盗ではないな」


「え……? じ、じゃあ何者なんだ? 何でこんな所に……」


 こんな人里離れた辺境にわざわざ来る奴はいない。

 まして、山奥に俺達が住んでいる事を知ってる奴なんていない筈だ。


 それが、こんな状況になるということは……。

 何か目的を持ってここにやって来たということ。

 それを想像すると、体が震えだすのが自分でも分かった。


 そんな震える俺の肩を優しく叩いた後、じいちゃんは壁に立て掛けてあった刀を掴み言う。


「お前は、ここで身を隠しておれ。もし敵意を持っておる輩ならば、わしが退治する」


「じ、じいちゃんだけじゃ危ないって! 人数も五人いるんだろう!?」


 いくらじいちゃんが俺よりも強かったとしても、もう歳だ。

 それに一人ならまだしも、五人もいる。


「言っただろう。わしは若い頃は凄腕の剣士だったと。だから年老いたとはいえ、そんじゃそこらの若造には負けんわい」


 不安な顔をする俺に笑みを浮かべ、じいちゃんは入口に向かうと外に出た。


「や、やっぱりじいちゃんだけに任せるわけには……」


 この場で待ってるように言われたけど、ただ待つなんて出来ない。

 じいちゃんは俺のたった一人の家族なんだ。


 物音をたてないように静かに入口に近づくと、外から声が聞こえてきた。

 俺はゆっくりと扉を開け外の様子を確認するが、まだ暗闇に目が慣れず男達の姿がはっきりと見えない。

 少しでも状況が分かるように、耳をたてる。


「……お主らは何処の組織の者だ? 名を名乗れ」


 じいちゃんからの問いに、男が答えた。

 その声は、底冷えがするかの様に冷たい。


「今から死ぬのに相手の名を知ってどうする。しかし、わざわざ夜中を狙って来たというのに、気配を察知されるとは流石だと言っておこうか」


 いまだ暗闇に声が響くだけでその姿は見えない。

 でも会話の最中に雲が流れ、月の光が射し込むとその姿を確認出来る様になった。


「……お、お前らは……」


 五人組の男達の姿を見て、じいちゃんは言葉を詰まらせた。

 そして、それは俺も同様だった。

 だってその男達は……。


「な、何で……昼間に見かけた奴等が……ここに来るんだよ……」


 俺が驚きまくっていると。

 じいちゃんのその声は怒号に変わった。


「…………『滅』と書かれた……黒い羽織袴……お前らか……ケンシロウが言っておった輩は……お前らが、()()()()()()()()()()()()!!」


 じいちゃんの声が静かな山に大きく響き渡った。

 その声に反応した鳥が飛んで逃げていく。


「じいちゃんが本気で怒ってる……それにあいつら……父さん達を殺したって……どういう事なんだ。俺はそんな話しは知らない……」


 じいちゃんの怒りなど関係ないとばかりに、男が言う。


「ほう。息子から我等の事を聞かされていたか? それとも何か情報を残していたのか。いずれにせよあれから十年以上経つが、流石に自分の息子を殺した者を忘れはしないよな」


 男はにやけた顔で言った。


「忘れる訳がなかろう……だが何故……ここが分かった。都からは離れているというのに。何の用でわしの前にまた姿を現した!」


 じいちゃんの問いかけに、男が一歩前に進み出て答える。


「貴様の息子とその女を殺した時にはその姿がなかったが。まさかガキを残していたとはな。貴様の息子と良く似たガキを見たと報告が入り、まさかと見に来れば能天気に町を歩く貴様の孫を見つけた。わざと姿を見せ、その後をつければこんな辺境の地の山奥に居を構えていたとは」


 俺のせいだ……。

 俺が道場に入る為に何度も町に行っていたから……だからここが。


「お前ら、目の前のは老いぼれだが、かつては死剣眼の使い手としてその時代に名を馳せた奴だ。まだ力を残しているかもしれん。油断するな四人で取り囲んで殺せ」


 男が他の四人に命令すると、じいちゃんを囲うような陣形を取る。

 それぞれが腰から短刀を抜き、構えると、青色、赤色に変色させた。


「……こいつら……三大剣術を……どうして」


 それを見据え、じいちゃんも鞘から刀を抜き構えた。


「正規の剣士では……ないようだが三大を使うか……。しかし、わしもなめられたものだ。じじいにはなったが、まだお主らを斬る事ぐらいは――出来るぞ?」


 じいちゃんの醸し出す雰囲気が変わったかと思うと、肌がピリピリとする。

 そして、物凄い振りで、空気を一閃した。


「ぎゃああああああっ!」


 一振りしただけで、取り囲む四人の内の一人が、左肩から胸にかけて血を吹き出し倒れた。


「……なるほど。年老いても死剣眼と、それだけの振りが出来るとは……伊達に普通の老いぼれとは違うな。お前ら次は一斉にかかれよ」


 仲間の一人が殺されたにも関わらず、男は何事もなかった様に指示を出す。


 その言葉を合図に三人がじいちゃんに一斉に斬りかかった。

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