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49話 シュワシュワ

 



 あらかた話しが済んだ頃。

 俺はこの場にサイカを連れてきている事を切り出した。


「実は、今回の話し合いに伴って一人会わせたい人物がいるんだが、そいつをここに連れて来てもいいか?」


「それは、どなたですか? ツルギさんの事ですから、怪しい人物ではないとは思いますが」


 カミナが確認してくる。

 言葉通りに、俺を信頼してくれているようだが、若干の警戒心を滲ませているのに気づいた。

 情報が漏れて作戦が失敗に終わる事を想像しているのかもしれない。


「安心しろ。お前達も良く知っている人物だ」


「俺達が? 誰だろう?」


 シュウゲツが眉間に皺を寄せ腕を組み、考える。


「サイカ・テンオウだ」


「…………えっ…………」


 まさに絶句という感じで、シュウゲツが口を大きく開けた状態で固まった。


「サイカ様って、あのサイカ様!?」


 続いて、イオリもシュウゲツ程ではないが目を大きく見開き驚きを隠さない。

 やっぱりこういう反応になるんだな。

 良く考えたら、サイカはこの都を統治する帝の娘だもんな。


「他にもサイカって名前は居るだろうが、テンオウがついてるのは一人だけの筈だぞ」


「そ、そんな事は知ってるわ! あんたよりも歳上なんだから!」


 バカにされてると思ったのか、イオリが怒りだす。

 別に、バカにしていないのだが。

 それに、この事に歳も関係ないと思うぞ。


「ふう……。ここにきて、まさかこの様な展開になりますとは」


 カミナが一つ息を吐き出した。

 その顔は珍しく慌てている様にも見える。


「……何故、ツルギさんがサイカ様とお知り合いなのかは気になりますが、これも運命の巡り合わせという事なのでしょう。こちらは、大丈夫ですので是非お連れください。サイカ様は、今どちらに?」


 この場の決定権を持つカミナから了承を得た。


「村の入口前ぐらいの所にいる筈だ」


 サイカが俺の言い付け通りに、大人しくあの場所にいればだが。


「……確かに。誰かがいる気配がしますね」


 カミナは目を閉じると、サイカの気配を察知した。

 凄いな。

 ここからは、結構距離があるっていうのにそれを感じ取れるとは。

 気配察知能力は、俺よりも格段と上だと思う。

 流石は剣神だ。


「それじゃあ、少し待っていてくれ。呼んでくるから」



 サイカの事だから、そろそろ待ちくたびれてブーブー言ってるかもしれない。

 その顔を思い浮かべながら迎えに行くと、



「ブーブー! 遅いよお兄ちゃん!! 待ちくたびれちゃったよ。教えてくれた歩方も覚えちゃったし」


 案の定、膨れっ面な顔。

 予想は的中した訳だ。

 それにしても、


「へぇ……もう覚えたのか。凄いじゃないか」


 サイカが立つ一帯には、足跡と地面が削られ出来た無数の穴があった。

 その有り様は、どんだけやってたんだと思うほど荒れ果てている。


「サイカ頑張ったもんね!!」


 小さな体、胸を張り自慢気にニヤついた。

 その顔は本当に子供だな。

 いや、子供か。


「それじゃあ~これからやるから、見てて! 見てて!」


 わざわざ俺から離れた位置まで移動する。


「いくよぉ~ほいっ!!」


 ぐうっと、右足に力を込めると、一瞬にして俺の前へと現れる。

 中々。


「実戦で使うにはもう少し磨いた方がいいが、合格だな」


 俺が教えたものは、強く地面を蹴り素早く相手に接近する高度な移動法。

 本来ならこんな簡単に習得出来ないのだが、それをたった二時間ぐらいでやってのけるとは。

 やっぱりサイカは、才能が段違いだ。


「でしょ! サイカ頑張ったんだから! 褒めて! 褒めて!」


 頭を差し出してくる。

 それを撫でてやると、猫の様に目を細め気持ち良さそうにした。


「それで、お兄ちゃんの方はどうだったの? お話は終わった?」


「大体はな。とりあえず、お前を連れてきてもいいって許可が出たから行くぞ」


「うん! 行こう行こう! サイカが会う人は誰なんだろう。ワクワクするね!」


 とことこと付いてくるサイカを連れ、またカミナ達の元へと戻った。




「サイカ様。此のような所まで、ようこそお越しくださいました」


 再び拠点へと戻ると、カミナを先頭に、イオリ、シュウゲツと並び叩頭した。


「あー! カミナがいるよ! どうして? どうして?」


 カミナを見つけるなり、ひまわりの様な笑顔で近寄る。


「サイカ様。お元気そうで何よりです。少し背が伸びましたか?」


 元気の塊のサイカを見て、これまた笑顔で返すカミナ。


「うん! 元気元気! こないだね測ったらね、二センチも伸びてたんだぁ! サイカ、もうちょっとで大人だよね!」


「そうですね。サイカ様は、成長著しいですから」


「最近ね。頑張って牛乳も飲んでるんだよ! ニンジンも、ピーマンもちゃんと食べてるんだから!!」


「それは素晴らしい事ですね」


「でしょう! あの味はまだ好きじゃないけど、頑張ってるんだから!」


 サイカが加わると、この場の雰囲気が一気に賑やかになる。


 カミナの次は、その隣にいるイオリに気付いたらしい。


「んん? あー! イオリもいる!」


「ご機嫌麗しゅうございます。サイカ様」


 俺には絶対にしない、笑顔で応えるイオリ。

 こいつ普通に笑えるんだな。

 いつも、俺にだけは険しい顔なのに。


 それに、サイカに挨拶するその姿はとても優雅だ。

 これが、正式な礼儀作法なんだろうか。

 俺はそんなの知らないから、詳しくは分からないが。


「うん! 麗しゅうだよ! イオリも、元気そうだね!」


「はい。お陰様で、健在です」


「サイカ様。お疲れでございましょう? どうぞこちらへ」


 カミナがサイカを自身の隣に招いた。


「全然疲れてないけど、分かった」


 サイカの相手は、カミナがするらしい。

 衣服に着いた、埃や汚れなどを拭き乱れた髪型を直し始めた。

 普段から良くしているのか、手慣れている。

 二人の雰囲気からも、仲の良さが伺えた。


「ねえ。ちょっと話があるんだけど」


 サイカに挨拶を済ませたイオリが、俺の側に近寄ってきた。


「なんだ?」


「何であんたみたいなのが、サイカ様とお知り合いなのよ?」


 相変わらず目を吊り上げてるな。

 ずっとそんな顔の筋を酷使して、疲れないんだろうか。


「都を歩いてるとサイカに襲われて、それを一蹴したら懐かれただけだ」


「あんたねぇ! 嘘をつくなら、もっとマシな嘘つきなさいよ! そんなのに騙されるのは、子供ぐらいだわ! それに、様をつけなさい! 様を!」


 また、怒りだした。

 めんどくせぇな。


「俺は本当の事を言ってるんだが」


「嘘つくんじゃないわよ。どうせわたしの事が気にくわなくて、からかってるんでしょう?」


 だから違うって。


「イオリ。それぐらいにして、サイカ様にお茶を……サイカ様お飲み物は、ジュースの方がいいですか?」


「うん! シュワシュワする奴が、いいなぁ!」


「分かりましたイオリ。シュワシュワするのを淹れてください」


「わ、分かりました。シュワシュワするのですね」


 イオリはまた、奥に消えた。

 シュワシュワ?

 新しい飲み物か?


 やがて。

 サイカにシュワシュワするのを淹れて戻ってきたイオリは、そっとサイカの前に置き、礼をして自分の席に座った。


「まさかこの場にサイカ様が来て頂けるとは、正直予想しておりませんでした。ですが、これもまた何かの運命なのだと思います」


「お兄ちゃんと、カミナ達はここでお話しをしてたの?」


「そうだ。都と、この大陸の為のな」


「ふーん。そうなんだぁ?」


 サイカは首を右に傾げる。


「ツルギさん。サイカ様にはまだ?」


「ああ。まだ何も話していない。俺の一存で、勝手に話す訳にもいかないだろう」


「お気遣いありがとうございます。ですが、サイカ様には是非聞いて頂かないといけません。これからの為にも」


 そうしてカミナはサイカへと向き直る。


「サイカ様。大切なお話しがあります。聞いて頂けますか?」


「うん、話して。都や世界の為なんだよね? お兄ちゃんも、カミナもイオリも好きだから、サイカちゃんとお話しを聞くよ」


 幼いなりに大事な話しだと理解している様で、真面目な顔に変わると、聞く姿勢を作る。


 そこから、カミナの口から先程までに決まった内容。

 これからの行動が説明された。


「――と言う訳なのですが、サイカ様。私達、穏健派の大将として立ち上がって頂く事は出来ますか?」


「さっきも言ったけど。都や世界の平和の為になら、サイカ頑張るよ。お父様もそれをサイカに望んでいると思うの。だから」


 サイカは、すぅーっと、息を吸い込み元気な声で言った。


「みんなよろしくね! サイカも一緒に、悪い人をやっつけるよ!」

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