47話 暴走
「復讐……ですか」
カミナに何故『滅』を滅ぼしたいのか、俺は何のために戦うのかを問われた。
それに「復讐」の為だと答えると、微笑みを浮かべていたその顔はひどく悲しげなものに変わる。
カミナは、一度目を閉じ息を一つ吐き出すと、そのまま言葉を続けた。
「……ツルギさんが憎しみの鎖に囚われているのは、分かりました。それに、いまどんな犠牲を払うことになっても、と言われましたね?」
より俺の深意を探ろうとするかの様に、目線を細めた。
「ああ。俺は復讐を果たせるなら、命もいらない。復讐さえ出来るなら、こんな命の一つや二ついつでも差し出してやる」
それは、二年前からずっと変わらない俺の気持ち……いや決意だ。
それを受けて、カミナの悲哀の顔は更に色濃くなった。
「貴方はまだ、十五歳です。その若さでそんな事を考えてはいけません。その若い貴方の力をあてにしている私が言うべき事ではないのかもしれませんが……命がいらないなんて、そんな悲しいことを言わないでください」
「俺に説教するな。俺の命をどう使おうが勝手だろうが」
「あんた! お母様にまたその様な失礼な言い方を!」
イオリが膝立ちで、文句を言ってくる。
「うるせぇ。今は、カミナと話してるだろうが。お前は黙ってろ」
「いい加減にしなさいよあんた! そんな子供みたいな――」
「……それに、このまま生きていたって俺には理由がない。俺は、生きる目的だった物を全て奪われた。ささやかな夢も、何もかもを」
じいちゃんの死に際の顔が思い出される。
命が尽きる瞬間まで、俺の事を想ってくれたたった一人の家族。
「……あんた。そんな泣き出しそうな顔を」
「だから……だから俺は復讐を決意した。絶対に許さない。例えどんな犠牲を払うことになろうとも、必ず復讐を成し遂げる。必ずだ!!」
ドン!!!!!
その時、俺の体から何かが放出された。
それが出るのと同時に、窓が粉々に割れ硝子が飛散し、障子と襖を吹き飛ばす。
「きゃああ!! な、何よこれ!」
窓際に居たイオリが飛び散る硝子から、腕で顔を庇う。
「これは……ツルギから出ているのか?」
シュウゲツは、その場でひっくり返っている。
最近、気持ちのタガが外れやすくなっているのを自分でも感じていた。
俺の人生をめちゃくちゃにぶち壊した奴への憎しみと、早くこの手で殺したい気持ちとが日を追う毎に、俺の中でどんどんと膨れ上がっていく。
早く殺せ。早く切れとの気持ちがどんどんと。
その源が剣気となって勝手に現れたのだろう。
だが、これはいつも俺が使う剣気とは違う。
いつもは白色なのに、これは真っ黒。
どろどろに濁りきっている。
「ここまで禍々しく強力な剣気は、初めて見ます。これほどまでに憎しみに侵されていたとは……貴方は『滅』にどの様な目にあわされたというのですか」
カミナが俺から止めどなく放出されるのを見つめ言った。
「カ、カミナ様! こ、これが剣気だというのですか? 体が地面にめり込みそうになるほど重厚なんて……」
シュウゲツは、苦しそうに息を吐き出した。
こうしている間にも、勢いはどんどんと増していき、大きな渦の様に周りに拡散されていく。
「あんた自分の剣気でしょう! 早く納めなさいこのままじゃここが崩れちゃうわよ!」
イオリが焦った様に叫ぶ。
そんな事は、分かってる。
だが、
「駄目だ。さっきから抑え込もうとしているが、言うことを聞かない」
イオリに言われるまでもなく、とっくに何とかしようとしていた。
俺はサイカみたいに、自分の剣気を暴走させるなんて事はしない。
これまでだって、きちんと制御下にしてきた。
それなのに、暴走しかけている。
こんなことは、初めてだ。
「ああもう!! なんなのよ! 何でこんな黒い剣気が。三大の物とは違うから? いえ。きっとそれだけじゃない。でも今は、これを止めないとこの場所が!」
イオリが立ち上がり、腰に据えた刀に触れると、そのまま黄色の剣気をぶつけてきた。
が、
「……嘘。びくともしないなんて」
イオリ程度の実力では、これを何とかする事は出来なかった。
それどころか、俺の剣気は激しさを増して地震が起きたかの様に、建物全体を揺らすまで大きくなる。
「ツルギさんもどうにか出来ないご様子ですし、自信はありませんが……何とかしなくてはなりませんね」
カミナがすっくと立ち上がる。
右横に置いてあった、緑と金の刀を抜き放つ。
「落ち着いてください。このままでは、建物が倒壊してしまいます。気持ちを強く持つのです! ツルギさん!!」
カミナもまた自身の剣気を解放した。
イオリのものよりも、数倍濃度があって大きな力がぶつかってくる。
その勢いのまま俺の物を抑え込もうと、互いの中間地点を境に、黒と黄の剣気がせめぎあいを続ける。
「くうっ……落ち着いてください。自分の心に負けてはなりません。心を強く持って飼い慣らすのです!」
カミナが苦痛の顔で、更に力を込めた。
(言うことを聞け! 俺の力なら、黙って従っていろ!)
胸中で自分の剣気に言い聞かせる。
(その時が来たら、おもいっきり解放してやるから。今は従え!!)
その思いにようやく言うことを聞く黒い剣気。
フッと、霧散すると勢いも弱まり揺れも止まった。
「……止まった?」
「はぁ……あんた何なのよ。やっぱり何処か、おかしいわよ……」
イオリは、初めて睨む以外の表情を俺へと向けた。
怒っているわけでもいぶかしむわけでもなく、何処か哀れみの様なものを。
「……悪い手間かけさせた」
頭を下げ、皆に謝る。
結果的に扱いきれずに、手を借りてしまった。
俺もまた、未熟だ。
情けねぇ……。
「いえ。中々に……かなり抑え込むのが辛かったですが、何とかなって良かったです。失敗していたら、私達もタダでは済まなかったでしょう」
額に大粒の汗を滲ませ、そう言うとまた微笑みを浮かべた。
「やはり、貴方には底知れぬ負の感情が奥底にありますね。いつ先程の様になるか、分かりません。今後は、感情を昂らせ過ぎない様にした方が良いでしょう」
「……気をつける」
「はい」
もっと心に余裕を持たないといけない事を、痛感した。
剣だけじゃなく、心も鍛えないとな。
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