42話 懐かれ。そしてその正体
今回長いです。
2話分になります。
バクガイにヤキをいれたあの日。
りつと別れ、陽が落ち始めた大通りを宿に向かって歩いていると、何処からともなくサイカが現れた。
白とピンクを基調とした羽織袴に、柄が鮮やかな銀色の刀を握った少女。
その少女は、俺の顔を見るなり、にんまりとした笑顔を作り出す。
その笑みは、子供がイタズラをする時のそれに近い。
「……誰だお前?」
突然現れた少女と目が合い、俺は思わず訪ねた。
知り合いでこんな子供はいなかった筈。
少なくとも、こんな親しげな顔をされる謂れはない。
「すぅ~はぁ~」
しかし、そんな俺の声を無視して正体不明の少女が取った次の行動は、深呼吸を数回繰り返すと声高々に叫ぶ事だった。
「いざ! じんじょうに、勝負だよ!!」
刀の切っ先を向けながら、いきなり決闘を挑んできた。
その声に反応し、通行人達が足を止め俺達を見る。
「なんだ。こんな道の真ん中で決闘か?」
「穏やかじゃないねぇ。一人は小さな女の子でもう一人も……まだ子供じゃないか」
おい。
目の前の少女は間違いなく子供だとは思うが、俺はもう元服していて子供じゃない。
酒も飲めるし、その気になれば結婚だって出来る。
それなのに、俺の顔を見て子供認定されるとは……。
やべぇ。もしかして、俺ってガキっぽく見えるのか?
「拒否しないって事は、けっとうを受けるって事だよね? それじゃあ、いくよぉー!!」
一応は俺の返事を待っていた様で、いつまでも答えない俺に痺れを切らしたらしい。
待ちきれないとばかりに、斬りかかってきた。
少女は、その見た目からも俺より歳下である事が分かる。
身長も俺の胸当たりまでしかない。
しかし、その見た目とは裏腹に、太刀筋は鋭く纏う剣気も剣君のスイダイ並みに洗練されていた。
大抵の場合、決闘を挑むのは相手が憎かったり殺したい対象だからだ。
そういう輩は、自然と振るう剣に負の感情みたいな物が込められるのだが、この少女の剣には殺意や悪意の類いは一切込められていない。
もし、それが少しでもあれば生滅刀の餌食になっていただろう。
そうこうしている間にも、少女は次々と刀を俺目掛けて振ってくる。
が、ハッキリ言って剣君程度の腕では俺には勝てない。
さっさと軽くいなして、無効化させて終わった。
少女の渾身の剣撃を捌ききり、力の差を示して戦意を折る。
殺さないで相手を無効化させるには、これが一番手っ取り早い。
勝負に敗れた者は、悔しがったり憎々しげに睨んでくるといった反応をするが。
果たしてこの少女は、
「やっぱり強いなぁ。うん! 強いね!! けっとうの相手に選んだサイカは、間違ってなかったよ! そういうわけで、また明日挑むからよろしくね! あっと名前言ってなかった。あたしサイカって名前だから覚えてね! じゃっ!!」
俺が考えた何れでもなく、少女は妙に満足した様な笑顔を浮かべそう言った。
小柄な体を翻して建物の屋根にジャンプすると、そのまま姿をくらませる。
まさに嵐の如く、突然現れ突然去った少女。
後に残された俺は、思わず首を傾げた。
「……なんだったんだ? また明日来るとか言ってたが……相手しないといけないのか? めんどくせぇな。おい」
そんな俺の都合など、少女サイカには関係なかったのだろう。
次の日にも宣言通りに現れた。
「またまたじんじょうに、勝負だよ!」
昨日と同じ様ににんまりとした笑顔で、頬に絆創膏を一枚張り付けて決闘を挑んでくる。
あれから鍛練を頑張ったのか、昨日よりも体のキレ、剣の太刀筋が上がっていた。
が、それも一蹴する。
「くううううっ。強いなぁ! ここは、一旦引いてまた後で来るから!」
そう言って、見物客の群れに突っ込んでいった。
「おいっ」
中々にすばしっこく、声を掛け終わる頃にはその姿は見えなくなっていた。
「……また後で来るって言ったのか? てゆーか本当に俺の都合関係なしなんだな。はぁ……」
それから、日に何度も何度もこうして挑まれる様になった。
サイカは、何度打ち負かしても決して諦めない。
何とかして俺から勝ち星を取ろうと、手を変え色々な方法を駆使しながら向かってきた。
そのひたむきな姿を見ている内に、最初は煩わしいと感じていた俺も、自身の鍛練にもなるしいいかと思う様になった。
それに、戦う度にどんどんと成長していくサイカの剣術。
それを見るのが楽しくなったのも要因の一つだろう。
サイカは、諦めが悪いだけじゃなく人懐っこい性格をしていた。
決闘が終わる毎に話しをする様になり、何を気に入られたのか、「お兄ちゃん」と呼ばれ都の西側にある大商店街に買い物に付き合わされる様にもなった。
半ば振り回される形の俺は、サイカの事が分かるに連れ、サイカがつい最近に出会った人物であり、そしてこの都にとっても重要な人物でもあるのではと見当をつけた。
だが、もし俺が思った人物と同一人物ならば、何でこんな所に居るのかとの疑問が新たに生まれるのだが。
と、まぁこれがサイカと出会ってから三日間の出来事である。
「あ~あ。やっぱり強いねお兄ちゃんは。こんなんじゃ、ダメダメだよ。勝てる様になるまでどれぐらいかかるか、けんとうもつかないよ。嫌になっちゃうね本当に。はぁ……」
俺がここ三日間の出来事を振り返っていると、サイカがため息を吐きながら愚痴る。
俺もよくするが、何処か通じるものがあるな。
「たった三日で、もう諦めるのか?」
「諦めるつもりはないけど……ここまで、実力の差があると自信なくなっちゃうよぉ……」
いじけてしまったらしく、サイカは地面を見つめる。
懐かしい。
俺もまだ小さかった時に、鍛練がうまく出来なくていじけた事があった。
じいちゃんにこうして、愚痴を言ったっけ。
その時には、普段厳しいのに優しく慰めてくれたもんだ。
「まぁ、年齢からしてこれから十分成長する余地はあるだろう。さっきも言ったが、お前は俺なんかより才能がある。ただ、どんなに才能があろうが、実力として開花するまでにはどうしたって時間はかかるもんだ」
「……うん。それは、分かってるんだけどね……もう一人に負けてられないんだ……。向こうの方が、強いんだもん……」
ポツリと小さな声を漏らす。
俺は耳が良いから、聞こえてしまった。
「もう一人? 誰の事だ?」
「あっ……聞かれちゃった。ううん!! 気にしないでこっちの話しだから」
「しまった」と、書かれた顔で、両手をブンブンと振る。
答えたくないみたいだし、ここは聞かないでやるか。
俺は大人だし。
それに、幾つか気になる点もあるから後でまとめて確認すればいい。
「でも、お兄ちゃんの剣術って変わってるよね。サイカみたいにひょうけつや、かえんとか使ってないのに凄く強いし。技を使ってる様にも見えないのに刀を振るだけで何でも斬っちゃうんだもん。あの赤い瞳も、カッコいいし。でもでも一番びっくりしたのがその振りの速さだよ。速すぎ」
話してる内に、サイカの目がまたキラキラとしだす。
よっぽど剣術が好きなのだろう。
「俺からしたら、お前の方が驚きだがな。何でお前は二属性の剣術を使えるんだ? 三大剣術は一人につき一つしか、適正はないと俺は聞いたが」
疑問をぶつけた。
これは、聞かずにいられない。
「サイカも父様からそう教わったけど、こないだから使える様になったんだよ。父様も、凄くビックリしてた」
「……じいちゃんが単に知らなかったのか? それとも、こいつが特別なのか……」
正解は分からない。
「今ので分かったけど、もっと鍛練頑張らなくちゃお兄ちゃんに勝てないよね。これでも、毎日かなり鍛練を頑張ってるんだよ?。でもそんな簡単に、強くなれないもんだね。お兄ちゃん強すぎるし!」
サイカは唇をアヒルの様に尖らし、ブーブー言ってくる。
剣の腕とは裏腹に、その仕草は年相応だった。
「こうなったら、お兄ちゃんに弟子入りして剣術を鍛えてもらいたいな。ねぇ弟子にしてくれないかな?」
「俺は、弟子とか取らないぞ。そもそも三大剣術を使えないからお前に教える事も出来ない。それに、今だって師匠はいるんだろう?」
「うんいるよ。父様にも鍛えてもらってたりしたんだけど、最近は……。でも、さっきは戦いながら教えてくれたでしょ? 動き方や、歩方とか剣術の基本的な物を」
「まぁそれは、三大とか関係なしに全てに共通するからな」
「だったら!」
「それでも、俺は取らない。俺にはどうしてもやらなきゃいけない事がある。それに、今日はこれから予定だってあるしな」
都に来て五日経った。
今日は、穏健派のシュウゲツ達と闇市の端にあるらしい廃村で会う事になっている。
『滅』の事についてお互いに情報を交換する為に行かないといけない。
「用事?」
「ああ。これからな」
「サイカも一緒に行っていいかな? サイカ暇なんだ」
「お前が暇なのは、どうでもいいが。ちょっと立て込んだ事情もあるから――」
待てよ。
……ふむ。
サイカの顔を見て、ずっと気になる事を確かめてみたくなった。
タイミング的にも、ここだろう。
まずは、その人物かどうかの確認からだな。
「そういや、お前歳はいくつだ?」
「十一歳だよ」
歳もぴったり。
て、ゆーか。やっぱりそうか。
「弟子は取らないが、とりあえずは悲観する必要はないぞ。もう既に剣君の域まで来ている。俺が戦った水氷の剣君と、同等ぐらいは強い」
「ほんと? 凄い?」
「ああ。嘘は言っていない」
実際、この少女の腕ならばもう少しの所まで来ている。
もの凄い才能だと思う。
年齢込みなら、スイダイ以上かもしれない。
誉めてやると、少女は嬉しそうに笑った。
少しは、自信を取り戻したらしい。
「ごめんね。弱音吐いちゃった。それに、いきなりこんな事してごめんなさい」
ペコリと、頭を下げる。
「それは別にいい。俺の鍛練にもなるし、暇潰しにもなったから」
現に、俺は暇だった。
生誕式は来週だし、シュウゲツ達と会うまではどうやって時間を潰そうかと思っていたぐらい手持ち無沙汰だった所に、こいつが現れた。
「ただ、理由を知らないのはスッキリしないな。何で俺に決闘を挑んだ? それと、お前」
気にかかっている事の一つを確認してみた。
「うん?」
「一昨日の日。闇市で、俺を見ていたよな?」
「あちゃー!! バレてたかぁ。姿を見られたのは、一瞬だったから大丈夫だと思ったんだけどなぁ。流石だね」
右手を頭の後ろに当て、苦笑いをする。
「いや、実際はお前の事は忘れていたぞ。思い出せたのは、お前の纏う剣気と雰囲気があの時感じたのと同じだったからだ」
「うわぁ!! 剣気で分かるんだ! ますます凄いねお兄ちゃん!」
またも目をキラキラとさせて、見つめてくる。
何か尊敬の念まで感じる。
「……眩しいなおい」
「そこまでバレてるなら、しょうがないか。そうだよ。見てたんだよ闇市での騒動を」
やっぱり。
これで、気にかかっていた事の一つは判明した。
「理由は? 何で闇市にいた?」
「それは……ごめん。お兄ちゃんでも言えないんだ」
理由も無しにサイカが闇市に行ったりはしないだろう。
言わないなら、カマをかけてみるか。
「それにしても、お前も大変だよな。生誕式でお披露目しなきゃいけないんだろう? 次期帝候補としてとして」
「そうなんだよ。れいぎさほうをしっかり覚えなさいって、先生がうるさくって……あっ……」
やっぱり。
サイカは、俺が思い至った人物だった。
「い、今のはなかった事に……」
「別に、身分がバレてもいいじゃねぇーか。もうじき帝になれるかもしれないんだろう? それに、生誕式で顔を出すんだから、何日か早いだけだ」
「……いつから、気づいてたの?」
「昨日もしかしたらと思い、今日で確信に変わった」
「バレちゃあしょうがないか。それじゃあ改めて自己紹介するね。サイカは、帝の娘で次期帝候補者の、サイカ・テンオウです。よろしくねお兄ちゃん!!」
とびきりの笑顔で名乗られた。




