40話 お仕置き完了
「こんなもんか」
最後の一人を斬り殺し、生滅刀を鞘に納めながら周囲を見渡す。
俺が立つ場所以外は、地面がたっぷりと血を吸い込んであちこちが赤色に染まっていた。
時折吹く生暖かい風が血の臭いを運ぶが、流石にこの人数分のだと不快感が凄まじい。
「……そそ……そ……んなバカなで……あーる……。ろ、六十人を用意したで……あーるよ? そそそ、それが……あっさりと……」
転がるゴロツキの死体の山。
それを見て、バクガイは青ざめた顔でブツブツと何か言っていた。
「だから、言ったんだ。こんなゴロツキが数を揃えた所で、どうもしないと。まだ、あいつら五人組の方が骨があったぞ」
「ひいいいっ!!」
呆けていたバクガイは、やっと俺がすぐ側にまで近付いているのに気付いたらしい。
丸い体を必死に動かし、背中を向けると走って逃げようとする。
「う、うわわわああああああ!! ば、化物! 化物なのであーる!!」
「おい。逃げんなよ」
その背中を蹴りつけてやると、ゴロンゴロンと丸い体が転がった。
「あがああっ!」
そのまま近くに隆起した岩にぶつかると、動きを止める。
「まだ、俺の用は終わってねぇんだ。勝手に逃げてんじゃねぇーよ」
岩に突っ込んだ際に、顔面を強打したらしい。
赤く腫らした額を押さえ痛がっていたが、近付くと土下座をしてきた。
「わ、悪かったので、あーる!! どどど、どうか!! 命だけは! 命だけは、許してくれなのであーる!! この通りなので、あーる!!」
額を地面に何度も打ち付けながら、懇願する。
絶対に人には頭を下げなさそうな奴でも、自分の窮地には頭を下げれるのか。
「お前にはまだ利用価値がある。やってもらう事が幾つかある。でも、ここだと出来ねぇ事だから、とりあえず場所を移すぞ」
「…………え? な、何をやらせるつもりで、あーるか? い、痛いのは嫌なので、あーる……」
どんな目にあうのか不安で仕方ないのだろう。
弱々しい声で聞いてくるが、それを無視してりつに声をかけた。
「こいつの屋敷に戻るが。お前は、どうする?」
「え? あたし? うーん……この後が、気になるから、一緒に行くよ。でも……この人達の死体はどうするの?」
「そのままでいい。野犬やらが掃除してくれるだろう」
この辺からは、獣の気配がかなりする。
現に今も、近くの茂みから俺達を見ているぐらいだ。
こいつらが、文字通りに骨まで綺麗にしてくれるだろう。
「と、いうわけで行くぞ。おらっ」
バクガイの首根っこを掴み上げ、引きずった。
「あばば! ら、乱暴はやめるのであーる!」
バクガイの悲鳴を聞きながら、屋敷へと歩きだした。
***
場所は変わって、バクガイの屋敷前。
ここには、俺とりつとデブと闇市の住人達の姿があった。
洞窟から戻った俺が、バクガイの首根っこを掴んで引きずってるのが珍しかったのか、聴衆の数は多い。
少し離れた所から、遠巻きに眺めてくる。
その中には、さっきの母子の姿も見えた。
「……そ、それで。我輩に何をやらせるつもりで、あーるか。頼むから、命は助けてくれなので、あーる。痛いのも、嫌なのであーる」
高級な衣服を泥塗れにしたバクガイが聞いてきた。
顔面は青いを取り越して、白くなっていた。
「そうだな。まずは、俺の言うことを聞いてもらおうか。近々、帝の生誕式があるよな?」
「ら、来週であーる。我輩も、そこに出席をするであーるが。何で……生誕式なんかを、そちが気にするのであーる?」
「お前は、余計な詮索をするな。黙って俺の言われた通りにすればいいんだよ」
「ごくっ……。わ、分かったから、その赤い眼で睨むのをやめて欲しいのであーる……。それで、我輩は何をすれば……」
「帝城に入る為の手形をよこせ。それと、生誕式に俺が出れる様に口添えをしろ。お前なら、簡単だろう?」
前に、帝城に入ろうとしたが守りが硬く断念した事がある。
門番からは、手形がないと入城出来ないと言われた。
まがりなりにも、公爵のこいつなら一個や二個持ってんだろう。
「それは、別に構わないで、あーる。これを提示すれば中に入れるであーる」
バクガイが懐から、文字が書かれた薄い鉄板の様な物を取り出した。
それを、受け取る。
「も、もういいであーるか? もう、許して欲しいのであーる」
「俺の用事は終わったが、まだやってもらう事がある。お前のその脂肪に変わる贅沢を止めて、ここの奴等に食料を供給しろ。飯を与え、税を下げてやれ」
「わ、分かったのであーる。後日にでも――」
「今すぐやれ。俺が見ていないと、どうせやらねぇんだろうから、今ここで俺の目の前で、手続きをしろ」
「こ、怖いのであーる」
怯えながらも、言われた通りにやる。
屋敷に入り、書類なりを書いて手続きを済ませた。
書類関係は俺は良く知らないから、こいつの屋敷にいる、本職の武官にやらせた。
ズルをしないように、見張りながら。
「……終わったのであーる」
書類の記入、関係各所への根回しが終わった。
これで、ここの住人が飯に困る事もない。
こいつの、贅沢のせいで命を落とす者もいなくなるだろう。
最後に仕上げだ。
「よし。次だ」
「ま、まだ何かあるであーるか……」
「ああ。お前利き腕はどっちだ?」
「え? 変な事を聞くのであーる。我輩は右利きで、あーるが」
何でそんな事を聞くのか不思議だ、とその顔には書かれていた。
「そうか。右か」
生滅刀を抜き去り、
ヒュン――
バクガイの右腕に一太刀入れた。
右肘から先がボトリと、地面に落ちる。
「――――え? あ、あ、あ、あああああ!! ぎゃあああああああああああ!! う、腕がああー! 我輩の右腕が!! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いーー!! あがああああああああああーー!!」
バクガイは肘から先を無くした右腕を左手で抑え、悲鳴にならない悲鳴を上げる。
「俺の忠告を無視したんだ。それに、けじめはきちんとつけないとな。それと、あまり動き回らない方がいいぞ。血が出すぎて、死ぬ。誰か部下でも呼んで名医に見てもらえ」
「だだだ、だ誰か! 来るのであーる!! い、医者を今すぐーー!!」
屋敷に向かってバクガイは叫んだ。
中にいた部下達が走り回っている。
「最後だが」
痛みでのたうち回るバクガイの元へと歩み寄り、その涙と汗と鼻水を張り付けた醜い顔を至近距離から睨み付けながら、最後の忠告をした。
「もし、また俺や闇市の住人や周りの人達に、迷惑をかけることがあれば―――今度こそ殺すから」
バクガイは、息を詰まらせて喉をコヒュウと、鳴らす。
「分かったな?」
続いて頭を激しく揺らすと、何度も何度も頷いた。
その顔には、もう悪意は感じられない。
本気で俺を恐れているのが、伝わってくる。
これなら、もうバカな考えはしないだろう。
「分かればいい」
「あ、ちょっちょっと待ってよ! ツルギ君!!」
りつが闇市の入口へと向かった俺の後を着いてくる。
「待っててば! ツルギ君って何者なの? とんでもない強さといい、バクガイ公へあんな事を出来るなんて、普通じゃないよ。報復が怖くて誰もあの人に逆らえないのに」
「お前こそ、何で闇市の奴等の話になると、感情的になるんだ? さっきも、自分の事の様に喜んだりしていたが」
気になっていた事を質問で返した。
りつがここの住人でもないのに、闇市の為にここまで真剣なのが引っ掛かっていた。
「……あたしの親友だった子が、闇市で暮らしていたの。その子は親を早くに亡くしてあそこに身を寄せるしかなかった。でも、悪い病気に罹っちゃって治療費も無くてそのまま……。だからあたしは、もうそういう人が出ない様に闇市の人達や困っている人達がが生きやすい様にって、情報屋としてやっていこうって決めたの」
他人の為に……か。
やっぱ、こいつは変な奴だけどいい奴だ。
「そうか」
「でも、ツルギ君のお陰で闇市の環境も、良くなっていくと思う。本当に、本当にありがとうね」
ボサボサ頭を下げ、気持ちのこもった礼をされた。
「まぁ。たまたま俺の用事もあったからな。気にするな」
「もし、また情報屋りっちゃんの力が必要になったら、言ってね? ツルギ君なら、特別料金で引き受けるからね!」
「……嫌だ。お前、喧しいから」
「ま、またそう言う事を言って! もう!」
「はははっ」
「ホントにもうっ! 素直じゃないんだから!」
そんな憎まれ口を叩きながら、りつとはその場で別れた。
何だかんだ喧しく、口煩い所もあったが面白い奴だった。
また何か用が出来たら、客として利用してやってもいいかもな。
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