39話 バカはどこまでいっても、バカ
結局。
じいちゃんの師匠が遺した手掛かりからは、滅の首謀者の名前は明らかにならなかった。
ずっと知りたかった事がやっと分かると期待した分、残念な気持ちが強い。
ただ、ここまで出向いたのは、まったくの徒労だった訳ではない。
石碑に書かれていた内容と、首謀者の名前が刻まれていたであろう箇所のみを、塗り潰す事が出来たという事実。
それらからは、俺がぶっ殺さなきゃならない存在も、死剣眼を持つという事が示唆されている。
この事を知らなければ、仇討ちは失敗していたかもしれない。
それだけ死剣眼が強力でかつ厄介な力であることは、俺が一番分かっている。
だからこそ、この事を知れただけでも良かったと考えるべきか。
「……ふぅ。しゃーない。次だ」
頭を振って気持ちを切り替える。
「ツルギ君。終わったの?」
岩場に座っていたりつが立ち上がり、近くに寄ってきた。
「ああ」
「そっかぁ。知りたかった事は、判明したの?」
「いや、残念ながらだ。だから別の方法を取らなきゃいけないんだが……」
一旦りつの顔をまじまじと見る。
この後の展開にどんな顔をするか、気になって。
「ん? どうしたの?」
首を傾げるりつ。
「その為には、あのデブの所に行かなきゃいけない。だから引き返す」
「げげえっ!!」
はははっ。
予想通りの反応だ。
「またぁ!? やだ! あたしは、もう行かないからね! 行くなら、ツルギ君だけで行って!!」
やっぱり目論み通り、バクガイの名前を出すと一瞬にして不快感を露にした。
「来いとは、言っていないぞ。場所はもう覚えたし、お前の案内もいらない」
そう言ってやると、「ホッ」と大きな息を吐き出した。
無理矢理に連れてかれるとでも、思ってたんだろうか。
憂鬱な表情は一転、笑顔に変わった。
「良かったぁ! そうならそうと、早く言ってよぉ! ツルギ君の事だから、無理矢理にでも連れてかれるかと思ったよ。もう心配させて人が悪いんだから♪」
その調子に乗った顔イラッとするな。
もう一度歪ませてやろうか。
「俺としては、それも面白そうだな。お望みなら、やるが?」
「げげっ! 結構です! 勘弁して下さい!!」
一瞬にして、今度は殊勝な顔付きになった。
その事で俺の溜飲も下がる。
しかし、顔芸しているみたいで面白いな。
こいつは、からかうと面白いし、今度何かむしゃくしゃしたら、りつで遊ぼう。
「そうか? まぁいい。ほら、ここまでの案内分の報酬だ。これで、足りるか?」
皮袋から小銭を取り出した。
「うん。もうちょっと欲しいけど、バクガイ公を懲らしめてくれたからオマケしとくよ」
手を差し出すりつに、必要な分だけ渡す。
「それじゃあ、もうここには用はない。出るぞ」
来た道を引き返して、洞窟から出ると。
俺達は大勢から出迎えられた。
「まんまと引っ掛かって、バカめ!! であーる!!」
デブだ。
そこには、六十人ぐらいの見た目ゴロツキのようなのを従えた、バクガイの姿があった。
お山の大将を気取ってか、ご満悦である。
しかし、開口一番で人を不快にさせるなんて天才か。
「これは、結構なお出迎えだな」
「うげぇっ!!」
りつはバクガイの顔を見るなり、「うげぇ」っと言った。
実際に言葉に出す奴は初めて見た。
「我輩を怒らせたのだ、そのまま引き下がる訳がないのであーる! だから、容赦はしないであーる!! そちの運命は、今日で尽きるのだ!! がはっがはっがはっがはっはっ!! で、あーる!!」
バクガイは、愉快そうに高笑いをする。
「お前がやろうとしている事は何となく分かったが、護衛の剣士達はどうしたんだ? 見た所、居ないみたいだが」
周りを見渡しても、さっき気絶させた五人組の姿はなかった。
「あやつらは、クビであーる。我輩を護れもしない役立たずは、いらないのであーる!! 我輩を護れなかったから、剣神にも言いつけてやるのであーる!! それに、我輩の顔を殴ったそちは……絶対、絶対、絶対許さないのであーる!!」
三重あごを揺らしながら、唾を勢いよく飛ばした。
「うわ、汚ねぇな。それに」
バカだな。
どれだけ雑魚を揃えても、あいつら五人組の方が強いだろうに。
「どんだけ人数がいようが、有利にならないことも分からねぇーのか? デブで、小物で、バカとは恐れ入る」
「ううう~!! うるさいのであーる!! 我輩に対して、無礼の数々! もう、許さないのであーる!! そち達、やってしまうのであーる!!」
バクガイの命令で、ゴロツキ達が前にぞろぞろと進み出てくると、刀を抜いた。
「へへへっ。バクガイ様。このガキは殺していいんですね?」
ゴロツキが凶悪な顔で刀をベロリと、舐めた。
「勿論であーる。あやつは、我輩の顔を殴り付けたのであーる!! それは、絶対、絶対、絶対ーー!! 許されないのであーる!! 苦しめて、苦しめて、苦しませてから、殺すであーる!!」
顔を真っ赤にさせて頭からは、湯気が出ているみたいだ。
まさに、怒髪天だな。
「あ。それと、女は好きにするであーる」
バクガイは、付け足す様にりつを指差して言った。
「女は…………いらねぇすわ。見た感じ、色気を感じねぇし」
りつを見たゴロツキは、目線を外しいらないと言う。
さらりと、けなされてるな。
「だとよ。りつ」
「むきーー!! どいつもこいつも!! あたしの、魅力が分かんないなんて!!」
りつが怒りながら地面を踏みつける。
「はははっ」
「笑わないでよ!! ……でも、どうするの? ツルギ君。この数は……流石にまずいんじゃ……」
怒っていても、怖いものは怖いんだろう。
心配げな顔を浮かべると、俺の袖を掴んできた。
「大丈夫だ。お前は、何歩か下がれ。邪魔だ」
ここまで被害が及ぶ事はないだろうが、念のためにりつを後ろに下げる。
「う、うん。気をつけてね?」
俺を止めないあたり、やっと俺の力を理解したようだ。
言うとおりに、後ろに下がった。
「一応聞いてやるが、お前ら今まで人は殺したか?」
三歩程前へと進み、ヤル気になっているゴロツキ達に問う。
「ああ? なんだ死ぬ前に、俺達の武勇を聞きたくなったのか? そうだなぁ……大体百人ぐらいは、殺したな。女は犯し、子供はその親の前で殺した。あれは、ゾクゾクしたね。お前も同じ様にしてやろうか? 小僧」
ニヤニヤとしながら、悦に入ってゴロツキは答えた。
「残念ながら、俺に親はいない。聞くまでもなかったな。お前らは正真正銘の悪党だ」
「ああ? 小僧てめぇ!」
さて、ごみ掃除の時間だ。
「さっきは、手を抜いたが」
死剣眼を発動させ、目の前に広がるゴロツキ達を見据えた。
「悪党なら、容赦はしない」
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