38話 イットウ一族とテンオウ一族
洞窟の奥で不思議な石碑を見つけた。
どういう仕組みか不明だが、死剣眼が無いとこれに刻まれた文字を読めない様になっている。
一見したら、何の変哲もない紫色の四角い鉱石。
そこに浮かび上がる様になった文字を読もうとすると、空気を読まないりつが声をかけてきた。
「ツルギ君。探し物は、それなの?」
そういえば、お前いたんだったな。
「多分な。とりあえず俺はこれを読むから、お前はその辺に静かに座って待ってろ。邪魔するなよ」
「分かったよ。読み終わったら、お金ちょうだいね」
ちっ。
忘れてなかったか。
「はいはい」
りつが少し離れて岩場に座るのを見てから、石碑に視線を戻した。
文字を上から順繰り読んでいく。
そこには、
『これを読む者よ。
我が弟子サトルか、その子供か子孫か生き残った同胞か。
読んだ者に伝えたい。
死剣眼に秘められた、真実を。
我が名は、センエイ・イットウ。
イットウ一族を統括する、現責任者である。
我々一族の使命を、何としても後世に残さねばならないと、この様な方法を選んだ。
ちなみにだが、この石碑に刻まれた文字は、死剣眼を持つ者にしか読めない様になっている』
出だしは、堅苦しい文言で綴られていた。
流石は、じいちゃんの師匠ということなんだろう。
じいちゃんもあれで、真面目な人だったから。
『前述はこのぐらいにして、本題に入ろうと思うが、まず、死剣眼の発祥を伝えたい。
事の始まりは五百年前に、メツセイという死剣眼使いが世に生まれた事から始まった。
まだ、三大剣術の根幹が確立していない世。
世界は、争いが絶えずに荒れに荒れていた。
まさに、戦国時代でこの大陸の覇権を握るべく小さくも無数にあった國と國がぶつかり合っていた。
そんな時に、メツセイが彗星のごとく現れた。
本来ならば十五になった時に開眼する筈のこの眼を。
まだ元服前なのにも関わらず、既に死剣眼を開眼させその圧倒的な力で争いを潰し、この大陸に天下泰平を成し遂げた』
へえ。
昔は、この大陸も大変だったんだな。
それに、この眼。
右手で、右眼を触る。
「俺も、十三の時に開眼した。本当なら今ぐらいの時に使える様になるのか」
目線を石碑へと戻し、続きを読んでいく。
『メツセイは共に天下泰平を成し遂げた仲間達で國を新たに築いた。
それが現在の都であり、その他にも今の三大剣術すらも構築し、更に小さな國々を統合させて三つの國を作り上げた。
剣の腕のみならず、まさにメツセイは天才中の天才だった。
僅か五十年の人生にて、この大陸の根幹を築いたのだから。
メツセイが晩成の時には、その血を受け継いだイットウ一族が誕生し、その規模は死剣眼使いが何十人にも及ぶ、最強の一族として名を馳せた。
そして、メツセイは平和な世の中を眺めながら、五十年の人生に幕を下ろす』
メツセイ。
こいつが、全ての死剣眼使いの祖みたいなもんなんだな。
『メツセイ亡き後も、平和な世は続いた。
一族皆で、力を合わせ都と三つの國の拡大も行い、大陸は栄えていった。
しかし――――平和はいつまでも続かなかった。
死剣眼は、ここでも争いを生んだ。
あまりに強力過ぎるこの力は外の敵を排除し終わると、敵は一族に、死剣眼同士の戦いへと移っていく様になった』
一気にきな臭い話になったな。
『メツセイ亡き後も暫くは、一族は力を合わせ大陸の世界の為へとこの力を使っていた。
だが、この力をどの様に扱うかで、一族は二分される事になった。
ある者達はテンオウと名を変え、この力で覇道を突き進み外大陸をも手中に治めようと考えた。
ある者達はイットウの名を継ぎ、この力を皆の為に扱い、余計な支配もしないで身分も無く平和で平等な世の為に使おうと考えた。
その主張は激しくぶつかり合う様になり、遂には一族同士で殺し合いにまで発展してしまう』
くだらねぇ。
一族、つまりは家族で殺し合いをしたのか。
『血で血を洗う戦いは進み、やがては我等イットウ一族はその数を減らされ、都を追い出される事になる。
何故我等が劣勢に立たされたのか。
人間とは、所詮は富や名声に弱い生き物なのかもしれぬ。
一族の大半は権力を手に入れる道を、つまりは我等の敵となる道を選んだ。
我等が負けた理由。
数の不利といった状況も、勿論あったが、決め手となったのはこの力にも優劣が発生した事だろう。
死剣眼にも段階があり、瞳に浮かぶ線の本数によって、覚醒の度合いを表す。
大抵の者は瞳に一本線が刻まれ、稀に斜め十字に二本線を持つ者が現れる。奴等には、より覚醒が高い者達が多く現れ、勝敗は決した。余談だが、メツセイの死剣眼はこれらとは異質な物だったとの、記録も残されている』
「俺の死剣眼も、斜め十字に二本線が刻まれているが」
もし、この情報が確かなら、死剣眼にはまだ上の段階があるかもしれない。
『話が逸れたが、それからは何とか全滅を避けようと、残り少なくなったイットウ一族は都から逃げた。それでも奴等は、後に弊害になると思ったのか追手まで差し向けてきた。
その実行をしたのが、今の帝の祖先である。
イットウ一族の大半は都を離れたが、わたしも含め都に残り好機を狙う者もいた。
だが……もはや生き残りは、わたしだけだと思われる。
わたしも、日々命を狩られる恐怖と戦いながら、後世の為に都に潜みこれを遺している。それも……いつまでもつか』
石碑の文字は、残り少なくなっていた。
『もう気付いているとは思うが、代々に受け継がれてきたこの力。
死剣眼を持つ者、その血が流れる者はこの都の継承権を持つ。
本来ならば、サトルにも詳しくこの事を教えられれば良かった。
だが、わたしもこれを知り得たのは、サトル達を都から逃した後だったのだ。
なるべく、少しでも情報を遺したいが、なにぶん、これに文字を刻む事は相当な労力がかかるうえ、完成までに時間を要する。
もし、完成出来ていなければ悪く思わないで欲しい』
「……」
死剣眼を持つ者は、都の継承権を持つ……か。
ハッキリ言って、どうでもいい。
今更、権力何て手に入れて何になるんだ。
それを使って幸せにしたい人は、もうこの世にいない。
『最後になるが、我等の敵。その者は今は、【滅】という組織を作り、暗躍している。その首謀者の名は、ごぶゎにやめに』
ここで、石碑に刻まれた文字が書き消されていた。
名前が入るであろう所は、ぐちゃぐちゃに塗り潰されている。
「……おい。肝心な部分が分からねぇとか……そんなのありかよ……」
誰かの、てゆーか『滅』の手による者だろう。
多分そいつに、隠蔽されたと考えるのが妥当。
その後にも文章が少し続いていたが、名前は確認出来ずに終わっていた。
「……結局分からずじまいで、終わったが」
ただ、一つだけハッキリした事がある。
俺の仇は……。
「俺と同じ死剣眼使い」
じいちゃんも、父さん母さんも。
そして、俺もこの眼に、翻弄されていたって事なんだな。
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