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33話 闇市②

いつもありがとうございます!

 


 情報屋のりつと交渉し、とりあえず俺の探し物を知ってそうな人物の元へと行くことになった。

 そいつは、闇市を統治しているというバクガイ公なる人物で、シュウゲツも言っていた『滅』の首謀者の可能性がある五人の内の一人でもある。

 それも含め接触する必要があるが、俺はそいつの居場所が分からねぇから、りつに案内してもらわないといけない。


「バクガイ公なら、何か知ってるかもしれない。闇市を統治しているのは、あの人だから」


 次の展開について考えをまとめていると、りつがポツリと溢した。

 考えるのを一旦中止してその顔を見る。

 どこか苦虫を踏み潰した様な顔だ。

 さっきもそうだったが、バクガイの話になると露骨に嫌そうな顔をする。


「そいつの所まで案内しろ。もう一つ確かめたい事が出来た」


「うん……分かってるよ。はぁ……行きたくないな」


 今度は嫌そうな顔をするだけではなく、ハッキリと言葉に出してきた。


「何だ? そいつがそんなに嫌いなのか? さっきから奴の名が出る度に、ブスに拍車がかかった顔になるが」


「なっ! ブスッて何よ! ブスって!! 自分で言っちゃうけど、あたしは美少女寄りなの! これでも、ちゃんとおめかししたらモテるんだから!! ……まぁ、めんどくさいからしないけど。それにしても、本当にツルギ君は口が悪いよね! まったくどういう育ちかたしたんだか!!」


 頬を膨らませ、怒濤の口撃が飛び出した後ちゃんと質問に答えるりつ。


「さっきの質問だけど、だいっ嫌い!!」


 喧しくてウザくて、金盗んで逃げ出す様な奴だが、りつはそんなに悪い人間じゃない。

 それにそこまで嫌われるバクガイ。

 どんな奴なのか、逆に興味が出てくるな。


「行きたくないけど、私情は抑えるよ。お世話になったなら、恩はきちんと返しなさいとは、死んだおばあちゃんの口癖だったし」


 だからどの口が言うのか。

 指摘したらうるさいから、黙っておくが。


「ちなみに、本来ならあたし達情報屋と契約した時点で、お金が発生するんだからね。今は、ツルギ君に脅され…………もとい、助けてもらった恩を返す為だから請求はしないけど」


 おい。

 本音が漏れたぞ。


「……色々言いたい事はあるが、話が進まねぇから黙っといてやる。それで? 今回の場合だと大体どれぐらいかかるもんなんだ?」


「そうだなぁ。これぐらいかな?」


 りつは右手の人差し指を立てた。

 相場が分からねぇから、高いのか安いのか判断出来ない。


「俺は、正しい値段とか知らねぇけど高いのか?」


「今回の場合だと、宿泊代一日分ぐらいだね。もっと複雑な案件だと、高くなるけどね」


 宿代一日分はけっして安くはない。

 だが、こいつらもこれで飯を食ってんだろうし。

 依頼によっては危険も伴う事もあるんだろうしな。


「それじゃあ案内するね着いてきて」


 りつは、闇市へと振り向き歩きだす。

 俺はその背中に着いていく。

 闇市へは、入口等も無くそのまま中に入る事が出来た。

 その中は、表通りに比べると些か暗くて入り込んだ造りになってはいるものの、道の両脇に家屋や、店があるのは表通りと同じ。

 ただ、真っ直ぐに伸びる道がない。

 歩けば壁が立ち塞がり、そこを曲がりまた少し歩けばまた壁が現れる。

 途中、途中に分かれ道もあり初見だとまず間違いなく迷う。

 多分わざと迷う様に造られているかもしれない。


「なるほど。道順を知らないと、速攻迷子になりそうだ」


 闇市を移動して目的の場所へと行こうとすれば、それを知る人物の力が必要になるのも納得だ。

 俺だけだと、いつまでもたどり着けないかもしれない。

 もっとも、バカ正直に進まなくても何とかなりそうではある。

 壁に手を触れると俺なら斬れそうな材質だし、立ち塞がる障害物を全て破壊していけば、ちっとは進みやすくはなるだろう。

 今は、りつの案内があるからそれをやる必要はないが。


「ここの住人や、あたし達情報屋じゃないと満足に進めないと思うよ。ここはかなりの面積があるし、わざと入り組んだ造りになっているからね。それに、もっと裏側に入り込むと治安も悪くて、腕の立つ人がいないとあたしでも近付かない程なんだよ」


「ふーん」


「むっ」


 せっかくの忠告を話し半分で聞く俺の態度が気にいらないのか、不満げな声を漏らすと注意してきた。


「ツルギ君。ここは危険な場所だと言ってるのに、随分と余裕だね。君が腕の立つ剣士なのは、さっきので理解したけどさ。油断しない方がいいよ。ここの人達の中には……常識が通用しない人達も沢山いるんだから」


 前半は俺への注意として目尻を吊り上げていたかと思うと、後半は怖い目にあったのを思い出したのだろうか、青い顔をする。


「俺は強いから問題ない」


「凄い自信なんだね。さっきの剣術も見たところ、三大剣術とは違うみたいだけど」


「俺は三大は使えない才能がないからな。だから、それとは別の剣術だ。言うつもりはないが」


「聞かないよ誰でも秘密はあるもんだしね。でも流石に、剣君とか剣神が相手だと、厳しいんじゃない?」


「俺は負けねぇ。剣神だろうが、誰にも」


 剣神とはまだ戦った事ねぇけど、負けるつもりはない。


「本当凄い自信。でも、本当に油断しないでね。闇市では、何があっても不思議じゃないんだから」


 念を押して再度言ってくる。

 危ない奴等ね。

 確かに、闇市に入ってから無数の視線を感じる。

 はっきりと敵意を含んだものや、それ以外にも物珍しい物を見るような好奇なのも混ざっている気がする。

 ここの住人達だろう。

 まだ若い年齢にも関わらず、白髪でまるで骨と皮が薄汚れた服を着ている様な格好の女達、そしてその子供だと思われるまだ五、六歳ぐらいの子供達が建物の陰から指を咥えて見つめてくる。

 皆が痩せ細り、ぼろきれの様な薄手の布を羽織っていて中には、道端に横になって動かないのも、いる。

 それらはこちらを警戒してか、見ているだけで近づいては来ずに、俺達の後ろを離れた距離から着いてくる。

 進めば進むほどに、その数は増えていった。


「後を着いてくるのは、ここの住人達か?」


「……うん。お腹を減らして何か施しを貰えると思って着いてくるんだ。言ってなかったけど、ここは行き場を無くした人達が沢山住んでいるの。他にはいけない人が」


「何でだ? ここが嫌なら、さっさと出ていけばいいだろうが」


「そうも言ってられない事情があるの。ここには、色々な理由で人が集まってくる。お金が無くて、他では生きていけない様な人達が、生きる場所を求めてここにやってくる。手や、体を汚せば何とか生きていく事は出来るから。でも、一度闇市に住むと、ここから脱出するのは難しい。ううん不可能に近いと言ってもいいかもしれない……」


 辛いことでも思い出したのだろうか、りつは唇を噛み締める。

 やや間を開けてから続きを話し始めた。


「ここは、都の中の一角ではあるけど、一つの國みたいな物で、バクガイ公がここの絶対の王みたいに君臨している。前までは、多少治安が悪くて、お金さえあれば違法な物を入手出来る程度の場所でしかなかったのに。バクガイ公がここを統治する様になってからは、住人から多額の徴収をする様になって、それが払えない者は、捕まって拷問や、強姦され、最悪は処刑される。それでも、皆は何とかお金を工面してやって来たけど、それも限界に近い」


 カゼマルやユリが、ここ最近になって貴族や、権力者の腐敗ぶりが加速していると言っていたが。

 それにバクガイが大きく関わっているのは、間違いなさそうだ。


「帝や、良心が残るまとな奴等はどうしてバクガイの傍若無人を放っておくんだ?」


「……住人達から巻き上げたお金を賄賂として、強硬派の貴族や権力者に流して反対する声を黙らせてるんだよ。帝は素晴らしい人だけど、いくら帝でも抑え込めない程に、今は強硬派の方が有利だから。それに、情報元から聞いた話しだと、帝の体調不安も、関係しているのかも」


 伊達に情報屋としてやっていないな。

 帝の体調の件は、関係者しか知らない筈だ。


「聞けば聞くほど、腐ってるな。権力者の横暴で苦しめられるのは、いつも力の無い者達だ」


「うん。このままこの世界はどんどん悪くなっていきそうで、あたしは不安になるよ」


 ため息をつくと、りつは黙りこんでしまったが、お陰で闇市の事情は把握出来た。


 それに、住人達を見て思い出した事もある。

 シュウゲツ達、穏健派が拠点にしている廃村が闇市の最果てにあると、言っていた。

 他の場所ではなく、あえて闇市を拠点にしているのは、関係があるのかも知れない。

 思い出して良かった。

 都に来て二日。

 シュウゲツ達と約束している日まであと三日。

 それまで、何かしらの事が判明すればいいんだが。

 しかし。


「……やっぱりいるな。視られてる」


 俺が闇市に入った時から、ずっと視線を送ってくる者がいる。

 最初はここの住人のかと思ったが、微妙な距離感を保ち、自然に溶け込む様に気配を殺しながら後をついてくるのは、一般の者では出来ない。

 かといって、殺気の類いは感じない。


「まぁ、いいか。襲いかかってくるなら、斬り伏せるだけだし」


「ツルギ君? どうしたの? 着いたよ。あれが、バクガイ公の屋敷」


 闇市の中を暫く歩いて移動した頃、先頭を歩くりつが立ち止まり指をさしていた。

 その先には、建てる為にかなりの金が使われているのが分かる、無駄に豪勢でデカイ屋敷があった。

 随分良い所に住んでんな。

 ただ暮らすだけの場所にこんなに贅を尽くすとは、金持ちの考える事は理解出来ない。


「ここも、きちがいな大きさだな」


「……こんな屋敷を建てる為に、どれだけの人達のお金を徴収されたか。そのせいでどれだけの子供達の命が……」


 顔に怒りを張り付けながらブツブツと呟くりつの様子を見ていると、屋敷から数人が出てきた。

 三大の羽織袴を着たのが五人と、その中心に中年の恰幅の良いのが一人顔を覗かせる。


「あの人だよ。あの真ん中にいるのが、バクガイ公。闇市を統治する、権力者」


 先程見せた以上に、不愉快と軽蔑を含ませた視線でりつはそいつを見た。

 あのデブが、バクガイか。

 腹にはたっぷりと脂肪を蓄え、見るからに高そうな衣類を着飾った一人の中年。

 その周りを、三大の剣士の火炎の剣達が五人警護している。


 ちょうど良い。呼びに行く手間も省けた。

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